70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome24 リトルでなくなったレディ ①

 ――返して。

 わたしの咲を、返して。

 

 

 

 

 

 荷物をまとめてクジゴジ堂を出て行って、町を歩き出してそう時を置かなかった。

 

 前触れもなく時間停滞が発動した。

 

 流れを堰き止められた時の中、俺は目の前に現れたタイムジャッカーを睨んだ。

 

「ジオウのところを飛び出したみたいじゃない。オーマジオウの誕生を見過ごすことにしたのかしら?」

「俺は奴を斃す。そう決めた。馴れ合いを終わりにしただけだ」

「では、私たちと目的は同じということか」

 

 背後かつ至近距離からの声。オーラじゃない、スウォルツだ。

 

「――おれは最悪の未来を作り変えたいだけだ。自分の思い通りの未来に()()()()()()とするお前たちタイムジャッカーとはちがう!」

「同じよ」

 

 オーラは隙を与えず、ばっさりと言い切った。

 

「アナタだって、歴史を変える重罪を犯そうとしている」

「それは……」

 

 

 “私たち人間が変えていいのは、これからの未来だけなんだよ”

 

 

 耳の奥で鳴り喚く、師だった(ひと)の声。

 

 分かってる。アンタの教えの通り、俺はちゃんと“未来”を変えるために行動してる。なのにどうして――責められているように聴こえてならないんだ!

 

「ジオウは着実に力を付けている。現にオマエは彼に、負けた」

 

 アナザーオーズを巡ってのジオウとの戦いの記憶が、耳の奥のノイズを押しどけた。

 

 

 “ゲイツがそう思うんなら、そうなんじゃない?”

 

 “勝利の法則は決まった。……気がする”

 

 

 怒りに駆られていたことを差し引いても、俺の攻撃はジオウに届かなかった。俺の力はジオウに及ばなかったと認めざるをえない。

 

「同じ目的を果たすために手を取り合う。実に美しい話じゃないか」

 

 スウォルツが指を打って時間停滞を解いた。

 

 断る、という言葉を、俺は飲み込むしかなかった。

 

 

 

 

 

 明光院君が行方を晦ませて、3日が過ぎたでしょうか。

 あのお別れから何度連絡しても、明光院君が電話に出ることはありませんでした。

 

「――んせー、美都せんせー!」

「は、はい!?」

「『はい!?』じゃなくて。ストップウォッチ鳴りっぱなしだよ。もう過去問の制限時間終わったってば」

「え? あっ! す、すみません」

 

 私は内心大慌てで講壇のイスを立って、左手で解答が書かれた小冊子を、右手でチョークを持ちました。

 

 ――ここは教室で、今は日本史の過去問を生徒が解く、立派な授業中。なのに私ってば、ぼんやりして上の空。ダメな教師です。

 

「では答え合わせをしましょう。問1の1番目から見て行きますので、ページを開けてください」

 

 紙が擦れる音が教室中から上がった。

 

 生徒たちが私の解説を待っている。

 しっかりしなくちゃ。担当するクラスの生徒30人はもちろん、こうして日本史を選択した他のクラスの三年生たちが学力を付けられるかだって、科目担当の私に懸かってるんだか、ら……

 

 ガタッ

 

 講壇から片足が滑ったのをきっかけに、私は全身を支えられないで大きく転んでしまった。

 

 ざわめいて机を立って、前に集まってくるのは、私のクラスの生徒ばかり。

 

「美都せんせー、大丈夫!?」

「おい、保健委員!」

「だ、大丈夫ですよっ。特にケガしてませんから」

 

 不謹慎だけど、教師冥利に尽きるなあ。こういうふうに慕われて心配されるなら、普段は悩みの種の「美都せんせー」呼びも嬉しく思えてしまいます。

 

 でも、心配顔の生徒たちは見ていて私のほうが悲しいので、平気そうに見えるように笑みを取り繕う。それから立ち上がって授業を再開……

 

 あれ? 何ででしょう、立てません。足に力が入らない。

 

「ちょっ、せんせー、熱あるじゃん!」

「やっぱり保健委員~!」

「女子で誰か! 二人で左右からせんせー支えろ!」

「立てる、美都せんせー?」

「自分で歩けそう?」

 

 ごめんなさいね、みんな……

 きっと私、バチが当たったんです。こんなに心配してくれる心根の善い生徒たちが何人もいるのに、そっちのけで明光院君ひとりを心配していたから。

 ああ、罪悪感で泣いてしまいそう――

 

 アナザーオーズとの戦いの前に、常磐君が言った“本気の進路希望”を聞いた時は、彼を公平に指導していこうと心から思えたのに。

 

