70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 タイトル出典:アンソニー・トロロープ。19世紀イギリスの小説家。


Syndrome20 愛する勇気のある者には、必ず苦しむ勇気がある

 はぁっ、はぁっ……!

 

 明光院君を見送ってから、私は常磐君がアナザーウィザードと戦っている現場に急行しました。

 

 全力疾走って、こんなにしんどかったっけ?

 ああもうっ、歳は取りたくないものです!

 

 ジオウとアナザーウィザードが乱戦中のシーサイドガーデンに、どうにか、着いたー!

 

「さあ、我が魔王。ゲイツ君がウィザードウォッチを手に入れたようだ。私たちも2012年に赴こう」

 

 でもウォズさんの神速には及びませんでしたー!

 何なんですかチートですか未来のテクノロジーですか!? 

 

『いいや! 俺はここに残る!』

「――は? 何を言っている?」

 

 ウォズさんが本気で戸惑った声、初めて聞きました。

 

「これ以上、ここで彼を相手にしても意味はない」

『意味ならある!』

 

 ジオウは取っ組み合っていたアナザーウィザードから一旦距離を取って、フォーゼウォッチを起動してバックルに装填、バックルを逆時計回りに回しました。

 

《 アーマー・タイム  FOUZE 》

 

 フォーゼアーマーに換装したジオウは、ロケット形態になってアナザーウィザードへ突進した。

 

 ジオウはよく分かっている。――そう、意味はある。君の決断は確かに意味あるものになるでしょう。この虚しく、けれど必要な争いが終わった、全てのあとにこそ。

 

 これは、試練。早瀬さんが“魔法”というベールで覆った6年の歳月の中で腐らせてしまった恋心と、訣別するための試練なのです。

 

 早瀬さんの恋の試練は本来、発生すらしないのが運命だったと、私は思うんです。

 アナザーウィザードにならなかったとしても、早瀬さんは香織さんに想いを打ち明けられなかった。長山さんと香織さんの婚約を聞いて、早瀬さんは寝耳に水。彼は日の目を見なかった恋心を腐らせて、6年と言わずもっと長い時間、後悔という地獄を這いずることになったでしょう。

 

 ですけどね、そんな“民”を放っておけないのが、そこにいる“最高最善の魔王”志望の高校三年生男子でありまして。

 

『この力があれば、全部上手くいくはずだったのにぃぃ!!』

『ライダーの力は、何かを上手く行かせるためのものじゃない。大切なものを、守るための力だ!』

 

 アナザーウィザードが放った火炎を、ジオウはあえて真っ向から受けた。ジオウはそれでも立ち止まらないで走って、アナザーウィザードをついに捉えた。

 

『だから、だから俺はお嬢さんのために……!』

『でもッ! いつしか自分の想いを実らせたくなった。好きな人のためだった奇跡(まほう)は、自分のための呪い(まほう)に変わった!』

『うるさァァい!!』

『~~っっ、目ぇ覚ませよッ!! 守りたかった人を襲ってさ――あんたに必要なのは、魔法なんかじゃない! 想いを伝える勇気だろ!?』

 

 はっとしたように、アナザーウィザードは――早瀬さんはその場に膝から崩れ落ちた。

 

 よくぞ言いました、常磐君。先生は鼻が高いです。

 

 私は潮風に吹かれる身を少し縮めて階段を降りて、同じ風にコートと髪をなぶられているウォズさんに歩み寄った。

 

「ウォズさん。今日二人だけでお話しした時に、私が言ったこと、覚えてらっしゃいます?」

「『最短コースが常に正解とは限らない』?」

「はい。今でもそこんとこは変わりません。意味のないことなんて、彼くらいの若い子には一つだって無いんです。最短コースは最適解であっても、正答ではないのですから。ジオウがアナザーウィザードとの対話を意味あることだと思っているなら尚更です」

 

 ジオウはドライバーの左右のウォッチのリューズを押して、トドメの態勢に入った。

 

《 フィニッシュ・タイム  》《 FOUZE 》

 

 ――終わりの時を晩鐘が告げる。

 

 ロケット形態に変わったジオウはバーニアを噴いて宙を駆け、ローリングしながらアナザーウィザードに突っ込んだ。

 

《 LIMIT  タイム・ブレイク 》

『ロケット錐もみキーーック!!』

 

 前回と同じ一撃でのフィニッシュ。常磐君は見事アナザーウィザードを退治して、早瀬さん本来の姿を取り戻しました。

 早瀬さんが再びアナザーウィザードに変貌する様子はありません。2012年で明光院君もきっちりすべきことを果たしてくれたみたいです。

 

 さてさて。今回ばかりは、アナザーライダーをやっつけてめでたしめでたしとは行きません。むしろここからが本番です。

 

