※dTVスペシャル『仮面ライダー4号』を視聴していない方々に大変優しくない展開です。
朝のSHが終わってから、1G教室を出て行く直前でした。男子生徒の一人が私を呼び止めました。
「どうしました? 飯田君」
彼は、飯田ケイスケ君。そう、アナザーエグゼイド事件で渦中の人だった少年です。
心臓の持病は“改変前”より軽度ですが、今でも聖都大学附属病院に定期的に通院しています。その辺りの気配りも、お父さんの飯田さんから重々頼まれています。
「門矢さんて、美都せんせーんちに下宿してるんだよね。まだ具合良くならない?」
闘病生活のつらさをよく知る飯田君は、門矢小夜さんが「入院のため休学した」ことを人一倍気にかけて、ちょくちょく彼女の容態を私に尋ねに来ます。
「ご家族の方からは、まだ復学させられないと」
嘘ではないけれど本当でもない返事。慣れきってしまった定型句。
悄然とする飯田君に、全て話してあげられない後ろめたさが、また一つ、積もりました。
ツクヨミさんの話では、彼女のルーツを探るに当たって小夜さんは一度こちらに戻ってきたようなのですが、我が家には帰ってきませんでした。
保護者であるお兄さんの士さんに連絡して尋ねても、「まだ帰せない」の一点張りです。
……いけない。そろそろ一時限目のチャイムが鳴る。私がいたままだと、一時限目の教科担当の先生が教室に入れません。
私は今度こそ1G教室をあとにしました。
憂慮すべきは他にもあります。
――父の行方もまた、杳として知れません。
捜索願? とうに右央地区の警察署に提出しました。
娘としてはお父さんが元気でいるか、危ないことになってないかが心配です。ふとした夜に目が覚めて、布団を頭から被って泣き声を上げるほどには。
教員としては、大学教授である父が不在で困る学生さんたちを思って、早く帰ってあげてよ、と八つ当たりしたくなります。大学生は特に、単位一つが卒業、ひいては将来を左右するのだから、進路指導教諭としてはどうしてもその辺、ねえ?
職員室に戻るための2階渡り廊下で、足を止めてみました。
窓ガラスに映る自分の像を見て、独り言ちた。
「……情けない顔ね」
鏡を見つめるのは勇気が要ること。そう描いてあったのは、いつ読んだ少女漫画だったっけ? この歳になって、それが真理だと痛感する。
窓ガラスに手の平を当てた。ちょうど私自身の顔が隠れるように。
三つ数えて、思考を仕事モードに。
さあ、ほら。職員室に戻って、次の授業の準備をしなくちゃ。
手を下ろして踵を返す私――に、「待った」をかけるタイミングで、外からありえない音色が届いた。
列車が線路を走る音と、フルートらしき吹奏楽系のアナウンス。
慌ててもう一度、窓を、正確には窓の外の風景を、見た。
――私の見る前で通り過ぎて行った、
この窓の高さで見える高架や線路はない。そもそもあの列車、空を走ってました。線路だって列車が走るそばから前方に展開しては消えていって。いいえ、それより。そんな
私はどうして、あの列車に、泣きたいくらいの懐かしさを感じたの?
立ち尽くす私を叱るように、右の手首が痛みました。
右手には、アナザーカブト事件の折、士さんに頂いたライダー・シンドロームの封印時計を巻いています。その腕時計のインデックスが、明滅していました。たったさっき見た列車と同じ翠色に。
――まだ担当授業は残っている。1年G組のクラス主任である以上、生徒たちの提出物のチェックもしなくちゃいけない。たったさっき、そのことで所在の知れない父を責めた私が、業務を放り出すなんて……
ピロリロリーン♪ ピロリロリーン♪
うひゃ!? って、何だ、スマホの着信ですか。相手は……、……ツクヨミさん?
