70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome21 アナザーキング・コア

 中間考査が終わって試験休みに入ったある日。

 

 クジゴジ堂のリビングに俺が降りると、常磐ソウゴがツクヨミと、一枚の肖像画とハードカバー製本を話題に歓談していた。本のタイトルは『信長公記超訳 著:織部計都』。肖像画は、戦国時代の武将、織田信長のものだった。

 

 俺は常磐に歩み寄って、その手から肖像画を取り上げた。

 

「ゲイツ?」

「こいつは魔王と呼ばれた。たくさんの人間を殺し、最後は部下に裏切られて死んだ」

「そーゆー言い方ないんじゃない?」

「お前も欲望のままに民を支配し、いずれは同じ末路を辿る」

 

 すると常磐は俺から肖像画を取り返して笑った。

 

「俺は、ゲイツが言う織田信長みたいな魔王にはならない。美都せんせーから教わったほうの信長みたいな、“最高最善の魔王”になるって決めたからね」

「先生も知ってるのね」

「日本史の先生だからそりゃあね。ツクヨミも最近は授業に出てるから教わって……あ。織豊政権の授業の時、まだこの時代に来てなかったっけ」

「今までの授業で聞いた覚えは、少なくともないわね」

 

 関心を示したツクヨミに、常磐は笑顔で武将・織田信長のエピソードを語り始めた。

 

 ――どれだけ民に慈悲を示そうが庶民を喜ばせようが、大勢の人間の命を奪ったという事実は揺らがないし、虐殺の免罪符にはならない。

 むしろ気まぐれに優しさが顔を出すから、ただの悪党よりタチが悪いんだ。

 

 そこで不意打ちにクジゴジ堂店主がリビングに駆け込んで、切羽詰まった様子でテレビのスイッチを入れた。

 

《私が、檀ファウンデーション社長、檀黎斗。檀黎斗改め、檀黎斗王だァァァァ!!》

「すっごい――王様だ! この人も王様になろうとしてる!」

 

 記者会見の中で、檀黎斗の荒唐無稽を指摘した記者がいた。すると檀黎斗は一枚のメダルを取り出して、それを記者に投げ放った。

 メダルを吸収させられた記者が、怪物に変貌した。

 

「すっごく興味深いよ。ちょっと行ってくる!」

 

 常磐は手持ちのライドウォッチを全て持ってリビングを飛び出した。

 

 出遅れたものの、これは間違いなくタイムジャッカー絡みだ。俺たちも至急現場に駆け付けるべきだ。

 

 俺も手持ちのライドウォッチを腕に全て装着して、ツクヨミどもともクジゴジ堂を出た。

 

 

 

 

 

 中間考査も終わって、答案の採点はあるものの、今日は私も一日お休みが貰えました。

 

 休日は寝坊できるだけ寝坊する。私のOFFの大鉄則です。

 ですのでこの日も、午前11時を回るまでベッドで惰眠を貪っていました。

 

 ピロリロリーン♪ ピロリロリーン♪

 

 気持ちよく寝ていたところにスマホの着信アリ。

 むにゃむにゃ……せっかくのお休みに誰でしょう?

 

「は~い、もしもし~……」

《先生っ! 私っ、ツクヨミです!》

 

 生徒の声を聞いて一秒でむにゃむにゃ終了のお知らせ。私は体ごと起き上がりました。

 

《ニュースでやってた檀ファウンデーションの社長がアナザーライダーだったの。アナザーオーズを倒すために2016年に飛ぶことになったんだけど、ゲイツは今回ソウゴを置いてくって言ってて》

「ツクヨミさん、落ち着いてください。今どこですか?」

 

 スマホをスピーカーモードにして化粧台に置いて、外出着にお着替えスタート。

 

《檀ファウンデーションの社内……城内? とにかく敷地内! 雑木林に面してるとこから潜り込んだの》

「常磐君を置いて行くというのもその敷地内に?」

《うん。檀黎斗の王様宣言に、ソウゴってばはしゃいじゃって追いかけて行って……》

「前回みたいに打ち合わせての別行動ではないんですね」

 

 着替え完了。化粧台の前に座ってメイク(この歳じゃOFFでもすっぴんで外を歩くなんてできませんからね)。

 

《……ごめんなさい。ソウゴをお願いできる宛てが、先生しか思いつかなくて。今日のソウゴ、なんだかテンションがおかしいの。きっとアナザーオーズになった人が『王になる』なんて言ったからだと思う》

 

 ブラウスとスカートの釦の留め忘れ・掛け違いナシ、ストッキングの電線ナシ。バッグの中身に忘れ物ナシ。

 

 では一階に降りて車のキーを持って、常磐君がいるらしき檀ファウンデーションに向かいますか。朝ごはんと檀ファウンデーションのニュースチェックは運転しながらです。

 

「教えてくれてありがとうございます、ツクヨミさん。常磐君がそういう行動に出たなら、むしろ先生の出番です」

《……あの、先生? 先生の声もテンションの針が振り切れてるような……》

「本当に振り切れるかどうかは常磐君次第です」

《ゲイツ、待って! これ私たちだけで行っちゃいけない流れ――!》

 

 あ、切れた。

 

 

 私は階段を降りて、一階のリビングにいるであろうお父さんに、外から声をかけた。

 

「お父さん、おはよう。出かけてきます」

「おはようございます。夕飯は?」

「んー、無しで。今日も遅くなると思うから」

「分かりました。気をつけていってらっしゃい」

「いってきまーす」

「お母さんにもちゃんと言っていくんですよ」

「はぁい」

 

