さしたる時間を置かずに常磐君は私たちが待機していた社長室に戻ってきました。
「待たせてごめんね。さあ、行こう」
戸惑いを見せた泉さんに、私は笑って「ね?」とだけ言いました。
「織部先生から聞いたんだけど、君、将来は王様になりたいんだって?」
「んー、なりたいっていうか、産まれた時から、王様になる気がしてた」
常磐君お決まりの言葉を聞いて、火野議員は相好を崩しました。
「君、面白い子だなあ。王になりたいんだったら、覚えておいたほうがいい。一人じゃできないことがあるってこと」
「一人じゃ、できないこと?」
「どんなに誰かを助けたいと思っても、一人じゃ助けられない命がある。だから俺は、たくさんの人と手を繋ぐことにした。それで政治家になった。いつかこの国の人全てと手を繋いでみせる」
火野議員は力強く拳を握りました。
「俺、あんたのこと好きだな」
常磐君に右倣えです。こんな、キラキラした原石みたいな政治家さんがこの日本の政府にいらしたなんて。次の国会議員選挙では、ぜひ火野議員に一票を投じましょう。ええ。
「――貴様ら。裏切るつもりか?」
私はとっさに泉さんを背に身構えた。
そういえばここは社長室。社長の檀氏がいつ来てもおかしくない場だと、ほんわかトークで忘れきってました。
「王様!
「馬鹿な。下等な人間など私の手に触れることすら許されん」
「それ、すっごいヤな感じ。そうなったらダメなんだって、分かった。――裏切るも何も、あんたに付いたのって、“魔王”って呼ばれる人がどういうものなのか知りたかったからってだけだし」
さすが常磐君と言うべきか。相手が誰だろうが容赦ない物言いですねえ。
「私は魔王ではない! 王だァァァ!!」
檀氏がアナザーオーズへと変貌して常磐君に襲いかかった。
アナザーオーズは常磐君の右手からジオウウォッチを弾き飛ばして、常磐君を羽交い絞めにした――した、んですけど。
と、常磐君? なんだか目が据わってませんか?
「てゆーかさあ、あんた最初、美都せんせーを妃にするとか言ったよね。――ふざけんな。そんなの、俺含むクラス30人全員がマジギレ待ったなしだっつーの!!」
常磐君は背中から拘束されたままで足を上手くアナザーオーズの足に引っかけて、アナザーオーズの態勢を崩して自ら脱出してみせました。
す、すごい……仮面ライダーになったの、ほんの2か月前ですよね? 常磐君の体育の成績、ごく平均なのに。
常磐君が脱け出した直後に、火野議員がアナザーオーズに体当たり。ですがアナザーオーズは呆気なく火野議員を叩き返してしまいました。
『何の力もないお前に、何ができるというのだァ!』
「それでも俺は……! 掴んだ手は絶対に離さないッ!!」
泉さんが火野議員に駆け寄って、両手を取って助け起こしました。いいえ、起こすに留まりませんでした。
「ふんにゅうー!」
「おわぁ!?」
泉さん、なんと火野議員の体を勢いよく持ち上げて、砲丸投げのようにぶん回しました! 泉さんが遠心力を加味したことで、火野議員の両足は見事にアナザーオーズの胸板にキックとなって炸裂したのです!
キックを食らったアナザーオーズは、窓から外へ吹っ飛びました。
私は、助け起こした常磐君ともども、ぽかーんと火野議員と泉さんの予期せぬコンビネーションキックを眺めているしかありませんでした。
って、いけない! 見惚れてる場合じゃありませんでした。
私は床に転がったジオウウォッチを拾って、常磐君に返してから、常磐君を支えて立ち上がりました。
「大丈夫?」
「うんっ。やっぱり俺、あんたのこと好きだ」
火野議員は脱力したように笑ってから、スーツのポケットからある物を取り出しました。
「これも、君のだろう?」
ライドウォッチです。それも二つも! どちらのウォッチにも「2010」と記されています。ということは、火野議員こそが2010年の仮面ライダー、オリジナルの
「君なら、本当の“王”になれるかもね」
火野議員が差し出した二つのライドウォッチを、常磐君は歓喜をあらわに受け取りました。
「ありがとう。行ってくる!」
常磐君は社員制服であるジャケットを脱ぎ捨てて、社長室を飛び出しました。
「……彼、悪い子じゃないんですね。周りが見えなくなりやすいだけで」
「泉さん?」
「先生をお妃にっていう話をした時の彼の顔。すっごく怒ってるなあって、私でも分かりましたもん。慕われてるんですね? “美都せんせー”」
「あ、あはは……」
照れますね。まあ、私のクラスの生徒全員が、というのは言い過ぎではないかと思うのですが。30人となると女子も含むことになりますから、常磐君も言葉の綾でしょう。うん。
「今回はうちの生徒がご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
「それはもういいですよ」
「俺としては、国の未来を担う若者の中に、彼みたいな立派な子もいるって知ることができて、むしろラッキーだったなって」
「お気遣いありがとうございます。私もそろそろ失礼させていただきます」
「気をつけてくださいね」
「彼を教えるのは大変でしょうけど、応援してますから」
「ありがとうございます。失礼します」
私は火野議員と泉さんにお辞儀してから社長室を出ました。
常磐君を追って外に出なくちゃ。えっと、外へ出る道は……きゃっ?
……機械仕掛けの、赤い、
あ、待って! どこへ飛んでくんですか!?
