藤ヶ崎茜さん。去年までは私のクラスの生徒で、現在は法学部の大学生です。
その藤ヶ崎さんから相談を受けて、私はここ、『亜露麻』という喫茶店に伺いました。
珈琲専門店との触れ込みだと藤ヶ崎さんからは聞いてましたが、上品にコーヒーを味わうブルジョアとはお世辞にも言えない客層です。
「いらっしゃいませー……美都せんせー! 本当に来てくれたんだ」
生徒が困っていれば地球の裏だろうが先生は駆けつけますよ。それが私のクラスを巣立って2か月しか経たない女子とあれば尚の事です。
と、立ち話もそこそこに。私は話しやすいよう、藤ヶ崎さんの正面カウンター席に座ろうとしました。
ですが、当の藤ヶ崎さんから止められました。
「例の常連さんね、わたしの正面が指定席になりつつあって」
なるほど。そういう事情でしたらば。
私はコーナーカウンターの一番奥に座ることにしました。ここなら藤ヶ崎さんも含めて店内を一望できます。
――藤ヶ崎さんの相談とは、「バイト先の常連さんが、わたし目当てで店に来てるの。結構変わったことを言うヒトなんだけど先生はどう思う?」でした。
藤ヶ崎さんが聞いた“常連さん”の発言だけでは判断しがたいので、実況見分をしたい、と私は返信しました。
今までの教職人生で、生徒の相談にここまで踏み込んだ対応をするの、実は初めてです。
私だって関わるべき境界線は弁えていますから、本当ならここまでしてはいけないことも自覚しています。今回はレアケースです。ちゃんと理由あってのことですので悪しからずご了承ください。
店のドアベルが鳴りました。
「いらっしゃいませ」
入って来た男性を見て、一番に私が感じたのは、怯えでした。
犯罪者や変質者に抱くよりもっと原始的。喩えるなら、動物園を脱走した猛獣を前にしたらこんな気分だろうと思います。
男性は藤ヶ崎さんの正面のカウンターチェアに座りました。あれが例の“常連さん”ですね。
“常連さん”は注文を言いません。ですが藤ヶ崎さんは棚からカップを出してコーヒーを注いで、カップを男性客の前に置きました。
――はい、このお店に減点7。バイトである藤ヶ崎さんに“困ったお客”の接客を丸投げにした時点で情状酌量はしません。
今後、このお店でバイトしたいと光ヶ森高の生徒が申請したら、事前に忠告しましょう。心の隅にメモしましたよ。教師とはこういう時でもお仕事しているのです。
「昔ここでは世界一美味いコーヒーが飲めた。だが、経営者が変わった悲劇。今では世界一不味いコーヒーになった」
にしてもジャブから強烈ですね! そして不味いと罵倒しておきながらしっかり香りまで味わって飲んでますね!?
「その割にはよく来てくださいますよね」
対する藤ヶ崎さん、完全に慣れきった対応です。不愉快さをおくびにも出しません。
おもむろに“常連さん”が藤ヶ崎さんの手を取りました。取るに留まらず撫で回しています。
「君が目当てさ。もうすぐ世界が終わる。それまではなるべく、美しいモノを見ていたい」
「終わる? 世界が?」
“常連さん”に答えながら、藤ヶ崎さんは私にアイコンタクト。
――去年の2学期までなら、私の生徒に妙なことを吹き込まないでください、と“常連さん”を怒鳴りつけていたでしょう。
ですが、2018年9月から今日までの9か月余りが、世界存亡問題の満漢全席だったんです。おかげでその手の話を持ち出す人を一蹴できなくなってしまいました。
藤ヶ崎さんの相談に対して現場に立ち会いたいと申し出たのは、それが最大の理由でした。
あ。それと、仮に世界の終わりとやらが本当でしたら、“常連さん”の審美眼には拍手を贈ります。藤ヶ崎茜さんは間違いなく美少女ですから。
「ああ、視たんだ。昔、時の扉を開けた時、未来のビジョンを――」
未来のビジョンを、視た?
