加古川飛流には分からない。
自分がどうしてこうも必死になって、織部美都という教師のために駆けずり回っているのか。
なぜ、どこで流れ弾に当たって死ぬとも知れない戦場を、走っているのか。
最初のきっかけは、ささやかな後ろめたさ。
(俺がアナザージオウⅡにならなかったから、こんなことに)
無論、お門違いだ。それは飛流とてわきまえている。飛流がスウォルツの誘いを蹴ったことと、新たにアナザージオウとなった人物の暴虐に因果関係はない。
次に思い当たったのは、常磐ソウゴとの和解を仲立ちした美都への恩返し。
(ソウゴのことは『恨むのをやめた』んであって、ソウゴへの蟠りがなくなったわけじゃない。先生がいたから劇的に解決したなんてことはない)
ならば、と3つ目以降の動機を探そうとして、いつも詰む。
美都の――美都とソウゴのためにここまでする自分が、加古川飛流には分からない。
その日も飛流はアナザージオウⅡの根城を探して市内を探索していた。
美都から「危ないからもうやめてください」と訴えられたが、飛流にはやめる気など欠片もなかった。
右央地区で池のある公園に出た時だった。
目当てのものではないが、飛流は常磐ソウゴを見つけた。
ただ見つけただけではない。ソウゴはグランドジオウに変身して、アナザー鎧武、アナザーアギト、アナザー電王と交戦中だった。
飛流は迷わなかった。
携帯しているスタングレネードと爆竹をありったけ、グランドジオウとアナザーライダー軍団の間に投げ込んだ。
ホールインワン。爆竹が爆ぜて白煙が立ち、発光に視界を奪われたアナザーライダー軍団。
飛流はグランドジオウに駆け寄って、ごつい金のアーマーで覆われた腕を掴んだ。
『飛流!?』
「逃げるぞソウゴ! 付いて来い!」
グランドジオウは身動きが取れないアナザーライダー軍団と飛流を交互に見てから、変身を解いた。
飛流はソウゴの剥き出しの腕を掴んで、二人で走り出した。
飛流がソウゴを連れて逃げ込んだのは、あらかじめ隠れ場所として目星をつけておいた地下駐車場である。
ソウゴは飛流が腕を離すなり、そのままコンクリートの地べたに大の字に転がった。
飛流より息が荒い。当然だ。ソウゴのほうはたったさっきまで織部計都の手下のアナザーライダーと交戦していたのだから。
飛流もまたソウゴのように地べたに座り込んだ。ソウゴには背中を向けて。
「お前、俺に説教した時の威勢はどこ行ったんだよ。乗り越えられるんじゃなかったのかよ」
「……無理だよ。ゲイツもツクヨミも俺のこと忘れてた。しかもウォズまで、俺に仕えるのやめるって。これからは計都教授が我が魔王だって。……俺が未来でオーマジオウとの戦った時、劣勢になったから? オーマジオウに敵わない俺に王の資格なんてないって、そう、思われた……?」
ここまでお前に何があったのか一から説明しろ、と問い詰めたい気持ちを、飛流は自制心のみで抑えた。
「じゃあどうすんだよ。魔王になるの、やめんのか? このまま指くわえて、魔王モドキのジジイがふんぞり返って世界を壊してくのを見てるだけか?」
常磐ソウゴは答えない。
「俺は別にそうでもいいけどな。そしたらお前もめでたく俺と同類、負け犬の仲間入りだ」
「負け犬、か……こういう気分なんだな、夢破れるって……」
「――なあ。そもそもお前さ、何で『王様になりたい』なんて思ったんだ?」
「考えたことないよ。産まれた時から、王様になる気がし、て……」
続く言葉はない。
飛流が訝しんで振り返ると、ソウゴは目を大きく瞠っていた。
