70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome6 教師的倫理での優先順位

 鏡先生に対しては、宝生先生の残されたメモを「貴重な資料」と社交的に述べたものの――

 これ、何て書いてあるんです?

 

 病院の中庭にあるベンチに一旦移動してから、四人で審議スタート。

 

「美都せんせー、分かる?」

「いいえ、さっぱり。英語ではないことが辛うじて分かるくらいです」

 

 このメモの内容を、笠間先生がまた“襲撃”される前に解析しなくちゃ、と意気込んだもののさっそく手詰まりです。高校時代の英語の成績は五段階評価で2-(マイナス)だった織部美都です。くすん。

 

「ドイツ語だ」

 

 明光院君?

 

「ドイツ語? 何でわざわざ」

「日本の医療の共通言語だった時代の名残だ」

 

 なるほど。病院に掛かる時にお医者様たちがカルテに何を書き込んでいたのか、20年来の謎が解けました。てっきり速記のような特殊な文字が医学分野にもあったのかと思い込んでました。

 

 明光院君はメモを常磐君から取り上げると、訳文を言った。これは「下・下・上・上・右・左・右・左→全押し」と読むんですって。

 ここまで聞けば私だって、それが例のゲームのキーの操作だと分かった。

 

「明光院君、物知りですね。医者志望ですか?」

「……別に。歴史的知識として知っていただけで、大したことじゃない」

「大したことですよ。こうして今、現状打開の第一歩になりました」

 

 隣に座る常磐君がゲーム機の電源を入れた。

 私は慌ててゲーム画面を両手で隠した。

 

「キーの打ち込みは先生がやります。常磐君が小和田君や笠間先生みたいに意識不明になったら大変ですから」

「待ってよ! それ、逆も言えるよね!? プレイしたら美都せんせーが倒れるかもしれない!」

「だから先生がやるんです。こういう時に生徒の安全を優先しないで何が教師ですか」

「だめだってば! 美都せんせーまでアナザーライダーに襲われる!」

「あっ!」

 

 常磐君は私の手を振りほどくと、立ち上がってプレイスタートしてしまった。

 こうなると、器用な常磐君を捕まえるのはほぼ無理です。

 私がゲーム機を取り上げようと常磐君を追い回しても、常磐君は背伸びしたりしゃがんだりで、上手く私の腕をすり抜けてしまう。

 

「下・下・上・上・右・左・右・左、っと!」

「ああーっ!」

 

 最後に、常磐君がゲーム機のボタンを全て同時に押した。

 ――その時、変化が起きた。

 私はもちろん、ツクヨミさんも明光院君もゲーム機をこぞって覗き込んだ。つまり常磐君に群がった。

 

「なんか、イケそうな気がする!」

 

 ゲーム機の画像に砂嵐がかかって、画面がフラッシュして私たちを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 視界が戻った時に私たちがいた場所は、のどかな芝生の広場から一転して、真っ黒な鉄材で出来た工場だった。現実感のない光景が薄ら寒い。

 

「もしかして、ゲームの中っ?」

「常磐君! なんともないですか? 気分の悪いとこは?」

「大丈夫っ。美都せんせーは心配性過ぎ」

「心配しますよ! 先生は君のクラス主任なんですよ!?」

「……ごめんなさい」

 

 でも、常磐君がなんともなくてよかった……本当に。

 

「おい。――お出ましのようだぞ」

 

 工場の奥から現れたのは、それこそ異形だった。ヒトと同じ二足歩行で両腕があるけれど、およそ人間とは思えない。“怪人”と呼ぶのが正しいのでしょうけど、どこかこう、“何か”に()()()()()()()感じで……

 

 明光院君と、彼だけじゃなく常磐君まで、私とツクヨミさんを背中に庇う位置に立った。

 

「ソウゴ、分かってる? アイツをここで倒したところで、たぶん完全には消滅しない」

「うん。でも倒さないことには、何も始まらない」

 

 常磐君が取り出したのは、デジタル時計の文字盤を横向きの楕円にしたような、ゴツゴツした部品。

 見れば、明光院君も同じ物を手にしている。

 二人ともそれを自分のお腹に当てた。

 

《 ジクウドライバー 》

 

 するとびっくり、部品から自動的にベルトが現れて、彼らの胴に部品を固定した。

 次に常磐君と明光院君が取り出したのは、模様のあるストップウォッチ?

