仮面ライダーカブトwith重甲ビーファイター、決断しました。※「×」ではないのがミソ
どうかお楽しみいただければ幸いです(`ФωФ')カッ
隕石とは、大多数の日本国民にとっては他人事です。
ましてや隕石落下地点が自分たちの国であるなど、過半数の人々が「ありえない」と笑い飛ばすでしょう。
まさしく「天文学的確率」です。
その確率は、近頃、天文学的ではなく、むしろ日常になりつつあるのが恐ろしいのですが。
執拗。ええ、あえてそう言いましょう。執拗なまでに隕石が都内に墜ちるのがここ最近。
都行政はついに避難指示を出しました(私的には特別警報にすべきだという意見です)。我が光ヶ森高校は避難所に指定されていますので、教職員一同、対応に追われてバタバタしてるところです。
グラウンドで、避難者区分用の三角コーンを、他の先生方と分担して立てて回っている時でした。
くいくい
小さな男の子が、私の服の袖を引っ張りました。
私はしゃがんで、男の子と目線の高さを合わせました。
「どうしました?」
「こいつもいっしょに中に入っていい?」
男の子が私に見せたのは、虫籠でした。中にはオスのカブトムシが一匹。
……困りました。区のマニュアルの陥穽を突いた難問です。避難者区分に「ペット同行避難者は別枠」とは書いてありましたが、具体的にペットの種について表記はなかったことに、たった今気づきました。
犬猫ならば飼い主と離して外で繋いでおくこともできたのですが、昆虫はどう対応すればいいのでしょうか? 一応はカゴに入っているからOK? ああ、でもカブトムシだと羽音が騒音だと訴え出す避難者もいそうです。かといって学校側で預かったところで満足にケアできるとは断じて言えません。
授業で難関にぶち当たった時とはまた異なる難問です……!
って、あら? よくよく見ると、このカブトムシ、些かメカニカルなフォルムですね。
もしかして。
「ちょっとだけ見せてくれませんか?」
男の子から虫籠を受け取って、慎重に揺すってみました。中にいるカブトムシはぴくりとも動きません。
分かりました。このカブトムシは、本物じゃなくてオモチャです。きっと虫籠に入れることでカブトムシを飼っている“ごっこ遊び”をしてたのでしょう。
「ありがとうございました。いいですよ、一緒に避難所に入っても」
男の子はぱあっと顔を輝かせてから、虫籠を胸に抱いて走り去った。
「織部先生!」
呼ばれて、ふり返る。校舎から1年A組担任の志野先生が出てきたところでした。私は校舎へ小走りで向かいました。
「どうしました?」
「今、休校中でしょう? なのに間違って登校してきた生徒がいて、それが1Gの生徒でして。織部先生に“引渡し”お願いしたいんですが」
「分かりました。その生徒は今どこに?」
「とりあえず教室に待機するよう言ってきました」
「ありがとうございます。すぐ行きますね」
志野先生とバトンタッチ。私は1年G組の教室へ向かいました。
到着した無人の教室にいたのは、門矢小夜さんでした。
「小夜、さん? お兄さんと一緒に“遠くの病院”にかかりに行ったんじゃなかったんですか?」
「そうよ。処置が済んだから帰ってきたの。そしたら町中が隕石騒ぎじゃない。慌てて
――その韻は、私にとっては無視しがたい、違和感。
「門矢さん」
笑顔のまま小首を傾げた彼女の、胸の谷間に、私は手を当てた。
「ごめんなさい。――ライダー・シンドローム」
ぐにゃり、と。
小夜さんのフリをしていたモノの擬態が剥がれて、中から蟲の怪物が出てきた。
『ナゼダ! ナゼワカッタ!』
「門矢さん含む1年G組の生徒たちはね、私を呼ぶ時は『せんせー』って発音するんですよ」
ここまでドンピシャだと逆に背筋が冷えます。
だって、ライダー・シンドロームで正体を暴くまで、私は半信半疑でした。つまり、目の前の彼女が門矢小夜さんであると、半分は信じていたのです。
逆上して襲いかかってくる蟲の怪物。
私自身が回避行動を取る――前に。誰かが私を横から攫うようにして、蟲の兇刃から逃しました。
「ゲイツ君!?」
「隠れてろ。奴は成虫のワームだ。クロックアップに入ったら、俺でも守りきれんかもしれない」
ワーム。クロックアップ。初めて聞く単語ばかりですが、いちいち意味をゲイツ君に尋ねていられる状況でないことは分かります。
私は講壇の後ろに身を隠しました。
「変身!」
《 ライダー・タイム カメンライダー GEIZ 》《 GEIZ “Revive” 疾風 》
ゲイツ君が仮面ライダーに変身した直後でした。彼と、さらにはワームが、私の視界から消えました。
姿は見えません。ですが、教室のあちこちで机や椅子が吹き飛んでいます。これは俗に言う、速すぎて視認できない?
戦況の運びが分からないまま、教室の中心が前触れもなく爆発しました。
恐る恐る覗いてみれば……ああ、やっぱり。床の焦げも机と椅子の鉄骨の歪みも惨憺たるものでした。修繕費の予算残額、いくらでしたっけ……?
