70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome19 恋の亡者に黄金の薔薇を

 

「あ、明光院君。おかえりなさい」

 

 クジゴジ堂に戻ってきた彼をそう言って迎えると、彼はリビングに入ってすぐの位置で立ち尽くした。私、おかしなことを言ってしまったのでしょうか?

 

「ツクヨミは――」

 

 私は無言で首を振るしかできませんでした。

 

 やっぱりアナザーウィザードを正しく撃破しないと、ツクヨミさんにかけられた眠りの魔法は解けないみたいです。

 

 そこでクジゴジ堂のドアが二度(ふたたび)開いて、常磐君のお帰りです。

 

 リビングに入ろうとした常磐君に、明光院君はウィザードウォッチを持つ男性のことを明かした。その男性がウォッチを持つ理由を忘れていることも。

 

「やっぱりそうなんだ。ライドウォッチの持ち主は、みんな記憶がなくなってる。戦兎も永夢もそうだった!」

「そういえば乾さんも、何故持っているかは覚えてないとお聞きしましたし、他に……ちょっと失礼しますっ」

 

 私は急いでスマホを取り出して、天ノ川学園の如月先生に電話した。

 

《もしもーし。どうしたんスか、織部先生。月初めの件からあんま経ってねえのに》

「お忙しい中すいません、如月先生。確認したいことがあるんです。そちらの学園の仮面ライダー部に保管されていたライドウォッチ、あれはもともと如月先生の持ち物ですか?」

《ライドウォッチ? ――あー、あれッスか! そうそう、まだ天ノ川で高校生してた頃に、あー、誰だっけ? とにかく俺と年頃の近そうな男子に貰ったんすよ。『いつか俺と弦太朗を繋いでくれる物』って言われたんだったか》

「そうでしたか……すみません、もう一つだけ。如月先生、フォーゼという名前にお心当たりはありますか?」

《ふぉーぜ? 何すかそれ》

「――いいえ。なんでもありません。突然のお電話、失礼いたしました。お話、ありがとうございます」

 

 電話を切って、常磐君たちをふり返る。

 

「確認取れました。私の知り合いの先生で、おそらく本家大元の仮面ライダーフォーゼだったと思しき方ですが、その先生もフォーゼのことを覚えてませんでした」

「美都せんせー、仮面ライダーの知り合いいたんだ!」

「そう言われると……そういうことになりますね。教職員の研修や協議会でお会いする時は、そんな話、全く出ませんでしたが。これはタイムジャッカーのせいでいいんでしょうか?」

 

 そこで、常磐君はいたずらっ子みたいにニンマリ。

 

「ウォズ! いるんでしょ?」

 

 決まった時刻ではないのに、鳩時計のハトは時を鳴き告げた。

 鳩時計を皮切りに店内は飾られた時計たちが大合唱。

 

「――やれやれ。私も便利に使われるようになってしまったな」

 

 ウォズさんが、私と話した時と同じテーブルに、いつの間にか着席していた。

 

 ……ウォズさんには悪いことしちゃいましたね。常磐君もウォズさんと話したがってると知っていれば、さっきのお話の時に常磐君が帰るまで引き留めたのに。二度手間を取らせてしまいました。反省。

 

「お前――ウォズの助力を受けるつもりか」

 

 明光院君はそれこそ親の仇でもあるかのようにウォズさんを睨みました。

 

「コイツは貴様をオーマジオウにするために動いているんだぞ! そもそもコイツは俺たちにとって……!」

「『そんな個人的な話などどうでもいい!』」

 

 ぐ、と明光院君が言葉に詰まった。

 

「ってね。結構似てたでしょ?」

 

 私個人が採点するなら、今の常磐君の物真似は87点です。ぱちぱちぱち。

 

「く――はははは! 芸達者だな、我が魔王は。いいだろう。この痛快さを賜り物として――我が魔王の仰せのままに」

 

 

 

 

 

 俺は先生と二人して、ウィザードウォッチの持ち主――仁藤攻介がキャンプを張っている稲荷神社の松林へ赴いた。

 

 ガスコンロと金網でしおれた魚介類を炙っている仁藤に向かって、先生は特に気負いもせずに歩み寄った。

 

