70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 有名な歌ですのでお察しの方もいるでしょうが、本来はタイトルの歌「~悲し“き”」で終わってるんですよね。
 終わらせません(キッパリ


Syndrome12 実のひとつだに、なきぞ悲しく

「――以上が、ソウゴとゲイツが2011年に飛んでる間に、こっちで起きたことよ」

 

 ツクヨミが語った、例の織部美都という先生宅でのハチャメチャな展開に、俺は(遺憾だがジオウと揃って)顎を外すところだった。

 

 夜8:00過ぎ。クジゴジ堂に帰ってくると居間に知らない男がいたから怪訝に思ったが、この乾巧という男が先生から受けた仕打ちを考えると、クジゴジ堂に避難してきたことにも頷けてしまう。

 

 勝手知ったる他人の家。ツクヨミはキッチンでホットコーヒーを4人分淹れてから、それぞれのマグカップを運んできて俺たちの前に置いた。

 

「山吹カリンは」

「先生が彼女の自宅まで車で送って行ったわ。パトカー……だっけ。この時代の司法機関が乗り回す特殊車輛が家に乗りつけて、警官の事情聴取が終わってからだけど」

 

 ジオウの正面に座る乾がコーヒーに口を付けた。これしきで「熱い」と言うんだから猫舌なんだろうな。

 

「アナザーライダー……いや、怪物とはまた別に、草加という男に、山吹カリンが襲われたと言ったな。ソイツは何故、山吹カリンを狙っている?」

 

 さあな、と乾は素っ気なく答えて、椅子を立った。

 

「二人はどうだったの?」

「――奴は二つのライダーの力を持っている可能性がある」

「女子高生連続失踪事件は、2011年じゃなく、もっと前から始まってたのかもしれない」

 

 山吹カリンの護衛はジオウと乾がすることになった。

 俺たちの調査はゼロスタートへ。事件の詳細を最初から洗い直しだ。

 

 

 

 

 

 翌日。俺はツクヨミと二人で女子高生連続失踪事件を遡る作業を始めた。

 

「まずは、これ。織部先生から借りてきたの」

 

 ツクヨミがテーブルに広げたのは、『2006年度卒業アルバム』と銘打たれた薄い冊子だ。

 

 ツクヨミが開いたページを見て、俺はアルバムを掴んでそのページを凝視した。

 卒業生一覧のページには、山吹カリンの写真が卒業生の一人として載っていた。名前は“山吹果林”。字は異なるが同じ“カリン”だ。

 

「彼女、先生にはこの果林って子の娘だって名乗ったらしいけど、年齢が合わないの。今のカリンは18歳でしょう? ソウゴと同じ2000年生まれ(ミレニアムチルドレン)だけど、母親の果林は先生の同級生だから、2000年だとせいぜい12歳か13歳。とても子どもを産めるとは考えられない」

「タイムジャッカーか……? 二人の“カリン”が同一人物ということか? それだと山吹カリンは15年も外見に変化がないことになる。明らかに不自然だ」

 

 だがその“不自然”は何に由来する? アナザーライダーが噛んでいるのか? 軽く頭が混乱してきた。

 

 次にツクヨミはタブレットの検索機能で、2003年の事件の一つをサルベージした。新聞記事という、紙を媒体としたこの時代の世情解説紙だ。

 ツクヨミが指した記事には、2003年に山吹カリンが交通事故で死んだと書いてあった。しかも山吹カリンの遺体は翌日未明に窃盗され、同日、佐久間龍一と坂本若菜という18歳の学生が失踪していた。

 

 2003年に死んだなら、2006年度卒業生としてアルバムに載るこの“カリン”は“誰”なんだ? 天ノ川学園の山吹カリンと同一人物なのか?

