山吹さんに聞くところによると、佐久間さんが女子高生の“狩り場”としている場所は、天ノ川学園の校区に編入してからは一つしかないそうです。
――郊外にある潰れた町工場。
逃がしたターゲットの女子高生を見つけたなら、佐久間さんがターゲットを連れ込むのはそこしかない。
乾さんと草加さんは、自前のバイクで一足先に現場に向かいました。常磐君も、乾さんのバイクに相乗りで先行です。
山吹さんとツクヨミさんは私が車で連れていくとして、その前に。
私は天ノ川学園で顔見知りの先生のスマホに連絡を入れました。
常磐君の証言からするに、おそらくはフォーゼウォッチを託したと思われる人物です。その先生に、逃げた女子生徒の保護を頼むことにしました。
「――。はい。なので……。ええ。すみません。よろしくお願いします。如月先生」
スマホでの通話を終えてから、私は女子二名を乗せた車でその町工場まで飛ばしました。法定速度ギリギリまでスピードを出しました。
私たちが駆けつけた時、すでに戦闘は佳境でした。
ジオウがフォーゼウォッチのリューズを押して、バックルの左側に装填、バックルを逆時計回りに回した。
『もう犠牲を出さなくていい!』
《 アーマー・タイム FOUZE 》
ジオウの両手に、文字通りロケットパンチが備わった。あちこちから炎と熱気を噴くデザインのボディ。モチーフは宇宙ロケットだと全パーツが主張しています。
アナザーフォーゼは焦ったようにジオウに襲いかかりました。ですが換装したジオウの膂力に、逆に押されています。
「やめて、佐久間君!」
『ッ、カリン……!』
「私はもう誰かを犠牲にしてまで生きていられない! それに、これ以上、佐久間君の人生まで犠牲にしたくない!」
『いやだッ! 俺はカリンを救う……カリンを……!!』
アナザーフォーゼは駄々をこねるようにジオウに掴みかかる。
ジオウは背中のバーニアと右のロケットパンチのブーストを噴かして、アナザーフォーゼの胸部を殴って吹っ飛ばしました。
見ているだけの私でさえ、胸が痛む光景でした。
山吹さんだけじゃなく、同窓生の草加さんさえ言葉を発しかねています。
『あんたは、彼女を救ってなんかない! あんたがやってることは、彼女を苦しめてるだけだ! だから――
――ここにいないはずのゲイツの声が、ジオウの声に重なって聴こえた気がした。
ジオウはバックル左右のウォッチのリューズを両方押して、ドライバーを逆時計回りに回した。全身の噴射口から噴き出す炎の熱がこっちまで伝わる……!
《 タイム・ブレイク 》
『ロケット錐もみキーーック!』
ロケット形態を取ったジオウが高く飛ぶ。
ロケットブースターの推力を全て乗せたキックが、アナザーフォーゼを貫いた。
着地したジオウが変身を解いた。私にとっては見慣れた常磐君に戻った。
けれど、決定的に異なるものがある。
厳しくも公正な、威風堂々とした佇まい。――王者の風格。
彼は、間違いなく“王”になる。
魔王か賢王かなんて問題じゃない。私はこの時、常磐ソウゴという人物にまぎれもない王聖を見た。
「アナザーファイズにならない……ゲイツ――!」
ああ――明光院君も2003年でやり遂げてくれたんですね。
人間の姿に戻った佐久間さんは、汗だくの顔で、這うようにこちらをふり返りました。
そんな佐久間さんに、山吹さんは駆け寄って、しゃがんで目線の高さを合わせました。
山吹さんが伸ばした手を、佐久間さんは弱々しく取った。
「カリン……ごめん」
「ううん、ううん……っ」
っ! 山吹さん、体が透けて……!
