女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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「ごめんねウチの相方が」

「いや……まあ、ちょっとビックリはしたかな」

「普段はいいやつなんだけどね。不思議な事があると夢中になっちゃう性格というか」

 

 

すっかり暗くなった帰り道。

メリーが頭を撫でながら、困ったような笑みで蓮子のフォローを入れてくる。

まぁ蓮子が善人なのは知っている。

紅白巫女の勘ではないが、蓮子に独特の邪悪な気配は無い。

無意識が扱えれば本人の深層に眠る“本質”を表面化させる事も可能なのだが、必要も無いだろう。

 

 

「いーのいーの。今日は笑えて楽しかったから」

「そっか。私はこいしの色々な事が知れて良かった」

「あら嬉しい」

 

 

何とか誤魔化せる部分は誤魔化しているが、時折素が出てしまうので、詮索も程々にしておいて欲しいとは思うものの、関わる事は楽しいので近くにはいたい。

自覚している事だが、私の本質は無邪気である。

子供の様な心が、私の妖怪としての本質に根付いているのだ。

 

 

「さ、ただいまー」

「おっじゃまー」

「ただいまでいいのよ、ただいまで」

 

 

それを言うと、ここが家の様になってしまうのだが。

 

 

「何その不思議そうな顔。一時的なルームシェアだから実質ここが貴方の家よ?」

「……ただいま」

 

 

家がある、と言うのはなんともむず痒い。

帰る場所はあったが、あそこは厳密には家とは言えず。

住むためだけの家、と言うのは地霊殿が出来る以前の話であった。

 

 

「先にシャワー浴びちゃってていいよ!」

「えーっと、ボタン押すんだっけ」

「そうよー!」

 

 

部屋の奥でガサガサ音と共にメリーの声が届く。

地霊殿は外界の技術を一部取り入れているので、ある程度の事は分かる。

そのお陰で、メリーには怪しまれずにいるものの。

 

 

「あ、お風呂のお湯入れてくれると助かるわ!赤い方の蛇口ね!!」

「はーい」

 

 

一日借りたワンピースを脱ぎ、ショーツを脱ぐ。

ブラ替わりのサラシを取っている最中に、ふと廊下を通ったメリーと目が合った。

咄嗟に管の付け根を自然な動作で隠す。

 

 

「あ、ご、ごめん!ってサラシ付けてたの…任侠だっけ?みたいね」

「ハラワタが出ないように締めるってやつね。まぁ私はブラジャーとか着けるのが面倒でこれ使ってるだけなんだけど」

「へぇ!ってそのサイズを締め付けてたの…?」

「ん?まぁ、そうだね。邪魔だし」

「蓮子に言ったら憤怒の表情浮かべるわねこりゃ」

 

 

サラシを外した胸のサイズは、流石に抑えねば不便な程度である。

お姉ちゃんは肋骨が浮く程度に痩せ型なので、よく温泉で羨ましそうに触ってくるのが懐かしい。

そういえば最近は元気だろうか。

 

 

「っとごめんなさいね。タオルを置いたらすぐに出て行くわ」

「ん」

 

 

ところで、ここの浴室は狭い。

水が外に出ない様に扉を閉めると、シャワーやボトルが並んでいるので、座る程度のスペースしか無くなる。

背丈のあるお空だったら狭いんだろうなぁ、なんて思いながら湯船にお湯を入れておき。

 

 

「ふぅ……」

 

 

密室で一息。

蛇口を捻ればシャワーが体を濡らして行く。

 

何故ここで私が居られるのか分からない。

 

それが今の現状だった。

本来であれば、妖は外で生きる事が出来ない状態だった筈。

それが何故、平然と形を保てているのかが不思議でならない。

 

 

「……え?」

 

 

ふと目の前の鏡を見れば、手が生えていた。

爪が長く、細くて白い女の手だ。

人間なら悲鳴を上げてもおかしくないが、生憎人間でない自分は驚きもしない。

そういう妖怪もいるかと幻想の常識でそれを見て、次に現の常識に照らし合わせて、ようやくそれがとんでもない異常事態であると気付く。

取り敢えずシャワーを当てると、びっくりした様に手が動いた。

 

 

「こんな妖怪いたっけなぁ?」

 

 

などと言っていると、前に張り出た胸の先端を爪で掻かれる。

 

 

「いッダァ!!?」

 

 

敏感な部分を爪で掻かれたのだ。

口からは悲鳴が漏れる。

 

 

「このやろ」

 

 

ボタンでシャワーの温度を上げて行く。

妖怪にはただのお湯など効かないので、僅かに妖気を混ぜ込んで攻撃をとする。

すると人間なら確実に火傷をしている温度の妖気水を浴びた腕は、必死に逃げている様に見えた。

暫くして水面に引っ込む様にして鏡の中へと消えた腕を前に、首を傾げる。

 

 

「……なんだったんだろ」

 

 

その後、温度を変え忘れて熱湯を頭から浴びたせいで、浴槽に悲鳴が響く事となる。




「アンタ、何その腕」
「いやぁ、なあに。生意気な奴に攻撃されてな」


八雲藍は攻撃的な笑みを浮かべて八雲霊夢の向かいに座った。
手には爛れた火傷の跡があり、非常に痛々しい。


「橙?」
「名を与えて相応しい振る舞いを知った橙は賢い。こんな事などしない」
「はいはい」


言葉の節々から漏れる溺愛っぷりにうんざりと顔を歪めた霊夢だが、次の瞬間には表情が締まる。


「で?大妖怪のアンタに傷を与えられる妖怪なんて外にいるの?」
「事実、いた。攻撃には妖気が練りこまれていたから妖の類で間違いない。無用意に怪しい境界に侵入したが、思ったより手痛い反撃があった」
「へぇ……私は必要?」
「いや、いらん」
「あ、そ」


途端に興味無さげとばかりに寝転がる霊夢。


「なんか面白い事分かったら教えてね」
「はいはい」


世界のどこかにある家でのやり取りは、非常に盛り上がりに欠けていて。


「絶対に仕返ししてやるからな……」
「あーあ、だから狐は陰湿で嫌なのよ」
「誰が陰湿だ!」
「間違いなくアンタ」


マイペースな人妖に遊ばれる狐という光景は、いつもの事である。
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