まさかの最終回目前の決戦兵器としてヒロインを変身させると誰が思うかよ!!( ゚Д゚)
自分の中の平成の終わりは5月じゃなくて今この瞬間だよ! と本気で思いましたね。
私と加賀美さんは生還することができましたが、若い彼らの消沈ぶりは見るに堪えませんでした。
クジゴジ堂にお邪魔した私は、救急箱を借りて加賀美さんの傷を一つ一つ応急処置しました。それくらいしないと、居た堪れませんでした。
仮面ライダー版アルマゲドン作戦(私の勝手な命名です)が決行できなくなった今、滅亡までのカウントダウンは着実に進んでいます。それとも、セントパピリアを招き入れた時点で、地球はとっくに詰んでいたのでしょうか――?
「タイムジャッカーは何を考えてる?」
「地球を狙う主犯はワームだ。推測だが、加賀美君と我々の世界が混ざり合っているようだ。そっちに関係があるのかもしれない」
加賀美さんがおもむろに立ち上がって、クジゴジ堂を出て行かれました。
私はとっさに加賀美さんを追って外に出ました。
スカイツリーを見上げる加賀美さん。覇気のないその背中に、何と言葉をかけたものか……
「2006年だから……13年前ですね。当時の俺はカブトゼクターに選ばれなかったんです」
「加賀美さんも仮面ライダー、ですよね?」
「ええ。長い長い暗中模索の末、ガタックゼクターに選ばれましたよ。ゼクターの癖が強くて手を焼きましたけど。それでも俺は天道に――カブトに“勝った”ことは一度もないんです。いつかお前を超えてやる、なんて宣言までしておきながら。ケリがつく前に、奴は流浪の旅ってのに出てしまいまして」
「その天道さんからお便りはないんですか?」
「ありますよ。自分の妹たち宛てで、俺には、なしのつぶてですけど」
「す、すみません」
「先生が謝ることじゃないですって」
少しの、沈黙。奇妙な間。
「今も、カブトになりたいと思ってます?」
「ちっとも思わない、と言えば嘘ですね。今この瞬間にカブトゼクターに選ばれたいってわけじゃない。もし13年前に俺がカブトになっていたら、俺は今どうしてたんだろう、って、感傷的になる程度だったんですが」
加賀美さんは空を仰いだ。吊られて私も。
巨大隕石のせいで日食が起きて、暗いとも明るいとも言えない、スッキリしない空模様。
「俺が本当に仮面ライダーカブトだったら、カブトもどきになる前に矢車を止められたかもしれないと思うと――どうしようもなくて」
――彼は、立派な人です。
仮面ライダーカブトの本来の変身者が、この有事に不在であることを罵ることなく、ワームに利用されている同僚を助けられない自分を責めている。
誰かのせいにすれば、例えば矢車さんを傀儡にしているワームのことを怒鳴り散らせば、少しは気が楽になるでしょうに。彼はそれすらしません。
「――加賀美さんは仮面ライダーカブトではありません。それは変えられない過去です」
「分かってます……」
「ですが、アナザーカブトと戦う上で、一つだけ、誰にもないアドバンテージを持っているのが、加賀美さんだと思うんです」
「アドバンテージ?」
「加賀美さんは誰よりも、本物の仮面ライダーカブトがどんな戦士かを知っています。今の加賀美さんは、アナザーカブトを本物のカブトのように錯覚して、『俺がカブトに勝てるはずない』という枷を無自覚に嵌めてしまっているんじゃないでしょうか?」
加賀美さんは目から鱗という顔をしました。
「“本物”を知る加賀美さんなら、“偽者”がちょっとカブトっぽく見えるからって、騙されはしませんよ。次からは、きっと」
唐突に、加賀美さんが笑い出しました。え、え? わ、私、変なこと言っちゃったでしょうか?
「いや、失礼。昔、天道も似たようなことを言ったことがあったなって、思い出して、つい」
加賀美さんはひとしきり笑ってから、私を、まっすぐ見ました。
「俺は、矢車に勝てると思いますか?」
この確認に対し、私より先に答えた人物がいました。
「勝てるよ。絶対」
ソウゴ君でした。もしかして私と加賀美さんの会話、全部聞いてたんでしょうか? そのくらいタイミングばっちりでした。
「あなたは立派な戦士だ。俺が王様になったら、国防長官になってほしいくらい」
アナザーキバの時といい、最近の君、ヘッドハント癖が復活してきてませんか?
