70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

103 / 121
 文字数め…!orz


Syndrome88 真実ほど人に残酷なものもないのだろう

 仮面ライダーギンガは敵にも味方にも利さない純然たる“邪魔者”である。

 

 私が沖一也おじさまの手紙を読み上げてから、こちら側とタイムジャッカーの見解は一致を見ました。

 こちら側は猜疑を抱いたまま、あちら側は腹に一物抱えたまま、一時的に共同戦線を張ることになりました。

 

 私たちみんなで束になったからといって、すぐに逆転できると決まったわけじゃありません。戦力増強のためにアナザーキバもこちらに引き入れる。スウォルツさんはそう言いました。

 

 そうして、私にとっては初対面のアナザーキバ――北島祐子を市街地で発見するに至ったのですが……

 

 結果を先に述べます。勧誘は失敗しました。

 それというのも、そもそも話にならなかったんですよね。

 

 最初はね、スウォルツさんがおべっか役を買って出てくださったおかげで、北島祐子は上機嫌に協力を承諾しましたよ。問題は協力する条件でした。

 

「全員! 私の前で跪け!」

 

 お断りします――と即答するのを我慢した私を褒めてください。天国のお母さん。

 

 ここで言いなりになってもろくな結果にならない。それだけは予感がありました。ですが言語化できるほどはっきりしたものでもありませんでした。

 

 それと、私個人が仲間の誰にも、そんな真似をさせたくなかったのです。忍従と妥協はちがうものです。ソウゴ君たちはまだその線引きを学んでいない少年少女です。それからウォズさん。彼には、ただ一人と忠誠を誓った主君がいます。主君でもない相手に傅くなんて屈辱以外の何者でもありません。

 

 そこまで分かっていながら対案を思いつけず、結局は地面に膝を突いた私の悔しさ、分かります?

 

 しかも、ここまでしたのに、北島祐子は協力を撤回したんです!

 

「気が変わった。女王たる私が、お前らのような有象無象と手を組むのは、品位に関わる。ギンガとかいったか? 奴のことは、()()()()()()()()()

 

 言ってること、全然分かりません。日本語でしゃべってください。

 

 ただ、ソウゴ君だけは北島祐子への態度が違ったんですよね。

 

「あの! 祐子、さん。俺のこと、覚えてません、か?」

「――ああ。思い出した。お前か」

 

 ソウゴ君は「やっぱり!」と快哉を上げました。彼の周りだけハッピー粒子が満開です。

 春色爛漫のソウゴ君を、ゲイツ君が首を締め上げながら引きずり戻しました。

 

 

 山からここまでクジゴジ堂の皆さんは私が車に乗せて送ってきたので、帰宅もまた私の愛車です。

 

 車内では、憤るゲイツ君、脱力しきったツクヨミさん、苛立ちを隠さないウォズさんで、おおむね否定的な空気が出来上がりかけていましたが――そうは問屋が、いえ、そうは魔王(未)が卸してくれませんでした。

 

「やっぱりなー。あの人が『セーラさん』だったんだー」

 

 誰が聞かずとも語り出すソウゴ君。ちなみに「セーラさん」とは彼の中の仮称で、由来は出会った日に彼女がセーラー服を着ていたからだそうです。

 

 幼少期の初恋の人に再会した。字面に起こせばドラマチックですが、その女性は犯罪者である可能性がゼロではない。元担任教師としては手放しでソウゴ君を祝福できません。

 

「北島祐子は今、冤罪の復讐をしようとしている。本当に冤罪なのか。冤罪なら、真犯人は誰なのか」

「事件の真相が分からなければ、手を組むも組まないもない」

 

 言いにくいことを言ってくれてありがとうございます。ツクヨミさんにウォズさん。

 

 

 ――フーダニット。ホワイダニット。ミステリーの基本要素の内二つです。犯人は誰か。犯行に及んだ動機は何か。

 

 犯人(フーダニット)はゲイツ君が確認することになりました。彼が事件当日へタイムマジーンで跳んで、直接現場を目撃するという、やや苦しい方法で。

 

 動機(ホワイダニット)は私とツクヨミさんが受け持ちます。現代で足を使って地道調査です。

 

 犯人が北島祐子だと確定していないのに、動機を同時進行で調べるのは無理がないかって?

