女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

66 / 100
「───見失った。…誰を?私…何か忘れている…違う、私が見ていない…?何を、弄られた…?」

虚空を掴んだ手を見て、眉を顰める。
口に出した言葉の意味を考える。
記憶が無いのは“結果論”だ。
ただ、それに至るまでの道筋が解らない。

何故、記憶が抜け落ちているのか。

解らなければ、解けない。
問題文の無い問題は、計算式すら組み上げられない。

「…何を、していた…のか…」

自我が溶けていくような感覚。
全てが曖昧になり、能力を持ってして引き留めることすら叶わない。

「ぐ…隙間が無い…?」

昏い空間の中で、女は疑問を口にした。

「蟾。繧雁キ。縺」縺ヲ蜿取據縺吶k」

女は、卓袱台に突っ伏してお茶に手を伸ばす。
その行動に、一抹の疑念すら抱く事はない。

「藍、煎餅どこに置いてたっけ」
「知らん。自分で探せ」
「…この会話、ついさっき聞いた気がするわ」
「いつも自堕落だからだろう」
「……?あれ…?」

女は首を傾げるが、答えへ辿り着くことは無い。
何故なら、そこは通過点。
結果にして、未だ歩みの途中である。


62

唐揚げが皿から消え、ただの白米をもそもそと食べる。

呻き声のする方に目を向ければ、頭に手を当てて寝転がったハーンの真っ赤な顔が見えた。

 

「…なんだか呑み過ぎた気がするわ」

「熱燗をぐいぐい飲んでたらそうなるよ」

 

蓮子はハーンほど酔いが回っていないのか、テーブルの前でハーンが残した唐揚げサンドを食べている。

何も言わずに口に押し込むと、こちらを見て咀嚼。

 

「脂」

「バターに唐揚げはそりゃそうだよね」

「やばいよ。脂で酒が超進む」

「うん。明日絶対後悔するから程々にね」

 

何の感情も感じさせない顔でハーンの残した唐揚げサンドを口に運ぶ姿はシュールな面白さを感じる。

───なんとなく、今の蓮子に懐かしさを感じるのは何故だろう。

 

どこかで、今の蓮子に似た誰かと会ったような気がする。

 

「ぅん!!境界パーってしよっか!!うんうん!!」

「泥酔ウーマンが何か言ってるよ蓮子」

「私より脂摂取してるからテンションがヌメヌメしてるんでしょ」

「なるほどなぁ」

「どこがヌメヌメしてるって言うのよ!やっだ谷間が汗掻いてヌメヌメしてるわ!?ごめんね蓮子!!本当にごめん!!」

「こいし、メリーの腕掴んで」

「うん」

「やだ!私に乱暴するつもりであ゛あ゛ぁ゛あ゛っ゛づぉ゛ぉ゛っ゛お゛!!!?」

 

見惚れるほど綺麗な笑顔で、先程レンジで温めた合成肉の角煮をハーンの口に押し当てる蓮子。

トロトロのペースト状のタレがすごく美味しそうな匂いをさせながらハーンの唇に付着した。

 

「あ゛ぁ゛っ゛づ!だいぶ熱いだいぶ熱い!!熱過ぎて味も感じないわこれ!!?」

「火傷しない程度の熱さだから熱いだけだよ大丈夫」

「熱いから大丈夫じゃ無いわ!?とっても熱い!!」

「反省した?」

「したした!すっごいした!!」

「じゃあ角煮食べる?」

「ロジカル!あれっ!?ロッ、ロジカル!あづぅい!!」

 

騒ぐハーンから手を離し、日本酒を啜る。

美味い。とても美味い。

 

「そういえば境界、どうするの?」

「開くか」

「んー開きましょうかね、あそーれ」

 

ハーンが指をグルグルと回した。

酒瓶が薄っすらと光る。

金属同士が擦れる音が何処かから聞こえてきて。

 

───酒瓶の表面から、子供の小さな手が出てきた。

 

「ヒッ」

「ハーン!!」

「閉じ、っ」

 

次いで、その子供の手首を掴むように何も無い場所から手が出現する。

子供の手が、一度開いて、グッと力強く握られた。

 

「豬√l陦後¥逅?h縲∬カウ繧呈ュ「繧√※關?∪繧」

 

夕空の元、大学構内のモニュメントに座る蓮子の顔を覗き込んだ。

当の蓮子は頭を押さえて、ゆるゆると首を振る。

 

「そうだ、メリーは…お母さんに…」

「…何の話をしていたんだっけ」

「時系列順でどこまで覚えているのかって話。蓮子が今日の夜の記憶があるって言ってたんだけど…」

「えっ、いや未来の記憶なんて無いよ」

「…記憶が食われたって話は覚えてる?」

「獏でしょ?うーん…記憶、記憶か…」

「何か思い出した?」

「“メリーが今どこにいるか”って話、私したっけ?」

「…してない。ずっと知ってた?」

「少なくともさっきまでの私は知らなかった。こいしは何か思い出した?」

 

頭の中を漁り、先程までの思考と矛盾している点を探していく。

───“あった”。

 

「私、ハーンが境界を開いた瞬間を知ってる。覚えてる…!」

「…それ、思い出せない。覚えてない!」

 

現在進行形で記憶が変化している。

ただ食われているのではない。

一定期間中の記憶が、常時変化しているのだろうか。

 

「…何かに記そう。次のタイミングで何が起きているか分かるように。思い出した話はそれからにしよう」

「そうね。私も同じ事を考えた」

 

端末のスリープを解除し、メモ機能を起動する。

 

日は天頂を過ぎ、夜へと向かい始めた。

蓮子はどこか落ち着きを取り戻し、口端が笑みの形を描いている。

 

もう“安全”なのだ。

だから、これを“楽しむ”。

 

「蓮子」

「何?」

「謎を暴いちゃいましょうか」

「…そうね、仕上げはメリーに暴いて貰わないと!」




「───」
「───…」

ため息の音が聞こえた。
目を開けば、見覚えのある…

「ここは───」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。