70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 我が家版鎧武をご愛顧くださる読者の皆様。大変お待たせ致しました。
 アナザー鎧武編後のヘキサの後日談が、よーやく! 書き上がりましたのでお送りします。
 一言でまとめると、最終的にオオカミが一番得をする話?


Interval4 リトルでなくなったレディをしれっと攫う男

 2013年に消息不明となった室井咲が、帰ってきた。

 

 咲との再会で、元チーム・リトルスターマインのメンバーは大いに沸いた。ナッツとトモは半泣きで咲を左右からハグサンドにした。

 

 元リトルスターマインのチームメイトたちは、それぞれの都合で咲の捜索からリタイヤしたことを碧沙に謝罪した。

 碧沙は、チームメイトたちの謝罪を受け入れ、またキッズダンスチームとして再出発しよう、と答えた。チームリトルスターマイン、復活だ。

 

 咲と同じように、ヘルヘイムという名の異次元の森に追放されていたダンサーたちも戻ってきたという。

 チームバロンの元祖リーダー・駆紋戒斗を筆頭に、彼の右腕であったザックとペコ、そして多くの前途有望なダンサーたちが復帰した。チームバロンのリーダーは戒斗が再選。正しいチームバロンへと立ち返った彼らもまた、再出発した。

 

 全てが元通り。これからは順風満帆。――そのはずだったのに。

 呉島碧沙の中には淀んだ想いが居座って、今日も消えてくれないまま。

 

 

 

 

 

 呉島家の末っ子お嬢様は非行少女である。

 

 根も葉もない――とは言い切れない、むしろあながち外れてもいない風聞が社交界に出回って、そろそろ4か月だろうか。

 

 定職に就いていない異性と親密にすることが“非行”ならば、確かに呉島碧沙は“非行少女”である。――当の碧沙は「知ったこっちゃない」なのだが。

 

 碧沙は今日もその“異性”の住むアパートを訪れ、合鍵を使って部屋に遠慮なく上がり込んだ。

 

「はあ、まーた着替えずに寝てる……アスラさん! おーきーてーくーだーさーいっ!」

 

 ベッドで着の身着のまま寝ていた男が身じろぎ、薄目で碧沙を見上げた。

 

「うるさい……」

「二度寝していいから脱いでください。衣裳がシワになっちゃいます」

 

 それに、肩肘を締めるラインのコスチュームのまま寝ては、体が休まらない。欲を言うならシャワーを浴びて着替えてからベッドに入ってほしいのだ。

 とはいえ、その辺をストレートに伝えると、アスラは身辺の世話を碧沙に丸投げするので、決して口には出さない。

 代わりに皮肉をたっぷり浴びせる。

 

「今日も昼からオーディションでしょう? 凝った足腰で踊って落選していいなら、お好きにどうぞ」

「……可愛げがない」

「どなた様のせいでしょうね」

 

 アスラはベッドから起き上がると、ジャケットを雑に脱ぎ捨て、バスタオル一枚だけを手に浴室に入った。

 

 碧沙はアスラが投げたジャケットを拾い、ポケットの中をチェックした。アスラは手元に財布がないとポケットに物を入れる癖があると熟知しているからだ。

 案の定だった。碧沙は、ジャケットのポケットから無料配布のポケットティッシュを除いて、床に散らかる衣類とまとめて洗濯籠へ突っ込んだ。

 

 そうしてから、部屋のガラス戸を開けた。

 外気は冷たく、肌を鋭く刺したが、空気の入れ替えには必要だ。

 

 ――何がどうなって、彼女が親友・室井咲を拉致した男の面倒を甲斐甲斐しく見ているのか。

 複雑怪奇な2013年の事件とタイムパラドックスは割愛する。

 心情的動機だけを述べるなら、碧沙のほうは()()()()()()()()()

 

 5年だ。小学六年生から高校一年生までだ。

 碧沙はずっと消息を絶った親友の室井咲を探し続けた。咲だけをひたすら求め、無事を祈り続けた。

 だが、肝心の戻ってきた咲は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 着飾って会いに行った咲を迷わず抱き締めた紘汰と、紘汰の逞しい腕の中で世界一美しい笑みを浮かべていた咲。

 

 

 “紘汰くん! あ、あたしが誰か、わかる……?”