 玄関に来て靴を履いてから、私はバッグから、修理が終わって帰ってきた懐中時計を取り出した。

 

「いってきます、お母さん」

 

 そして懐中時計をバッグに戻して、靴箱の小物入れから車のキーを持って家を出た。

 

 

 

 

 

 車内でカ〇リー〇イトを齧りつつ速報ニュースを聞いて、栄養補給と予習はバッチリの状態で、私は檀ファウンデーションに向かいました。

 

 正面は報道陣でいっぱいだったので、ツクヨミさんに聞いた通りに雑木林にから敷地に潜り込もうとしました。

 ですが意外と高低差があって苦戦。

 十代の若い子は楽勝のルートですが、アラサーには難しい道のりです。

 

「よいっしょ、よっ、とっ……ふわあ!?」

 

 苔むした岩に足を滑らせた私――の手を、しかとキャッチしたのは、意外や意外、ウォズさんでした。

 

「あ、ありがとうございますっ」

「それほどでも、王母」

 

 ウォズさんのおかげでどうにか敷地へ入ったところで、常磐君ともご対面です。

 

「美都せんせー、大丈夫!? 来るまでにケガしなかった?」

「はい。ウォズさんのおかげで事なきを得ました」

「よかったぁ。美都せんせーに何かあったら、俺がクラスの全男子から闇討ちされかねないや」

「大袈裟ですねえ」

「いやほんとだって! マジで!」

「はいはい」

「我が魔王には、王を僭称する者に興味がおありのようで」

「うん。ゲイツがあいつのことを“魔王”って呼んだんだ。だからもっと観察してみようと思ってさ。せんせーも一緒に行こーよっ」

「行きますから、手を引っ張らないでくださいね。もう君たち若い子ほど速く走れないんですから、私も」

 

 と言いつつも、常磐君が開けた裏門らしき出入口から一緒に城内に入る辺り、私も学生気分に戻りつつありますね。気を引き締めないと。

 

 とりあえず私は常磐君と一緒に、檀黎斗社長がいると思しき最上階へ上がりました。ほら、ナントカと煙はって言うじゃないですか。

 

 最上階へ来ると、奥の部屋から聞こえてくる声がありました。男性と女性が一人ずつ。

 

 声が漏れる部屋の木戸前まで行って、私と常磐君は木戸に耳を張り付けました。

 

 

“……服飾部門の泉比奈です。あなたのやっていることは間違っています! 今すぐ、こんなことやめてください”

 

“ほうほう――気に入った! 貴様を我が妃としてやる”

 

“なっ……絶対イヤです!”

 

 

 直後に殴打の音。十中八九、檀氏が泉さんという女性を殴ったからです。ここまで聞いては私も女、黙ってはいられません。

 

 私が木戸を全開にするや、先に室内に飛び込んだのは常磐君のほう。

 

 まさに倒れた女性に振り上げた檀氏の手を、常磐君がナイスタッチ! じゃなくて、ナイスキャッチ!

 

 常磐君が檀氏と熱烈に握手と挨拶を交わす間に、私は泉さんに駆け寄って彼女を支え起こしました。

 

(ケガはありませんか?)

(は、はい。あなたたちは? 制服じゃないから、社内の人じゃない、ですよね)

(ええっと。ニュースを観て、ちょっとこちらの社長さんと関係あるようなないような感じで駆けつけた一般人、ですかね。特にそこの彼は、社長さんと同じで将来“王様”志望でして)

 

 泉さんはもっと訳が分からないという表情。ですよね、すみません! 私もこれ以上に噛み砕いた説明はできないんです。

 

 そこで常磐君のファイズフォンに着信アリ。常磐君が出て電話する間に、私は檀氏を見据えました。

 

「権力を笠に着て女性に関係を迫るのは、立派に労働審判案件です。御社の独立が政府承認されてない現状、この件はまだ日本の労基法の適用圏内です」

「――お前も王である私に意見する女か。名を聞こう」

「織部美都。光ヶ森高校で教員をしています」

「気に入った! 貴様もそこの女と共に我が妃となるがいい。第二夫人だ!」

「重婚も日本では法的に認められてませんからね!?」

 

 と、そこで常磐君がツクヨミさんとの電話を切って、ずい、と檀氏に迫りました。

 

「俺、王様になりたいんだ。だから“王様”を間近で見て勉強したい。させてください!」

 

 私はこの隙に泉さんを連れて部屋をこっそり脱け出しましょう。

 常磐君については、少し遅めのインターンシップということで一つ。独立発言を除けば、檀ファウンデーションは一企業ですからね。

 

「残念ながら私がいる限り王になるのは無理だ。だが私を見れば諦めもつくはず。家来として使ってやる」

「ぃやったぁ! 家来になります!」

 

 檀氏は踵を返しました。

 

「手始めにそこの女たちを監禁しろ。我が妃となる者たちだからな、ヴェッハッハッ!」

 

 上機嫌で檀氏は部屋を去って行きました。

 

 

 常磐君は私たちをふり返りました。真顔です。

 

「おねーさん、ここで働いてる人だよね。誘拐された議員さんがいるとこ、どこか知ってる?」

「場所だけなら……あなた、何をするつもりなの?」

「――常磐君」

「大丈夫、美都せんせー。見てて。これは俺が魔王になるために大事な“勉強”の気がするからさ」

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