70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome3 壊れた時計の針が重なる

 ツクヨミは言った。本当に常磐ソウゴが、俺たちのよく知るオーマジオウになるのか、現状では思いにくい。だから常磐ソウゴ本人の動向を近くで観察してはどうか。

 俺はツクヨミの意見に賛成した。

 

 そうして、奴の住む自宅兼時計屋“クジゴジ堂”に下宿人という形で潜入し、奴の通う光ヶ森高校の編入生だと身分を偽って、ツクヨミともども常磐ソウゴの監視を開始したわけだが――

 

 

 光ヶ森高校。体育会館の玄関。俺は別行動していたツクヨミと落ち合った。

 

「いたか?」

「だめ。こっちでは見つからなかったわ。そっちは?」

「見つからなかった。若くともオーマジオウ、一筋縄では行かないということか……」

 

 昼休みに入ってからのことだ。常磐ソウゴは心理戦を駆使して、俺とツクヨミの注意を巧みに逸らし、その隙に姿を晦ました。あの機転と行動力、あいつ、只者じゃ……

 

 頭上で閃光があった。

 

 とっさに見上げると、体育会館の二階の窓の一つから光が漏れているのが見て取れた。

 俺たちはすぐさま体育会館の階段を駆け上がった。

 

 二階の体育館ホールに出た。

 見つけた。光が漏れている戸が一つ。

 

 俺たちが駆けつけて戸を開け放つ直前に光は治まり、中に踏み込んだ時には、ジオウに変身した常磐が、倒れた男子生徒に呼びかけながら体を揺さぶっていた。

 

「ソウゴ、何があったのっ?」

『アナザーライダーが出たんだ!』

 

 常磐は変身を解くと、スマホ(2018年での遠隔通話端末だという)を指で繰って、2回ほどどこかに連絡した。

 

 それから5分と経たずして、体育倉庫に飛び込んで俺たちを押しどけた女が一人。

 

「失礼、通してください。――常磐君!」

「せんせー!」

「救急車は?」

「呼びました。搬送先は清愛病院だって」

「分かりました。常磐君、バレー部の部室に担架があるので持ってきてください。小和田君をせめて倉庫から外へ出して、救急車を待ちましょう。これ、バレー部の部室の鍵です」

 

 常磐は鈍色に光る金属を「せんせー」から受け取るや、体育倉庫を飛び出した。程なく、奴は折り畳んだ人力式担架を引きずってきた。

 

「そこの男子。君です、君」

 

 ――俺?

 

「小和田君を乗せるので手伝ってください。私の腕力では育ち盛りの男子を支えきれないんです。君は足、常磐君は肩。はい、掴んで!」

 

 訳が分からないのに体が反射的に動いた。「せんせー」の「せーの!」の声に合わせて、俺と常磐の共同作業で、倒れた男子生徒を担架に横たえてしまった上に、運び出す作業まで常磐と二人でやらされた。

 

 ようやく一息かと思えば、そんな隙さえない。

 

 常磐が体育倉庫から何かの筐体を拾ってきて、「せんせー」に見せた。

 

「せんせー、これ。小和田が倒れる直前にやってたんだ」

「携帯ゲーム機、ですか。てっきり君たちの世代はスマホのアプリゲーが主流かと……」

 

 ゲーム機を常磐から受け取った「せんせー」が顔色を変えた。厳しい? 険しい? 違う――悲しい顔。

 

「せんせー、知ってるの?」

「……生活指導の笠間先生が、これと同じものを一年の生徒から没収したばかりです」

「まさか、その一年の子も!?」

「いえ、その生徒はまだプレイし始めたばかりだったそうなので」

 

 その悲しげな顔色のまま、「せんせー」は常磐を見つめた。

 

「常磐君。先生は職員室に戻らないといけません。笠間先生に、持ち主の生徒にゲーム機を返さないよう伝えないと。校長先生にも、緊急で職員会議を開くよう掛け合ってみます。この分だと、その一年生や小和田君みたいに、隠れてやっている生徒が他にいないとも限りませんから……常磐君に、小和田君の付き添いをお願いしてもいいですか?」

「わかりました」

「……、すみません。彼の親御さんには私から連絡します。付き添うのは親御さんが病院にいらっしゃるまででいいですので……」

 

 辛そうに言葉を濁らせていく「せんせー」に対して、常磐は笑みを返した。

 

「大丈夫。何か分かったことがあったら、美都せんせーに真っ先に知らせる」

 

 

 ――みと?

 

 

 不意打ちで耳に飛び込んできた名に、思考が丸ごと持って行かれた。

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「ごめんなさい、常磐君。本当に。助ける、って言ったばかりなのに……」

「大丈夫。美都せんせーは、小和田みたいな被害者をこれ以上、増やさないで」

「任せてください。後方支援は得意分野です」

 

 「せんせー」が立ち上がって踵を返したところで、俺は、彼女の細い手首を掴んだ。

 

 無自覚に余裕を欠いていたらしく、そうでなくとも人付き合いで男女差ってものを普段から意識しないせいか、とにかく、俺の手つきは彼女には乱暴だった。

 

 彼女が小さく悲鳴を上げて後ろへバランスを崩した。

 俺はとっさに傾いた彼女の体を受け止めた。どうにか彼女を転ばせることはなかった。

 

 目が、合った。

 

 

 ――カチン、と。

 ――どこかで、何かが噛み合った音がした。

 

 

「ごめんなさい。ありがとうございます」

「いや……」

 

 「せんせー」は困ったふうに苦笑して、俺の腕から離れて、体育館を小走りに出て行った。

 

「――ゲイツ。アナタの考えてること、たぶん私、分かる。私も名前を聞いて一瞬そうなのかと思ったもの。でも、あの先生とミトさんの歳を考えると……」

「わかってるッ! ……気の迷いだ」

 

 あの先生とミトさんが同一人物なら、ミトさんは2068年で老婆と呼べる年齢のはずだ。

 でもそうじゃない。ミトさんはむしろ先生と同じくらいの年頃だった。

 

 だから、そんなわけがない。

 ――彼女がミトさんの過去の姿だなんて、あるはずがないだろうが。




 ソウゴ「あ! あれは何だ!」
 2068年世代の彼らではもはや心理戦に等しいと思うんだ。
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