70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome15 尽キ、陽炎

 西暦2018年の学生生活は毎日がハードモードだ。

 内心そう憤りながら、仮住まいのクジゴジ堂の暖簾を潜るのももう何度目か。

 

「ただいまー。――おじさん、何これ?」

「おお、おかえり。ソウゴ君はビデオデッキなんて知らないか。ハハッ、まーたお客さんから修理してくれって。ウチ、時計屋なんだけどねえ」

 

 そして、常磐ソウゴとクジゴジ堂店主のこの手のやりとりを聞くのも、本当にもう何度目か。

 

 ――高校生を装っていただけなのに、今の俺たちは何故か光ヶ森高校サイドから生徒扱いされている。

 具体的には、知らぬ間に教師陣に顔も名前も住まいも割れていて、ジオウの監視をしていると、教師の誰かが必ず来て「授業に出ろ」と俺とツクヨミを引きずっていく。教室に放り込まれたが最後、授業が終わるまでは脱け出せない。ジオウの担任の女教師の差し金かは未だ不明である。

 

「時計のことで来るお客さんっているんですか?」

 

 そういえばクジゴジ堂に住み着くようになってから、一度もその手の客を見たことがないな。

 

「あ~、()(つき)に一回だね」

 

 少ない。

 ストレートな所感が浮かんだタイミングに合わせたように、店のドアが外から開けられた。

 

「お邪魔します。時計の修理をお願いしたいんですが」

 

 これで向こう三か月は時計絡みの客が来ないこと確定だな――って。

 

「あれ、美都せんせーだ」

「こんにちは、常磐君。明光院君もツクヨミさんも、こんにちは。そういえば三人とも部活動をしてないから、帰宅はこのくらいの時間帯になりますよね。――初めまして、常磐さん。ソウゴ君()()の担任で織部と申します」

「あ、これはどうもご丁寧に。ソウゴの大叔父の順一郎です。ソウゴがいつもお世話になっております」

 

 ぺこり。ぺこり。頭を下げ合う店主と先生。

 

「美都せんせー。今、時計の修理って言った?」

「言いましたよ。クジゴジ堂は時計専門店だと伺いました。私の持ってる懐中時計は構造が難しいとかで、なかなか受け付けてくれるお店がないんですよね。光ヶ森高校に赴任してきてから半年、未だに行きつけを見つけられてなくて」

「ほほう。ちょっと拝見してよろしいですか?」

 

 先生はカウンターに置いたバッグから、おそらくはその懐中時計の現物を出したんだろう、店主に渡した。先生の背中に隠れてよく見えなかったが。

 

「これ、ビデオデッキですよね? 懐かしいなあ」

「美都せんせーは知ってるんだ、コレ」

「はいっ。私の小中学校時代はビデオありきでしたからね。高校に上がる手前にDVDがあっという間に台頭して、ビデオに撮った映像を移し替えるやり方が分からなくて、父親と二人で困ったものです」

 

 先生とジオウが記録媒体のジェネレーションギャップで盛り上がっている。――なぜだ。無性に面白くない。

 

「――なるほど、なるほど。こりゃあ確かに気難しい逸品ですねえ。これ、ハンドメイドでしょう? ベースの懐中時計にあとから機能を付け足したんでしょうな。直すには、少なく見積もっても一週間はかかりますけど、預かってもいいですかね?」

「よろしくお願いします。ウチじゃ無理、で突き返されてばかりでしたから、受けていただけただけでも」

「テレビ、エアコン、冷蔵庫。おじさんに直せない物は無いよ、せんせー」

「いやいやいや。こないだなんかさ、割れた花瓶を傷もなく元通りにしてくれなんて依頼があったんだけど、さすがにそれは断ったな。アタシゃね、ウィザード早瀬じゃないっつーの」

 

 ――“ウィザード”?

 

「ああ。隣町の芝居小屋で、ものすっごいマジックショーをしてるって噂のマジシャンですよね」

「美都せんせー、知ってるんだ」

「聞きかじりですが。さっきの『割れた花瓶を傷もなく元通りに』はウィザード早瀬の鉄板芸らしいですよ」

「面白そう! みんなで観に行こうよ」

「確かに面白そうだけど……」

 

 最近で一番の問題は、ツクヨミが常磐ソウゴにほだされつつあることだ。

 

 俺たちは遊ぶために50年も前の時代に転移して来たわけじゃない。そもそも常磐ソウゴは友達でも仲間でもない。2068年に君臨する暴君・オーマジオウとなりうる要監視対象、場合によっては倒すべき敵だ。

 

「……先生のいるとこですべき話じゃなかったかも」

「あ」

 

 そっちか! 心配するのはそこなのか、ツクヨミ!

 

「別にいいですよ?」

 

 そして、いいのか!? 今まで散っ々、俺たちにお節介を焼き倒したくせに!?

