70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome5 聖都大学附属病院へ ②

 車を制限速度ギリギリまで飛ばして、聖都大学附属病院へ到着。

 

 病院のエントランスホールに入ってから、常磐君たち三名は頭を突き合わせて話し合いスタート。

 私はその間に病院の総合窓口へ行きます。笠間先生が院内のどちらにいるか、受付の方に尋ね……

 って、常磐君とツクヨミさん!? 二人して急に走り出してどこへ行くんです!?

 

 追いかけようと踵を返したところで受付の方から声をかけられて、慌てた私は足をもつれさせて、よろけた。転ばずにはすんだけれど、笠間先生の鞄を落としてしまった。

 大変! 衝撃でスマホが壊れたりしてたらどうしよう。

 

 リノリウムの床にぶちまけてしまった小物を私が拾っていると、明光院君が無言でしゃがんで、拾い物を手伝い始めた。

 

「ありがとうございます」

「別に――」

 

 ふと明光院君の手が止まってから、一つの品を摘まみ上げた。

 明光院君がまじまじと見下ろすそれは、笠間先生の運転免許証です。彼も常磐君と同年代のようですから、免許証の実物が珍しく見えるのかもしれません。

 

 明光院君は私の視線に気づくと、即座に目を逸らして、四苦八苦して免許証をパスケースに入れ直したのですが。

 

「明光院君。それだと入れる向きが逆ですよ。表は顔写真があるほうです」

「ま、間違えただけだっ」

「ですよね。一言多くてすいません」

 

 笠間先生の運転免許証の裏面をなんとなしに見る。臓器提供の項目に「○」と署名があった。

 

 全ての小物を笠間先生の鞄に納め終わった。でも息をつく暇はありません。

 どこかへ行ってしまった常磐君とツクヨミさんを合流させなくちゃ。

 

「ええと、あの二人が行ったのは……」

「こっちだ」

「あ。ありがとうございます、明光院君」

 

 廊下を歩き出して少し、明光院君が私をまっすぐ見て、言った。

 

「明光院の名に、何か思うところは、ないか?」

 

 私は首を傾げた。真摯に尋ねられているのは分かる。でも、困ったことに思い当たる節が皆無です。

 

「いいえ。特に何も」

「――、そうか」

 

 そう明らかに落ち込んだ顔をされると、私も申し訳なくなります。

 

 彼に何と声をかければいいのか困ったまま、廊下の角を曲がったところでした。

 見つけた! 常磐君とツクヨミさん!

 

「私たち、“クリアできないゲーム”っていうのを追ってるんです!」

 

 ツクヨミさんが訴えた相手は、私たちの向こう側。

 ドラマでしか観ないような教授回診らしき列、その中心にいるお医者様でした。職員証にある彼の名前は、鏡飛彩。

 

「俺たち、小児科の宝生ってお医者さんが天才ゲーマーMかもって、それで……!」

 

 こちらを見据える鏡先生の眉根が寄りました。

 

 ――ツクヨミさんも常磐君も、社会的手順というものの踏み方を知らない年頃ですものね。ここは年長者の私の出番です。

 

「お仕事中に失礼しました。私、光ヶ森高校教員で織部と申します。()()()()()()()()()。彼らのクラスメートも倒れたんです。世間で噂の“クリアできないゲーム”をプレイしてから。小児科の宝生先生がこの分野に明るいそうで、ご意見を頂きたく伺いました。我が校とこの病院とは校区が違いますが、宝生先生とお会いできますでしょうか?」

 

 鏡先生は考え込むような間を置いてから、「案内します」と歩き出した。――ほっとした。

 私は常磐君をふり返って頷いた。常磐君は頷き返した。

 

 

 私が鏡先生を追っていく後ろから、常磐君と、ツクヨミさんと明光院君が付いてくる形になった。

 

「うちの病院にも原因が分からず意識不明となった患者が何人も入院している。小児科医もその原因を追っていた。患者たちの共通点は、その“クリアできないゲーム”をプレイしていたこと。少なくとも小児科医は、ゲームと症状に因果関係があると見ていた」

 

 鏡先生が私たちを招き入れたのは、私にとっての職員室と同じで、個人用の事務デスクが並んだ部屋。きっとドクターやナースの皆さんのバックヤードなのでしょうね。

 

「そういえばさっきの看護師さん、永夢先生が無断欠勤って言ってたよね」

「そのエムとかいう医者が一連の鍵を握っているってことか」

「ゲイツ。いつの間にか前のめりになってる」

「ちがっ……これはだな!」

「君たち、静かに。よそ様の職場ですよ」

「「――すいませんでした」」

 

 鏡先生は一つのデスク前で立ち止まりました。

 

 デスク上の赤いノートパソコンの横には、小和田君がプレイしていたのと同じ携帯ゲーム機があった。

 それから、ゲーム機を囲んでびっしりと貼られた、たくさんの付箋。どの付箋にも、書いてあるのは、似た単語の羅列。

 

「小児科医が行方不明になる前に残したメモだ。手がかりになるかもしれん」

 

 一枚だけ、ゲーム機本体に貼ってあった付箋。鏡先生はそれを剥がして、明光院君に渡した。

 

「なぜ俺に?」

「なぜかは知らないが……お前たちには、協力をしなければいけない気がする」

 

 言いながらも、鏡先生ご自身が戸惑っているようです。

 

 鏡先生の前に、常磐君は回り込んで、満面の笑みでありがとうを言った。

 常磐君、学内ではいいんですが、せめて外では、目上の人には、ですますを付けましょうね。

 

「宝生先生に直接お会いすることは……」

「今すぐには無理だ。こちらも彼の行き先は把握してない」

「そうですか――わかりました」

 

 私はバッグから名刺入れを出して、自分の名刺を宝生先生のデスクに置かせてもらった。

 ペン立てからペンをお借りして、今日の日付を名刺の裏に書き込んで、と。これでよし。

 

 私は鏡先生に一礼した。

 

「鏡先生、お時間を頂いてありがとうございました。それに、貴重な資料まで。こちらは後日返却に参ります。もし宝生先生がいらしたら、よろしくお伝えください」

「それほどでも。――失礼」

 

 部屋を出て行く鏡先生の背中に向かって、もう一度、お辞儀。それから常磐君たちをふり返った。

 

「皆さん、帰りますよ」




 ジオウ・エグゼイド編にちょっぴりの社会的マナーを混ぜてお送りしました。

 ゲイツがドライブウォッチを持っていたので、

「もしやゲイツもソウゴがしたみたいにドライブ時空に飛んで泊さんからウォッチ貰ったの?」
「だとしたらチェイスの免許証エピに触れる機会もあったかも?」

 なんて、想像に憶測を重ねた小物拾いシーンだったりします。
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