70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome13 みのひとつだになきとても

 山吹さんが落ち着いて、徐々に泣き止んでいく。

 

「……ありがとう、織部さん」

「それほどでも。――女の子の顔を叩いちゃってすみませんでした。口の中が切れたりしてませんか?」

「平気よ。やっぱり織部さんて心配するポイントがズレてるのね。自分だって女子なのに、女の子の顔って」

 

 ふふ、と山吹さんは朗らかに笑った。

 

「そうよね。あなたはもう30歳の立派な大人で、私は18歳の小娘で時間が停まったままなんだもの」

「ま、まだギリギリ29ですっ。誕生日までは20代気分でいさせてくださいっ」

 

 ふと山吹さんは私に対して上目遣い。

 

「もしかして、学園で佐久間君とやり合った仮面ライダーの男子二人って、織部さんの教え子?」

「……クラス担任です」

 

 変身してやり合ったんですね、常磐君。二人と言うからには、明光院君もですね。

 未成年が集う学び舎の敷地で、何てやんちゃをしてくれますか君たちは。天ノ川学園にお詫びに伺うべきでしょうか。

 

「怖くないの? 仮面ライダーの“先生”するなんて」

「そういう気持ちがゼロではないです。それ以上にもっと怖いことがあるだけで」

 

 私の教え方が悪いばかりに、生徒が受験で落ちたりワーキングプアになったりしたらどうしようって、春先はプレッシャーで毎日が不安でした。いいえ、半年経った今でも不安でしょうがないです。気を抜いたら倒れそうなほどに。

 

 一クラス30人分の若者の将来を背負っているんですもん。受け持つ生徒の中に一人か二人の仮面ライダーが混ざったところで、生徒30人分に比べたら大したことじゃないですよ。

 

「――私も、織部さんのクラスの生徒になってみたかった」

「これからどうするんですか?」

「今度こそ草加さんに会いに行く。会って、終わらせてもらう」

「私も一緒に行きます」

「私に拒否権は?」

「ありません」

 

 山吹さんは、私と交換した名札を胸に当てて、微笑んだ。

 

 

 

 

 私は山吹さんを車に乗せて、草加さんとの待ち合わせ場所だという、市街地の一つの高架下を目指した。

 

 車は適当な場所に停めて、山吹さんと二人、草加さんが待つはずのその場へ向かったのですが、そこには予想外の光景があった。

 

 アナザーフォーゼ(ツクヨミさんに言わせると)が、生身の草加さんと乱闘している。今までの話で、アナザーフォーゼは佐久間龍一さんだってもう知っている。

 

 アナザーライダーである佐久間さんに、草加さんは一方的に暴行されている。彼我の実力を鑑みれば当然の流れ。

 

 痛めつけた草加さんの首をアナザーフォーゼが掴んだ。絞め殺そうとしている!

 でも、私が止めに入るまでもなかった。

 

「やめろぉ!!」

 

 どこからか駆けつけた乾さんが、アナザーフォーゼに体当たりした。

 その弾みでアナザーフォーゼが草加さんの首を絞める手を緩めた。草加さんは地面に転がって、咳き込んだ。

 

 私は急いで草加さんに駆け寄って、倒れた彼を支え起こした。

 

「草加さん、大丈夫ですかっ」

「これ、くらい…っ、ぐ…!」

 

 草加さんに替わってアナザーフォーゼに応戦する乾さん。でもやっぱり生身の人間じゃだめなの? 乾さんのパンチやキックが当たっても、アナザーフォーゼには大きなダメージに繋がってない。

 それどころかアナザーフォーゼが乾さんのお腹に重い一撃を入れて、乾さんを吹き飛ばしてしまった。

 

「やめて、佐久間君! こんなことしても何にもならない! もう私のために犠牲を出さないで!」

 

 山吹さんの訴えは本心からのものです。そこにさっき語った“自分可愛さ”はない。分かります。たったさっき号泣した彼女を見たんですから。

 

 私はアナザーフォーゼが怯んだ隙に乾さんにも手を添えました。

 

「乾さん――」

「くそ、何なんだこのバケモノは……!」

「乾……お前、何故そこまで」

 

 乾さんは痛みを殺しながらしっかりと草加さんを見据えた。

 