 彼らは親指だけでウォッチのガワを回して、リューズを押した。

 

《 ZI-O 》

《 GaIZ 》

 

 ツクヨミさんが無言で私の肩を掴んで、常磐君と明光院君から距離を取らせた。

 

 

「「変身!!」」

 

《 ライダー・タイム  カメンライダー  ZI-O 》

《 ライダー・タイム  カメンライダー  GaIZ 》

 

 

 ――少年たちが戦士へと変わる。

 その瞬間を、私は確かにこの目で見た。

 

 黒銀のセラミックスボディ。顔面には「ライダー」と刻んだルビーの受石(うけいし)とドルフィンの針。

 

 赤と黄色の装甲。顔面には「らいだー」と刻んだゴールドのロゴと「カメン」のスモールセコンド。

 

 

 本間君が前に言ったことを思い出した。このことだったのかと、おかしなくらい動揺せずに納得した自分がいる。

 

「仮面ライダー……」

「そう。ジオウ。ゲイツ。レジェンドライダーから得た力で戦う、現代と未来、それぞれの時代の最先端の仮面ライダーたちよ」

 

 二人の仮面ライダー――ジオウとゲイツが同時に、怪人に拳をくり出した。戦いが、始まった。

 

 

 

 

 ツクヨミさんが私を物陰へ連れ込んだ。

 

「先生は知ってたのね。ソウゴが仮面ライダージオウだって」

「いいえ。はっきり知ったのはたった今です」

「――、驚かないの?」

「驚きすぎてかえって冷静という感じです。それに、今日までの常磐君の進路相談から、なんとなく察していましたので」

 

 ただ、本当に仮面ライダーになって、ああやって戦っていると直接聞いてはいないので、そこを相談してもらえなかった自分は無力だなあ、と落ち込みはしましたが。

 

「でも、あの怪人のことは全く知りません。あれが小和田君や笠間先生を襲撃したっていう……?」

「アナザーライダー。タイムジャッカーが生み出す、正しい歴史にはいない仮面ライダー。見える? あのアナザーライダーの胸元の『EX-AID』の文字。アイツはきっと、アナザーエグゼイド」

 

 アナザーエグゼイドが、私たちが隠れるために使っていた鉄材を、ジオウとゲイツに向けて蹴った。とっさにツクヨミさんが私の頭を下げさせて庇ってくれた。

 

 鉄材がジオウとゲイツにぶつかった瞬間に、「HIT!」のエフェクトが現れた。この場がゲームの中だから、その辺もゲームの演出に添っているとか? アナザーエグゼイドの直接攻撃にも、「HIT!」のエフェクトが現れた。

 

 ジオウに襲いかかろうとしたアナザーエグゼイドを、ゲイツが引き剥がして蹴り飛ばし、間髪入れずにパンチのラッシュ。

 

『モタついていると、お前もここで倒すぞ!』

 

 ゲイツは腕から一つのウォッチを外してリューズを押した。

 そして、そのウォッチをベルトの左手側に装填して、ベルトの本体を逆時計回りに一回転させた。

 

《 アーマー・タイム  DRIVE 》

 

 ゲイツの装甲が変わった。厳めしい赤と白のレーシングカーみたいな。

 

『よぉっし、俺も!』

《 アーマー・タイム  BUILD 》

 

 ジオウも腕から外した時計で、ゲイツと同じように姿を変えて、ゲイツに加勢した。

 

 ついに、ジオウとゲイツはそれぞれの装甲の付与機能を活かした戦法で、アナザーエグゼイドを退治した。

 アナザーエグゼイドから上がった爆炎が晴れたそこには、一人の中年男性が倒れていた。

 

 とっさにツクヨミさんと一緒に物陰から出た私の前に、別の男性が立ちはだかった。

 

「僕以外にゲームエリアに入れる人がいるとは思わなかったよ。そうか――僕のメモ、見たんだ」

 

 メモというと、宝生先生の? え、じゃあ彼が、天才ゲーマーM?