 

 もどかしい……情報が錯綜しすぎている。

 

 そこでツクヨミの持つ真新しいスマホが着信音を上げた(ファイズフォンだと悪目立ちするらしいので新調した品だ)。

 

「もしもし。――ソウゴ。何かあったの?」

《居たんだ、もう一人! 天ノ川学園の生徒に、今日が誕生日で18歳になる、天秤座生まれの女子が!》

 

 ツクヨミと顔を見合わせてから、俺たちは即座に椅子から立った。

 

 

 

 

 

 ――光ヶ森高校。職員室。

 

 私は自分のデスクで、スケルトンの懐中時計を出して時刻を確認した。

 

 もう放課になって1時間ほど経ちます。天ノ川学園もたぶんそうでしょう。

 カリンさん、無事におうちに帰れてたらいいんですけど。

 昨日も自宅前まで送ると言ったのに、カリンさんは途中で降ろしてほしいと言って、それでお別れしちゃった。

 

 聞けなかった。

 カリンさんは私の同級生の山吹さんなのか、ではない。

 山吹さんはどうして私に会いにきたの?

 

「織部先生、お電話ですよー」

「え。あ、はい、すぐにっ」

「保留1でーす。天ノ川学園の山吹カリンさんって方から」

 

 私はすぐさま自分のデスクの受話器を取った。

 

「代わりました、織部です」

《織部さん? 山吹です》

 

 何故でしょう。彼女が「山吹」と自ら名乗っただけなのに、すとん、と。カリンさんは山吹さんであるという事実が腑に落ちた。

 

《昨日の今日で立て続けにごめんなさい。どうしても織部さんにお願いしたいことがあるの。事情も全部話す。だから、お願い。これから言う場所に――を持って来て》

 

 

 

 

 

 公園から遊具が次々と撤去されるこのご時世、訪れる人がいなくなって荒れた公園なんて、都内には山ほどある。

 山吹さんが私を呼び出した場所は、そういった公園の中の一つでした。

 

「来てくれてよかった」

「本当に、山吹さんなんですね」

「うん。昨日は嘘ついてごめん。改めて、久しぶりね、織部さん」

「お久しぶりです、山吹さん。頼まれた物は持ってきました」

 

 私はバッグから、高校時代の名札を取り出した。

 ――当時、私たちの高校では、第二ボタンの交換ならぬ名札交換が、卒業生の恒例行事だった。うちの高校は制服がブレザーだったから生まれた、単なる仲良し女子同士のイベント。――まさか卒業して11年経った今やるとは、夢にも思いませんでした。

 

 山吹さんも苦笑しつつポケットから私のと同じ様式の名札を取り出した。

 私たちは無言で名札を差し出し合い、受け取り合った。

 

「全部話すね。2003年10月25日から始まった、私と――佐久間君の15年間を」

 

 

 ――山吹さんは語りました。

 山吹カリンがすでに交通事故で亡くなっていること。彼女を蘇生するためにアナザーファイズになった佐久間龍一さんのこと。佐久間さんが18歳で天秤座の女子の命を奪っては、山吹さんに与えて延命させてきたこと――

 

「織部さん、驚かないのね」

「驚きすぎてかえって冷静といいますか」

「一周回って落ち着いちゃうとこは高校時代から変わらないんだ」

 

 くすくす。山吹さんは愉快さを隠さない笑い声を零した。

 

「――ここが佐久間君とのいつもの待ち合わせ場所だった」

 

 色褪せた柱のオブジェを、山吹さんは懐かしげに撫でた。

 

「15年前、私が死んだ日もそうだった。流星群を見に行く約束だったの。でも予報外れの雨が降ってきた。今夜は無理だなあって頭じゃ思ってたけど、それでも、もし佐久間君が来てくれたら。私、あの頃まだガラケー持ってなかったから入れ違いになっちゃうし、そうなったらわざわざ来てくれた彼に悪いしって自分に言い訳して、雨の中、ずうっとここで待ってた。流れ星が見られなくても、佐久間君の顔が見たかった」

 

 ――彼女の目尻から溢れて流れた(しずく)こそ、きらめく星のよう。

 山吹さんは、そんな悲しい泣き顔のまま、私を顧みた。

 

「非道いよね、私。こんなの良くないことだって分かってるのに、15年もこんなふうにズルズル生きてきた。だって、やっぱり生きてるのは楽しい。佐久間君が怪物になってまで生き返らせてくれなかったら、私、織部さんとも会えなかった」

 

 どう答えていいか、何を答えるべきなのか、これっぽっちも頭に浮かばない。

 

