ジオウ連載からの読者様にはそこを申し訳なく存じます。
目が覚めた――ということは、俺は気を失っていたのか。
「あ、起きた」
地べたに横たわる俺を見下ろしているのは、室井だった。相変わらずぶかぶかのコートだけで肌を隠した女。
「よかったね、目が覚めて。戒斗くんが見つけなかったら野垂れ死にだったよ? ヘルヘイムでの二度目の覚醒オメデトウ」
とびきりの笑顔で毒づく室井の向こうに、木の幹にもたれて我関せずの駆紋がいた。
俺は確か――こいつらと別れてから、“森”の出口を探して彷徨い歩いた。それから、同じ場所をグルグル回っていただけだと気づくこと5回目。そこまでは覚えている。きっとその時に体力に限界が来て倒れたんだろう。そんな俺を駆紋が見つけて拾った、ってとこか。くそ、情けない。……ん?
「なあに?」
「お前、今ここのことを“ヘルヘイム”と言ったか?」
「……、あちゃ」
口承だが知っている。レジェンド15・鎧武の代に、仮面ライダーと敵対した怪物“インベス”。インベスが根城にしていた場所の名は、“ヘルヘイムの森”!
なぜだ? タイムジャッカーがアナザー鎧武を生み出した時点で、鎧武たちの正史の戦いにまつわる記憶は関係者から無くなるはずだ。仮面ライダービーストの仁藤攻介がそうだった。
「騙すつもりはなかったんだよ? ほんとに。隠しとくつもりだっただけで」
「貴様ら!!」
衝動的に室井の胸倉を掴み上げようとした俺の、手を、横から駆紋が掴んでねじり上げた。
「言ったはずだ。お前からは運命を覆すほどの強さを感じないと。そんな非力なガキに教えてやる情報も義理も、俺たちには欠片もない」
「何を、っ、知ってるんだ……! お前たちはッ!」
駆紋の手を力任せに振り解いてから、ジクウドライバーを構えた。外へ戻る手がかりを知れるならば強硬手段に訴えるという勧告のつもり……で!?
何だ!? 今、後頭部に下から小石くらいのモノがぶつけられたぞ!?
俺は駆紋や室井への警戒心を忘れてしまい、つい頭を打った物を探すべく身を翻した。
……、……スイカ?
スイカの小人とでも表現するべきか。昔に流行ったというプラモデル? のような。とにかくそういう外観の物が足下に、いた。
いやいやいや、待て! 何でスイカがライドウォッチを持ってるんだ! さっき俺の頭にぶつけたの、それか!?
再び放り投げられたライドウォッチを、今度こそ俺はキャッチした。
ウォッチに刻印された西暦は2013。鎧武の世代だ。これは間違いなく仮面ライダー鎧武のライドウォッチだ。
次にスイカの小人が投げたのは巻物――と見せかけて、光学ディスプレイのフレームだ。
フレームの中に動画が投影された。
《ゲイツ、聞こえる!? 生きてる!?》
「ツクヨミ? そうか、遠隔通信……」
《そーゆーこと。こいつ一機だと双方向通信は無理だったから、二つ分のスイカのウォッチが必要だったんだ。だから“俺”は3日後から来たのであーるっ》
「――待て。ジオウが二人いるのはどういうことだ」
《あー、事情はまたあとで説明するから。それよりゲイツは大丈夫だった?》
「おまっ、お前らには関係ない!」
《関係あるよ。ゲイツが持ってるライドウォッチがないと、アナザー鎧武を倒せないもん》
《だから、それ持って、帰って来てほしいんだ。俺が魔王になるのを阻止するんだろ? 頼んだからな》
二人の常磐ソウゴは息ぴったりに好き放題畳みかけると、画面外から別の誰かを映像範囲内に引っ張り込んだ。
《待って、待ってください常磐君っ、こ、心の準備が》
《せんせーが準備できるまで待ってたら日が暮れちゃうってば》
そう、先生だった。俺に「行かないで」と言った織部美都が、画面の中に現れたのだ。
《あ……せ、先日は、取り乱してしまってすみません、でした。それと、時間が限られてるみたいなので、一方的に伝えます。これも、ごめんなさい》
すー、はー、と先生は呼吸を整えてから、俺を見て、まっすぐに言った。
《私、考えました。どうして明光院君のことになると、常磐君たちと接するみたいにできないのかって。――告白すると、私は君が怖かった。怖いと感じたから、君を“生徒”として見ようとしました。それが私にとって一番分かりやすくて、一番安全な
――待ってくれ。その先に何の言葉を続けるつもりなんだ? まるで別れの前置きみたいじゃないか。
いやだ。
それが突き放す言葉なら、俺は続きなんて聞きたくな……!
《帰って来てください。明光院君》
――、え?
“森”から元いた世界に、というだけじゃない。先生は俺に、クジゴジ堂に、光ヶ森高校に、彼女自身のそばに戻ってきてほしいと言っている。
《君を怖いと感じる理由を、私は突き止めたい。その理由と向き合って、今度こそ、明光院君が心から『先生』と呼んでくれる教師になりたい……いいえ、なります! そのために、私には明光院君が必要なんです!》
分かった、気がした。
俺とジオウの間には、魔王とそれを憎む者という明確な敵対関係がある。
でも、先生と俺の間には何もない。
だからこうして、ストレートに思ったことを言い合わないとすれ違うのに、しなかった。いつまでも引っ掛かったのは、互いに、そのせい。
必ず帰ると約束する。俺は今度こそちゃんと言おうとして――
「それ外と繋がってるの!?」
室井によって横へ押しどけられた。睨む俺にお構いなしに、室井はフレームを掴んだ。
「ヘキサ、ヘキサ! そこにいる!? あたし、咲! 分かる!?」
次に映像に現れたのは、撮影所でアナザー鎧武に正面から啖呵を切ったあの白い女だった。
《分かるわ! 何年会ってなくたって、わたしが咲を見間違うわけない! 無事で、ほんとにっ、元気そう、で……》
「ヘキサ?」
《――咲。その格好、どういうこと?》
最初に会った時ほどではないが、これにも背筋が粟立った俺である。
「ち、ちちちち、ちがうから! 別に戒斗くんとやましいこととかしてないから!」
《あら、咲ったら。『戒斗くん』だなんて、いつからバロンのリーダーさんを名前で呼ぶ仲になったのかしら?》
「信じてヘキサこれ以上その笑顔で質問攻めされたらあたし泣く!!」
いや、もう泣いてないか、お前?
《ごめんね。ふざけ過ぎちゃった。嬉しすぎて頭のネジが飛んだみたい。――なのに、すぐに会えるわけじゃないのね》
「うん。
《空を、飛ぶ?》
「なんか、そう言わなきゃいけない気がした。よーするに、この人にくっついて出してくださいってゆーのはないってこと。次にいつ会えるかは、神のみぞ知るってね」
《いいわ。5年も探したんですもの。次に顔を合わせて話し合うのがまた5年後でも、わたしがすることは変わらない》
「知ってる」
室井の手の平が映像画面に伸びた。画面の向こう側でヘキサが同じように手をかざした。
ふたりの少女の掌は、まるで重なったようになった。
またね、と。
重ねた二人分の声を最後に、映像は途切れた。
_(_^_)_(へんじが ない ただの しかばねの ようだ →作者)