俺と先生は、光ヶ森高校でワームと戦ったあと、諸々あって学校の裏の高台公園まで上がってきた。
――ワームとの戦闘で見事に半壊した1年G組の教室についてだが。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた他の教師陣に、先生は、ありのままを説明した。さすがに俺が仮面ライダーだという点は伏せたが。
それ以上に、もっと核心に迫る真相を、先生はあえて黙っていた。
教室で暴れて、俺が成敗したことになった“怪生物”――ワームが、人間に擬態すること、だ。
学校を出てから先生は俺に言った。
――不用意に疑心暗鬼を校内に拡散させたくない。今回もアナザーライダーをやっつければ隕石騒動もきっと終わる、と。
確かに今までのパターンを踏襲すればそうなる確率は断然高いが……
彼女自身、門矢小夜に擬態したワームと対面して、並々ならぬ動揺をしたあとだろうに、どうしてああも他人を慮ることができるんだろう?
ベンチで隣に座る先生をなんとなく見やった。
「何ですか? ゲイツ君」
「……別に」
自分で思うよりまじまじと見ていたらしい。不覚だ。
「家に帰らなくていいのか? せっかく休暇を貰ったのに」
撃退したとはいえ怪生物と遭遇するなんて一大事だ、と教師陣の一部が声を揃えて、先生を早退させるべきだと言い張った。それが罷り通ったから、今も避難受け容れ準備に忙しない光ヶ森高校をこうして離れた。
「聞いても……笑いませんか?」
「笑わない」
「その……帰って一人きりになると、怖いことばかり考えちゃうから……帰る勇気、出なく、て……」
先生が不安になるのも当然だった。彼女は親しい人間の顔で騙されたばかりだ。むしろこれが自然な反応だろう。帰すには俺の良心が咎めるくらい、その顔色は青かった。
日が翳ってきた。
もうそんなに遅い時間帯だったかとスマホを見たが、まだ午後帯を半ばも過ぎていなかった。
手に持っていたスマホではなく、ファイズフォンのほうに着信があった。
このデバイスにかけてくるのはツクヨミかウォズ(ソウゴはスマホにかけるからな)。ツクヨミは小夜と出かけている。消去法で相手はウォズだ。
「俺だ。何があった?」
《空を見たまえ。説明するまでもなく事態が分かるよ》
ウォズの言う通り頭上を見上げて――危うく手からファイズフォンを落としかけた。
禍々しいほどに赤い巨大隕石が、青空に鎮座し、太陽を占有していた。
《大量のワームを運んできた
「考えがあるのか?」
《無論だ。昨日手に入れたギンガウォッチを使う。私と我が魔王とで宇宙へ飛んで、ギンガファイナリーのフルパワーで隕石を内側から破壊する。その間に、キミには別の任に当たってもらいたい。アナザーカブトだ》
聞けば、すでに地球に降りた一部のワームの中に、影山瞬という故人に擬態したワームがいるという。本物の影山が任務でコンビを組んでいた相方、矢車想が、アナザーカブトにされた。
ワーム影山は、死んだ影山瞬のフリをして矢車を利用している。
《ひとまずは撃退したが、放置しては後顧の憂い。キミには地上に残っての防衛を頼みたい》
――レジスタンスでコイツの指揮下にいた時の俺なら、ここで「了解した」と即答していたな。
ソウゴは言った。俺とウォズにとっては過去でも、ソウゴにとっては未来だから、変えられる、と。現実として、俺は今日まで幾度となくウォズと共闘した。
変わったら、戻れるのだろうか?
過酷で苛烈な砂塵の大地。
同志として隊長として、疑いもしなかった昔日。
《ゲイツ君?》
「――いいだろう。引き受けてやる」
《よし。こちらも我が魔王が戻ったようだ。では、吉報を待っていてくれ》
電話が切れた。
「ゲイツ君……」
背後からの呼びかけ。
先生にも事情は説明すべき、か。隕石破壊任務に向かうのは、先生の“教え子”であるソウゴもなんだ。事が終わったあとで知ったら……、……考えるまい。それこそ恐ろしい。
電話に出るために立ったベンチを、ふり返った。
――ふり返らなければよかった、と軽く考えてしまう光景が、あった。
織部美都の姿、服装、髪型、持ち物に至るまで全てが同じ、二人の女。
ワームは人間に擬態する。その生態の脅威度を、身を以て味わわされた。
俺には、どちらの「織部美都」が本物か、全く見分けがつかなかった。
とっさに起こせたアクションは、手に持ったままのファイズフォンを銃型にして、どちらであってもすぐさま撃てるように構えたことくらい。
――先生が、二人。
――片方はワームの擬態。
ミトさんから教わったレジェンド7世代目の知識を、頭の中で総動員する。
――ワームの擬態は、服装や所有物といった物理面から、記憶、人格の内部情報にまで及ぶ。擬態元にされた人間が生きていた場合は無実の罪を着せられるケースだって皆無じゃなかった。
DNA鑑定すら通用しないほど、ワームの擬態能力はとかく高い。
その擬態力が裏目に出て、ワームでありながら自分を人間だと思い込むケースもあったほどだという。
唯一の差は、確か……体温! 擬態しようと、ワームの体温は人間より異常に低い!
