70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome99 命短し恋するオトメ ①

 桜井侑斗とデネブがクジゴジ堂を出て行ってしばらく。

 先生はスイッチが切り替わったように事務的に告げた。

 

「そろそろ失礼します。学校に戻らないといけませんので」

 

 先生は踵を返して荷物を回収すると、困惑するソウゴたちに会釈して、玄関に突っ立ったままだった俺の横を通り過ぎようとした。

 

 俺は先生の腕を掴んだ。

 

「知らなくていいのか!? あいつらとミトさんの間に何があったのか。アンタにとっては母親のことだろう!?」

「知りたいですよ。ですがその気持ちを優先できないくらいに、私は定職に就いた社会人なんです。家庭の事情で済ますにも限度があります」

 

 それでもアンタは今日まで時間をやりくりして、時には無理を通して、俺たちに協力すべく駆けつけてくれたじゃないか。

 ミトさんを直接知らなくても、アンタはずっと母親として慕い続けてきたじゃないか。

 俺が知ってるアンタなら、ここでそんなふうに突き放すことは言わなかった。どうしてだ。

 

「……今日はこれ以上、ここに留まっていられません。明光院君、手を離してください。お願い、ですから」

 

 そんな弱りきった声で「お願い」なんて、卑怯だ。

 俺は先生の腕から手を外した。

 

「ありがとうございます」

 

 先生はいびつに苦笑して、今度こそクジゴジ堂を出て行った。

 

 

 

 

 

 私は光ヶ森高校に戻ってから、自分のデスクへダッシュ。15分後に迫る日本史Aの授業に向けて小テストを突貫で採点しました。

 いつもなら一枚ずつポイントを書き込むのですが、今回は省略の上、生徒には口頭説明で許してもらいましょう。

 

 その授業が終わってから、次の授業までコマが一つ空いているので、その間に電話連絡です。

 相手方は予備校。私が就活中に臨時講師としてお世話になったとこです。

 ですが、間が悪くちょうど講義でどの先生も出払っていて、電話に出たのは知らない事務員さんでした。折り返しを言伝して切りました。はあ……

 

 アナザー電王は遠藤君だった。

 ――遠藤タクヤ君。私が予備校に勤めていた頃に教えた生徒です。大学合格を果たしてからは会う機会がなかったんですが、こんな形で再会するとは。

 

 母・ミトと桜井侑斗さんの過去は知りたいですが、それ以上に切実に、遠藤君がアナザー電王の契約を受諾した動機を知りたいです。

 クジゴジ堂のメンバーの中で、遠藤君と顔見知りなのは私だけ。ならば私が動くべきです。

 予備校には、遠藤君の連絡先を教えていただくために連絡しました。個人情報に敏感な昨今、元パートタイマーの私でも教えてくれるかは怪しいんですけどね。

 

 っと、いけません。余裕を持って準備していたつもりが、もう次の日本史Bが迫っています。

 ええっと、小テストに用意した過去門は、っと……足りない。コピー機! いえもういっそ印刷室です!

 

 

 

 

 

 

 よ、ようやく放課になりました……

 

 残業はナシ。昼休みのランチやお茶の休憩を全て仕事に当てて、仕事が残らないように励みましたから。

 

 定時で退勤した私は、学校裏庭の駐車場に置いた自分の車(クジゴジ堂を出た時にタクシーを拾って自力で回収しました)に乗り込んで――深呼吸。

 スマホでツクヨミさんに通話を発信しました。

 

《もしもし、先生!?》

「はい。こんばんは。午前は中途半端に切り上げてすみませんでした。あれから何か変わったことはありませんでしたか?」

《それが……アナザー電王の契約者と知り合いだっていう、大澄ヒロユキって人に会ったの。遠藤タクヤのお姉さんの恋人だったんですって。いま詳しく話を聞こうとしてたとこ》

 

 大澄ヒロユキ。本日二度目の愕然。

 遠藤君と同じです。大澄君も私が予備校で教えた生徒の一人だったんですから。

 

「すぐに向かいます。大澄君に、私の名前を伝えてください。彼が私を覚えててくれたら、まだ話しやすいと思います。覚えていれば、の話ですが」

《分かった。待ってるから、先生》

 

 さあ。ここからはプライベートの時間です。

 

 

 

 

 

 勝手知ったるクジゴジ堂に、暖簾を潜ってお邪魔する――と。

 

「――――」

『あん? 何だ、この女』

 

 赤鬼がいました。人間サイズの、二足歩行の。棍棒なんかは持ってませんけど、鬼以外の何でもありません。

 

 私が答えあぐねていると、赤鬼の一番にいたゲイツ君が、赤鬼の首を絞め落としにかかりました。

 

「俺たちの先生だ。昼間みたいに憑依しようもんなら地獄を見ると思え」

「憑依?」

「イマジンには人間に憑依してその体を好き勝手に操るというリスキーな能力があるんだよ。そういうことだから、王母もお気をつけて」

「は、はあ」

 

 応接テーブルには、ソウゴ君とツクヨミさん。

 正面に座っているのは……ああ。間違いなく大澄ユキヒロ君でした。

 

「大澄君」

「え……お、織部先生!? 何で先生がここにっ」

 

 何で、はこっちの台詞ですよ。

 