「王様かぁ。さすがの天道もそこまでは言わなかったぞ」
「俺の将来の夢なんだ。おかしい?」
「おかしいもんか。『子供の願い事は未来の現実。それを夢と笑う大人は、もはや人間ではない』。本物の仮面ライダーカブトが昔、そう言ったことがあった」
手厳しいけど真理です。今度は私が目から鱗です。その本家カブトの天道さんとは、一度、教育論を戦わせてみたいです。多分私が負けますが、いいインスピレーションを得られる予感がするんです。
「ソウゴ! 先生!」
走ってきたのはツクヨミさんです。一人みたいです。小夜さんは一緒じゃありません。
「これ……!」
ツクヨミさんがソウゴ君に差し出したのは……何と、地獄兄弟に奪われたはずのフォーゼとギンガのライドウォッチだったのです!
加賀美新、先生、ソウゴの順で出て行ったクジゴジ堂の中に残って、俺はこれまでの出来事を思い返していた。
セントパピリア。
世界の危機を察知して顕れ、滅亡した世界を再興する、御使い蝶。
“世界が滅ぶ瞬間に、ワタシはその世界を訪れる。そして、光の意思が闇の意思との壮絶なる闘争を決着させたあとに、滅びた世界の生命を甦らせる”
引っかかった。「光の意思が闇の意思との壮絶なる闘争を決着させた」とは、具体的にどういう状況なんだ? 光が俺たちライダーで、闇がワームと単純に考えていいのか?
“ライダー不在の10年間”について計都教授にすぐにでも照会したいが、当の彼はセントパピリアを連れてどこかに出かけたあとだ。
ああ、ちなみにウォズの逢魔降臨暦にセントパピリアの記述がないことも確認済みだ。
それと、これは極めて私情が入るが。
セントパピリアも計都教授も言っていた。先生は……織部美都は過去に甲斐拓也という守護者と何かしら関係があった、と。
それを聞いてから、妙に胸がもやつく。若干の苛立ち、ある種の不愉快さが拭えない。
冷静に考えろ、俺。その頃の先生はおそらく10歳になったばかりだろうし、甲斐拓也はおそらく成人した男だったはず。この時代観に照らせば年齢差がアウト……
……待て。その論法で行くなら、俺と先生なんて11歳差だ。つまり俺も、アウト?
い、いやいやいやいや! まだセーフだ、ミトさんと計都教授なんて14歳差だ! ってそこを持ち出したら先生と甲斐拓也の仲の否定材料がなくなる! にっちもさっちも行かないとはこのことか――!
「ゲイツ! ウォズ! ツクヨミ戻って来たっ!」
完全に思考に没入していたせいで、ソウゴがクジゴジ堂に飛び込んだ騒音だけで跳ね上がってしまった。
「ゲイツ、どうかした?」
「なん、でも、ない……ッ!」
驚いてテーブルの足に弁慶の泣き所をぶつけたなんて断じて言わない。
顔を上げる。確かにツクヨミも一緒だった。
そのツクヨミはというと、ウォズにギンガのライドウォッチを差し出した。見ればソウゴの手にもフォーゼウォッチがある。ツクヨミが奪還した、のか?
「小夜と一緒に行った先の時代で、スウォルツが私に返したの。何が狙いかは分からないけど。とにかくっ、これであの隕石をどうにかできるのよね?」
「ああ。ナイスアシストだ、ツクヨミ君。今回のミッション、MVPは君に決まりだね」
「アナザーカブトたちのことは加賀美さんが引き受けるって言ってくれた。――『王様』って呼ばれちゃったからには、俺も本気出さないとね。てわけでゲイツ、加賀美さんと一緒に、地上の防衛よろしく!」
ソウゴに改めて言われるまでもない。まあ、加賀美新からの「王様」呼びでソウゴは盛大に笑顔爛漫だから、俺も野暮は言わないことにした。
俺がソウゴに、先生のことを尋ねると、ソウゴは「外で待ってるよ」と答えた。これで5人勢揃いだ。加えてレジェンド7に名を連ねる仮面ライダーガタックがいる。
隕石にもアナザーライダーにもワームにも、好き勝手させてやる時間は終わりだ。
次元を跨いで来訪したセントパピリアには悪いが、その役目は果たさせない。
どんな滅びも、俺たちが許さない。
4人で頷き合って、クジゴジ堂を出た。
決戦の前哨戦って感じですね。
カブト放映当時、スカイツリーはまだ東京タワーだったんだよなー、としみじみ思います。
原作では固有名詞が出てませんでしたが、こちらでははっきり天道の名前を出しました。そして天道の「妹たち」とは言わずもがな。
作中に出した「子供の願い事~」の天道語録を知って、もし加賀美もそれを知ってたらソウゴを笑うシーンは違和感あるなー、と考えてこんな展開に落ち着きました。