太陽の光はただただ眩しく、暖かみのないギラつきがある。
鉄筋コンクリートの冷たい街並は、人の心を映しているようだ。
京都よりずっと冷たい空気が、喉奥を通り肺へと入ってくる。
再度東京の地を踏んだわけだが、相変わらずあまり良い印象が無い。
「伊吹、それでどこに行きたいの?」
「えーっとちょっと待ってね」
端末を触る伊吹をよそに、街並みを見た。
活気はあるように見えるも、どこか冷たい。
路地裏の寂れたネオンの看板は点滅し、奥には遊女らしき姿も見える。
低俗とまでは思わないが、何処か重みが無い。
歴史を感じるが、それを継いでいると言う意識も薄く、得る印象は上面の錆の上に新しく塗りつけた塗料のような安っぽさ。
「あった、こっちだね」
「はーい」
振り返る事もなく、伊吹の後を着く。
前を向くのは客寄せばかりで、すれ違う人は皆精神が磨り減ったように顔に覇気がない。
直感で美味しくないと感じる人ばかり集まるこの土地は、呪われていると言われてもおかしくないほどだ。
───歩を進めれば、一軒の煉瓦造りの店に辿り着いた。
真っ黒な煉瓦で組まれた建築物など今まで見たこともなく、そもこの外界では煉瓦などを見るのも久々であった。
建築物の殆どはのっぺりとした材質であり、漆喰に近いと思ったが全く見当違いで、ハーン曰く「特殊樹脂」と聞くも未だ正体は分からず。
久々に見た古い建築物に、心惹かれた。
「…で、何してんの?」
「え、あ…入る?」
逆に入らないならなぜ来たのだろう。
入り口前で躊躇するように周囲を見る伊吹に、苦笑しながらため息を吐いた。
「入るよ」
営業中と書かれた看板の下がる、木製の扉を押す。
隙間から漏れ出したほのかに甘い香りが、鼻腔を擽った。
「いらっしゃい、お嬢さん方。好きなところに座ってくれ」
中に入れば声をかけられた。どうもこの長身の男が店主のようだ。
内部は狭く、カウンター席しか無い。
見た目だけで言えば、バーのようにも見える。
むしろ店主がスーツ姿のせいで、バーにしか見えない。
「伊吹、ここほんとに合ってる?」
「調べたのは『黒煉瓦』って店だよ?間違ってると思う?」
「…逆にこれで間違ってたらすごくない?」
「それは私の台詞だよ」
席に座り、コソコソと話す私達を見て、店主は微笑みを浮かべた。
「ここに来たのは初めてかな?」
「えぇ…」
「やっぱり。ここは昼はカフェ、夜はバーを経営していてね。初めはバーだけのつもりだったから内装がちと酒場寄りなんだ。さて、お嬢さん方は炭酸を飲めるかな?…おっと、それではお嬢さんにはこちらのジュースをサービスだ」
私にはレモネード、伊吹にはオレンジジュースを渡し、店主はメニューを取り出した。
レモネードを口に含みながらメニューを目で追う。
「黒煉瓦っていうバームクーヘンがうちの一番人気でね。パンケーキやフレンチトーストなんかも人気だよ。下に書かれてるトッピングは3つまで自由。決まったら僕に言ってくれ」
目を白黒させる伊吹に、私は溜め息を吐いた。
全くもって期待を裏切らない反応に、仕方なく手を差し伸べる。
「二人で違うのを頼めば分けられるよ」
「…!その手が!」
ひょっとして複数頼むつもりだったのだろうか。
もう少し頭を捻って欲しいものだ。
ふと、姉とデザートを分けた記憶が蘇る。
懐かしい。確かあの時はお空が───
否、記憶が何かと混ざっているようだ。
そもそも地霊殿にお空なんて名前の妖怪はいないではないか。
どこかで聞いた名前が記憶に混ざり込んでしまったらしい。
「お姉ちゃんとの記憶が蘇るなぁ」
「仲良く分けっことかした?」
「したした。美味しいものはみんなで食べないと」
こうして選ぶ時間もまた、私にとっては楽しい時間であった。