 

 “――、――咲ちゃん”

 

 “え……うひゃえ!? こ、紘汰、くんっ?”

 

 “また会えるなんて、思ってなかった”

 

 “ぁ……あたしも、だよ。あたしだって、分かってくれたね。最後に会ってから5年も経ってるのに”

 

 “言われてみると我ながらすげえや。一発で分かった。ああ、咲ちゃんだ、って”

 

 “……ごめん。あたし、紘汰くんの後ろ姿見て、どきっとしたけど、本当に紘汰くんなのかな、って不安で、信じきれなかった”

 

 “いいんだ、そんなの。結果的に俺のこと、また『紘汰くん』って呼んでくれたんだから”

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――何もかもが憎くなった。再会を焦がれた咲でさえも。全て壊れろと願うほどに。

 ()()を自覚した時、きっと自分はニンゲンのまま“怪物”になったのだと、碧沙は思っている。

 

 そんな出来事があった次の月。噂に聞いた。元チームバロンのアスラが沢芽市を出ていく、と。

 

 碧沙はチームメイトの制止を無視して、市内の中央駅へ駆けつけた。

 駅で、ボストンバッグ一つを荷にしたアスラに、幸運にもすぐ会えた。チームバロンのユニフォームでないのによく彼だと見分けがついたものだ、と自嘲した。

 

「何だ。見送りか?」

「――本当に街を出て行くつもりですか?」

「ああ。上京して、一から出直す。沢芽に未練はないしな」

 

 駅構内にアナウンスが流れたのを合図に、アスラは踵を返して碧沙に背中を向けた。

 その時の彼のことばを、碧沙は一生忘れない。

 

「俺の一番の追っかけとも、これでお別れだ」

 

 

 

 

 ――その捨て台詞は、アスラにすれば、碧沙への当てつけであり皮肉だった。

 

 動機はともかく、呉島碧沙ほど熱心にアスラを追い回した人間は、ファンの中にもいなかったのは事実だ。

 

 その碧沙は、さぞ胡乱な顔をしているだろうと思いつつ、ふり返れば――

 碧沙は、泣いていた。

 

 驚いたし、困惑した。そして、自身の発言が特大のブーメランだと気づいて舌打ちしたくなった。

 

 碧沙が5年の歳月の中で、一度たりとも室井咲を諦めなかったことを知る者が、アスラだけであるように。

 アスラが限りなくトップスターに近い場所まで登り詰めたことを、正確に記憶している者は、碧沙だけしかいない。

 

 この世界に、ふたりぼっち。

 理解者がいなくなることに心が折れたのは、碧沙が先だったというだけ。

 

 “たすけて”

 

 今はもう思い出せない。碧沙が声に出してそう言ったのか、唇だけを動かしたのか、あるいは泣き濡れた目からそう読み取ったのか。

 

 ――その日から、アスラと碧沙の奇妙な関係が始まった。

 

 

 

 

 

 

 アスラは今も沢芽市で暮らしている。

 内地直通の大橋から歩いて5分のアパートが自宅だ。彼はいつもその大橋を渡って、内地の各所にダンサーのオーディションを受けに行き、また大橋を渡って帰宅する。

 

 本日の帰宅は夜中の8:00過ぎ。

 アパートの窓には灯りが燈っている。碧沙が部屋で夕飯を用意して待っているのだろう。ここ数か月、ずっとそうだったように

 

 アスラは部屋のドアの鍵を開けて、部屋に上がった。

 

「おかえりなさい」

「ただいま。時間はいいのか?」

「まだ寮の門限まで時間ありますから。外泊届も出してますし」

「泊まるな。また送ってやるからそのつもりでな」

「はぁい」

 

