――これは、
だれの夢なの?
“答えはNOだ。私はこの体になってからデジャビュを体験したことがない”
“巧と侑斗じゃないか。いつも一緒に戦ってるだろ?”
“覚えてる、こんな奴はいなかった! 敵は確実に増えてる!”
“間もなくだ……ハッハッハッハ!!”
“誰かが死ぬたびに、時間がリセットされてる”
“俺の
“もうたくさんだ。誰かが犠牲になるのは……”
――それはね、
お母さんの夢だよ。
クジゴジ堂。リビングのソファーに、気を失っている先生を、腕から下ろして横たえた。
――アナザー電王を取り逃がした直後。俺たち全員の目の前で、先生は糸の切れた人形みたいに倒れた。
ツクヨミに聞いた。現場に着くまでに、すでに先生は様子がおかしかったらしい。はっきりと目に見えて、顔は強張って、雰囲気が張り詰めていたと。単に
「ゲイツ。先生はどう?」
ツクヨミがリビングを覗き込んだ。
ふいに思い出したのは、アナザーウィザードの事件。このソファーに横たわって眠っているのはツクヨミだった。眠るツクヨミを看ていたのは先生だった。
「変わらない。目覚める様子もない」
「そう……桜井侑斗がそろそろ話をしたいって言ってるから、先生にも聞いてもらいたかったんだけど……無理そうね」
「起きたあとで伝えるしかない。アナザー電王について知ってたみたいだから、そこも聞かなきゃいけないしな」
俺も店のほうに出ようとしたところ、くい、とジャケットの裾が何かに引かれた。
先生の手が、俺の服を弱々しく掴んでいた。
「先生っ! 気がついた? 気分はどう?」
「ちょっと頭が重いくらいです……運んでくれたんですか?」
「ゲイツがね」
「そうでしたか……ありがとうございました、ゲイツ君。もう平気です。起きますね」
とても平気な人間のツラじゃない、と言うまでもなく、先生はソファーに突いた手を滑らせてバランスを崩した。
俺は、前にまろび出た先生の上体を支えた。
「無理するな」
「すみません。あの、手を焼かせてばかりで申し訳ないんですが、立ち上がるのでこのまま支えてもらっていいですか?」
俺がOKを出すと、先生は俺の肩に思いっきり体重を預けて立ち上がった。人ひとり分の全身運動を支えるのは凄まじくキツイと知った今日この頃。密着したのに、意識する余裕は皆無だった。
店に出ると、ソウゴが先生を認めるなり破顔した。先生もソウゴに笑いかけた。
ツクヨミが先に行って、先生が座るためのイスを引いた。先生はツクヨミに礼を言ってイスに座った。
接客テーブルのイスは4脚しかないから、先に席に着いた4人の内一人が席を譲らないといけない。病み上がりで立たせっぱなしは忍びない。
それに、俺やウォズは元から立ち聞きのほうが好都合だ。
ゼロノスの桜井侑斗と、奴に付き従うイマジン・デネブが強硬手段に出たならば、立ったままのほうが対処しやすいからな。ファイズガンを携行するツクヨミにも同じことが言える。
――ソウゴや先生に危害を加えるなんて、俺たちが許さない。
どうにか私は、仮面ライダーゼロノスたちとの対談までに目を覚ますことができました。
私自身に、彼らとの面識はないと記憶しています。でしたらこの身に覚えのない懐かしさの正体は、彼らの答えに求めるしかありません。
『俺はデネブ! こちらは桜井侑斗!』
「桜井、侑斗……桜井さんですか!?」
私は慌てて桜井さんに頭を下げました。
「私、織部計都の娘で美都と申します! 父が昔からお世話になっております!」
仮面ライダー龍騎の史料編集作業の時に、お父さんは言いました。「桜井さんに泣きついてしまった」って。あの口ぶりは長い付き合い相手だからです。分かりますとも、一人娘ですから。
「別に。礼を言われるほどのことじゃない」
お返事してくださった! お父さんがプライベートでご縁を結んだ仮面ライダーに会えるなんて。伝説に語られる仮面ライダーや南のおじさま方と会う時より、なんだか感激の種類がちがうと言いますか。
「……母親は、どうしてる?」
――想定外の返し、でした。
ゲイツ君が桜井さんに向ける目の色を変えました。ツクヨミさんもです。それもそのはず。私の母の明光院ミトは、ゲイツ君とツクヨミさんにとって師匠で育ての親ですから。
「母は……亡くなりました。未来に帰った、あとで」
「――そうか」
桜井さんはお父さんだけでなく、お母さんとも面識があった?
「時の運行ってやつを守ってるって聞いたけど、ゲイツたちみたいに未来から来たってこと?」
「未来を“見て来た”だけだ。その未来で、お前はオーマジオウになって、世界を滅ぼした」
「ソウゴに限ってそんなことにはならない。万が一そうなったとしても、俺が止めてみせる」
「そいつが“最強の力”を手に入れても、同じことが言えるか?」
「言えます」
出しゃばってしまった、と思っても時すでに遅しです。こうなったら言い切るしかありません。僭越ながら申し上げます。
「桜井さんが危惧されているのは、強大過ぎて手に負えない力そのものであるかのように聞こえました。常磐ソウゴ君という一少年の人格を、桜井さんはこれっぽっちも見ていません。常磐君が何もしていない現段階で、彼がさも大悪人であるかのように責める言葉を浴びせる桜井さんの考え方こそ、私には危険思想に思えます」
美都せんせー、と呟くように呼んだソウゴ君を向いて、笑いかけてから、桜井さんを再び真剣に見つめ直した。
「重ねて言います。常磐君は、何もしていません」
短くない時間、沈黙があった。
「口では何とでも言える。俺はお前を必ず斃す」
……胸が痛むけれど、悔しいし悲しいけれど、さっきの弁護を訂正はしません。
ソウゴ君は私の生徒です。生徒を許容外の害意から守ることは教師としての使命です。
桜井さんは対談を終わらせる意をあらわに、椅子から立ちました。
その拍子に、落とし物。気づいた私は当たり前に床からそれを拾い上げました。定期入れ? いえ、中身は写真ですから、フォトフレームです。桜井さんも合わせて男女6人の集合写真をつい眺めて――見過ごせない顔が二つもあることに、私は気づいてしまいました。
一人目は、乾巧さん。今よりお若いですが、彫りの深い顔立ちは変わりありません。
二人目は――2070年の未来で見た、眠っているかのような死に顔。それがちゃんと瞼を開けて、笑ってこそいないけれど柔和な表情を浮かべています。そうです。私のお母さん、生前の明光院ミトです。
顔を上げて桜井さんを凝視したのと同時でした。桜井さんは私の手からフォトフレームを奪い返して、クジゴジ堂を出て行きました。
桜井さんを追って行こうとしたデネブさんに、私は詰め寄りました。
「待ってください!! あの人は母と直接会ったことがあるんですか!?」
デネブさんは私から逃げようとしましたが、そこはゲイツ君が上手く玄関に陣取って通せんぼ。ナイスアシスト、ありがとうございます。
『……侑斗は一度、ミトと一緒に戦ったことがあったんだ。仮面ライダードライブも一緒に。ショッカーに立ち向かって……』
「――2015年4月4日」
ゲイツ君?
「ミトさんが立ち会った唯一の
『これ以上は侑斗が本気で怒るから許して! そいじゃごめんね!』
デネブさんはゲイツ君を押しどけて、クジゴジ堂を出て行きました。