70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Interval3 差し出した指に“ラスト”エンゲージ

 西暦2012年に転移してすぐ、ディスプレイが映し出した眼下の戦場。それは仮面ライダーエグゼイドたちの2016年に出た時を想い起させた。

 

 有体に言えば、地上では仮面ライダーウィザードが怪物の群れと戦っていた。

 

 俺はウィザードが怪物を掃討し終えてから、タイムマジーンを下降させた。

 

 

 

 

 

「未来人?」

「お前たちから見ればな」

 

 ウィザードこと操真晴人とのコンタクトを試みて、話の場を“面影堂”という宝石店に移してから、俺はこちらの情報を操真晴人たちに告げた。

 

「歴史を変えるべくタイムジャッカーという連中が暗躍している。そのせいで、お前の持つライダーの力、お前たちが呼ぶところの魔法の力が消えることになる」

「それを忠告しにはるばる2018年からタイムトラベルして来た……ってだけじゃなさそうだな」

 

 ソファーに腰かけている操真晴人は、口元こそ笑みを刷いているがその目は笑っていない。戦場に精通した戦士の目――熟練の仮面ライダーの目だ。

 

 状況こそエグゼイドたちとの対談と似ているが、相手の格はナメてかからないほうがよさそうだ。

 

 そこで面影堂のドアが開いた。入ってきたのは、小柄な女子が一人、赤と白のやたら短いスカートの女が一人、そして女二名に連行されたブリーチの男の、総勢三名。

 

「ただいま、晴人」

「おかえり、コヨミ」

「ごめーん、晴人くん! 彼を連れてくるの手間取っちゃって」

「いやいや。むしろあの状況からここまで引っ張ってきただけでも凛子ちゃんスゴイ……ふはははははーっ!」

「笑うなーっ!」

 

 ……何だこの混沌極まる空気。

 

 操真は連行された男に「まあ座れって」とやんわり着席を勧め、男が襲われた理由やそれにまつわる背景を明かした。

 

 その解説の中に、聞き捨てならないワードがあった。

 

「今――ゲート、と言ったか?」

「言ったぞ。ゲートに当たる人間が絶望した時、その人間を内側から食い破ってファントムが生まれる。その時がゲートとなった人間の死。それがどうかしたか?」

「……ゲートを名乗る仮面ライダーが、俺の時代にいた。それを思い出しただけだ」

「2018年にか」

「いや、2068年のほうに……」

 

 って、感傷的になって要らん情報まで開示してどうするんだ、俺!

 

 操真は俺をじっと見たが、追及することはなかった。

 

 短気を起こして出ていこうとした、達郎という男を、操真は一度だけ引き留めた。だが達郎も一筋縄では応じない。

 

「今日は俺の“希望の日”なんだよ!!」

 

 操真がきょとんとする間に、達郎は店を出て行った。

 

 操真はコートを着ると、達郎を追って店を出た。

 

 ――タイムマジーンの座標が一日ズレた以上、操真晴人がどのタイミングでライダーの力を失うか、アナザーウィザードがいつ発生するかに疑義が生じた。ならば俺は操真を見張っているのが次善か。

 

 俺も操真を追って面影堂を出た。

 

 

 

 

 

 操真から数歩後ろを歩いていた俺は、どうにも街が奇妙なざわめきと昂揚に満ちているように見えた。

 背の低いモミの木の模型に飾り付けをした物と、凛子と呼ばれた女が着ていた服に似た格好の人間があちこちで目に付いた。

 

「珍しいか? クリスマスシーズンの街は」

 

 操真に看破されて、悔しいやら照れくさいやら。

 

「クリスマスというイベントについての知識はある。神の子が誕生した日を祝う風習が、日本に入ってお祭り騒ぎをする口実になったと。実際に行われているのを見たことはないが」

「――そうか。2068年じゃ、クリスマスは廃れた文化なんだな。俺自身は思い入れがあるわけじゃないが、実際にそう聞くと残念だ」

「クリスマスというのは、そんなに大切な文化なのか?」

「んー。改めて聞かれると答えるのが難しいな。まあ何だ、クリスマスの、特に前夜(イヴ)は聖夜なんだ。いがみ合う人間同士でも心を通わせていい。親しくない相手にも無条件で贈り物をしていい。そういう特別な日、かな」

