70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

33 / 121
Syndrome22 アナザーキング・メダル

 常磐君は泉さんが教えてくださった、例の人質の国会議員さんのいる座敷牢へ、私と泉さんを連れて行きました。

 

 私たちが中に入ってから、扉を閉める時、常磐君は私にこっそり言いました。

 

(美都せんせー。こっちのこと、よろしく)

(任せてください。君はくれぐれも無理をしないこと。あと、ちゃんと明光院君とツクヨミさんに事情を説明してくださいね)

 

 常磐君は苦笑して頷いてから、戸を閉めました。鍵を回す音が聞こえたので、外から施錠したのでしょうね。

 

 それにしてもこの座敷牢、寒いですね。外装がお城でも冷暖房完備、という都合のいい話はないってことですか。

 私は自分のカーディガンを脱いで、失礼して泉さんの膝にそれを掛けました。女性の足は冷え性になりやすいですからね。私はストッキングを履いていますのでまだ平気なほうです。

 

「ところで、あなたたちは?」

「泉比奈っていいます」

「織部美都と申します。火野さんが、ニュースで言われてた『人質にされた国会議員』さんで間違いないですか?」

「一応ね。――とにかくここから出ないと。俺にはやることがある。あの“王様”に会って、全てを終わらせる」

 

 もしかして火野議員、人質になったのはわざと? こうして檀コーポレーションの中に入って、檀黎斗社長に肉迫するため?

 

「だったら私、案内します。ここの構造、詳しいんです」

「ありがとう。でも、外へ出るにはどうすれば……」

 

 外向きの窓は高い位置にあって、内向きの障子には全て目張り。出るとしたら扉からという強制一択の状況です。

 さっき常磐君が戸を施錠する直前に私に見せたのは、鎖と、それを繋げる南京錠でしたね。――ふむ。

 

「泉さん。お持ちの裁縫道具の中に安全ピンはありますか?」

 

 泉さんは不思議そうにしながらも、ウェストポーチを探って、安全ピンのケースを取り出しました。泉さんが服飾の社員さんで幸運でした。

 私は泉さんから一本の安全ピンをお借りしてから、戸を力いっぱい押しました。すると、読み通り、戸は呆気なく隙間を晒しました。やっぱり常磐君、チェーンを緩く巻いてましたね。

 

 さて。では、お膳立てに乗って脱獄しちゃいましょう。

 

 私は手が一本ようやく通るだけの戸の隙間から左手を外へ出して鍵を手探り。どうにかチェーンの両端を固定した南京錠を掴んだ。その南京錠をできるだけ手繰り寄せて、安全ピンの針でピッキングにトライしました。

 かちかち、かち……ピキ、バチン!

 

「「開いた!?」」

「これが意外とできちゃうものなんですよねえ」

 

 火野議員と泉さんがドン引きしてらっしゃる。ですよね。

 

 いえ別に、過去に泥棒してたとかそういうやましい経歴はありませんからね? そんな経歴あったらそもそも教員に採用されてません。光ヶ森高校に来る前に勤めていた学校で、古い倉庫にうっかり閉じ込められた生徒を救出した時の杵柄ですよ? 本当ですよ?

 

 戸を押して~……よいしょっと! ふう。何とか開きました。

 

「泉さん。道案内をお願いします」

「は、はいっ」

 

 泉さんは、私と火野議員を社長室へ先導してくださいました。

 社内はそれこそお城をそのまま民俗資料館にしたような造りでした。甲冑や刀といった遺物が展示されていたりして。わあ、北条氏五大当主の錦絵なんて、マニアックなとこを押さえてますねえ。

 

 その道中、視界の端をよぎったのは、私の教え子の男子と預言者さん。

 

 

 “こっちのこと、よろしく”

 

 

 頼りにされて、任された。今回は教師と生徒の枠組みじゃなくて、人様の頼み事を請け負ったからには責任を持つ。そのスタンスです。

 

 私はあえて常磐君たちのほうへ行かずに、先を行く泉さんと火野議員を追いかけました。

 

 

 

 

 

 

 

 社長室へ到着したはいいものの、肝心の檀氏は室内にいなかった。

 

「ようこそ、議員」

 

 ……どうやら最悪のタイミングで入れ違ったようです。

 

 社長室に入ってきたのは、檀氏と、灰色のミイラ怪物ことヤミーだった(名称は泉さんが教えてくれました)。

 

 私はつい身を竦めた。アナザーライダーにはそこそこ耐性が付いてきたものの、一緒に現れる種々多様の怪物にはいつまでも馴染めない。

 

