70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 2話以来の進路相談室タイム入りまーす|д゚)


Syndrome18 “王母織部”

 

 

 クジゴジ堂のバックヤード兼リビングの長ソファーで、ツクヨミさんが眠っている。

 常磐君も明光院君もイスに座ってはいるけれど、それぞれ真逆を向いて、顔を合わせようともしない。

 

 私は光ヶ森高校の養護教諭である伊万里先生と電話するため、クジゴジ堂の店内へ出ていた。

 

《は~い、伊万里で~す。織部先生~、ツクヨミさんの様子、どうです~?》

「まだ眠ったままです」

《ですよね~。こ~して織部先生のほうから電話してくるんだから~、そりゃ進展ないですよね~》

 

 こんな伊万里先生だけど、実はれっきとした医師免許をお持ちです。実家が開業医なので家を継ぐために資格を取ったと聞きました。でも色々あって高校教師に流れ着いたんだと。色々、の部分は追及しなかったのでよく知りませんが。

 とにかく、一時はお医者様だった伊万里先生に、ツクヨミさんを診てもらったのが昨日の夜。

 

 “う~ん。外的要因なのは間違いないんですけど~、これって~、外傷やショック症状じゃないですよ~? 悪い魔法使いに呪いをかけられた白雪姫って感じですね~。病院にかかるよりも~、おうちで休んだほうがいいですよ~”

 

 伊万里先生からそういう診断を受けたので、ツクヨミさんはああして自宅療養中。

 

 ――悪い魔法使い。白雪姫。

 伊万里先生の場合、喩えなのか、核心を知ってあえてそういう言い回しをしているのか、いつも分からないのが恐ろしいとこです。

 

「伊万里先生は、ツクヨミさんの“呪い”は解けると思いますか?」

《解けるんじゃないですか~? 駆け出しとはいえ~、ナイトが二人も付いてるんですから~》

 

 常磐君と明光院君は、正確にはナイトでなくライダーですけどね。

 それに、私も。

 ツクヨミさんが目覚めるために、何かの助けになりたい。明光院君と同じで、ツクヨミさんだって私にとってはもう“生徒”なんですもの。

 

《織部先生~? あんまり()()()()()に感情移入しちゃうと~、辛いの織部先生のほうですよ~》

「ありがとうございます。でも私、生徒にせよ他人にせよ、人との向き合い方をこれしか知らないんです」

 

 ほら、よく言うじゃないですか。相手の立場になって考えてみろ、って。

 

 リビングから荒っぽい足音が二つ、こちらに向かってくる。

 

「すいません、伊万里先生。一旦切ります」

《お大事に~》

 

 通話を切ったスマホをバッグに仕舞ったところで、明光院君が出てきて、続いて出た常磐君が彼を引き留めた。

 

「何で早瀬さんは、いきなり同僚を襲ったりしたんだと思う?」

「ツクヨミまであんな目に遭って! 今さらそんな個人的な問題などどうでもいいだろうッ!」

 

 どうでもよくないですよ、明光院君。

 君も、私も、“そこ”をおざなりにしたことで、少なからずアナザーウィザード暴走の一因を担っています。

 でもそれは、今の状態の明光院君に向かって説くことじゃありません。

 

 ツクヨミさんは同じ2068年から来た、たった二人きりの仲間。片割れが人事不省になって、動揺して混乱している明光院君に追い打ちをかけても、もっと意固地にさせるだけ。そうなってしまったら、その分だけ彼の早瀬さんへの追及は苛烈になるでしょう。

 

 だから、今はあえて言いません。

 

「2012年に行ってアナザーウィザードを叩けば全て終わるんだ」

「それじゃあ根本的な解決にはならない気がする!」

「――付き合ってられんな」

 

 明光院君はクジゴジ堂の暖簾を潜って出て行った。

 

「常磐君」

「美都せんせー……俺、ゲイツの言う通り、ぬるい、のかな?」

「明光院君のようなタイプからはそう映ることもあるでしょう。逆に尋ねますよ。明光院君の言った“ぬるさ”を改めて、今からでも早瀬さんの事情無視でやっつけることが、常磐君にはできますか?」

 

 常磐君は思いっきり首を横に振った。

 ――できないのではなく、したくない。

 はい。常磐君のサイン、ばっちり受け取りました。

 

「どちらかが正しくて間違っているとか、君たち二人はそんな二元論的関係じゃないんです。常磐君は“最高最善の魔王”になるんでしょう? 明光院君とツクヨミさんは、常磐君の進む(みち)を見極めるためにそばにいます。こういう時こそ、王様の器の見せつけ所です。先生も全力でサポートしますから」