 

「法律的には、未成年が夜歩きして警察に補導されるのは午後11:00以降ですから。いくら先生でも、プライベートな時間まで拘束はできませんよ。日が短くなってきたので出歩くのを心配はしますが……」

「じゃあさ!」

 

 おいジオウ、何故そこでさも自然に先生の手を握る?

 

「美都せんせーも一緒に行こうよ。そしたら目の届くとこに生徒(おれたち)がいるから、心配じゃなくなるでしょ?」

「え?」

 

 ――は?

 

 

 

 

 

 常磐君のお誘いからは、とんとん拍子。気づけば私も隣町のマジックショーを観に行くことになっていました。生徒の放課後のプライベートタイムにお邪魔するなんて初めてです。

 

 蛇足ですが、車内での常磐君たちの会話は面白かったですよ。

 

 

 “ソウゴ、まさか運賃浮かすために先生を誘ったんじゃないでしょうね?”

 “そんなんじゃないって! 純粋に一緒に行きたいと思ったんだってば、信じてよ!”

 “お前に信用できる要素があった日がない”

 “今日まで割と一緒に戦う回数多かったのにゲイツひどくない!?”

 

 

 ……ええ、とても。ギリギリな漫才を聞いているようで。

 

 近場のコインパーキングで私の車を停めてから、向かった先は“マジックハウス・キノシタ”という小劇場。

 たくさんのお客さんで混みあっていたので、4人分の座席の確保は大変でした。

 売店へ常磐君と一緒に飲み物を買いに行った時も、レジの前は行列でした。

 

「私、本当にお邪魔してもよかったんでしょうか」

「いーのいーの。美都せんせーだって、もう立派に俺たちの仲間だもん」

「30直前のオバサンを捕まえて、仲間――ううっ、常磐君はいい子です。その純粋さを失わないで魔王になってくださいね」

「もっちろん!」

 

 飲み物の会計を済ませて、人数分のドリンクを持って売店を出た時でした。

 

「やあ、我が魔王。ならびに王母」

 

 通路を通り過ぎて、突き当たりの段ボールの陰に入ったあの人影。ウォズさんです。

 

 常磐君は何食わぬ顔でウォズさんに歩み寄って挨拶。常磐君に「元気?」と聞かれて答えたウォズさん、ちょっと嬉しそうです。

 

「二人ともずいぶんご機嫌のようだね」

「うんっ。マジックショーなんて見るの初めて」

「私もです」

「……近頃のキミはゲイツ君やツクヨミ君と距離が近すぎるな。王母、アナタともあろう人が付いていながら。教え子の交友関係には気を配るべきでは?」

「生徒のプライバシーに過干渉なモンスター教師にはなりたくないですので」

「それに、向こうはちゃんと俺のこと警戒してるよ? だいじょーぶっ。ちゃんと、いい魔王になるから。心配しないで。――行こう、美都せんせー」

「ええ。それじゃあ失礼します、ウォズさん」

 

 去り際に後ろから「……実に心配だ」とのウォズさんの言葉が聞こえました。

 ウォズさんの気持ちも分からなくはないのですけどね。でも、それが常磐ソウゴ君でしょう?

 

 

 

 

 

 ウィザード早瀬氏のマジックショーは、圧巻、の一言に尽きました。

 

 素手に火を点けて火傷もしない。両手の火の玉を投げて、花瓶とそれに生けた花々を燃やして、さらにその花瓶と花を元通り綺麗に復活させてみせた。

 

「すっげ。でも、あれってマジックじゃなくない?」

「私も思った。トリックや手品と言うよりは――」

「まるで本物の魔法だな」

「と言いますと?」

「俺たちの時代からすれば大昔、魔法を使う仮面ライダーがいた。レジェンド14・ウィザード。西暦2012年の仮面ライダーで、記録には“魔法”を自在に操ってファントムという敵と戦ったとあった」

 

 魔法使いが仮面ライダー、ですか。いまいちピンと来ません。どんな人だったんでしょう?

 

「もしタイムジャッカーがあの早瀬という男に仮面ライダーウィザードの力を与えたとしたら、魔法を使えても何ら不思議はない」

「調べる価値はありそうね」

 

 彩りを取り戻して客席上を踊る花の、花びらがひとつ、ちょうど私の手に落ちた。

 古びたセピアの劇場の中でも分かる鮮やかな色。こんなふうに“魔法”を使う人が、悪い人だとは思えないのだけど――




 もうオリ主を原作展開にがっつり巻き込んだほうが書きやすいので、後からあるいは別方面から途中参加の方針は捨てました。ぐいぐい行きます。

 今回はめちゃくちゃ葛藤しましたよ。教師が担当クラスの生徒からのお誘いとはいえ一緒に遊びに行って不自然じゃないか? ってとこ。

 ゲイツとツクヨミがいつの間にか光ヶ森生(仮)になったのは作者の趣味です(ドヤァ
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