「思い出した――おれは世界を良くしたいから、王様になりたいって言ったんだ。父さんと母さんに、自分で、そう、答えたんだ」
ソウゴが跳ね起きて、強引に飛流の両手を握った。熱烈に。
「ありがと、飛流! 飛流のおかげで思い出せた! 俺が王様に、魔王になりたかった、スタートライン!」
「俺、何もしてないぞ」
「したよ、めちゃくちゃした! さっき助けに来てくれたのが飛流でほんっとよかった!」
このままだとソウゴは感謝と称してハグまでされかねないテンションだったので、飛流は勢いをつけてソウゴの手を振り払った。何が悲しくて野郎同士で抱擁し合わなければならないのか。
泣いた烏がもう笑ったところで、飛流は立ち上がり、ソウゴに手を伸べた。
ソウゴは飛流の手を掴み返して立ち上がった。
――しかし、これで順風満帆と行かないのが人生で。
「見つけたぞ。二人目のジオウ」
地下駐車場に下りてくる、ゲイツ。ドライバーは装着済み。両手にはゲイツライドウォッチとリバイブウォッチ。呵責なく常磐ソウゴを討ち滅ぼすつもりだと否が応でも分かった。
《 GEIZ 》《 GEIZ “リバイブ” 疾風 》
「変身!」
《 リバイブ・リバイブ・リバイブ リバイブ・リバイブ・リバイブ リバイブ-疾風 》
ゲイツ・リバイブ疾風アーマーがソウゴを目指して駆けてくる。ソウゴはまだ変身すら完了していないのに。
今の飛流の手持ち装備は爆竹くらい。スタングレネードは先ほどの目晦ましで使い切ってしまった。
「ソウゴ!!」
ソウゴはとっさのようにジクウドライバーを取り出したが、何を思ったのか、ドライバーをわざと手から離して床に落とした。
まさにソウゴに斬りかからんとしたゲイツ・リバイブが、寸前でジカンジャックローを止めた。
『何のつもりだ!』
「俺とゲイツが戦う意味なんてない!」
『意味ならある! お前と戦い散っていった仲間たちの悔しさ、ここで晴らす!』
このまま明光院ゲイツに常磐ソウゴが殺されでもしたら、全てが台無しだ。
飛流は地下駐車場の柱に隠れて、スマホから美都に通話を発信した。
本当の魔王は織部計都なのか、それともこの異分子のジオウ・常磐ソウゴこそが本命なのか。
どちらでもいい。「ジオウ」を名乗る以上、どちらもこの世界の敵で、討つべき悪だ。
頑として変身しようとしない常磐ソウゴの胸倉を掴んだ。
だが、ソウゴは怯えるどころか、まっすぐな目で俺を見上げた。
「ゲイツ。君は俺に約束してくれた。『最低最悪の魔王になったら、俺が斃してやる』って。俺を斃したいと思うなら、斃せばいい。ゲイツが俺と闘う時は、俺が最低最悪の魔王になったってことだから」
だったら――望み通りにこの場で葬り去ってやる!
ジカンジャックローを大上段に振り被った。
「ライダー・シンドローム!!」
振り下ろした俺の手から武器が消失していた。一体何が起きたんだ!?
「ソウゴ君! ゲイツ君!」
「美都せんせーっ!」
いつかの作戦で鹵獲しそこねた「魔王の一人娘」織部美都が、息を荒くしてこちらに走ってきていた。
「せんせー、何でここが……」
「飛流君から電話があったんです。君とゲイツ君が戦っているって。間に合って、ほんとによかった……!」
いつの間にか柱に隠れていた男が、出てきてソウゴたちに駆け寄った。
織部美都はその男にソウゴを任せて、決然とした貌で俺の真正面まで歩いてきた。
「明光院君。恐れ入りますが歯を食いしばってください」
『――は?』
俺の意見を待たずして、織部美都の平手が俺のフェイスマスクに炸裂した。
殴った。平手で。自分の掌が痛くなるくらい、強く、激しく。
教職人生4年半で最大の威力だと断言できる力で。