読みにくい場合はスマホ版でお試し頂ければ幸いです。
───少女は縛りを設けられていた。
行いが全て、人の無意識に溶けていく。
だから少女は、“発案”を望んでいた。
「───メリー、部屋は見えてる?」
「今、何か変わった点は?」
「そう」
「本当は触れたとこで気づいて欲しいけどね」
その言葉でメリーの鼻先に挙げた手を下ろす。
見えていると認識しているだけで、実際には見えていない。
借りたメリーの視界は黒のまま、何も変わっていないのだから。
「錯覚かしら?見えていると脳が誤認識を起こして視界を補完している。……幻覚?」
「わからないわ。うーん……なんだろうこれ……」
気づいてもらおうと、少女が一度手を離し。
そしてまた目を覆われるように暗転。
「えっなになになになんか起きてるの?」
「なんか一瞬見えた。んでまた暗くなった。これ実はメリーが目を閉じて悪戯してるだけの可能性ある?」
「そこまでして確認はしたくないかな……」
点灯と点滅。
怪異、それも人の視界を奪う?
しかしメリーは見えていると認識しているし、一人ではその怪異の行いにすら気が付けないということ。
敵意は無いようだがどうしたものか。
「私の声が分かるなら素早く2回メリーの視界を戻して」
「えっ本当に反応あった!?私視界変わらないからわかんないんだけど!」
視界が2回ほど戻った。
無差別的で現象的な怪異ではない。
この怪異とは、意思の疎通が可能である。
「文字は書けるか。YESなら3秒間戻して、NOなら素早く戻す」
返答の最後に一度暗転し、そして今度は視界が正常に戻る。
「書くからちょっと待っててね」
「文字が書けるのか……コックリさんより有能。聞こえてたら今から30秒以内に何かを書いて」
「今時コックリさんなんて言葉を知ってる人がどれ程いるのやら」
「時代遅れとか言うのやめてよ」
「おはよ……何やってんの」
「うわっ」
メリーの視界を見ているままなので、急な動きに驚いて声を上げた。
寝癖を手櫛で直すこいしが、私を……メリーを眠そうな目で見ている。
「怪異遭遇中」
「……怪異?ハーンがそうって事?」
「この行為は蓮子を襲ってるわけじゃないのよ。今視界貸し出し中」
「えーっと……音声認識、モールス信号一覧……っと」
意思疎通の方法を考えてメリーの目の前で端末を弄れば、メリーの視界が若干細くなった。
多分半目なのだろうと想像できるが、気にせずにそのまま端末を弄っていれば、いつの間にかテーブルの上にティッシュが広げて置かれていて。
わたしはここにいる
「……口下手なダイイングメッセージか何か?」
「あっこれケチャップだ。文字書く紙が無いからとりあえずこれに書いたのかな」
これも立派なポルターガイストだが、共に見る景色に異常は無く。
境界がそこにある訳でも無く、突然テーブルにティッシュとケチャップ文字があった。
そこには何もいない。
ならば何故、怪異がハーンの視界を奪った事に私は気が付けたのか。
見えないのに視界を奪われた。
そういう怪異という認識でいいのだろうか。
「メリー、ちゃんと書くものとかある?」
「うーん……棚のどこかに何かの紙とペンがまだ何処かにあったはず。取り敢えず手を離すわね」
「わかった」
自分の視線へと戻り、“酔い”が覚めるまで周囲を見回した。
暫くして机の上に紙とペンを置き、文字が書かれるのを3人で待つ。
「……何このコックリさんみたいなの」
「あっこいしもそう思う?わかる!」
「なんちゃって降霊術より遥かにヤバいことしてるけど」
「降霊どころか既に“居る”んだよね」
「うん?うわ、いつの間にか書いてあるわ」
相変わらず時間が止まったように、結果だけが残っていた。
何かが書かれている紙を三人で見つめ、首を傾げる。
「偽物……?そういう怪異?ドッペルゲンガー?」
「文字の上に境界が走ってて見えないのよ。多分その文字に意味があると思うんだけど…」
「境界……なんで?」
メリーが目を細め、こいしが眉根を寄せた。
私は古明地こいし
過程は有らず、結果だけが残る。
異様な怪異は、己を古明地こいしと名乗った。
「……私?」