 

 操真は使い魔を駆使して器用に達郎の足跡を追った。

 

 達郎はいくつもの日銭仕事を掛け持ちしていて、一つの仕事が終わったらまた次の現場へ行って精力的に働く、そんなくり返し。

 達郎がそこまでする動機を、俺と操真は、やがて達郎の出身だという孤児院で聞くことになる。

 

「――ビッグプレゼントね。十中八九、達郎が匿名で置いてったプレゼントだろう。働き者なのはクリスマスプレゼントの費用を捻出するためだったのか」

 

 達郎がプレゼントを購入しに入った店の前で、俺は操真と共に達郎が出てくるのを待った。

 

 さんざめく群衆。笑顔の通行人。どれも2068年では見られなかったものだ。

 

 やがて店から、両手にいっぱいの大小のプレゼントボックスを抱えた達郎が出てきた。

 達郎は苦い顔でこちらをスルーしようとしたが、操真がそれをさせなかった。

 

「園長に聞いた。今日は子どもたちの希望の日なんだな」

「……それだけじゃない。このクリスマスプレゼントは、俺にとっても希望だ」

 

 達郎は歩みを止めずに、心中を吐露した。

 

 身寄りのない達郎たちにとって、クリスマスプレゼントは“希望”だった。普段は乱暴な自分でも、クリスマスだけは誰かの希望になれる。

 

「子どもたちにプレゼントをあげるこの日だけが、俺の希望の日なんだよ。……分かったらもう俺の邪魔はすんな」

「手伝うよ」

 

 操真は達郎が抱えていたプレゼントの半分を、ひょいっと攫って腕に抱えた。

 

「誰かの希望になりたいって気持ち、俺にも分かるから」

 

 達郎は操真をまじまじと見ていたが、やがて警戒は鳴りを潜めて、表情を緩めて――

 

『なるほどなァ』

 

 俺は即座に臨戦態勢に移った。操真もまた、俺と同じかより迅速に身構えたものの、頭上から襲ってきた怪人に大剣を揮われて、避ける際にプレゼントを落としてしまった。

 

「フェニックス――!」

『こいつがゲートの心の支えってわけか』

「グールに達郎を襲わせたのはお前だったのか」

『ああ。けどゲートなんて本当はどーでもいいんだ。俺はただ、テメエと遊びたいだけだ。魔法使い』

「っ、ゲイツ! お前は達郎を守れ!」

 

 俺が反駁する暇もない。操真は左手に指輪を嵌めて、ドライバーにその左手をかざした。

 

「変身!」

《 “フレイム”  ヒィ・ヒィ・ヒーヒーヒー! 》

 

 本物を見るのは初めてだ。あれが“指輪の魔法使い”、仮面ライダーウィザード。

 だが悠長に見物している暇はない。

 

 俺は達郎に駆け寄って腕を掴み上げた。

 

「おい、逃げるぞ!」

「プレゼント置いて行けるかよッ!」

 

 達郎は無我夢中でプレゼントを掻き集める。

 

「! 伏せろ!」

 

 戦いの余波で炎がこっちまで広がった。その炎は皮肉にも、死守せねばならない達郎のプレゼントに引火してしまった。

 

 ――もしも先生がこの場にいたら、どうした?

 

 先生ならまず達郎に駆け寄って、「大丈夫ですか!?」と支え起こす。それから、火に巻かれるプレゼントを一つでも多く掬い上げようとするんだろうな。素手で。自分の手が火傷しようとお構いなしに。織部美都はそういう教師だと、俺にも分かって来た。

 

 ここで俺が、先生がするであろうことをそっくりそのまま実行したのは、後にも先にも理由が付けられない行いとなる。

 

 だが、一斉に燃える大小様々なプレゼントを全て掬い上げるのは無理だった。無事回収できたのはほんの2、3箱で、大半はフェニックスの炎で焼け落ちてしまった。

 

 フェニックスを青い法衣のウィザードが押し返して、初期フォームに戻ってこちらへ来た。

 

 ウィザードは鼈甲色の宝石を冠した指輪を達郎の指に嵌めて、その手を自身のドライバーに翳した。

 

『約束する。俺が最後の希望だ』

《 “エンゲージ” 》

 

 赤い光が魔法陣を刻んだ。

 ウィザードがその魔法陣に飛び込む――寸で。俺の襟首を掴むと、俺を連れて魔法陣へダイブした。

 

「おい! 何のつもりだ!?」

『何って、仮面ライダーウィザードの引退試合だ。きっちり見届けろよ、未来最先端の仮面ライダー?』

 

 仁藤といいこいつといい、魔法使いは事前に予告という発想がないのか!