「お? あん時のおねーさん先生じゃん。そっちの教え子とは仲直りできたか?」

「鋭意努力中ってとこです。改めまして、仁藤さん、先日は困ったところを助けてくださってありがとうございました。織部と申します。光ヶ森高校で教師をしております。これ、先日のお礼です。たまたま近くを通った移動販売のドーナツなんですけど」

「こりゃどうもご丁寧に。そーか、高校教師かぁ。美人のセンセーに恵まれてよかったなぁ、ツンツン」

 

 先生じゃない、と言い返そうとしたが、前に当人に向かってそう言った時の彼女の表情を思い出すと声にならなかった。

 

「んで。分かったのか? 何で俺がこいつを持ってんのか」

「いいや、まだだ。だがじきに分かるはずだ」

 

 ウォズが明かした、アナザーライダーとオリジナルライダーの因果関係、記憶にまつわる疑問点への解。

 それらのピースを集めて常磐ソウゴが立てた作戦。

 俺が前線に出ず仁藤に会いに来たのも“作戦”の一環だ。

 

 ジオウがアナザーウィザードを撃破すれば、仁藤の記憶は正史のそれに修復される。

 「理由が分かるまで渡せない」と先に言ったのはコイツのほうだ。短時間であれその条件を満たしたならば、仁藤も大人しく俺にウィザードウォッチを差し出すだろう。俺はここでその時を待つだけでいい。

 ウィザードウォッチを入手次第、俺は2012年に飛んでアナザーウィザードを撃破する。ジオウは現代のアナザーウィザードを止める。そういう手筈だ。

 

 目の前でのほほんと世間話をする先生と仁藤を流し見つつ、俺は適当な松の木にもたれた。

 

 ……釈然としない、というのが本音だ。

 

 ファイズウォッチもウィザードウォッチも、結果的に常磐ソウゴに渡らない。奴のオーマジオウへの流れは少しずつ断ち切れている。

 

 だから、この引っかかりは、もっと根幹的な部分。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 奴のそんな行動理念が俺には計り知れなくて、時として空恐ろしいとさえ感じるのだ。

 

 レジェンドライダーの結末は一通り知っている。中には、人類と世界のために、命を落としたり、怪物になったりといった末路のレジェンドライダーもいた。どの仮面ライダーの伝記も、目を通せばその境地に至るまでにまだ納得が行った。

 

 だが、常磐ソウゴは別だ。

 あいつはどうして“王”になりたいんだ?

 

 信じられないことに、俺はこの時、本心から、仇敵の内情を考えたのだ。

 

「きゃ! 仁藤さん!?」

 

 っ! ……思考に没頭しすぎた。なんて、迂闊。

 

 ひっくり返った仁藤に、先生は何度も呼びかけて肩や手二の腕を叩いている。

 このタイミングでの唐突な昏倒。おそらくはジオウがアナザーウィザードを叩いたんだ。今なら仁藤もライドウォッチを持っていた理由を思い出したはず。

 

 俺は先生に、仁藤から離れるように促して、記憶の有無の確認をしようとした。

 ――起き上がりざまに仁藤が、俺の腕を掴んで一本背負いをしなければ。

 

「明光院君!?」

 

 俺は受身を取って即座に立ち上がり、いつでもジクウドライバーを装着できる態勢を取った。事情は知らないが、今のは敵対行為だった。

 

 仁藤はというと、黒い指輪を嵌めた右手を下腹部にかざした。するとそこに黒い指輪と同じ意匠の、黒い手形のバックルが現れた。

 

《 ドライバー・オン 》

「変――身っ!」

 

 仁藤はバックルの左に、獅子をモチーフにした指輪を嵌めて開錠した。

 

《 L・I・O・N  ライオン 》

 

 仁藤が変身した――仮面ライダーに。

 

 まさかこの男、2012年のレジェンドライダー14・ウィザードと共闘したと記録にあった、“二人目の魔法使い”こと仮面ライダービースト! 身に宿した力は百獣の王。ドラゴンを制していたウィザードとは「竜獣相並ぶ」とも賞された仮面ライダー。

 

 いいだろう。俺はぬるい常磐とはちがう。そっちがその気なら強引にでもウィザードウォッチを奪ってみせる。

 

 余裕綽々に構えるビーストの前で、俺は装着したジクウドライバーに自分のウォッチを装填して、バックルを逆時計回りに回した。

 

「変身!!」

《 ライダー・タイム  カメンライダー  GaIZ 》

 

 ラウンド開始の合図はなし。

 俺とビーストは同時に拳を、蹴りを、くり出した。

 

 

 

 

 ビーストの動きは目まぐるしい。長く仮面ライダーとして戦ってきた俺が、ようやく動体視力が追いつくスピードだ。さすがはレジェンドライダーの一角と言わざるをえない。

 だが――圧されてはいない。少なくとも攻撃の手数はビーストより俺が多い。

 次の一撃でチェックメイトだ――!