「……織部です」
《よかった、出てくれた! 先生、私、ツクヨミです! アナザーライダーが出たの。ソウゴたちが応戦中。私も向かってるとこ》
戦っていると聞いたらもう我慢できない。分かっていて電話に出た私は、本当にずるい大人です。
「ツクヨミさん。現在地を教えてください。先生が車で拾っていきますから、一緒に現場に向かいましょう」
私は出席簿を窓に押しつけて台代わりにして、生徒名簿の隅に場所をメモしました。そして通話を切ってから、急いで職員室へ戻りました。
去年の2学期から今日まで、あれやこれやと仮面ライダー関係で休暇を使い倒した私です。「織部美都はサボリ教師」と囁く先生方が一部いることくらい知っています。
教師間でならいくら言われてもいいです。1Gの生徒たちを困らせないよう、せめて昼休みには帰れますように!
車を飛ばして、ツクヨミさんと合流してから、アナザー電王とジオウたちが戦闘中だというコンビナートまで飛ばしました。
私とツクヨミさんが車を降りた時には、とっくにジオウ・トリニティとアナザー電王が戦って……戦っ、て?
両者の激突に割り込んだ、翠星色のボディの列車。あれ、私がさっき学校で目撃した列車です!
列車が走り去って空へ消えました。するといつ下車したのか、男性が一人、その男性の隣に、能楽のしかめっ面に似たマスクを着けた怪人が1体、立っていました。
「
『え? だ、誰さ』
「名乗ってやる義理はない。俺はお前の創った“最低最悪の未来”を阻むために来た」
男性はベルトを装着すると、電子切符をバックルに読み込ませるようにスライドしました。
「変身」
《 アルタイルフォーム 》
『最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!』
“俺はかーなーり! 強くなった!”
またです。知らないのに、また、デジャビュ。
「ツクヨミさん。あの人は……?」
「レジェンド8・電王の代の
「時の――運行」
ゼロノスがデネブと呼んだ怪人が、両手をマシンガンにしてジオウ・トリニティを銃撃した。そこにゼロノスが空かさずサーベルを揮って懐に潜り込んだ。
ちょ、2対1とか、仮面ライダーとしていいんですか!? あ、ジオウ・トリニティは実質3人ですから、3対2ということに? や、ややこしい……!
「先生ッ! アナザー電王が!」
ジオウ・トリニティとゼロノス・デネブ組が戦う隙を突いて、アナザー電王が駆け出す。狙いは……煙を上げて停車している、列車? でしょうか?
「まだ中に順一郎さんがいる――行かせない!!」
ツクヨミさんが手をかざすと、アナザー電王の足が止まりました。
時間停滞(擬)スキルですね。でもそれはツクヨミさんに負荷がかかる力だとも知ってます。そしてジオウ・トリニティは仮面ライダーゼロノスと交戦中。でしたらば!
「ライダー・シンドローム!!」
アナザーライダーとしての外装を剥がして、止めさせていただきます!
止まった時間が正常に流れ出したと同時、アナザー電王が地面に叩きつけられました。ちゃんと人間の姿になってます。成功した……! ……え?
「遠藤、くん?」
「……
「先生、彼のこと知ってるの?」
ツクヨミさんに答える前に、物陰から現れたタイムジャッカー。オーラさんです。彼女は遠藤君に歩み寄ると、ありありと不満を呈して遠藤君を見下ろしました。
「こんなとこで諦めてもらっちゃ困るんだけど」
指パッチン一つ。オーラさんと遠藤君は姿を消しました。
『ツクヨミ! 美都せんせー!』
ジオウ・トリニティが私たちに駆け寄ってきました。
『二人とも、大丈夫だった?』
「ええ。ただ……」
遠藤君がアナザーライダーの契約者だったことには驚かされました。ですが、私はなぜかゼロノスに視線を固定していました。
――懐かしい。
――胸が痛い。
ゼロノスが変身を解いた瞬間、私の口は勝手に開いた。
「
まともに自意識を保っていられたのは、たぶん、それが最後。