 火野議員が檀氏と真っ向から対峙した。

 

「君を止めに来た」

「命を賭けてまでか?」

「もちろん。君がしていることで苦しむ人間がいるなら、何があっても止める」

 

 このまま乱闘に雪崩れ込んでもおかしくない空気の中、三度(みたび)、社長室に入ってきた人がいました。常磐君です。

 

「ねえ、聞いていい? 王様は、“()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「なに?」

「みんな、王様を止める! って言うけどさ、この人が“いい王様”じゃないって何で分かるの? 俺はまず王様がどんな“王様”になりたいか、知りたいな」

 

 檀氏は気を良くしたのか、常磐君の顎を掴んで至近距離で語り始めた。

 

「私はこの国の頂点に立つ。全ての民を私の下に跪かせてやる! それが私の真の目的だ」

「誰にも()()()()()を奪う権利なんて無い!」

「それが私にはあるのだッ! なぜなら私は檀黎斗王だからだッ! ――こいつは私の王道を邪魔する者だ。蹴散らせ」

 

 ヤミーが私たちへ向けて踏み出す――寸で。私は見たのです。檀氏からは死角になる位置から常磐君がヤミーの脇腹に肘鉄を入れたのを。

 ヤミーが怯んだ隙に常磐君は自らが飛び出して、火野議員の両手首を掴んで背中に捻り上げました。

 

「王様っ。この人のことは任せて」

「ン~、任せたぞぉ」

 

 悦に入った檀氏は常磐君の隠れたファインプレーを見逃したらしい。常磐君を特に咎めもしないで、ヤミーを引き連れて社長室を出ていきました。

 

 檀氏の足音が完全に聞こえなくなった頃合いに、常磐君はパッと火野議員の両手を離しました。

 戸惑う火野議員の正面に回り込んだ常磐君の目は、キラキラしている。そのキラキラが向かう先は火野映司さんその人です。

 

「ねえねえ、あなたも王様になりたいの?」

 

 議員にとっての頂点(おうさま)というと、内閣総理大臣でしょうか。火野議員はそういうドロドロした政争をするタイプには見えませんが。

 

「俺が? まさか! 俺はちょっとのお金と明日のパンツさえあれば、それでいい」

「常磐君、それってどこソースです?」

「ウォズ」

「大体分かりました。ありがとうございます」

 

 そこで常磐君のスマホに着信アリ。会話そのものは聞こえませんが、常磐君の口ぶりからするに電話の相手は明光院君です。

 

「分かった。すぐ行く。じゃあ」

 

 常磐君が通話を終えました。

 

「明光院君、何て?」

「今すぐ俺が言う場所に来いって。それだけ」

「ふふっ。それって『放課後ツラ貸せ』的なニュアンスでですか?」

「まさにそれ」

「ケンカしたあとなのでしたら、話し合う前に『ごめんなさい』ですよ。常磐君に非がなくてもです。こういうのは先に頭を下げた者勝ちですからね。相手より精神的アドバンテージを得られるという意味で」

「はい、美都せんせー! いってきます!」

 

 常磐君はいつもの明るい笑顔で走って行きました。

 

「彼は一体……」

「“王様”志望の、普通の高校三年生の男の子ですよ。あの社長の下で働いているのは、彼が“いい魔王”になる勉強の一環に過ぎません。“魔王”と呼ばれる人を見て“魔王”像を見定めようとしている。まあ、単なるインターンシップと思ってください。とはいえ――」

 

 私は泉さんに向き直って、深く頭を下げた。

 

「当校の生徒が乱暴をして申し訳ありませんでした。彼に悪気はないんです。これはひとえに私の教育が行き届いていなかったせいでございます。深くお詫び申し上げます」

「え? ええと、その……そう言われても、なんと言いますか……こ、今後気をつけてくれれば、いいですので。はい」

「はい。よくよく指導します。本当に、申し訳ありませんでした」

 

 よかった。謝意が泉さんに伝わって。

 

「でも、そしたら彼、何をしようとしてるんでしょう?」

 

 見てて、と常磐君は言った。なら私の目の届かない範囲で劇的な行動は起こさない。

 

「そこはまた、常磐君が戻ってきたら分かる。それまで申し訳ありませんが、もう少しだけお付き合いくださいませ」




 ソウゴ「この間はやりすぎちゃってごめん!」
 ↑ 実は美都せんせーの入れ知恵だったことにしちゃいました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。