女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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酒瓶を前に、若干引き気味なハーン。

先程目を貸してもらって見たが、確かにその反応にもなるだろう。

 

「えー…本当に暴く?今から鬼にクーリングオフとかできない?」

「無理でしょ。どうやって呼ぶ?今どこにいるかもわからないのに?」

「うーん、鬼はいいから取り敢えず蓮子呼ぶか。一旦帰しちゃったけど、最悪どっか飛ばされても蓮子さえいればコンパスになるわ」

 

ぽちぽちと蓮子との通話を開始。

端末のコール音が鳴り、暫し待機。

 

『あい、宇佐見です』

「蓮子今どこにいる?」

『家でご飯食べてるけど』

「今日の晩ご飯は何?」

『普通にパンとインスタントスープだけど…』

「まさか“あの”スープじゃないでしょうね」

『いやあの効率最高スープ』

「信じられない!貴方それでこの前鼻が効かなくなったの覚えてないの!?」

『いやこれ食ってれば死なないじゃん』

「そのスープのネットレビュー見た?栄養満点味零点、劣化合成食を劣化合成した風味、サプリを水に溶かした方がマシって書かれてたのよ!?」

 

すごい言われようである。

ひょっとして私が冒険心で時折買っている合成味おにぎりより酷いのではなかろうか。

 

試しに期間限定サイダー味おにぎりのページを開いてみる。

 

『いつもどおり安心不安定の味(褒め言葉)』

『なぜ米でその味を再現しようと思ったのか(褒め言葉)』

『毎度企画担当者は頭おかしいんじゃないの(褒め言葉)』

『前回より炭酸感が増してて何考えてんだ(褒め言葉)』

 

…よし、完璧な高評価だ。

やはり合成色おにぎりは大人気商品で間違いない。

素晴らしい一体感を魅せるレビュー欄を眺めていれば、ハーンが通話を終えていて。

 

「来るって」

「今から?」

「今から。ご飯作るわよって言ったら二つ返事」

「わあ」

 

自分の事になると何処までも適当になる蓮子と、それを甘やかすハーン。全くもっていつもの光景だった。

 

 

 

 

キッチンから鼻歌が聞こえる。

シチューの甘いような香ばしいような何とも言えない香りが、リビングまで来た。

 

「ハーン、換気してる?」

「え?あ、してない!」

「私のお腹の虫が暴れ出しそうになってるよ」

「あら、じゃあお腹の虫さんにはお皿でも準備してもらおうかしら」

「虫の居所が悪くて出てきてくれないから私がやりまーす」

「ありがとう、助かるわ」

 

食器棚から幾つか受け皿を準備していれば、チャイムが鳴る。

どうせ蓮子だろう。ハーンは手が離せないのでさっさと迎えに行く事にした。

玄関扉の奥には人の気配。鍵を開ければ、見慣れた顔だ。

 

「ごめん待たぐぇ!」

「うわごめん」

 

ワイヤーフックが掛かったままだったため、蓮子が初動に失敗。

開く筈だった扉に、つんのめるようにして顔をぶつけた。

 

「うぅ…可愛い可愛い蓮子ちゃんのおでこが…」

「ごめんね、ワイヤーの事すっかり忘れてた」

「血とか出てないよね?…待ってめっちゃいい匂いする」

「おっと腹の虫二匹目が出現した。早く入って、準備できてるから」

 

靴をぽいぽいっと脱ぎ捨てて、荷物を下ろし。

リビングまで二人で行けば、さらに濃厚な良い香り。

キノコが見え隠れする美味しそうな乳白色が、小さな鍋になみなみと入っていた。

 

「手ぐらい洗いなさいよ。ご飯はそれから」

「はーい」

 

元気よく返事した蓮子がキッチンで手を洗うのを横目に、ソファに腰掛ける。

遅れて蓮子がカーペットに直接座り込み、手を合わせた。

 

「「「いただきます」」」

 

受け皿にキノコシチューを掬い入れる。

深めの木製スプーンで口に運べば、濃厚な甘さにも近い味。

キノコが多めに混ざっているお陰で、食感も楽しい。

 

「あ、マカロニ入ってる」

「更に食感を楽しくね。キノコも結構な種類入れたのよ?」

「えーっとシメジにエリンギ、エノキにマッシュルームも入ってる?」

「わかんないわ。キノコの盛り合わせパックが売ってたから適当にドバドバ入れたの」

 

歯を動かせばキノコ類のコリコリ、フニフニ、モフモフと異なった食感が連続するため、噛むのが楽しいシチューだ。

時折キノコに混ざったマカロニのもっちりとした食感が、アクセントとなるため飽きが来ない。

キノコは噛むたびに味と香りが発生するため、口内で次々と変わる味もとても楽しい。

 

「そういえばキノコって数少ない非合成食材よね」

「一部キノコは違うけどね。大量栽培に成功したから合成キノコを作るなんて話が出なかったってやつでしょう?」

「そうそう、コストに見合わないし栽培の方が安上がりって結論が出たのよね。トリュフとかキヌガサタケとか…マツタケとか、そういった高めのキノコは大量栽培法より合成食で安価に食べようってなったけどね」

「で、生の方が衰退していったと」

 

ハーンと蓮子の話を聞き流しながら、器にもう一杯掬い入れた。

数度口に運んでいるうちに気がついたが、マカロニも数種類の形が入っており、筒、リボン、捻れと全く違う食感が楽しめる。

シチューの味を吸い、柔らかながらしっかりと食感を楽しむことができる程よい固さが歯に応えてきた。

ほんの僅かな塩気と、ミルクとは違う小麦粉の甘み。

それがまたキノコとよく合い、歯と喉がよく動く。

 

「───合成食は安いからね。でも栽培してる人が合成食の権利を買い取った件も沢山あるでしょ?なんだっけ、ブランド品の…」

「メロンね。糖度と味を参考にして実物に近づけた合成食は盗品に当たるって判決が下された有名なやつ。生まれる前だからあんまり詳しくは知らないけど…」

「それ以来各合成食の味が落ちたって言われてるのは研究職務の怠慢かしら」

「今じゃあ美味しい合成食はブランドに紐付けられてるからね。効率ばかり重視する研究者は良し悪しといったところね」

「あら、さっき聞いた様な話だわ?」

「…効率重視スープは栄養完璧だから」

「他がダメすぎるのよ研究者気質さん」

 

つんつんと、ハーンが蓮子の鼻を指で突いていた。

 

それはそうと鍋底はキノコがより多く沈殿しており、味も濃い。

狙うは鍋底ギリギリだ。

 

「…こいし、そんなに美味しい?すごい勢いだけど」

「これ超好き!」

「そう?良かったわ」

 

シチューの味に満面の笑みを浮かべていれば、部屋端で充電していた端末が振動する。

連続する振動はただの通知ではない。通話の呼び出しだ。

近くに座っている蓮子に取って貰えば、何事だろうか。

 

───伊吹結香からの、着信だった。




酒瓶が並ぶ。
それぞれに中身は無い。否、正しくは中身が無くなった。

拒否しても拒否しなくても、一方通行なのは変わらない。
それは透き通る様な、澄んだ味だった───
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