女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

93 / 100
PC版で文中文字サイズが変に見えるとのご報告を頂きました。
読みにくい場合はスマホ版でお試し頂ければ幸いです。



88

───少女は縛りを設けられていた。

行いが全て、人の無意識に溶けていく。

だから少女は、“発案”を望んでいた。

「───メリー、部屋は見えてる?」

「見えているわ」
「頼む、私はここにいるぞ……!」
                      

「今、何か変わった点は?」

「……ないけど?」
少女が期待に目を輝かせる。
                      

「そう」

「本当は触れたとこで気づいて欲しいけどね」

その言葉でメリーの鼻先に挙げた手を下ろす。

見えていると認識しているだけで、実際には見えていない。

借りたメリーの視界は黒のまま、何も変わっていないのだから。

 

「錯覚かしら?見えていると脳が誤認識を起こして視界を補完している。……幻覚?」

「えっ私幻覚見てるの?」
「幻覚っちゃ幻覚みたいなものかも」
                      

「わからないわ。うーん……なんだろうこれ……」

気づいてもらおうと、少女が一度手を離し。

パ、と電気をつけたように視界が戻る。
そして再度ハーンの目を隠す。
                      

そしてまた目を覆われるように暗転。

 

「……んん?」
「蓮子なら気がつくよね」
                      

「えっなになになになんか起きてるの?」

「なんか一瞬見えた。んでまた暗くなった。これ実はメリーが目を閉じて悪戯してるだけの可能性ある?」

「目は開いてるわよ?眼球触る?」
「私の悪戯とは言えるけどね」
                      

「そこまでして確認はしたくないかな……」

 

点灯と点滅。

怪異、それも人の視界を奪う?

しかしメリーは見えていると認識しているし、一人ではその怪異の行いにすら気が付けないということ。

敵意は無いようだがどうしたものか。

 

「私の声が分かるなら素早く2回メリーの視界を戻して」

「モールス信号か何か?」
その“発案”を、少女は待ち望んでいた。
                      

「……ほう、なるほどね」
「はいはい、2回ね」
                      

「えっ本当に反応あった!?私視界変わらないからわかんないんだけど!」

 

視界が2回ほど戻った。

無差別的で現象的な怪異ではない。

この怪異とは、意思の疎通が可能である。

 

「文字は書けるか。YESなら3秒間戻して、NOなら素早く戻す」

「人の視界でコックリさん始めてる?」
「誰がコックリさんだよ」
                      

 

返答は3秒。
そうは言いつつ少女は指示通りにする。
                      

返答の最後に一度暗転し、そして今度は視界が正常に戻る。

「書くからちょっと待っててね」

「文字が書けるのか……コックリさんより有能。聞こえてたら今から30秒以内に何かを書いて」

「今時コックリさんなんて言葉を知ってる人がどれ程いるのやら」

「時代遅れとか言うのやめてよ」

「おはよ……何やってんの」

「うわっ」

 

メリーの視界を見ているままなので、急な動きに驚いて声を上げた。

寝癖を手櫛で直すこいしが、私を……メリーを眠そうな目で見ている。

 

「怪異遭遇中」

「……怪異?ハーンがそうって事?」

「この行為は蓮子を襲ってるわけじゃないのよ。今視界貸し出し中」

「ふーん、そうなんだ」
「書くものが無い……」
                      

「えーっと……音声認識、モールス信号一覧……っと」

 

意思疎通の方法を考えてメリーの目の前で端末を弄れば、メリーの視界が若干細くなった。

多分半目なのだろうと想像できるが、気にせずにそのまま端末を弄っていれば、いつの間にかテーブルの上にティッシュが広げて置かれていて。

その上に、赤い文字が書かれている。
「ケチャップで文字を書くの難しいわ」
                      

 

わたしはここにいる

 

「……口下手なダイイングメッセージか何か?」

「あっこれケチャップだ。文字書く紙が無いからとりあえずこれに書いたのかな」

 

これも立派なポルターガイストだが、共に見る景色に異常は無く。

境界がそこにある訳でも無く、突然テーブルにティッシュとケチャップ文字があった。

 

そこには何もいない。

ならば何故、怪異がハーンの視界を奪った事に私は気が付けたのか。

見えないのに視界を奪われた。

そういう怪異という認識でいいのだろうか。

 

「メリー、ちゃんと書くものとかある?」

「うーん……棚のどこかに何かの紙とペンがまだ何処かにあったはず。取り敢えず手を離すわね」

「わかった」

 

自分の視線へと戻り、“酔い”が覚めるまで周囲を見回した。

暫くして机の上に紙とペンを置き、文字が書かれるのを3人で待つ。

 

「……何このコックリさんみたいなの」

「あっこいしもそう思う?わかる!」

「なんちゃって降霊術より遥かにヤバいことしてるけど」

「降霊どころか既に“居る”んだよね」

「うん?うわ、いつの間にか書いてあるわ」

 

相変わらず時間が止まったように、結果だけが残っていた。

何かが書かれている紙を三人で見つめ、首を傾げる。

 

「うわっ」
「まあそういう反応だよね」
                      

「偽物……?そういう怪異?ドッペルゲンガー?」

「ん、蓮子これなんて書いてある?」
少女は苦笑いを浮かべた。
                      

「メリーは見えない?」
しかし次の言葉に、少女は首を傾げる。
                      

「文字の上に境界が走ってて見えないのよ。多分その文字に意味があると思うんだけど…」

「境界……なんで?」

メリーが目を細め、こいしが眉根を寄せた。

私は文字の意味を考えて唸る。
想定外の異常。
                      

紙に書かれた文字とは。
少女の意図せぬ事象が起きていた。
                      

 

私は古明地こいし

 

過程は有らず、結果だけが残る。

異様な怪異は、己を古明地こいしと名乗った。

 

 

「……私?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。