いや……だめだ! それだって、2006年時点でも熱センサーを用いた判断だった。触って確かめるにも俺の手が冷暖を計り違えたら、取り返しがつかない。
根掘り葉掘り質問するのは、ワームに記憶をコピーされている時点でアウト。
攻撃を仕掛けて反応から判断しようにも、ワームが自分を本気で織部美都だと誤認していたらワームの姿に戻ろうとしないだろう。またアウト。
知識を掘り起こせば起こすほど、どんな識別方法も結局は詰む。
くそ! どうしたら……!
ポケットの中のスマホが着信を告げた。よりにもよってこのタイミングで。
わずか迷ったものの、ファイズガンは構えたまま、スマホを取り出して電話に出た。
《もしもし、明光院くん。織部計都です。緊急につき、直接電話させてもらいました》
計都教授? このタイミングで「緊急」と言うからには、知ってるのか!? 先生に擬態したワームが現れたって!
「どうすれば区別がつくんだ!? 何か方法は……!」
《落ち着いてください。僕に考えがあります。相手にスマホのスピーカーを向けてください。僕の声が聴こえるように》
計都教授がどうにかできるのか? ええい、ままよ! 今は藁にも板にも縋ってやる!
俺は言われた通り、スピーカーモードにしたスマホを、正面に向けた。
《遠路はるばるの来訪に感謝いたします、
――セントパピリア?
何だそれ。ミトさんに習ったライダー史の中で、そんな固有名詞は聞いたことがない。
「アナタは? ああ、拓也の――ビーファイターの闘争を知っている人間なのですね」
《個人的裁量で、“空白の10年間”の守護者たちの記録も取り続けた者です。ブルービートの甲斐拓也さんには特に、娘が大変お世話になったものですから》
計都教授に答えたほうの女を、もう片方がまじまじと見つめる。
ここまでお膳立てされれば充分だ。
俺は本物の先生に駆け寄って、強引に背後に庇って構えた。
《明光院くん。彼女と戦う必要はありませんよ。彼女は敵じゃないですから。いいえ、敵に回してはいけない存在だから、と言うべきでしょうか》
「あれ? ゲイツ君、スマホ、通話中のままですよ」
「アンタの父親からかかってきた」
「え!? 私、お父さんに番号教えてないです!」
《そこはまあ、職務上の守秘義務ということで一つ》
どこまで個人情報に踏み込んでるんだ、“観測者”の役目って。
《妻に教わりませんでしたか? ワームは地球の昆虫目でラベリング可能ですが、蝶のワームだけはいなかった》
「……聞いた、気は、する」
《そういうことです。セントパピリアも時空の裂け目から現れ、数々の文明を渡るモノですから、宇宙から飛来したワームといくらか被る点はあるんですが》
そこを苦笑で済ませる辺り、計都教授が別の意味で恐ろしい。
《ですが、なぜあえて人間に擬態したのですか? あなたにはあなた固有の外見があるのに》
「もちろんワタシもワタシのまま地球に降りようと思っていた。なのに、“この世界”のほうがワタシを拒絶した。裂け目を超えるための錨が、彼女だった。成ってみて分かった。彼女は拓也と過去に関わったことがある」
話題に上げられた先生はおろおろとするばかりだ。身に覚えがない、らしい。……なくてよかった、というのが俺の本心だ。
先生はただでさえ色々しょい込んでるんだ。これ以上はやめてやってくれ。
「お、お話し中にすいません。あの、あなたは、私の外見を真似て、大変な思いで地球に来たみたいに言ってますけど、どうしてそこまで……?」
先生の姿でするにはあまりに無機質に、セントパピリアは首を傾げた。
「世界が滅ぶ瞬間に、ワタシはその世界を訪れる。そして、光の意思が闇の意思との壮絶なる闘争を決着させたあとに、滅びた世界の生命を甦らせる。そのために生まれたのが、ワタシという
救うためではなく、甦らせるため。
つまり、一度は滅亡することが前提で。
こんなヤバイ代物を呼び込むくらいに、地球は危機に瀕している。
セントパピリアはあくまで滅亡の兆しがある世界に来訪するのであって、彼女が来たから世界が滅亡するのではない。これ、ポイントです。
何でビーファイター要素をよりによってソレにしたし?( ゚д゚) と思われた読者様。
一応セントパピリアにも役割ありきで登場してもらいました。詳細は待て今後! ってやつです。
ヒント:渋谷←節子それヒントちゃう答えや