私はとっさに鷹さんを追いかけて走りました。鷹さんは、途中で滞空しては私が追いつくのを待って、また飛んでいくという動きをくり返しました。もしかして道案内してくれてるんでしょうか?
鷹さんがお城の外へ出て、飛んで行った先には、アナザーオーズと対峙する常磐君。ジクウドライバー装着済みです。
常磐君は後ろをふり返らないのに、私の到着が分かっていたかのように声を上げました。
「美都せんせー! 延び延びになってた“宿題”、いま提出します! 俺が『何をする王様になりたいのか』の答え。俺が“勉強”して考えて描いたヴィジョン、聞いてください!」
私は足を止めて、固唾を呑んで常磐君の答えを待った。
「俺は、『いい魔王』になる。『みんなの自由を守る魔王』になる!」
――茨道を素足で歩いて、血だらけになりながらも止まらない彼を、見た気がした。
先行きや道のりが途方もないのなんて、三年の生徒たちは
「宿題の提出、受理しました。これで先生も今まで以上に進路支援しやすくなりました。この試験休みが明けたら、ビシバシ指導してあげます」
「はい!!」
私はようやく、進路指導教諭として正しい職責に立ち返れた気がした。
君のおかげです。――ありがとう、常磐ソウゴ君。
「変身!」
《 ライダー・タイム カメンライダー ZI-O 》
黒銀のセラミックスボディ。顔面には「ライダー」と刻んだルビーの
戦士へと変わった少年は、果敢にアナザーオーズへ挑んだ。
ジオウとアナザーオーズと戦闘に入ってすぐ、予期せぬ横槍が入った。
《手助けしてあげる。ワタシたちの王様》
タイムジャッカー側にもタイムマジーンと同じ兵器があったなんて! しかも常磐君や明光院君が乗るタイムマジーンよりずっと火力に秀でてる。
非武装の私がこのままそばにいたらジオウの注意が散漫になる。せめて私は爆撃圏外まで出ないと――そう分かってるのに。落ちてくる火球は一つ一つが大きすぎて、どこへ走ったって炎に巻かれちゃう……!
《 アーマー・タイム WIZARD 》《 ディフェンド 》
熱く……ない? これは、玉砂利を固めた防壁?
『アンタの世話をおそろかにする辺り、ジオウも手こずってるようだな』
「明光院君っ!」
仮面ライダーゲイツ・ウィザードアーマー。私を炎から守ったのは、ウィザードアーマー付与スキルの魔法だったのです。
『隠れてろ』
「あ……っ」
私が何か言うまでもなく、ゲイツは私が見たことのない新しいライドウォッチをバックルの左側に装填して一回転させました。
《 アーマー・タイム GENMU 》
ゲイツは換装のエネルギー構築で、ドラゴン型タイムマジーンの火球を跳ね返しました。さらにその上、丸鋸状のエネルギーショットをジカンザックスから放って、ドラゴン型タイムマジーンを城壁激突まで追い込みました。
『ジオウ。お前は2010年へ行け』
『手を貸してくれるの!?』
答えはゲイツの言葉ではなく、飛来した黒銀のタイムマジーン。
《ソウゴ、乗って!》
『ツクヨミっ』
降りてきてコクピットのハッチを開けたタイムマジーン。ジオウは素早くタイムマジーンに搭乗しました。
タイムマジーンは空へと昇り、時空のトンネルに飛び込んで見えなくなりました。
今のジオウであれば、2010年のアナザーオーズに引けを取るわけありません。私はすっかり安心しきっていました。
――ゲイツが呟いたことを聞かなければ。
『さよならだ、ジオウ』
もう奴が見えない空に向けて、別れの言葉をあえて声にした。
――さよならだ。常磐ソウゴに魔王にならない可能性を期待した、俺。
変身を解除して歩き出した俺に、後ろから追い縋った声。
「どうして! ……さよなら、なんですか?」
立ち止まった。ふり返ることはどうにかせずに済んだ。
「思い出したんだ。俺は奴の仲間でも何でもない。俺はオーマジオウを斃すためにこの時代に来た。俺も答えを出した。常磐ソウゴは“魔王”になる男だ」
「常磐君は、いい魔王になるって言いました!」
「奴が“魔王”になると俺が確信したことに変わりはないッ!!」
「そんな……」
再び歩き出した俺を、今度はもっと直接的なものが引き留めた。先生の両手が、俺の腕を掴んで。
「い、行っちゃだめ……です。行かない、で……」
「――アンタが俺にそう言うのは、俺が“生徒”だからか?」
「自分でも……分からない、です。学校の生徒たちの『さよなら』でこんなに取り乱したこと、一度もなかったのに……どうして、私……」
その先の言葉を聞いたら、意思が折れる予感がした。
俺は腕から、縋る彼女の両手を乱暴にふり払った。
今度こそ、立ち止まりはしなかった。
オーズ編でソウゴへの印象がガラッと変わりました。
――ぶっちゃけ作者、ソウゴの底知れなさが恐ろしくなったんですよ。
やってることはディケイドと同じようでいて、決定的にちがうポイント。
それは、士が旅をする=自分から相手に「向かう」のに対して、ソウゴは王になるという姿勢を見せて相手を自分に「向かわせる」という点です。
上記は常磐ソウゴの内面を描写できない理由でもあります。
当分はソウゴ一人称の文章を書くことは無理でしょう。