 それが実は、全く無理ではないのですよね。私のゲスな勘繰りが正しければですが。

 

 

 クジゴジ堂に到着して、道中で決めた分担の通りに、私たちは動き出しました。

 

 ゲイツ君はさっそくタイムマジーンで2015年へ転移。

 ツクヨミさんは、事件の第一発見者、田上哲也さんという男性を訪ねてみたいと言いました。

 

 私はツクヨミさんだけを再び車に乗せて、郊外の湖水地方へ向かいました。

 

 

 

 

 

 ――そのコテージは、メルヘンなお城の外観をしたチャペルの近くにありました。

 ツクヨミさんが情報端末で割り出したこのコテージが、田上哲也さんの現在地です。

 

「先生……その、大丈夫?」

「はい? 何がでしょうか」

「ずっと怖い顔してる、から……」

「……ごめんなさい。不安にさせてしまいましたね。私も緊張して、顔面が強張ってたみたいです」

「本当?」

「本当です」

 

 コテージの駐車場に車を停めて、私たちはついに田上哲也さんを直撃取材(?)しました。

 

 

 

「僕たちがなぜ、こんな田舎に隠れてると思いますか? ――怖いんです。祐子が」

 

 私たちが北島祐子について話を伺いにきたと伝えてからの、田上さんの返事が、それでした。

 

 赤々と燃える暖炉の中で薪が弾けた。

 5月も半ばなのに火をくべているのは、きっと湖沿いだからというだけではないでしょう。田上さん、そして彼の婚約者の由紀さんは、ひどく震えていますから。

 

「大丈夫です、田上さん。その恐怖が根拠のないものだなんて、私たちは思っていませんから。ただ、いくつか疑問があるので確認したい、それだけです」

「すいません……」

「――田上さん。あなたが北島祐子と最後に面会したのはいつでしたか?」

「去年の春、だったと思います……そのあとすぐ、祐子は接見禁止処分になりましたから」

 

 首を傾げるツクヨミさんには、僭越ながら私から説明しました。

 

 被疑者が容疑を長期間に渡って否認し続けている場合には、面会が禁止されるケースがあるといいます。法学部の藤ヶ崎さんから教えてもらった刑法の知識です。

 

「それから、もう一つ。かなりプライバシーに踏み込んだ内容ですので、お答えになりたくないようでしたら無視してくださって構いません。北島祐子は若い頃、()()()()()()()()()()()()のではありませんか?」

 

 これまたツクヨミさんの頭上に「?」がサンバルンバ。

 

 これも藤ヶ崎さんから教わったことです。

 八王子医療刑務所はおもに精神疾患のある受刑者を収監している刑務所で、医療センターでもあるそうです。

 そんな刑務所に収監されている以上、北島祐子に心的病歴があったことを疑いたくもなります。

 

「……おっしゃる、通りです。ちょうど僕らが14歳の頃なので、2008年。2008年に発症して、祐子は精神科にかかりました。祐子は、自分のついた“嘘”を本気で信じてしまう“病気”なんです。祐子のそばにいて一番症状が緩和する相手が僕だということで、親同士の付き合いもあって、僕は祐子となるべく一緒に過ごしました。時にはカップルのような真似もして……」

 

 それが北島祐子の誤認を加熱させた最大の要因でしょう。彼女は、田上さんは自分に好意があると思い込んだ。

 

「4年前の事件が最たるものでした。祐子が殺した相手は、僕の初めての恋人でした。彼女の存在を知った祐子は、彼女の後を尾行して、あんな……!」

 

 田上さんは両手で顔を覆いました。由紀さんが慰めるように、彼の背中を撫でました。

 

「ごめんなさい、先生。私、途中からこんがらがった……」

「難しく考えなくていいんですよ、ツクヨミさん。少なくとも、一番大事なところははっきりしました。北島祐子は一人の人間を殺めた。彼女は冤罪などではなく、まさしく殺人犯だった。そこが分かれば、それでいいんです」

 

 白日に晒された罪状を前に、彼女の病癖や、当事者たちの人間関係を酌量する余地はありません。その辺は捜査機関と司法と、医療関係者の職分です。

 

「お時間を割いていただいて、ありがとうございました。――ツクヨミさん。お暇しましょう」

「え。あ、はいっ」

 

 席を立って踵を返した私を、田上さんが呼び止めました。

 