『大丈夫だったか?』
「おかげさまで。駆けつけてくれて、ありがとうございます」
お礼を言える顔を取り繕いながら、内心では不安が渦巻いていました。
――小夜さんに限らず、1年G 組の生徒たちが知らない所で怪物と入れ替わっていたとしたら、私はその全てを看破できるのでしょうか?
休校措置が解けてから、登校してきた生徒たちを猜疑の目で見ずにいられるでしょうか?
生徒が本物か怪物か、その判断を誤って、彼ら彼女らを傷つけることになったら。
それを思うと、怖くてとても、先のことなんて考えられません。
知らず握り込んでいた手を、ゲイツ・リバイブが掴みました。
『すぐに片を付ける。だから、アンタがそんな顔をする必要なんて、ない』
「……いつも頼ってばかりで、ごめんなさい」
今さらながらに、思い病む。彼にせよソウゴ君にせよ、まだ18、19歳の若者なのに、その大切な“若い時代”の大半を、命がけの戦場に駆り立てている。
私のような教育者は、そういう危難の盾となって、若者が延び延びできるようにしてあげるのが使命なのに。
私は、ゲイツ・リバイブが握ってくれた手に、自分のそれを重ねた。
『先生?』
「本当に……ごめんなさい」
いっそ、私がゲイツ君と
「また月9か?」
ゲイツ・リバイブがすごい勢いで飛びのきました。
私も照れが込み上げて、声が上ずってしまいました。
「つ、士、さんっ。い、いい、いつから」
「最初から。そもそもそいつをここまで送ってやったのは俺だぞ」
変身を解いたゲイツ君に、私は、士さんの言ったことを確かめました。ゲイツ君は不本意そうに肯きました。
「士さん。本物の小夜さんは無事ですか?」
「答える前に俺も聞く。その質問はライダー関係者としてか? それとも一教師としてか?」
「担任がクラスの生徒の安否確認をしてはおかしいですか?」
「……妹なら、今はツクヨミと一緒に遠出中だ」
「ツクヨミさんと?」
士さんは教室に入ってくると、ひっくり返った椅子の一つを立てて、それに座って足を組みました。
「“古巣”に帰りがてら、俺のほうでも調べた。ツクヨミには、タイムジャッカーのスウォルツと何らかの繋がりがある。そこまでは突き止めた。あとは現地調査だ。俺が引率してやるつもりだったんだが、妹が譲らなくてな。『小夜なんてどうせ、ツクヨミちゃんと一緒にいて、同じもの見て、一緒にショック受けるくらいしかできないんだもん! それくらいやらせてくれたっていいじゃない!』だそうだ」
「小夜さんらしいです」
「そうか?」
「訂正します。年頃の女子らしい発想です」
女子学生のトモダチ付き合いは“一緒に”お弁当を食べることから始まるくらいですからね。これ、教師になってからの私の経験則です。
女子は男子よりステップが一つ多い。上辺を合わせることで害敵にならないことをアピールする、そのワンクッションを経て、ようやく胸襟を開くんです。
「――それとだ。俺が来たのは、あんた個人に別口で用があったからでもある」
「私に、ですか」
「渡す物がある。これと交換で、例の懐中時計をもうしばらくこっちで預かりたい」
士さんが講壇に縦長のケースを置きました。
貴金属を納める容器特有の滑らかな手触りの蓋を開けると、中から腕時計が出て来ました。
この腕時計の文字盤のデザイン――ずっと前に士さんに持ち去られた、お母さんの形見のスケルトン懐中時計と同じです!
「それならいつでも封印具を身に着けていられる。言うなればあんたのライダー・シンドロームの制御装置だ。代わりに元の時計のほうはもうしばらくこっちで預かる。悪い交換条件じゃないだろう?」
「どうして今すぐ返していただけないんですか? あの時計は母の形見です。お母さんだと思っていつでも持っていなさい、ってお父さんからも言われてるんです」
「――構造の解析が終わったら返す。俺が必要としてるのは、封印機能の技術だけだ」
「悪用しないと誓っていただけますか?」
「ああ。俺だって曲がりなりにも、人間の自由を守るために闘う仮面ライダーだ。その称号に懸けて、と言えば言質になるか?」
「……分かりました」
私はケースの中の腕時計を、右の手首に巻き付けました。
「それと、俺がこっちに来たのは忠告も兼ねてだ。あんたに成り替わろうとしてる“蝶”がいる」
「ワームが先生に擬態したというのか!?」
私より先にゲイツ君が、士さんに詰め寄りました。
前にツクヨミさんが「ゲイツが先にキレると私が何も言えなくなる」と言ったことがありましたが、なるほど、こういう感じですか。
「“人違い”には気をつけろ。じゃあな、小僧にセンセイ」
士さんはゲイツ君を小突いてどかせて、1G教室を出て行きました。
ワームに詳しい方なら言うまでもないかもしれませんが――
蝶をモデルにしたワームは、カブト劇中で存在しません(`ФωФ')カッ
では士が言った「蝶」とは何かと問われれば、もう一つの作品からおいでませでございますとも。