70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 嵐の前の息抜き回です。時間軸としては4話と5話の間。


Interval1 バック・トゥ・ザ・ハイスクール

 この国には「売り言葉に買い言葉」ということわざがあるという。

 ミトさんに習った。あの人は微妙に古い格言や故事成語に何故か精通していた。

 

 在籍する学生のフリをしているだけの光ヶ森高校で、俺が、実際に教室で授業を受けるハメになったのは、まさにそれが原因だった。

 

 ある日の夕食後にツクヨミと、常磐ソウゴも交えて3人で話していた時だ。

 アナザーエグゼイドの一件でタイムマジーンにトラブル搭乗した、織部美都という教師。彼女に文句をつけたことで常磐ソウゴが噛みついた。

 

「美都せんせーが教えてくれたことで悪かったことなんて一つもない! 疑うなら、せんせーの授業受けてみろよ! 言っとくけどすっごい面白いからな!」

 

 望む所だ、と言い返したのが俺の運の尽き。

 気づけばツクヨミも便乗して、俺たちは一日限りの“本当の高校生”をやる運びとなった。

 

 

 

 

 

 高校三年生ともなると、生徒たちの授業の受け方も複雑になってきます。

 例えば、2019年度のセンター試験では、歴史地理科目は10種類から最大2科目を選んで受験するように設定されています。

 歴史には日本史のA・B、世界史のA・Bがあるので、歴史教科のみでセンター試験にチャレンジするのでしたら、日本史A+世界史Bでなければいけないわけです。A・Bについては逆も然り。

 生徒たちはすでに歴史地理10科目中どの2科目を受験するのかほとんどが決めています。

 

 歴史地理の授業になると、自分が受験する科目の授業を受けに移動教室があります。

 移動教室は別のクラスの生徒と混ざっての授業ですので、見知らぬ顔があっても多少のごまかしが利く。私の担当教科である日本史Bのコマも然り。

 

 

 散り散りに席に座る生徒たちの中で、常磐君の席周りだけ人口密度が高い。

 ずばり、両隣に明光院君とツクヨミさんが座っているからなのでしょう。

 

 まずは豆テストのプリントを生徒に配ります。

 今日の内容である織豊政権から江戸時代興隆までの範囲です。模試と同じで選択肢から正解を選ぶ形式です。

 

「制限時間は5分です。では、始め」

 

 生徒たちが一斉にプリントを裏返して問題を解き始めました。

 

 明光院君とツクヨミさんは……やっぱり。ちんぷんかんぷんという表情です。両名かなりの苦戦が見受けられます。

 対照的に、鼻歌混じりでスラスラと解いていって、生徒の中で一番にプリントを伏せたのは、やっぱり安定の常磐君。彼は歴史全般には強いですからね。

 

 スケルトンの懐中時計のスモールセコンドが5周した。

 私は生徒の手を止めて、近くの席の人同士で豆テストを交換するように言いました。常磐君のところは――3人でシャッフルしたみたいですね。

 

「日本史Bはセンター試験での配点が100と低めですが、比較的少ない勉強量で90点台を狙える科目でもあります。特に大問2~5では古代・中世・近世・近代までまんべんなく出題されます。大丈夫。広範囲なだけで、順番の覚え間違いさえなければ分かる問題ばかりですから」

 

 私は正答を発表して、問題にまつわる時代の趨勢や偉人を黒板に書いていく。

 

「問3の正答は選択肢1の『織田信長は16世紀後半、東海地方に拠点をもつ戦国大名を尾張国で滅ぼした』ですが、この戦いは何だったでしょうか? 常磐君」

「はい! 信長は1560年の桶狭間の戦いで、今川義元と戦って勝利します」

 

 信じられないものを見る目の明光院君とツクヨミさん。

 ……50年後の教育体制が非常に不安に思えてきた私です。

 

「そうですね。この信長ですが、一時は“第六天魔王”の二つ名で日本を支配したものの、本能寺の変で臣下の明智光秀に討ち取られます。その後、光秀を討ってから天下人となったのが――」

「豊臣秀吉! 1582年の中国大返し!」

「またまた正解です、常磐君。――ここまでが織田信長の天下統一事業です。問題で信長と秀吉の間に光秀がいない、または光秀と秀吉の登場順が逆の選択肢が出たら、その選択肢は切ってください」