 

『ストーップ!』

 

 ……何だと?

 

『オッケー、オッケー。急に悪かったな。本当にウォッチを渡す相手がお前で間違いなかったか、ちょっと確認したかっただけだ』

 

 仁藤は左手から指輪を抜いて変身を解除した。

 

 俺もまたジクウドライバーからウォッチを抜いて変身を解いた。

 

「このウォッチとやらは、過去にお前に渡されたんだったな」

 

 俺が? ということは、少なくとも俺はこのあと2012年に時空転移するわけか。

 

 仁藤はまず、二つのライドウォッチの内、ウィザードウォッチだけを俺に投げ渡した。

 

「おい。もう一つのウォッチは……」

「あーっ、皆まで言うな。今返すのはそっちだけだ。それと、後ろのセンセーにはホイ、こっち。俺たち指輪の魔法使い界隈で贔屓の店から」

 

 次に仁藤が先生に向かって放り投げた品は、装着する指よりでかい宝石を飾った指輪だった。

 ――待て。指輪……指輪っ!?

 

「試供品だが効果は確か。一週間で魔力が切れちまうのが玉に瑕だがな。ま、それまでは“お守り代わり”として持ち歩いてくれ」

「え、あ、ええと、あの、はぁ。わかりました」

 

 アンタはそこで頷くな! 警戒心がないにも程がある、それでも教育者か!?

 

「おーし。気張れよ、ツンツン。俺たち“指輪の魔法使い”の力は、お前に託したからな。んじゃな~」

 

 仁藤はテントの中に入ってしまった。おそらく引きずり出してもこれ以上の情報を奴は吐くまい。疑問は残るが、今はそれより急ぎの用がある。

 

 俺は上空に光学迷彩をかけて待機させていたタイムマジーンを呼んだ。

 

 実体化した赤いロボット型タイムマシンに向かう。

 俺の後ろから先生が続いて歩いて――来ることはなかった。

 

「今回は付いて来ないんだな」

「え? それって……一緒に行っていいってことですか!?」

「ちがっ、ちがう! 単に気になったことを聞いただけだ!」

「で、ですよね。――正直に言うと、君を見張りたい気持ちがゼロではないです。今回の明光院君、悪い意味で前のめりですから」

 

 ぐうの音も出んとはこのことか……!

 

「でも常磐君は、ウィザードウォッチを、自分じゃなく君が手に入れて2012年に飛ぶことを前提にした作戦を立てました。そこには、明光院君を自分の思い通りに動かしてやろうとかいう打算や下心はなかった。なら私の同行は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()って意味に他ならないんです! だから今回は身を引きます!」

 

 ――やっぱり、常磐ソウゴのため、か。

 

 俺は先生に背を向けて、開いたタイムマジーンのハッチから機関内部へ乗り込んだ。

 その俺を追いかけるように、なお先生は叫んだ。

 

「明光院君は一度、佐久間さんを救いました! だから私は確信しています。今度だって明光院君は、早瀬さんを腐った恋の毒から救うって!」

 

 そのときこの胸を打ったのは、送られる声援のどれかか、それとも声そのものか、訴えた彼女の真剣なまなざしか。

 

 コクピットが閉じた。

 システム、オンライン。オールグリーン。転移先座標指定のディスプレイが目の前に投影された。

 

 精神がかつてないほど研ぎ澄まされている。

 

 

 “なんか、イケそうな気がする!”

 

 

 ――こんな時に回想してしまうとは、なんとも皮肉が利いている。

 

「時空転移システム、起動!」




 仁藤が美都せんせーにあげた指輪はそこそこキーアイテムとして後日再登場します。何の魔法がこもっているのかはそれまでお楽しみということで一つ。

 ゲイツと同行する回数が多くね? 的なご指摘を頂いたので、この場を借りて申し上げます。
 恋愛ではありません。
 恋 愛 で は あ り ま せ ん (`ФωФ') カッ
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