 どうして、それが君だと思うと、こんなにも胸に突き刺さってしょうがないのですか? 明光院君――

 

 

 

 

 

 スウォルツが俺を連れて行ったのは、都内の撮影所。ここに、2013年に“仕込んだ”アナザーライダーがいるという。

 

 西暦2013年というと、レジェンド15・鎧武の世代に当たる。

 今から5年前となるその年、人気のダンスユニット“チームバロン”から外されたダンサーのアスラという男を、タイムジャッカーはアナザー鎧武として擁立した。

 それから5年間、アスラはチーム内で仮面ライダー鎧武の力で邪魔者を巧妙に消し去り、地方都市からチームごと都心へ進出して、現代に至る、と。

 

 今この時もまた。

 アスラの正体に勘付いたチームメイトを、アナザー鎧武になった男は異次元の“森”へと閉じ込めた。

 

「己の野望を成し遂げるために何の迷いもない。彼は仮面ライダー鎧武の力を使って、いずれ王になる。キミと一緒にジオウを斃して、な」

 

 胸の奥で、ちりり、と燻る音が聞こえる。アナザー鎧武の存在を聞かされてからずっと燻っていたそれは、実際にアナザー鎧武の所業を見てもっと強くなった。

 

 アスラたちの戻りが遅いので声をかけに行ったスタッフにも、アナザー鎧武の凶行は及んだ。スタッフ、そしてチームメイトにも、アナザー鎧武の存在が露見した。

 

 ――そんな騒乱に、とても場違いな、一人の女が、入り込んだ。

 

 目を、奪われた。女があまりにも()()()だったから。肌の白さではない。まだ誰も足跡をつけていない、未明の雪原のごとき――存在感。

 

 女は相手が怪物であることになど全く頓着しないで、アナザー鎧武の正面で立ち止まった。

 

「やっぱり。今まで消えた人たちのことは、あなたが犯人だったんですね。アスラさん」

『? 誰だ』

「もうお忘れで? 5年前の沢芽市ダンスバトルイヤー決勝戦。あなたがリーダーを消したせいで不戦敗に追いやられたチームリトルスターマイン。その一人ですよ」

『――、ああ。思い出した。あれ以来、何度も「咲を返してください」と俺に泣きつきに来た金持ちの家のお嬢サマ。バロンの東京進出から無しの礫だったのに、今さら何しに来た?』

「わたしが東京くんだりまで来てすることなんて、仲間のこと以外ありえないじゃないですか。聞き飽きてるでしょうがあえてくり返しますよ。――咲を、返してください」

 

 ぞわり、と。

 女の表情を見て、全身が粟立った。

 

 あんな表情を誰の顔にも見たことがない。

 人間があんな虚ろな目をして笑えるものなのか? あんな底なしの昏い声で朗らかな言葉を紡げるものなのか?

 

 アナザー鎧武は女の異様さを感じていないのか、何の返答もなく大太刀を振り上げた。

 

 あのまま大太刀が揮われたら女は脳天から真っ二つになるだろう。

 そう思ったら体が勝手に動いていた。

 

 俺は女を抱えて、アナザー鎧武の大太刀から逃れながら諸共に地面に転がった。

 

「何の真似だ」

「やはりお前らとは合わないと分かった」

 

 ジオウを斃す。オーマジオウを歴史から消す。その目的に変化はない。だが、こんな連中や怪人と手を組んで目的を遂げられたとして、俺は俺自身を許さないだろう。

 

 そこで、地面に転がっていた女が、幽鬼じみた形相でアナザー鎧武を睨んだ。

 

「かえして……わたしの咲……かえしてッ!!」

 

 情念が極限まで凝った叫びを上げて、女は起きてアナザー鎧武に飛びかかろうとした。

 

 無茶だ! 戦士や兵士として鍛えられたわけでもない生身の人間が、アナザーライダーに敵うわけがない!

 

 俺はそいつを強引にアナザー鎧武から引き剥がして、なるべく遠くへ突き飛ばした。

 

「あっ、危な……!」

 

 女の上げた悲鳴に被せて、俺の周囲の光景が樹海のものに一変した。




 少年少女シリーズことあんだるしあ版鎧武をお待ちくださった方、ありがとうございますm(_ _"m)。
 Wヒロインの内、まずはヘキサがカムバックです。
 ヘキサが JK になりましたよ紳士の皆様。いかがか?

 そして本編。
 自分に絵心があったら美都せんせーが涙ほろほろ心象世界の一枚絵を描いていたのに!
 何故だ! 何故自分には文才と画才の内片方しかないんだーーーー!
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