 

 落下しながらもジクウドライバーを装着して、ウォッチを装填して変身した。

 

 

 

 

 

 外に戻った時には、夜も更けていた。

 

 操真は変身を解くと真っ先に達郎に駆け寄った。

 

「ごめん。お前を助けるのが精一杯だった」

「命が助かっても、プレゼントがなきゃ……これじゃ今夜は間に合わねえ」

 

 達郎にとっては絶望してファントムを生み出すほどに大切な品々だったのに、俺も操真もプレゼントを守り切れなかった。そのことが胸に棘となって刺さった。

 

 ふいに、操真が持っていたプレゼントの小箱が淡く光った。あれは、達郎のアンダーワールドで現れた、真っ赤な服で白いひげを蓄えた老人が、俺と操真に渡した品だ。

 

 操真が取り出したそれは、魔法石の指輪だ。操真はさっそく指輪を左手に通して、ドライバーにかざした。

 

《 “メリークリスマス” 》

 

 明るい楽曲が流れて魔法が燃えたプレゼントの残骸に降り注いだかと思うと、なんと、プレゼントは全てが完全に修復されて元通りになっていた。

 

「嘘だろ……こんな魔法はありえない! まさか、本当のサンタクロースだったのか?」

 

 俺のほうには何が入ってるんだ?

 俺も小箱を開けた。入っていたのは魔宝石の指輪だった。操真が達郎のアンダーワールドに入る時に用いた“エンゲージ”と全く同じデザインだ。

 

 俺がその指輪を操真に見せると、操真は肩の荷が下りたとでもいうような笑みを浮かべた。

 

「いつかお前も、大事な誰かの指にそれを通す日が来る。聖夜の賢者はお見通しってわけだ」

 

 訳が分からない……

 

「いずれ分かるさ。ほら、ボサッとするな。達郎のプレゼント運び、手伝いに行くぞ」

 

 

 

 

 

 達郎は無事、養護施設にプレゼントを置いて来られた。

 それだけじゃない。施設の園長がそのことに気づいて、達郎を引き留めて「帰ってこい」と熱心に言った。達郎もついに折れて、園内に入っていった。

 

 ――なんとなく、分かった気がする。仮面ライダーウィザードが護ってきた、尊いもの。

 

「ここまでだな」

 

 雪が降り始めた時に、唐突に操真は言った。

 

「どうやら俺の力は消えるみたいだ」

 

 操真の全身から光の粒子が立ち昇っていく。操真晴人を“仮面ライダーウィザード”たらしめる要素が空気中に消えていく。

 

「俺はここまでだ。未来は頼んだぞ、仮面ライダー」

「言われるまでもない」

 

 俺は手持ちのブランクウォッチ二つを操真に突きつけた。

 

「持っていろ。いずれお前と同じ“指輪の魔法使い”が現れる。魔法使いでなくなったお前たちがどんな出会い方をするかは知らないが、お前はこれをその男に託す」

「そして2018年で縁が繋がると。ああ、そういうことなら持っておく」

 

 寄り道は終わり。

 ――俺にとっては意義ある“寄り道”だった。

 

 これから、アナザーウィザードとなった早瀬を、ウィザードウォッチでの変身で撃破しに行かねばならない。

 

「じゃあな。ゲイツ」

「ああ。さよならだ。操真晴人」

 

 操真がウィザードでなくなるより早く、俺は踵を返した。

 

 向かうはマジックハウス・キノシタ。アナザーウィザードになった早瀬を破るために。

 俺は改めて腹を据えて、駆け出した。




 実はこんな番外編考えてたんですよという後出しジャンケン。
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