 

 生徒たちが豆テストのプリントにカラーペンで、私の言った注意事項を書き込んだ。

 

「では、前回の復習が終わったところで、今回は豊臣から徳川への政権交代までやりますよ。教科書のxxxページを開いてください」

 

 

 

 

 

 ――物心ついた時、俺の手はとっくに銃を握っていた。

 体格が出来上がってからは、バイクも、タイムマジーンだって乗り回した。

 レジスタンスの中でも一角の戦士であるミトさんのサポーターという名目で、最年少で抵抗運動に参加した。

 毎日がオーマジオウとの戦いだった。

 

 それが今はどうだ。

 学校なんて、昔語りでしか知らない場所にこうして座っている。

 いずれオーマジオウとなる常磐ソウゴと机を並べて。

 

「……、……の特徴は天皇権威の利用にあります。朝廷に命ぜられて関白になった豊臣秀吉は、天皇から日本全国の支配権を委ねられたと称して、全国の大名の領国裁定権を(ほしいまま)にします。以後は秀吉の独裁政権です。刀狩や太閤検地が有名な政策ですね」

 

 ()()は華やかに笑って、黄色いチョークで黒板に「刀狩」「検地」と書いた。

 

「これらの政策によって、兵農分離が完成。お百姓さんもお侍さんも身分が固定されて、リクルート禁止の国の出来上がりです」

「(ソウゴ。りくるーと、ってなに?)」

 

 ツクヨミがジオウに小声で尋ねた。俺も言葉の意味が分からなかったから、ついそっちに頭を寄せた。

 

「(ここでは転職って意味。由来は転職支援企業の社名。要は、どんなに強くても頭がよくても出世できなくなったの)」

「(自分は農民から天下人に大出世したくせに?)」

「それですよ。秀吉が農民の出であることは桃山文化にも少なからず関係します。ツクヨミさん、茶の湯の祖といえば誰ですか?」

 

 ツクヨミは慌てふためいて教科書を食い入るように見て、半泣きで常磐ソウゴに「これ何て読むの?」と尋ねている。

 

 先生の今の、自然に思わせて実は唐突な無茶振り――俺はミトさんで慣れているが。

 ――本当に、先生はミトさんじゃないのか?

 

「せ、せんのりきゅうっ」

「よくできました。正解です」

 

 ツクヨミが机にへたり込んだ。当たっててよかったな。

 

「茶人・千利休は秀吉の不興を買って切腹させられました。このくだりは映画の『花戦さ』で知ってる人もいるかもですね。映画の主人公は花道家で、利休の友人。茶も花も、その発端には、死者の魂の慰めと遺された生者のための癒しがあり、平和への祈りが込められていました。千利休は試験頻出ですから、チェックしといてください。特に挿絵の茶室。センターでの日本史Bは史料読解が多い傾向にあるので要注意ですよ」

 

 先生は他にも、当時の舶来技術で製作された絵やら本やらの挿絵を解説した。

 

 解説が終わった頃に、タイミングよく終業チャイムが鳴った。

 

「今回はここまで。もう一度くり返しますが、センターで日本史中世からの出題は史料読解が多い傾向にあります。単語より写真や法令の原文を意識してください」

 

 授業開始と同じで、日直が「起立」と「礼」を告げた。常磐や生徒たちが椅子を立ったので、俺もツクヨミもそれに倣って、頭を下げた。

 

 

 

 

 

 授業を終えて職員室に帰った私に、すれ違う先生方が「お疲れ様です」と声をかけてくれました。私も「お疲れ様です」と返しました。

 

 明光院君とツクヨミさんという一日体験生を加えての、ちょっとだけ違う授業。

 常磐君が話を持ち込んだ時には驚いたし、今日まで自信を持てませんでしたが。

 二人とも、楽しんでくれたならいいな。




 3話でゲイツもツクヨミも本当に編入すると信じて書き上げたブツです。
 まさかの、フリだった。

 実際に視聴した日の絶望感は人生で割とワーストランキングに入る……orz
 カッとなって供養に上げてみました(加筆修正は加えた)。

 本当に未来組が光ヶ森に編入してきたらこういう風景が毎日書けたのになチクショー!(ノД`)・゜・。
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