それってまるで、ジオウⅡウォッチを使えるようになってからのソウゴ君のようです。
「いいや、気にしないでくれ。はぐれ狼の戯言だ」
それっきり“常連さん”はトークを絶やしました。
“常連さん”はブレンドコーヒーを飲み干し、代金を置いてお店を出て行きました。
「ありがとうございましたー」
藤ヶ崎さんは営業スマイルで“常連さん”を見送ってのち、真顔に戻って俊敏に私の前に来ました。
「ねっ、ねっ、どうだった?」
あの男性について、今すぐ言えることは一つだけです。
「藤ヶ崎さん目当てという点は100%本心でしょう」
「あーあ。ここ、バイト代よかったのになあ」
空かさずこのお店のアルバイトを辞める算段を始めるとこは、藤ヶ崎さんらしいです。彼女のトラブル回避力の高さは、3年G組の頃から目を瞠るものがありましたから。
でも同時に、知っているのです。藤ヶ崎さんの処世術は、小中時代の彼女の愛らしさに惹かれた男子や周辺女子との荒んだ青春によって身につけざるをえなかったものです。
あの“常連さん”も、藤ヶ崎さんをターゲットにしたのは彼女の顔がいいから? もしそうだとしたら……悲しいです。藤ヶ崎さんの顔以外の長所を、進路指導をする中でたくさん発掘してきた先生としてはよけいに。
「他の世界が終わる云々については何とも言えませんが……」
仮に“常連さん”の発言が真実なら、いずれソウゴ君たちと共にあの男性とぶつかる日が来るでしょう。世界の行く末を巡って、いつかどこかで。
ですから私が藤ヶ崎さんにするアドバイスは、そうでなかった場合。
あれらの発言が口説き文句に過ぎない、または何かしら危ない思想の人物であるという可能性の示唆と注意喚起だけです。
とはいえ私の第一声で、すでにバイトを辞める旨を、今まさに雇用主に申告している藤ヶ崎さんです。これ以上は先生が言わなくてもいいかもしれませんね、はい。
藤ヶ崎さんは今までのアルバイトで不当な労働を強いられた記録を、接客内容を細かく控えた業務日誌と、“常連さん”の来客に当たっての注文伝票控えといった物的証拠を、雇用主に畳みかけるように突きつけて、穏便にバイトを辞める方向へ持ち込みました。
将来は弁護士志望の藤ヶ崎茜さん、大学生ながらにしてすでに頭角を現しています。
藤ヶ崎さんは辞職をもぎ取って笑顔でバックヤードに引っ込みました。
ご褒美に先生が家まで車で送って行ってあげましょう。夜が物騒なご時勢になったことですし、ね。
ついでに、法学生の藤ヶ崎さんなら分かるかもしれませんから、尋ねてみましょう。
――北島祐子の脱獄ニュースと裁判記録で、それぞれ気になった二点。
「接見禁止処分」と「八王子医療刑務所」というキーワードについて。
藤ヶ崎茜さんは、次郎がコーヒーを飲む時に接客をしていたウェイトレスさんでした。しかも手を取って撫で回されたりもしましたね。
はい。この子も元3G、つまりソウゴたちのクラスメートだったことにしちゃいました。
脇キャラから攻める。それが、あんだるしあ流(`ФωФ') カッ
リアタイの話。
映画の情報が続々と入ってきてツライ。
「クォーツァー」というのは歌詞の造語であり、キーワードになるだろうと3話の頃から目をつけていましたが、映画版まで持ち越されるとは思いませんでした。長かった…orz
「クォーツ」と「クォーター」を合わせた造語らしいですね。
壊れやすい繊細なクォーツ時計と、曲名は「Over=乗り越える」。つまり傷ついても困難を乗り越えて再起するキャラたちを意味するんだと漠然と思っていました。
何よりドライブ編です! 竹○さーん! 出てくださると信じてまーす!( ゚Д゚)
拙作で決まっているのは、ミトさんが現代組の中にパーティ参加するという一点のみ。
どう参加するかは自分も劇場版正座待機です。