「せんせーの知り合いなの?」

「就活中にパートタイムで働いてた予備校の生徒です。大澄君だけでなく、アナザー電王にされた遠藤君もです。当時の私は非常勤の夜間講師でしたので、彼らに限らず生徒さんと顔を合わせる機会は少なかったのですが」

 

 大澄君も遠藤君も、私を覚えててくれたんですね。

 そして、ここにいるということは、遠藤君がアナザー電王になったことと無関係じゃありませんね。

 

「織部先生、この子たちは……」

「いま勤めている高校で、私が主任だったクラスの卒業生です。大澄君にとっては後輩でしょうか。すでに知っているかもしれませんが、非凡な力の持ち主ばかりですよ。――それで。大澄君、遠藤君にあったことが何か、話すことはできますか?」

 

 大澄君は頷いて、語りました。

 

 私は初耳ですが、大澄君は遠藤タクヤ君のお姉さん、遠藤サユリさんと付き合っていたんだそうです。

 結果的にサユリさんは病没されました。

 その原因は大澄君がサユリさんを連れて病院を抜け出したから。少なくとも遠藤君はそれでサユリさんの容態が悪くなったと思い込み、以来、二人の仲は険悪になった。

 

「サユリはもう助からなかった。サユリはそのことを、弟のタクヤ君には言えなかった。だから俺も、タクヤ君にはそのことを秘密にした。サユリが死んでから今日まで、ずっと」

「それじゃあアナタが恨まれ損じゃない。どうして本当のこと、タクヤさんに言わないの?」

「言ったって、タクヤ君の心に空いた穴は埋まらない。タクヤ君もつらいんだ。恨む相手がいたほうが、タクヤ君はまだ楽になれるかもしれないじゃないか――」

 

 大澄君は一見穏やかな、ちょっと押しが弱いくらいに思われがちな青年ですが、実はとても頑固者です。これと決めたらテコでも譲らないのです。予備校時代はそれが受験勉強のモチベーション維持というプラス方向に働きましたが、今回のことはちょーっとよろしくありません。

 とっくに大学に受かって巣立った彼ですが、ここは講師に戻ったつもりで出しゃばりましょう。

 

「大澄君。自覚してないかもしれませんが、君だって恋人のサユリさんが死んだことで、心に穴が空いた一人でしょう? 自分がサユリさんを失った悲しみに俯いたままで、同じ悲しさに囚われた遠藤君の恨み辛みの捌け口になろうというのは、はっきり言って無理があります」

 

 大澄君はふい、と私から目を逸らして、膝の上で両手をきつく握りました。

 

「それに、大澄君は真実を隠すことで、遠藤君に解けない呪いをかけました」

「俺が、タクヤ君に……?」

「はい。今の遠藤君は、大澄君を()()()()()()()()()()()()という、永遠の呪いにかかっています」

 

 大澄君は、遠藤君に逆恨みの余地なんて与えないで、真っ向からありのままを述べるべきでした。全てを知って遠藤君が苦悩するとしてもです。

 お姉さんとの永遠のサヨナラを、納得できる材料があるかないかは、八つ当たりする対象がいるかいないかより、よほど重要なのではないでしょうか。

 

「遠藤君はお姉さんの最期の望みを尊重できないほど、軟弱な男の子でしたか? それこそ大澄君のほうが、私なんかよりよっぽど知ってます」

「……、……はい」

 

 大澄君の「はい」が、私の言葉のどれに対してかは分かりません。

 

 私の言い分が全て正しいから反省しろ、と言いたいのではありません。

 実際は大澄君が憎まれ役をすることで、遠藤君は楽になれているのかもしれません。

 それでも、今言ったような“引きずり方”を、大澄君も遠藤君もしていないか、そのせいで底なし沼に嵌まっていないか、心配性の“先生”は不安になってしまうのです。予備校時代も、現在も。

 

「タクヤ()()のことは、桜井侑斗が何とかしてくれるって――」

『アイツになんか任せられるか!』

 

 わっ。赤鬼さん、怒髪天です。よほど桜井さんと水が合わないのでしょうか。

 

 ――個人的に桜井侑斗さんが気にならないわけじゃありません。直接尋ねたいです。あの写真のこと。どうして若いお母さんと一緒に写っていたのか、どうして乾さんもいたのか、他の人たちはお母さんとどういう仲だったのか。たくさん、いっぱい。

 

 それでも、その気持ちは押し殺す。目の前にも周りにも、私の“生徒たち”がいるから。

 

『オレがあの時間に行ってデンライナーを取り戻……ってダメじゃねえか!! デンライナーがねえんじゃ時を渡れねえ!!』

「そうでもない。アナザー電王を野放しにはできん。2017年に行くぞ」

『おうっ! で、どうやってだ?』

「……黙って付いて来い」

 

 ゲイツ君はモモタロスさんを連れてクジゴジ堂を出て行きました。

 

「待って、ゲイツっ。俺も行く。――いってきます、ツクヨミ。美都せんせー。ユキヒロ()()をよろしく」

「気をつけてね」

 

 ソウゴ君は笑って頷いてから、ゲイツ君たちに続いてクジゴジ堂を出て行きました。ウォズさんもソウゴ君に付いて行きました。

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