 私だって山吹さんと会えてよかったと思ってます。家に来て、お父さんに和歌の専門的な話を聞く時の山吹さんの横顔だけは、今でも明瞭に思い出せるんです。

 

「私ね、織部さんと一緒の高校で卒業して以来、一度も卒業式に出たことないんだ」

「それって、どういう意味……」

「卒業したら就職先や進学先を聞かれるでしょう? もちろんそんな宛てあるわけないから何も言えない。そしたら先生にも同級生にも怪しまれるから、進路調査のシーズンが近づくたびに、その学校を出て行ってたの」

「そんな生活を、15年間、ずっと……?」

 

 山吹さんは無言で頷いた。

 私は、体を衝き動かす感情のまま、山吹さんの頬を平手で叩いた。

 

「――、え」

「さっき言いましたよね。『良くないことだって分かってる』。いいえ、分かってない。山吹さん、ちっとも分かってません」

「そんなことっ……そんなことない! 私、草加さんに自分で頼んだもの! 私をもう一度殺して、死体に戻して佐久間君から引き離してって! そうすればきっと佐久間君を止められる、もう犠牲を出さなくてよくなるから……!」

「それです。山吹さん、あなたを延命するために何人の18歳の女の子が死にましたか? 10人? 20人? みんなまだ18歳だったんですよ。これから大学に進んだり社会に出たり、明日を楽しみに生きていたでしょうに。山吹さんは言いましたね。卒業式には一度しか出たことがないって。その子たちは、人生一度きりの“高校卒業”すらできなかった!!」

 

 山吹さんは顔をざあっと白くして、一歩二歩と、後ろによろめいた。

 逃がさない。

 

「これが15年という歳月の厚みです。理解できましたか? 15年もあれば、私でさえ、こうやって人を怒鳴ることができるようになるんです」

 

 私は山吹さんの肩を掴んで、思いっきり彼女を、抱き締めた。

 

「…っ、ふ、ぇ…ぅぅ…あ、あぁっ、わあああ…っ、あああん……!」

「酷い言葉をぶつけてしまってごめんなさい。山吹さんは昔から、このくらい言わないと本心を明かしてくれない口下手さんでしたから。15年間も、誰にも“本当の自分”を言えなくて、辛かったですね」

 

 山吹さんの涙が私の肩を濡らしていく。

 

「死のうとしたの、本当に何度も決心したの……っ! でも、自分じゃできなくかった! もう死んだ体なのに、痛いのも血が出るのも生きてる時と同じで、だから、いつも土壇場で怖く、なって……再会した草加さんが、もう終わらせてやるって言ってくれたのに、それも、避けて……自分だけが可愛くて、たくさんの人生を台無しにする自分から15年も目を逸らし続けたッ! ――佐久間君が怪物なんじゃない。私こそが、誰より一番醜い人間(かいぶつ)なのよ! …う、っ…あああああん…!」

 

 私は何も言わないで山吹さんの背中をさすった。




 ソウゴの言う“犠牲のサイクル”は、どうして15年も続いたのだろう?
 それを真面目に考えて、二つの答えが出ました。
 二つ目は答えというより歴史の整合性みたいな考察に当たるので、一つ目だけをば語ります。

 それは、カリン側にも煮え切らない部分があったんじゃないか? ということです。

 実は「やっぱり生きてるのは楽しい」は『仮面ライダー4号』での巧の台詞「やっぱり、生きてるのは悪くない」のオマージュだったりします。
 青春真っ盛りの18歳女子。まだまだこれから。自分の延命のために犠牲者を出すと知っても、「じゃあもっぺん死ね」と言われたら無理だと思うんです。現にカリンは自分から草加に頼んでおきながら、実際に屋上から落ちた時は抵抗もしたし悲鳴も上げてました。それは、どこかで二度目の死を受け入れ切れてなかったからじゃないかなー、って。

 佐久間の行いの罪や救いは、原作にてソウゴとゲイツがコンビネーション抜群に語りまくってくれた。
 ならば拙作ではカリン視点からストーリーを展開しよう。
 誰も書かないスポットから書く。それが、あんだるしあ流である(`ФωФ') カッ

 美都せんせーとの名札交換は次回への布石です。
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