女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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「…えぇと…伊吹…さん。あの、えーっと…」

「なんだい!聞きたいことがあるなら言ってごらん!!私は嘘を言わないよ!!」

「音量調節機能が壊れてる」

「こいし、よく言った」

 

蓮子がしみじみと頷いた。

当の鬼は、申し訳なさそうに笑って頭を掻く。

 

「いやぁ、ごめんごめん、少し興奮してね」

「それよりどうすんの。フワッとした存在じゃなくて明確に境界の中からとんでもない存在出てきちゃったけど。流石にヤバいんじゃないの?」

「うーん…」

 

蓮子の言葉にハーンが顎に手を当てた。

三人とも怯えは驚きで塗り潰され、一周回って冷静である。

 

境界暴き自体が大問題。

それなのに、暴くどころか幻想の存在が出てきた。

境界を暴く事は、境界を開き奥を見る行為。

小さな物を境界を越え、持ち帰ってしまう事はあれど、境界から外へ、意思を持って“こちら”へ姿を出すなど今までから鑑みて有り得ない事なのだ。

 

それが、出た。出てきてしまった。

鬼を目撃されたら、どう頑張っても隠す事など出来ないだろう。

特にこの角が大きすぎて目立つしどうしようもない。

ではどうするか。

 

「誰かに目撃される前に早めにお帰り願おうか」

「そう…なるわね。すいません、ここは一つお引き取り頂けると…」

「こらこら、そんな無体を言うんじゃないよ」

 

どかっとその場に座った鬼は、紫の瓢箪に口をつけないようにして中の液体を飲む。

 

しかし、とんだ大物が出てきてしまった。

境界を暴く事はあくまでこちらの意図によるものであり、相手方の察知はほぼ不可能と言ってもいい。

それを、示し合わせたかのように腕を突っ込んできた。

 

先程の腕もよく分からないが、まずこの鬼自体がよく分からない。

伊吹萃香。何処か見覚えがあるが、思い出せず。

伊吹結香とよく似た名だが、関係は無いだろう。

やはり、何処かで…否、こんな存在と出会って忘れるはずも無い。

 

その鬼と言えば、必死に記憶の海に釣竿を垂らすこちらなど意に介さず、マイペースにハーンと蓮子に話かけていた。

 

「実は、さっき言ったお嬢ちゃんの先祖を探していてね」

「…はい?」

「僅かでも手掛かりが無いかと幻想と現世の狭間を漂っていたんだ。そこで覚えのある手応えがあったからこれだ!と思って出てきたらココだったって訳」

「───え、メリーの先祖って人じゃないの?」

「知らないわよそんな事。そもそもママより上の代なんて見たことも無いわ?」

 

む、と鬼が唸る。

角に巻き付いた黒布を指で弄りながら俯いた鬼は、暫くして笑みを作り顔を上げた。

 

「頼み事なんだけどさ。鬼の酒、少しあげるからお嬢ちゃんを貸してくれないかい?」

「…だってメリー。私は反対、詳しいこと分からなくて怖いし」

「うーん…あんまり得がないのよね。鬼の酒も怖いし。こいしはどう思う?」

「そもそも鬼が怖いね。怖い尽くしだ」

 

うんうん、と三人で頷き、声を揃える。

 

「「「お帰りくださいませ」」」

「こいしちゃんまで言うかね。人との交渉は昔から苦手なんだよなぁ。鬼の名に誓って危害を加えない事を約束するって言ってもダメかい?」

「困ったなぁ。嘘じゃない?」

「鬼は嘘が嫌いなんだ。騙すなんか以ての外」

 

胸を張る鬼は、少しばかり可愛らしい。

どことなく女性らしい仕草が目立つが、妖怪とは基本的に性別が関係ないものだ。

 

しかし行動の節々に違和感がある。

否、鬼など“初めて見る”のだから違和など無い筈だが…

 

「…どうして奪わない」

「こいし?」

「鬼は、どこまでも妖怪らしい奪う存在。何故、交渉するの?」

 

こちらを覗き込み、にんまりと鬼が笑う。

 

「外での鬼は“斃される者”だ。奪えば喪う。そうだろう?」

「聞かれても知らないよ」

「くぅ…本格的に参ったなぁ。紫を探しに来ただけなのに…」

 

ハーンと蓮子は困惑した様にテーブルの上にあった菓子を摘んだ。

危害を加える事は無いという言葉に僅かな緊張感も消え、すっかりとリラックスしてしまっている。

 

「…まぁ、取り敢えず座りましょ。急かしても帰らないんでしょう?」

「そうだね、取り敢えずお酒の味でも楽しんで貰うとしましょうか」

「ほら、こいしも座って座って」

 

テーブルを囲うように腰を据えた三人。

既に宴会ムードと化した雰囲気に水を差す訳にもいかず。

 

「…ちゃんと帰ってよ?」

「はいはい、用事を終えたらね。それ、こっちおいで」

 

腰を据えれば、ハーンが思い出したように棚を漁り、更なる菓子が追加された。

鬼の宴会が、幕を開ける。

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