「あなたはどうして祐子の訴えが嘘だと分かったんですか?」

「……分かってなんかいませんよ。ただ、私がよく知る生徒の一人がポジティブシンキングだったので、なんだか悔しくなって、対抗してネガティブな解釈ばかりしてみただけです」

 

 今度こそ本当にお暇いたします。私は田上さんたちに会釈して、コテージを出ました。

 その後ろを、ちょっと急ぎ足でツクヨミさんがついて来ました。

 

 

 外に出て、帰るために車に乗る前です。ツクヨミさんが私に尋ねました。

 

「先生。さっきの『よく知る生徒』ってソウゴのことよね。もしかして、ソウゴが北島祐子に夢中になって、嫉妬、してた?」

 

 どぎまぎしながら上目遣いで疑問形なんて、ツクヨミさん、そんな愛らしいやり口を教えた覚えは先生ありませんよ。

 

「先生?」

「そうみたいです。私もしょせん下世話なオバサンでした」

 

 ええ、ええ。きっかけなんて、私の中だけの下らないヤキモチですよ。

 私の生徒を誑かしましたねー!? なーんて、元担任教師に過ぎない立場でありながら、心の中で噴火して、でもそれを表に出すまいとここまで自制してたんですぅ。

 ああもう、今になって白ウォズさんがゲイツ君と一緒にいる私を毒婦呼ばわりした心境を理解しましたよ。

 

 我ながら汚いと自己軽蔑するのは、これがソウゴ君でよかったと思っていることです。

 万が一ゲイツ君だったなら、私は平静を装うどころか、嫉妬に駆られるまま彼に真っ向から反論したと容易く想像できるからです。

 

 ――どこまで醜いんだか。私という女は。

 

 地面に影が差した。

 見上げれば、赤いタイムマジーンが頭上に現れたところでした。

 

 赤いタイムマジーンは湖の畔に着陸しました。

 先に走って行ったツクヨミさんに、私も続きました。

 

 コクピットから降りてきたゲイツ君は――顔色が真っ青でした。ツクヨミさんが心配して声かけをしても、相槌を打つ余裕すらないようです。

 

「明光院君」

 

 私はあえて、彼に、学生として呼びかけた。

 

「何を見たのか、話せますか?」

「……北島祐子が、人を殺してた」

 

 ゲイツ君が滅入っているのも頷けます。

 彼はレジスタンスの兵士ですから、確かに多くの死を見てきたでしょう。

 ですが、だからこそ、明確な悪意によって個人が個人を殺すシーンはショッキングだったはずです。

 結果が同じ“死”でも、無造作な“殺戮”と、怨恨による“殺人”は、全くの別物です。

 

「先生、女は……人は、あんなふうに笑いながら、同じ人を殺せるものなのか……?」

「殺せます」

 

 冷たく突き放すようなトーンで、言った。

 

 ゲイツ君も、それにツクヨミさんも蒼然としています。

 

 ……ああ、やっちゃった。自分が平静を保つために、他人にネガティブ感情をぶつけた。相手が生徒でなくても人としてどうなんだって話です。

 

「……ごめんなさい。きつい言い方をしました。許してください」

 

 悪いことをしたなら、すぐに、気持ちを込めて謝る。それが当たり前の常識です。その“当たり前”が頭から飛ぶくらいには、私もこの事件の真相に中てられたようです。

 

 私がしっかりしなくてどうするんです。目の前に“生徒”が二人もいるんですよ? 彼らを不安がらせてちゃ、それこそ教師失格です。

 

「――ソウゴ」

 

 ツクヨミさんが零しました。

 

「ソウゴに伝えなきゃ! 北島祐子の、事件の本当のこと!」

 

 真実を伝えて砕ける恋心なら、そこまでです。

 私が不安なのは、真実を知ってなおソウゴ君が北島祐子への好意を捨てなかった時。

 

 ――今の内に、ソウゴ君に嫌われる覚悟を決めたほうがいいかも、しれない。




 というわけで、本作では北島祐子を「嘘をつくのは病気だから」という扱いにいたしました。
 決してそのような病気を持つ方々を非難する意味で書いたわけではないことをどうかご了承いただきたく存じますm(_ _"m)
 何度か原作を観直して「おかしい」と感じた箇所がいくつかあったので、それらを繋げるとこうなるのでは? を、あんだるしあ流にした感じです。
 「2008年で発病」はキバ放送開始年を意識しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。