───表現するなら、希薄と言うべきか。
未だ早朝。ベッドの上に、古明地こいしが寝転がっていた。
メリーに抱かれて眠る姿に、ふと目が寄せられ。
視線の先にいる少女は目を見開く。
“それがどういう物か理解できず”、凝視する。
少女は己の背後を確認し落胆した。
古明地こいしだ。古明地、こいし。
その場を離れても、視線は変わらず。
細い手足は、シーツの皺と同化した様に。
「なんだ、漸く見えたのかと思っちゃったわ」
緑がかった銀の髪は、メリーの金髪と混ざる様に。
その体は、毛布に溶ける様に。
少女は残念そうに呟くと、
存在感が薄すぎて、忘れてしまいそうな程で。
リビングのソファに倒れ込んだ。
「…………ん」
寝息が聞こえる。
メリーのものではない、呼吸の音が聞こえた。
それだけで、存在が明確に認識できて。
近寄って頬に触れれば弾力のある肌に指が沈む。
「おっセクハラか?」
擽ったそうに口をモゴモゴと動かすのを見て微笑めば。
───金の瞳と目があった。
少女は茶化す様に呟いた。
「起きてるんなら言ってよ」
ゆっくりと起き上がったメリーの頬を摘むと、顔面の中心に皺を寄せるような表情を作る。
「おはよう。今日はお寝坊さんじゃないのね」
「私は起床就寝のタイミングがおかしいだけで、起きるのが遅いのはメリーの方でしょう」
「否定はしないわ」
「肯定をしろ」
もっちもちと頬を捏ねれば、されるがままの顔。
完全に起きてはいないのか、その柔らかな頬を揉み放題である。
ここぞとばかりにふわふわの感触を楽しんでいれば、眠そうな緑の瞳と目があった。
「えぇ、そういう…?」
「おぁ、ここに櫛置きっ放しじゃん」
「起きたなら言ってよ」
テーブルに置かれた櫛を手に取って。
未だ完全に目覚めてはいない様子。
櫛を金髪の少女に手渡した。
こいしが聞き取れない声で何かを呟きながら毛布に顔を埋める。
そんなこいしを見ていれば、メリーも漸く意識がハッキリしてきたようで、櫛で髪を───
「その櫛、どこから取った?」
ぶん、と横に手を振るうメリー。
少女は寝室のカーペットに尻餅をついた。
その手指は何にも触れず、空を切る。
手応えの無い空間を二人でぼんやりと見つめ、溜め息を吐いた。
「今、おかしかったわね」
「今の当たったら超痛いよ!?」」
「その櫛はベッドから届く場所に置いてなかったから…昨日リビングで見たもの」
「さっき私、ありがとうって言わなかった?」
「多分言ってたわ。少なくともそこに違和感を覚えてる感じでは無かった。当然の事として受け入れてる感じだったね」
「…なんて言うんだろう、変は変でも、こう…当たり前の様に馴染んで、言われて考えるまで違和感が無いのよね」
メリーに腕を引かれてベッドに倒れ込めば、瞼に指が当てられる。
自分のものではない、現実の筈なのに仮想現実に近い視界。
慣れた己の呼吸による視界の揺れも、自然的な視線のズレも違う。
そんな、自分のものではない世界が見えた。
「何か見える?」
「…おかしな点は無いわ」
「美少女が見えてるでしょほら真っ正面」
普段通りの光景。
宇佐見の目の前で、少女が唇を尖らせた。
各所に小さな境界は見えるが、些細な事。
真正面に立てど、誰の目にも見えていない。
これといった異常は見当たらず。
触れたところで、気づいてくれる筈も無く。
メリーが目を閉じた。
ふと、少女がマエリベリーの目を手で覆う。
視界は暗く、闇に包まれて。
思いつきで行われたその行為。
考え込む様な沈黙。
然しその思いつきは、大きな意味を持った。
暫し待つも、何も発言せず瞼も上げず。
宇佐見の顔を見て、少女は目を見開く。
「ん?」
「どこ見てる?」
マエリベリーの目を覆ったまま顔を綻ばせる。
「どこって…部屋だけど」
少女は、その反応を求めていた。
「はい?」
異常が起きている。
原因の少女も異常の内容を把握しないまま。
その事に気付けば、即座に頭を切り替えて。
事態が進展を迎える。
「そのままでいて。動かずに」
緊張を孕む声が部屋に響いた。
間延びした声が部屋に響いた。
その目は、何を捉えているのか。
その目は、何を捉えているのか。
その本質を、紐解き“暴く”。