「「ただいま」」
「お邪魔します…」
買い物袋を引っ提げ、おまけ付きで帰宅。
テキパキと冷蔵庫に食品を突っ込むと、ソファに座り込んだ。
「…座ってもいいんだよ?」
「ハイ」
リビングの入り口で棒立ちになった伊吹を右に座らせると、それを見たハーンが左に座る。
「これが両手に花か」
「貴女が一番花だけどね」
「ハーンも綺麗だよ」
「どうも」
そんなやり取りを聞いて、伊吹は怪訝な顔をした。
「本当に付き合って無いんでしょうね?」
「「無い無い。それは無い」」
口を揃え、否定する。
ハーンとは嫌いでは無いどころか相性がいい。
しかし夫婦になろうとは思えなかった。
妖怪に、明確な性別は無い。
奪衣婆や子泣き爺など性別の決まった存在もいるが、性別の決まっていない妖怪の方が多い。
ある意味では人から生まれたとも言える私達は、恐れの概念として性別を持ち合わせていないのだ。
なぜ少女の姿をとっているのかといえば、恐ろしい男性より恐ろしい少女の方が人により恐怖を与えられるからである。
威圧による恐怖より、未知への恐怖の方が長続きするものだ。
比較的、危害を加えずとも長期的に恐怖を引き出し続ける事ができる。
得てして妖怪とは、明確な性別の概念が無く、その場その場で己の姿を変貌させるものであった。
ただし幻想郷においてはその必要が無いため、ものぐさに人の姿のまま食事を行う妖怪も多く、そもそも変貌できない妖怪も増えているらしいが。
かといって、今更変貌しろと言われても困る。
紅白巫女や白黒魔法使いに面霊気などなど、多くの存在に認識され続けた事によって、古明地こいしは少女の姿である。と名に結びつけて存在が定まってしまったからである。
更に言えば幻想郷縁起に名と姿形を記された事で、古明地こいしという存在が固定化された。
もう、男の姿にも獣の姿にもなる事はないだろう。
全くもって優秀な、人里の守護者であった。
「ハーンさんの家というか部屋って広いよね」
「一軒家じゃないからなんとも…蓮子の部屋よりは広いけれど」
「だってこいしと二人で住んでるじゃない」
「いや、一人分のスペースを二人で使ってるよ」
「えっ…ベッドは?」
「「一緒に寝てる」」
「本当は恋人だったりしない?」
「「無い無い、それは無い」」
釈然としない顔の伊吹だが、無いと言えば無い。
無いのだ。
「そういえば東京行くのいつにする?」
「あ、ごめん返信忘れてた!」
「私サンドイッチ作ってくるから寛いでて。伊吹は嫌いな食べ物ある?」
「人参。あとピーマンとゴーヤ」
「分かったわ」
キッチンの方へ向かうハーンを見送り、端末を見る。
「この日とこの日が予定のない日だけど、伊吹は?」
「うーん、ほぼ全部被ってるわね。明日ぐらいかしら…」
「じゃあ明日行こうか!」
「えっ」
思い立ったが吉日。
予定は長伸ばしせずに、早いうち早いうち。
「そう、鉄は熱いうちに打て!だね」
「合っているような間違っているような…」
「こいし、スクランブルエッグ失敗したから食べて」
「あーい」
困惑する伊吹を前に、皿に乗ったスクランブルエッグをスプーンで掬い、口に含む。
「あっづ!!!」
「熱いなら打たないと」
「でも美味しい!」
「舌鼓を打った訳ね」
誰が上手いことを言えと。