とっさに彼女を呼ぼうとした自分がいた。けれど、ぐっと我慢した。ここで山吹さんと佐久間さんのお別れを邪魔しては、だめ。
「佐久間君、今までありがとう。あなたは、自分の人生を、生きて」
それが、遺言。
山吹カリンさんという存在は、金色の光になって消えていった。
涙を流さないように拳を握った。きっと今ここで泣いていいのは佐久間さんだけ。
泣かないから、一回限りのお節介を焼かせてください。
私は佐久間さんに歩み寄ってしゃがんでから、公園で山吹さんと交換したあの名札を、佐久間さんに見せた。“山吹果林”と印字されています。
「これ……」
「不思議でしょう? 2003年に山吹さんが死んだなら、2006年度卒業生の名札に山吹カリンの名前なんてあるはずないのに。何故か、これは私の手から消えませんでした」
どうして残ったのかは分かりません。下の名前を「果林」という偽名にしていたからでしょうか。
山吹さんの名札をこわごわと受け取った佐久間さんは、その名札をきつく額に押し当てて、泣き出した。――号泣だった。
アナザーフォーゼ&ファイズ、ブッキング事件が終結した日、その夕飯前。
クジゴジ堂に帰ってから、俺は借り部屋にて、先生の私物である卒業アルバムを開いた。
やはりと言うべきか。2006年度卒のアルバムには、“山吹果林”の写真は一枚も載っていなかった。
“アナタはだーれも救わないんだ”
承知の上でアナザーファイズを倒した。俺がすることはそういうことだ、と。今さら感傷に浸ってどうする。
死んだ人間は生き返らない。失くしたものは戻らない。
現在を善くするためであっても、過去の歴史を変えてはいけない。それが確定した人の生き死になら尚更だ。ミトさんも大人たちもみんなが俺たちに言い聞かせたことだろうが。
ピリリリリリ♪ ピリリリリリ♪
だあぁ!?!?
……な、何だ。スマホの着信音か。脅かすな。
誰からだ? 番号交換はツクヨミと、あとジオウくらいとしかしてないはずだぞ。
とりあえず通話のアイコンをタッチして出てみた。
《こんばんは、明光院君。織部です》
「……何でだ?」
《すいません。常磐君に番号を教えてもらっちゃました》
よし決めた。今晩の夕飯のおかずを一品、ジオウの皿から没収しよう。
《取り急ぎお伝えしたいことが出来まして、こうして電話させてもらいました。明光院君からすればアナザーファイズだった、佐久間龍一さんのことです》
「! タイムジャッカーがまた手出ししてきたのか!?」
《い、いえっ。そういう切羽詰まった話ではなくてですね。――こほん。草加さんに教えていただいたんです。アナザーファイズにならなかった佐久間さんが、山吹さんの死後、どんな時間を送ってきたか》
俺は固唾を呑んで先生の言葉を待った。
《佐久間さん、今、“流星塾”っていう児童心療施設を経営してらっしゃるんです》
は? と、我ながら間抜けな声を上げた。
《2006年にはもう開いてたってことでして。12年前からあった施設なのに、私、初耳でした。名前はやっぱり、育った施設の“流星塾”から取って。なんでも、
「――そのことを、何故、俺に」
《明光院君が頑張った成果です。明光院君に一番に伝えるべきでしょう》
「俺が?」
《君が、ですよ。君が佐久間さんを2003年で止めたから、15年に渡って若い女の子たちを犠牲にするアナザーライダーの佐久間さんじゃなく、“子どもの心を癒そうと日々努める流星塾の佐久間さん”がいるんです。――山吹さんの名札や、こうして変わった歴史を自覚できる私が、どこか普通ではないことは薄々自覚しています。それでも今は、よかったです。こうして明光院君に言ってあげられる》
――労わりに満ちた彼女の声を、俺は一生、忘れない。
《よく頑張りましたね。えらかったですよ、明光院君》
おやすみなさい、と挨拶を交わして通話が終わる。
俺は壁に背中を預けてずるずると座り込んだ。
今の自分がどんな顔をしているか、鏡を覗くことだけは絶対にできない。
タイムジャッカーの契約者がどういう扱いか原作では語られてないのにやらかす。それがあんだるしあ流である(`ФωФ') カッ
与太話ですが、佐久間が「墓参りの帰りに会ったサッカー少年」は電王5・6話に登場した大輝君だったりします!
ちょうどサッカーチームのレギュラーから外されてすぐでしょんぼりな大輝君。そんな彼と佐久間が出会えたのは「カリンの墓参り」という出来事あってこそ。そうやってバタフライエフェクト的に二代目流星塾の出来上がりです。