「俺はお前が嫌いだ、草加。だがな、お前は俺の仲間なんだよ! ――悔しいことにな」

 

 仲間。

 ここ何日か聞いた中で一番のパワーワードでした。

 

「美都せんせー!」

 

 私をそう呼ぶのは私のクラスの生徒だけで、この事態で駆けつける生徒には一人しか心当たりがありません。

 

「常磐君。明光院君、ツクヨミさんも」

 

 これにてアナザーフォーゼを三方向から囲む形になった。

 

『邪魔をするな! 全てはカリンのため!』

「佐久間君ッ!」

 

 アナザーフォーゼは足から発射したミサイルで爆煙を上げて、目晦ましにして姿を消してしまいました。

 

 山吹さんの気持ち、佐久間さんに届かなかった……

 

 ふいに乾さんがズボンのポケットから何かを取り出して、常磐君を呼びつけた。

 歩み寄った常磐君に乾さんが渡したのは、なんとライドウォッチです!

 

「以前からずっと持ってた。これはお前の物だろう?」

 

 ライドウォッチを持っていたなら、乾巧さんこそが歴史上正しい仮面ライダー555だったということになります。

 

 常磐君はライドウォッチを受け取ると、戻って行ってそれを明光院君の手に握らせました。

 

「――なに?」

「頼んだ。アナザーファイズを止めてくれ」

「俺が?」

「うん」

 

 明光院君は常磐君の真意を探るように彼を凝視しましたが、やがて、その手に555ウォッチを握って、踵を返して走って行きました。きっと行く先は、全ての始まりである2003年10月25日。

 

 2016年に飛んだ時みたいに明光院君に付いて行きたい気持ちは、無いわけじゃない。けれどこの場には、教え子の常磐君と、友人の山吹さんがいるから、自重した。

 明光院君が無事に2003年に行って帰ってきてくれることを祈った。まるで親兄弟を送り出すような心境で。

 

「ところで美都せんせーがどうしてここに?」

「山吹さんに付いて来まして。常磐君とツクヨミさんが来たなら、やっぱり仮面ライダー関係の事件なんですね」

 

 常磐君は頷いた。隠そうという素振りもなかった。

 

 

 女子高生連続失踪事件。その真相は、草加さんの口から改めて明かされました。

 

「佐久間の犠牲者は、世間では家出として扱われていた。佐久間のほうも、周囲にそう思われやすい、素行の悪い女子に目星をつけて襲っていた」

「雅人は何で彼女を狙ったの?」

 

 こら、常磐君。草加さんは君より二回りは年上なんですから、ですます調で話さないとだめじゃないですか。

 

「カリンも佐久間も、流星塾という養護施設の仲間だ。俺と同じくな」

「流星塾――やっぱり流れ星から始まったんだ!」

 

 私が常磐君にどういう意味かを尋ねると、先日、常磐君の前にまたウォズさんが現れたそうです。ウォズさんは「この件は流れ星から始まった」とだけ言って消えたそうです。

 流れ星。2003年10月25日、流星群を見に行く約束をしていた山吹さんと佐久間さん――

 

「バケモノになった佐久間は止められない。ならカリンのほうを葬って、カリンの遺体を佐久間から引き離せれば、あるいは。そう考えた」

「仲間のために自分の人生を台無しにしたわけだ。――馬鹿な奴だ」

「そう言う巧もね」

 

 ああ、常磐君たら、また丁寧語を忘れてる。

 

「佐久間さんも、ここにいるみんなが、自分を犠牲にして仲間を救おうとしてる。でもこのままじゃ誰も救われない。この犠牲のサイクルから脱出するために、やるべきことは一つだ」

 

 常磐君は山吹さんの正面に立った。

 

「俺は佐久間さんを止めたい。そのためには、君の助けが必要だ」

「私の?」

「雅人のやり方だと、さっきみたいに逆上した佐久間さんが何をするか分からない。佐久間さんを本気で止めるためには、誰よりも君が佐久間さんに、こんなのはもういい、って訴えなくちゃ」

「山吹さん……」

「大丈夫よ、織部さん。――常磐君、だっけ。むしろ私からお願い。佐久間君を、止めて」

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