「伊吹って普段何食べてるの?」
エッグサンドをもっちゃもっちゃと咀嚼する伊吹に、ふと尋ねた。
ドローン配送に買い物袋を渡したからこそ身軽だが、スーパーで買っていたお菓子の数々の量はおやつというには多すぎる。
「えー…甘いもの。あとサプリ」
「…」
生存に必要な栄養素を摂るだけならば、万能食というものがある。
1日に必要な栄養素を詰め込んだだけの、味も何も無いサプリだ。
非常食としても優秀、栄養を摂る意味での食事においては、それ一粒が最も効率良い。
「サプリには無いカロリーを自分で補ってるのよ」
「そう考えるとまぁ…いいのかなぁ?」
錠剤で栄養が補えても、料理を作る人間は多い。
味気ない食事は、人の心を貧しくする。
味を自由に変えられる事で美味への欲求は薄まっていったが、食べると言う行為の重要性は損なわれなかったのだ。
万能食の製造メーカーもそれを分かっているので、カロリーをかなり抑えた上で、あくまで『食事では足りない分を補うもの』と謳っている。
好きな物を食べ、サプリで栄養を調整する人は意外にも多いのだ。
少し前には、野菜の栄養素が比較的多く入った『万能食 肉食派』と、肉などのタンパク質が比較的多く入った『万能食 草食派』などが発売されている。
「でも今日は万能食食べなくても良さそう」
「ちょっとは考えて作ってるからねぇ」
ハーンが自慢気に胸を張った。
「この時代にちゃんと料理してる人はすごいよ」
「ママが料理好きで、私も好きになっちゃったの」
ママの名前が出て、ハーンがどんな幼少期を過ごしたのか思いを馳せる。
朝に弱く、服を着ず、髪を梳かさず。
ひょっとして子供時代から変わっていないのでは。
「明日にしたの?」
「へ?」
「東京に行くの」
ハーンの声に、我に返る。
危うく、ハーンの幼少期の妄想にのめり込むところだった。
「そう、明日」
「私朝から蓮子と出掛けるし、一人で起きて朝ごはん食べて出掛けてね。ご飯は適当に作って置いておくわ」
「「お母さん…」」
「誰がお母さんよ」
苦笑。
伊吹はそろそろ家に帰って準備をしなければならないらしく、名残惜しそうにサンドイッチを食べていた。
「持ち帰っていい?」
「いいけど、そんなに美味しかった?」
「誰かの手作り料理食べたの久し振りで…」
「家庭…家庭料理かなこれ?」
店で出される料理は、基本的に機械が作っている事が多い。
少なくとも、大学構内のいつものカフェは機械が料理を作っている。
接客係として人を雇ってはいるのだが、機械を修理する技術者も兼ねているそうだ。
少なくとも機械が作っていない、全て純粋に人の手で作った料理を出している店は、今のところ【蕎麦処 鈴】ぐらいしか知らない。
それを思うと、幻想郷の子供が作った大きさがまちまちの団子や、箸で掴むと一本ごとに長さ太さが違う饂飩が懐かしいものだ。
均等というものは平等だが、特別感を消してしまう。
「じゃあ明日の10時に酉京都駅で」
「寝坊しないでね」
「だ、大丈夫!」
若干不安そうな顔をした伊吹。
そんな彼女も、家を出るときには大事そうにサンドイッチの入ったタッパーを抱えて幸せそうな顔をしていた。
考えてみればハーンといい、伊吹といい、性根が素直というか子供っぽいと感じる。
だが子供は精神が美しい事に気がつき、納得した。
子供は美味しい。
恐怖一色に心を染めるほど、その精神は純粋なのである。
「そういえば今日は脱がなかったね」
「流石に伊吹の前では脱がないでしょう」
「私の前だと?」
「脱ぐわ」
「脱ぐな脱ぐな」
いつものハーンがリビングに出現した。