 私は自分のスマホから明光院君のケータイ番号に電話を発信して、そのスマホを常磐君に渡しました。

 常磐君は特に驚いた様子もなく、待ってましたとばかりに私のスマホを受け取って通話し始めました。

 

「ゲイツ? 俺。ソウゴ。そこにさ、2012年の早瀬さん、いるよね? ちょっと替わってほしいんだ」

 

 常磐君が2012年にいる明光院君と通話する間に、私は早瀬さんに軽い解説をします。

 といっても、「深く考えないでください」と早瀬さんを笑って言いくるめて、よけいな一言を付け足す程度なのですが。

 

「あなたが今、胸に一番強く感じている想いを、そのまま言葉にしてください」

 

 常磐君が笑顔で早瀬さんにスマホを差し出しました。

 早瀬さんは恐る恐る、受け取ったスマホに耳を当てて、過去の自分自身と話し始めました。

 

 早瀬さんは過去のご自分にエールを送りました。

 勇気を出せ。お嬢さんに恋心を明かせ。結果が変わらなくても、2012年のお前の未来はきっと変わる――と。

 

 ――早瀬さんはもう恋の亡者じゃない。腐った恋心は根こそぎジオウが引っこ抜いた。もう、大丈夫ですね。

 

 電話を終えて脱力する早瀬さんの肩に、常磐君は優しく手を置いて、笑って頷きました。

 

 

 

 

 

 やがて早瀬さんは、常磐君に頭を下げてから去って行きました。

 

 早瀬さんの背中が見えなくなってから、隣で見送りをした常磐君が、ながーく息を吐いてその場にしゃがみ込みました。

 

「よく頑張りましたね、常磐君」

「――俺、ちゃんとできてた?」

「ええ。先生的には、オール5の成績表をあげてもいいと思いました」

「う~~っ、美都せんせー!」

「はい、そこまで」

 

 立ち上がって私に抱き着こうとした常磐君の顔面を、手の平でべしゃっとして阻んだ。

 

「親愛のハグを許すのは女子生徒まで。かつ、志望校の合格発表か卒業式の日に限ります」

 

 ちなみにこの中のどれでもないドッキリを狙ったハグの場合、生徒が男女どちらであっても許しません。

 

「常磐君は特に。中間テストが迫ってますので、その点数と期末の成績によっては、卒業できないことも視野に入れないと」

「思い出したくなかった現実がーっ!」

「そうですねえ。常磐君は理系に弱いですから、前に話してた、物理学者の桐生さんに教わりに行くのはどうです? もちろん先方の都合ありきですけど」

 

 言いながら、私はついさっきまで立っていた階段を見上げた。案の定、ウォズさんの姿はなかった。

 全く、神出鬼没な人です。いつどこで会うのか分からないから、菓子折りを用意したって渡すこともできません。

 

 ――私だって、これでも常磐君たちよりは“大人”です。

 ウォズさんが常磐君に対して腹に一物あることも、彼が根っからの善人ではないことも察していますとも。

 ですが先日も言いましたように、私は生徒のプライバシーに過干渉なモンスター教師になりたくはありません。

 ――何より、()()()()()()()()()()。なのでまだ泳がせておく。

 

「今日のせんせー、なんか冷たい気がするっ」

「甘やかしてばかりでは、生徒の成長を妨げますから。時には突き放すのも愛の鞭です」

「今はムチよりアメが欲しいんだけどなあ」

「だ・め・で・す」

「はーい。――あ!」

「きゃっ?」

「アナザーウィザードが消えたんだから、ツクヨミ、もう起きてるかも! 早く帰ろう!」

「あ、そういえばそうですね。早くツクヨミさんに顔を見せて、安心させてあげてください」

「うん! じゃあ美都せんせー、学校でまた明日ね!」

 

 また明日。ああ、何て胸に染みる言の葉でしょうか。

 

「――はい。気をつけて帰ってください」

 

 常磐君は満面の笑顔で、私に手を振って駆け出しました。

 

 名残惜しいけれど、“また明日”。

 明日の私は、また一回り成長した君と会える。




 ファイズフォンでなくてもやっぱり時空を超えて繋がる美都せんせーの電話の謎やいかに?

 美都せんせーはソウゴたちよりちょっぴり早く社会に出たので、年相応には大人らしい打算を備えています。
 もっとも美都せんせーの場合、打算や機転を利かせて上手く立ち回ろうとしても、持ち前の素直さがそれらを台無しにしちゃうシリアスブレイカーなんですけどね(^^;)

 ゲイツが飛んだ2012年はウィザードのクリスマス回に該当すると知ったので、我が家のゲイツはそこにお邪魔させることにしました。
 ゲイツは仮面ライダーウィザードの“引退試合”をきっちり見届けて、翌日にアナザーウィザードをやっつけて帰ってきたってことで。
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