セントパピリアの出現と、その意味。
俺はとっさにファイズフォンを取り出して、ソウゴかウォズに連絡して、現状を伝えようとした。
伝えて、どうしたいんだ?
馬鹿か、俺は。まさにその滅亡の元凶である巨大隕石を砕くべく、あいつらは宇宙へ飛んだんじゃないか。そんなあいつらにセントパピリアの件を知らせたって、それこそ右用意に不安を植え付けるだけ。メリットがあるとしたら、俺のパニックが緩和するという、極めて自己中心的なそれ一つ。
落ち着け、冷静に考えろ。
ソウゴとウォズが不在だろうが、アナザーカブトとワームが地上に健在だ。先生を、ひいては人々の安全を守れるライダーは、俺しかいないんだ。
《美都も明光院くんも、少し構いませんか》
未だ通話中の俺のスマホから、電話を繋いだままの計都教授の声がした。
「お父さん。どうしました?」
《セントパピリアの水先案内を僕が引き受けます。おそらく彼女を正しく誘導できるのは、カブトの代を“観測”した僕くらいです。ですから美都は、自分がやりたいことに集中してください。明光院くん、娘をしばらく預かってもらっていいですか?》
「それは別にいいんだが……」
俺が計都教授と面と向かって話したのは一度きりだ。だから、今感じるこの印象はただの誤認である可能性が高い。それでもあえて言語化するなら――
計都教授は、こんなに押しつけがましい人だったか?
話を一方的に進めて、俺たちに意見の隙を与えないような、余裕のない人だったか?
「ありがとう、お父さん。精一杯がんばります」
ほら。一人娘の先生がノーコメントなんだ。やっぱり俺の気のせいだ。
《健闘を祈ります。それと、もう一つだけ。光ヶ森高校校舎の近くにアナザーカブトが差し掛かっています。気をつけてください》
通話が相手側から切られた。
校舎にアナザーカブトが近づいてる、とお父さんは最後に言いました。
それって大変じゃないですか!
学校の先生方は避難民受け入れ準備で詰めっ放しなんですよ? 間もなく生徒や近隣住民だって、光ヶ森高校に続々と避難してくるでしょう。
そんな人口密集地で、アナザーカブトと、彼を背後から操るワームが暴れでもしたら? 大惨事待ったなしです。
私は急いで高台公園を降りて、走って、校舎の外縁部に当たる路地の一つに出ました。
「待て! 落ち着け!」
「ひゃっ? ……あ、ゲイツ君」
私としたことが。隣にいたゲイツ君に断りもなく駆け出して。こうしてゲイツ君のほうから追いかけてくれなかったら、彼を置いてけぼりにしてしまうとこでした。
「アンタ一人じゃアナザーライダー相手に自衛もできないだろうが。目の届く所で無茶す……! ……するの、は、控えてくれ」
「するな」と命令形で言おうとしたけど途中で気づいてがんばって年功序列に言い直した、と見ましたが、いかですかゲイツ君?
――なーんてね。そんな弱った顔でそっぽ向かれちゃったら、思考だけでも逃避しなくちゃ、私だって傷つくんですから。ふふ。
「……今、誰か俺を笑ったか?」
ゲイツ君が急に私を後ろに下がらせて、前に出ました。
「矢車――」
体を引きずって歩いてくる男性を、私も見ました。
一言、ガラの悪そうな男、に尽きます。極道の人間だと言われたら信じてしまいそうなくらい、険しい眼光と凶暴な面構えでした。
幸いにして一人のようです。ゲイツ君と一緒に頑張れば学校に類を及ぼすのは避けられ……
あ、あれ? 無視して通り過ぎました、よ?