 碧沙の通う高校は、アスラのアパートからそう遠くない。

 もともと碧沙は沢芽市中心街の公立高校に通っていたが、ここからすぐの高校に編入し、学生寮に入った。

 ――中途半端な時期の、それも郊外にある寂れた高校に編入するに当たり、長兄・貴虎とは揉めたそうだが、碧沙にその話題を振ると凄まじく不機嫌になる。アスラもあえて地雷を踏む趣味はない。

 

「ごはん温めますから、着替えて待っててください」

「ああ。頼んだ」

 

 碧沙は台所に立ってエプロンを着けると、鍋やフライパンをコンロにかけた。

 程なくして二人分の夕飯がテーブルに並んだ。ブリの照り焼き、豚汁、ふろふき大根、炊きたての白米――最初は米の磨ぎ方もぎこちなかった碧沙が、よくここまで上達したものだ。

 

 二人は揃って手を合わせて、食事を始めた。

 

 ――傍目には、アスラと碧沙は半同棲中の歳の差カップルなのだろう。

 だが、内実はそうでないことを、両者共に心得ている。

 こうしてさも密な関係であるかのように振る舞うのは、ただの古傷の舐め合いだ。

 

 厄介なことに、アスラのしたことの記憶が共有できる相手は碧沙しかいない。

 何故か、チームバロンのダンサーたちも、駆紋戒斗や室井咲でさえも、異界の森へ追いやられていた年月を、そしてその実行犯がアスラであるという記憶を、時間と共に薄れさせていった。今ではおおまかなことしか思い出せなくなっている。

 

 ――古傷だろうが、舐め合わないと痛みに耐えられない時はあるのだ。

 

 

 “自分の力で頂点を掴み取る覚悟がない奴に、居場所なんてない”

 

 

 それさえも、もう潮時なのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 夕飯を終えて片付けもそこそこに。普段なら、あとはテレビを観るか雑誌を読むか、適当にぐだぐだして、そこそこに言い合って、じゃれ合いを承知でスキンシップ――という流れになるのだが。

 

「ヘキサ。ちょっとこっち座れ」

 

 アスラにそう告げられ、碧沙は「はあ」とアスラの前に正座した。横柄さで緊張を隠そうとしているのが丸見えだったので、逆らう気はちっとも起きなかった。――そういう意味では、彼女は全く心の準備が出来ていなかったと言える。

 

「今日のオーディションな、受かった」

「――、え?」

「3年契約で採用してもいいと言われた」

「3年……え。待って、ください。それ、って」

「この際だ。ハッキリさせよう。――俺はこの話を受けて、ソロのダンサーとしてデビューする。それを足掛かりに、また這い上がる。沢芽市には今度こそ戻らない。だから」

 

 恋人ごっこはおしまいだ。

 碧沙はアスラにそう言い渡されるものとばかり思っていた。そして、誰とも共有できない苦悩を、また碧沙一人で抱えるあの日々に戻ることを想像して、とても、とても恐ろしくなった。

 

「高校を卒業したら、俺を追いかけて来い」

「――、はい?」

「はい、じゃない。これまでずっとそうだっただろうが」

「そ、それは、そうです、けど」

「大体お前な、俺が、アマチュア時代からの()()()()()()()だった女を簡単に手離してやる殊勝な男だと、本気で思ってたわけじゃないだろう?」

 

 ニヤリ、と意地悪げに口の端を吊り上げるアスラを見て。

 照れ隠しをしたいがために、その横っ面を張り倒したくなった碧沙の感性は断じて正常だと主張したい。




 こうして赤ずきんちゃんはオオカミに美味しく頂かれましたとさ(意味深

 生みの親の自分が一番びっくりしてる!!( ゚Д゚)
 ヘキサにはもっとこう、普段はヘタレ男だけどここぞの時に命懸けるガッツがあるギャップ萌え男が似合うと思ってたのに! 蓋を開けたらこの流れが自然と文章になった! な・に・ゆ・え!?
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