女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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目が覚める。

朝の日差しと、ハーンのもっちりとした肌の感触。

 

起き上がるために腕をどかし、離したく無いとばかりに伸びてきた手にその辺にあった小さなモップを掴ませる。

 

「…ぁーこいし毛深くなった…?」

「……」

 

寝惚けたままモップを撫で回すハーンを見下ろし、深呼吸。

寝起きとはいえ、一瞬で目が覚めた。

キッチンの方で紅茶を淹れ、モーニングティーを味わう。

 

一杯。僅かに苦味が出てしまった味を喉に入れ、大きく頷いた。

飲み終わったカップを手に、モップを撫で回すハーンの前で笑顔を作る。

 

「おはよう」

「あっづづっざぁ!!!!?」

 

胸に先程まで熱々の紅茶が入っていたティーカップを押し当てた。

モーニングティーは中身とカップで目覚ましに二度使える。

うんうん、なんて便利なのだろう。

 

 

「えーっと…ごめん眠くてうろ覚えなんんだけどシチュー余ってる?」

「おはよう蓮子。玄関はそっちだよ」

「ねぇー!そうやってすぐ追い出そうとするー!」

「私とは体だけの関係だったのね!?」

「状況がグチャグチャすぎる」

 

酷いことになっている食卓の会話。

朝食はトマトスープとトースト。昨晩の残りか、キノコが沢山入っていた。

 

「休日だけど、どうする?境界暴く?」

「そんなコンビニ行くみたいなノリで…」

「邪悪な感じがしないのよね、お酒の境界。見た目が超気持ち悪いけど」

「超気持ち悪いのが問題では」

「うーん否めない」

 

トーストをもそもそ食べながら、ハーンはちらりと床の酒瓶を見る。

彼女の目には、奇妙な境界が見えているのだろう。

私には、ただのお酒にしか見えないが。

 

「ねえ蓮子、酒瓶取って」

「おっ昼から飲酒たあ気前がいいねえ!」

「宇佐見蓮子のちょっといいとこ見てみたい!そーれイッキ!イッキ!」

「いつの間にか攻守逆転している件」

「攻守どころか加害被害のレベルだけどね」

 

そう言いながら酒瓶を渡してくれたので、少し揺らす。

蓋を開けて匂いを吸い込めば。

 

「ま゜」

 

強い刺激臭に、呼吸が止まった。

心臓も止まったかもしれない。

 

「んげ、ッば、ゴホ、なんだこれ!?」

「え?何こいし、毒でも吸った?」

 

くい、と瓶口を蓮子の鼻の前に突き出す。

 

「ぬ゜」

 

鼻いっぱいに素敵な香りが広がったのか、蓮子が息を詰まらせた。

強い酒の匂いだ。それも、日本酒の微かな甘いような言い表し難い匂い。

 

「これ、中身が違う。結目じゃない」

「匂いに覚えがある…鬼の…鬼の酒だこれ…」

「うわあ、この距離でも匂いがする。部屋がお酒臭くなりそう」

 

空調を点けて換気を始めたハーンが、酒に蓋をする。

 

「ひょっとして、結目の中に鬼の酒が入っていたから境界の中に境界が見えていた…?」

「じゃあ奥の境界は───」

「…鬼の、境界ね」

 

ハーンは酒瓶をテーブルの中央へ置くと、トマトスープを啜った。

目を瞑ってゆっくりと瞼を上げ、金の瞳で酒を見る。

 

「沢山ある中で暴けそうな境界の数は、2つ。…それ以上は無理」

「無理って、メリーならなんでも開けるんじゃないの?」

「うーん、私よりすごい力で潰された境界は、見えるけど暴けないの。開くには力が足りないわ」

 

鬼も鬼でなんらかの力があるのだろう。

パンにバターを塗り、少し焦げた表面を齧る。

脂っぽい甘味と焦げの苦味が食感と合わさって美味い。

 

「…どうするメリー、暴いてみる?」

「そんなワクワク顔で伺われても困っちゃうわ」

「あら、顔に出てる?おっかしいなあ」

 

鬼がひょっこり出てきたことで蓮子の恐怖心は無くなってしまったらしく、ハーンに笑いかけた。

その笑顔は男児のような、好奇心に溢れている。

 

「…はあ、蓮子って馬鹿よね」

「おっと聞き捨てならないな。馬鹿という認識の定義は人によって違うでしょ?もしも知能的な事を指して馬鹿と言っているのであれば私はそれを否定しなければいけない」

「賢い人は危険な事をしないのよ」

「ん、じゃあメリーも馬鹿だね」

 

言われて気がついたのか、暫く宙に視線を彷徨わせ、ハーンは困ったように笑った。

 

「確かに」

「よし、じゃあ馬鹿同士で境界の奥を見てみようか」

「ちょっとお二人さん、熱くなってるところ悪いけど手元は冷めていってるよ」

 

二人の湯気の昇っていたトマトスープはいつの間にか常温に戻り、トーストも冷えてなんとも言えない状態になっていて。

 

「…冷めちゃったかあ」

 

温かいうちに美味しくスープとトーストを胃に収める事ができたので、酒瓶を揺らしながら二人がスープを温め直すのを眺めていた。

 

スープは、会話で熱くなってはくれないのだ。

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