「どこへ行く!」
「弟ンところだ。影山は俺が守る」
さっきのウォズさんからの電話は私にも漏れ聞こえました。
矢車想さん。アナザーカブトにされた人。矢車さんの相棒だった影山瞬さん。そして、亡くなった影山さんに擬態したワーム。
「待て! あの影山は」
「ワームだったら何だってンだ。俺の、可愛い、“弟”だ」
歩き去ろうとした矢車さんに対して、私は彼を追い抜いて前に立ち塞がりました。
「どうしてそんなに、影山さんに拘るんです! ワームの擬態なんですよ!? 本物の影山さんはきっと、自分の影に囚われて進めない矢車さんを見て、草葉の陰で悲しんでます! 矢車さんを笑わない人は世の中たくさんいます! もっと周りに目を向けてください! 他人には、矢車さんが思うより優しい人だっています! だから……!」
次の瞬間。私は、自分の発言が矢車さんにとって、あまりに残酷だったと思い知ることとなる。
矢車さんはクロックアップなんて使うまでもなく、私の胸倉を掴み上げました。
「先生ッ!?」
助けようとしてくれたゲイツ君を、矢車さんは片足で蹴り飛ばしました。
「俺を笑わない人間は世の中たくさんいる? じゃあ何か? その連中が上から目線で差し伸べる手を、俺は誰彼構わず取らなきゃいけねえのか? ざけんな。俺を助けようとする人間が何百人いようがな、俺はその連中に救われたいなんて思っちゃいねえ。それともあれか。えり好みしなきゃ誰でもいいだろってか。そいつが憎い仇でも、偽善者でも、救われりゃあ何でもいいと。下らねえ。俺だってな、俺を救おうとする奴なら誰でもいいわけじゃねえンだよ」
――私は何て無神経なことを、口走ってしまったの。
私だって、落ち込んだ時に慰めくれる人が誰でもいいなんて言いません。ナンパ男とか怪しいセールスマンに口先の励ましを言われたくないのと一緒です。
自分を救う人を自分で決める権利は、どんな地獄に落ちた人だろうが普遍的に持つものです。
私はそんな当たり前のことを忘れて、矢車さんの気持ちを踏み躙ることを言ってしまったのです。
――ごめんなさい。
「申し訳、ありません。申し訳ありません……!」
胸倉を掴まれていなければ、私は深く
泣いて謝罪する私に、矢車さんは何を思ったのでしょう。
彼は私を捕まえたままアナザーカブトに変異して、クロックアップを発動しました。
周囲の光景が視認できないまま、私はアナザーカブトに拉致されたのです。
「我が魔王。ゲイツ君。合流した矢先にクロスカウンターにもつれ込むのはやめてくれ。頼むから」
まさに右腕を振りかぶった俺とソウゴは、ぐぬ、と同時にその態勢のまま睨み合った。
ソウゴのほうは「お前が付いていながらなに先生拉致されてんだ」的な意味で。
俺のほうは「お前らとっくに宇宙に飛んだと思ったらなに加賀美新を攫われてんだ」という意で。
どちらが正当性のある主張か競う猶予はない。
加賀美新と引き換えに、影山が要求したのはこちら側の“宇宙の力”。つまりフォーゼウォッチとギンガウォッチだ。どこで知られたかはこの際後回しだ。この二つが無ければ隕石破壊は不可能だ。
「だったらこっちにも考えがある」
先生が矢車に拉致されたと聞いてから、ソウゴの声と眼光は氷点下だ。気持ちは大いに分かるが、正直引く。
“下準備”をしてから、俺たち3人は影山指定の採石場に向かった。
その場で柱に鎖で括られているのは加賀美新だけで、ここにいるのも影山だけ。矢車と先生はまだ合流していないらしい。矢車については、現れ次第、俺がフルスイングでぶん殴るという分担でソウゴと話はつけてある。
影山の要求に応じて、ソウゴとウォズがそれぞれにフォーゼとギンガのウォッチを取り出した。
「投げろ」
言われた通りに、ソウゴたちはウォッチを投げた。影山からは遥か遠くに、大暴投。影山は加賀美のそばを離れざるをえない。
その影山には、コダマスイカアームズが種粒斉射。怯んだ隙にタカロイドウォッチで加賀美の拘束は破壊した。
「加賀美さんッ!!」
飛来した青いメカニカルフォルムのクワガタムシ。あれがガタックゼクター。知識はミトさんから教わったものの、実物を見るのは初めてだ。
加賀美はガタックゼクターを力強く掴んだ。
「変身ッ!」
《 CHANGE STAG BEETLE 》
『クロックアップ!』
そこからは肉眼で視認できない戦いになるかと思われた。
仮面ライダーガタックが影山に肉迫した瞬間、両者の間にアナザーカブトが割って入った。
――いや、アナザーカブトが、じゃない。正確には、アナザーカブトが先生を盾にしてガタックの動きを急停止させた。
血が。人生最速で沸騰した。
だが一瞬の隙も逃さず、二度目のクロックアップ。
俺たちの視界が次に映したものは、敗北して満身創痍で変身解除された加賀美新と、倒れた加賀美に駆け寄った先生だった。
影山もアナザーカブトもすでに離脱して、追跡もできなかった。
リアタイの話。
本編終わってしまうよ。もうこれ筆力が追いつかない。一緒にゴールとか無理ゲー。
というわけで、追いかけ連載の看板も下ろします。
素直に視聴してしっかり謎の解決を見てから、遅れた分だけ骨太に書きます。無理に追いかけて書きたいように書けないのはもどかしいのでやめです。
もうジオウ終了に合わせて熱が冷めたよ、という読者様はBM解除を。
付き合ってやんよ! というお心の広い読者様はコメントなど頂けますと幸いです。