 白衣も、聴診器も、個々の持ち物を見ればなるほど、若いお医者様にしか見えない。人は見かけによらないって本当なんですね。

 

「悪いけど、これ以上はやらせない」

 

 ――え?

 

 宝生先生は、ネオンイエローとネオンピンクに彩られた大きな部品をお腹に装着して、平たい蛍光ライトのスイッチを押すと、それを部品に挿し込んだ。

 

《 マイティアクションX 》

「大変身!」

《 マイティジャンプ  マイティキック  マイティマイティアクションX 》

 

 宝生先生を囲んで展開された光学パネルの中で、ネオンピンクのキャラクターが描かれたパネルが彼の全身を潜った。それに合わせて、宝生先生の姿が、常磐君たちとはまた異なる出で立ちの“仮面ライダー”へ変わった。

 

「本物の、仮面ライダーエグゼイド……?」

 

 デフォルメされたマスコットみたいなその外見と裏腹に、エグゼイドがまとう敵意は、後ろにいる私でもぞくりとさせられた。

 

『へ、え、えええ!?』

 

 ジオウとゲイツに、エグゼイドの容赦ないパンチが連発で叩き込まれる。

 

 どうして? どうしてですか、宝生先生。それじゃあまるで、アナザーエグゼイドだった人を庇っているみたい……

 

 

 ――――時間が、停まった。

 

 

 比喩でも何でもない。

 文字通りに、“時間が流れない”という外界からの強制が、私たち全員に、動くこともしゃべることも許してくれない。

 

 そんな空間で、普通に歩いてきた第三者がいた。

 

 女の子だった。ツクヨミさんとは別方向に美女で、かつ近未来的なデザインのミニスカドレスという出で立ちの。

 

『タイム、ジャッカー……!』

 

 彼女は黒ヒールを鳴らして仮面ライダーたちを素通りすると、奥で倒れている男性の横にしゃがんだ。

 

「煩わせないでよ」

 

 彼女は、ずぶり、と男性の胸板に手を沈め、何かを摘出した。あれは……常磐君たちが使っていた、ウォッチ?

 

 銀色のマニュキュアを塗った指が、取り出したウォッチのリューズを押した。

 

《 EX-AID 》

 

 再起動(?)したウォッチを、彼女は再び男性の胸板に吸収させた。

 

「それじゃあね」

 

 こちらを小馬鹿にしたと、はっきり分かる声だった。

 

 

 彼女の姿が掻き消えて、時間が再び流れ出す。

 

 倒れていた男性が起き上がった。男性の姿がまたアナザーエグゼイドのものになる。

 そんな、せっかく常磐君と明光院君ががんばったのに……!

 

 アナザーエグゼイド復活からそう間を置かなかった。

 今度は宝生先生の変身が解けた。今のって……強制解除された、の?

 

 風景が現実のものに戻った。

 ――アナザーエグゼイドは、いなくなっていた。




 変身&外見描写シーンを書くために時計の専門用語を調べると、色んな部位がしっかり時計用語の反映なんだと分かって目から鱗でした。調べれば楽しいのがイイトコロ(〃艸〃)

 個人的拘りは「ルビーの受石」と「スモールセコンド」だったりします(^^)v
 特に「スモールセコンド」は本来「スモールセカンド」の所をあえて表記ゆれさせました。
 変身音声の他の表記は――イメージですのでいじらないでくださいということで一つm(_ _"m)
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