「ほんとに?」

「はい。少なくとも、常磐君が知りたがっている、早瀬さんが同僚の長山さんを襲うに至った経緯なら、先生が教えてあげることができます」

 

 私は常磐君に、長山さんの証言を一から十まで話して聞かせた。

 

「早瀬さん、社長さんのこと、6年もずっと好きだったんだね……そのためにタイムジャッカーと契約までして……」

「早瀬さんをかわいそうに思いますか?」

「うん……」

「では先生から一つだけ。ミステリーゲームの台詞の引用ですが、『恋は戦うべき時に戦わなくちゃ』、『戦わなかったことを死ぬまで後悔する地獄を這う』んだそうですよ。それを踏まえて、早瀬さんは香織さんに恋をしてから、一度でも “戦った”ことがあったのでしょうか?」

 

 常磐君の顔つきが変わった。彼の洞察力と理解の速さは仙人レベルですからね。

 

 常磐君は外していたジクウドライバーとジオウウォッチを取りに戻ってから、「ちょっと行ってきます!」とだけ言い残してクジゴジ堂を飛び出して行った。

 

 

 私は失礼して、奥のリビングに立ち入らせていただいた。

 ツクヨミさんが眠る長ソファーの横にあったイスに腰を下ろして、溜息一つ。

 

「ウォズさん。その境界を越えたら家宅不法侵入で警察に通報します」

 

 店内とリビングの出入口前に、いつの間にか立っていたウォズさんは、ひょいと肩を竦めた。

 

「王母にはずいぶんと気が立っておいでのようだ」

「私だって、自分の役立たず具合にムカつくことくらいあります。――常磐君がいないのに、私の前に出てらしたのは初めてですね」

「我が魔王を、いいや、()()()()()を助ける立場同士、一度くらいはこういう席があってもいいと思ってね。しかしアナタときたら、恋愛の哲学など説いてどうするのか。我が魔王にはウィザードウォッチを手に入れることに専念してほしいというのに」

「最短コースが正しいと常に決まっているわけじゃないですから。まして常磐君は18歳の学生です。人生で一番、寄り道に全力を傾けていい時期です。どうせ50年かかるんでしょう? スタート1年目で焦っても、いい結果なんて出ませんよ」

「実にご年配らしい弁舌だ」

「そこ地味に地雷なんで今後話題にしないでくれます?」

 

 ウォズさんは「してやった」と言いたげに笑って、ドアの前から離れた。

 私もイスを立って、クジゴジ堂のお店に出た。

 

 ウォズさんは店内のアンティークテーブルに着席していたので、私はウォズさんの向かいのチェアに座った。

 

「あなたに一つお伺いしたいことがあります。昨日、タイムジャッカーのスウォルツという人に襲われた時です。彼は私を“王母(しき)()”と呼びました。今までは『常磐ソウゴ君の先生』という立場が誇張されただけの呼び方だと思ってましたけど、違うんですか?」

「私の口から答える前に、アナタ自身の推測としては?」

「思いつくのは、律令制における八省の中の式部省と、私の苗字の“織部”の語呂合わせくらいですね。式部省は大学といった人材養成機関も管轄していたから、教育者という面で私の職とも重なりますし」

「そこまで察しがついているなら、由来は私が教えるまでもないかな」

「他には?」

「他と言うと?」

「オーマジオウが常磐君だとして、歴史全般に強い常磐君が()()()()()()()()()()()()()ですもん。あと一つくらいはひねりを加えてきそうだなあって」

 

 ウォズさんの笑みは意味深なそれ。

 

「今教えたら歴史が致命的に狂うって事情があったりするなら、教えてくれなくても別に構いません」

「では、お言葉に甘えて。今はまだアナタが知るべき時ではない」

「そうですか……ちょっと残念です」

 

 ウォズさんは特に相槌を打たず、いつもの本を持って席を立った。どこへ行くのか、目で追うことはしなかった。

 

 私は、少し間を置いて、テーブルを立ってリビングのツクヨミさんのそばに戻った。

 

 

 眠っているツクヨミさんが悪い夢を見ていませんように。

 

 明光院君が不安に苛まれて自分を見失ってしまいませんように。

 

 そして――常磐君が、今度も、誰かにとって正しい道を示す光のままでいられますように。




 基本的に原作のソウゴは弱音を吐かないし弱気なとこを見せません。
 ですので、拙作では、そういう部分は美都せんせーにだけ見せてきたポジションで行こうと思います。

 自分で書いといてアレですが、伊万里先生といい笠間先生といい、光ヶ森高校女性教諭は色々と動じなさすぎる。

 ソウゴの「歴史全般が得意科目」設定が原作に早く出てほしいんだぜ…(´・ω・`)
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