必死になっちゃってまぁ、なんとも人間らしい事。
咄嗟に使った能力が、ちょっと過剰すぎたのは否定できない。
「…こんばんは、お嬢ちゃんたち」
おや、予想とは違うところに出たかな───
紙に記した時系列順の記憶。
所々抜けているところはあるが、大体書き記せた。
大雑把に分けて二日を十分割。
朝、昼前、昼、夕方、夜で二日分だ。
朝、コーヒーを飲んで情報を確認した。
昼前、メロンソーダの罠に嵌められた。
昼、蓮子と共に資料の片付けと廃棄。
夕、曖昧。
夜、境界を開いたところまでは覚えている。
そして朝、目覚めて蓮子が家にいた。
昼前、大学構内に入って雑談。
昼、今。
夕と夜は未だ先。
こう見てみると、昨日の夜以外の記憶はほぼ揃っている。
あんなにも空白だらけだった記憶が、いつの間にか戻っていたのだ。
「…蓮子、私の記憶殆ど戻ってる」
「これ…えーっとなんだっけな。戻ってるんじゃ無くて、同じ動き、だったかな?まだちょっと思い出せないな」
「どういう事?」
蓮子が悩む様に唸る。
「“時間が凝縮されてる”んだよ。確かそう説明してたはず」
「…記憶が食われた訳じゃない?」
「一直線がバラバラになって、それを無理矢理掻き集めた無茶苦茶な話を、聞いた。聞かされた。あぁ、じゃあもう直ぐだ」
「?」
「忘れたんじゃない。まだ、過ぎていないんだよ」
「縺薙>縺励■繧?s縺倥c縺ェ縺?°」
酒瓶から出てきた手は、子供の様な手だった。
もう一方の手はいつの間にか消え、残っているのは酒瓶の手。
「ハーン、境界は閉じないの!?」
「私の力じゃ無理!境界が歪んでる!!」
「…こんばんは、お嬢ちゃんたち」
声は、声変わり前の少年の様。
歪みを引き裂く様に、奥から現れたのは男の子だった。
背丈は私とほとんど変わらない。
「ふーむ、紫んとこかと思ったけど、どうにも違うかぁ?」
色の抜けた茶短髪。
白いパーカーに、紺のデニムパンツ。
赤ストールに半分ほど埋まった顔は何処か上機嫌そうで。
「…鬼…!?」
「よく知ってるねぇ。ってわかるか。角、立派だろう?」
何よりの特徴は、側頭部より左右へ伸びる双角。
捻れながら30cm程度伸びた角は、黒布で簡素に飾られている。
鬼はゆるりと部屋に立ち、こちらと目があった。
「───こいしちゃん?」
「はい?」
「何でこんなところにいるんだい?さとりが随分と探してたけど」
「何故私を知ってるの?」
「なんでってそりゃあ…姿が違ってもこの角でわかるだろう?」
「…誰?」
「こりゃ参ったね。他人の空似じゃないんだろうけど」
ゆるゆると首を振った鬼は、次いでハーンを見た。
「んん!?」
鬼はズカズカとハーンの目の前まで歩くと、じっと瞳を覗き込む。
危害を加えるつもりはなさそうなので暫く見守っていれば、やがて鬼は大口を開けて笑い始める。
「あっはっは!!どうりで見つからない筈だ!!」
「あ、あのぉ〜」
「はぁ、ふぅー…はいはい、どうかした?」
「貴方…誰ですか…?」
おずおずと尋ねた蓮子に、鬼は顎に手を当てた。
「金髪のお嬢ちゃんの先祖の知り合いさ。どこまで遡ればいいか知らないけどね」
「はい?」
「姓は伊吹、名は萃香。いやぁ、まさか境界を開ける人間が外の世界にいたとは驚いた!!」
何処かで聞いたことのある名前をどうしても思い出せず、私は眉を顰めた。