70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome30 せんせー特権:A+

 私は常磐君と一緒に大天空寺でお留守番となりました。

 と言いますのも、常磐君が自己紹介で「将来、王様になりたい男だ!」と言ったことで、お寺の新到のナリタさんが「信用できなくなった」って。それでタケルさんとミカさんと三人で現場に出発してしまったんですよね。

 

 もう一人の新到のシブヤさんが私たちをじーっと見張ってらしたので、ろくすっぽお手伝いできませんでした。

 

 先にアナザーライダーのもとへ駆けつけた明光院君、大丈夫でしょうか……

 ――なんて心配は、取り越し苦労で終わってくれなかった。

 

 大天空寺に帰ってきたタケルさんたちには、明光院君とツクヨミさんが同行していました。それも、明光院君のほうはあちこちに小さな傷が見受けられた。これ、明らかに一戦やらかしたあとです。

 

 天蓋付きご本尊がある本堂で座布団に腰を落ち着けた私と常磐君と目が合って、先に詰め寄ったのはツクヨミさんです。

 

「ソウゴっ? 先生も! どうして二人がここに……」

「俺は、ちょっとした誤解が重なって」

「私は父と一緒に母の墓参りに来たところを居合わせて」

 

 ツクヨミさんと、柱にもたれて腕組みをしていた明光院君も、顔色を変えた。丸分かりですよ、二人とも。

 

「常磐君と同席していましたから、アナザーライダーが現れたことは知っています。ツクヨミさんは、ケガとかしませんでした?」

「私は、何ともなかったけど」

 

 善哉善哉。などと、場が寺なので気取ってみる私でした。

 実際、ツクヨミさんは若い女子です。女の子の柔肌に傷がつくことは、男子のそれに比べて重みが違いますから。

 

 別に肉体面にダメージがなければ(なかみ)はどうでもいいってわけじゃない。

 

 ミカさんです。帰ったばかりの彼女は、初対面の私や常磐君にも分かるほど、青白い顔色でした。今はナリタさんが離れの間でミカさんを介抱しています。

 

 無理もありません。アナザーゴーストこそが失踪したミカさんのお兄さんで、しかも……

 

「死んだ人間までアナザーライダーにするなんて――」

 

 タイムジャッカーが語ったというアナザーゴーストの過去が、私の頭に、光景としてまざまざと描かれた。

 

 流れない時の中。目の前には瞬きの直後にペシャンコになるミカさん。そんな中にあって悪魔の誘惑に屈しなかった牧村さん。

 その行動は警官の模範であり、その精神は理想の体現です。

 私は泣きたいくらいに牧村さんへの尊敬の念を抱きました。

 

「本当に仮面ライダーが味方してたの?」

「ありえない。新しい王を造り出すのがタイムジャッカーの目的なんだもの。真正の仮面ライダーが協力するなんて」

「間違いない」

 

 明光院君?

 

「ツクヨミも教わっただろう。仮面ライダーアギト。レジェンドライダー2世代目の戦士。外見も力の特性も、全てミトさんから習った通りだった」

 

 私?

 

「あ、先生じゃないの。私とゲイツの師匠みたいな人のこと。その人の名前が『ミト』で、先生の下の名前と同じなだけ」

「それはまた奇遇ですねえ」

 

 これで「みと」が三人になりました。

 私と、私のお母さんと、2068年のそのお師匠さんと。

 

「奴らを追うぞ。それまでは」

 

 明光院君は常磐君の斜め後ろに来て、彼の頭をぐわしと掴んだ。

 

「一時休戦だ」

 

 私たちが情報を統合する間、ご本尊の前で瞑想していたタケルさんが、姿勢を崩しました。

 

「君たち、ケンカ中だったの?」

「いやいやいやっ、そんなこと全然ないよ」

 

 今日までアレコレあった明光院君がすぐそばにいてそう宣える常磐君、本当に肝が据わりましたねえ。先生はしみじみします。

 

「ねえ、ツクヨミ。これから起こる“不慮の事故”って分かる? その事故を起こす人をアナザーゴーストが狙うはずだ」

「未来の出来事を教えるのは、ルール違反なんだけど……」

「タイムジャッカーはアナザーゴーストを積極的に動かしてる気がする。たぶんあっちもツクヨミが使う検索ツールを持ってるか、さもなきゃ同じだけ未来の情報を握ってるんだと思う」

 

 そういう観点ですか。確かに敵・味方のソースが同じであれば、アナザーゴーストとのニアミスは回避できます。

 

 ツクヨミさんは溜息をついてから、例のプレートを取り出して検索をかけました。

 

 ヒットした事件の新聞記事。

 あるショッピングモールのオープンテラスで、たこ焼き屋台が爆発して、店員とテラスの客たちが重軽傷多数、と。大事件じゃないですか!

 

 行き先が分かれば善は急げ。皆さんは私が車で送っていきます。れっつごー!

 

 

 

 

 

 ――到着した時、オープンテラスはすでにパニック状態と化していた。

 逃げ惑う一般市民。暴れ回るメタルジャケットの怪人――アナザーゴースト。

 

 常磐君と明光院君がジクウドライバーを手に、広場への石段を駆け下りました。

 

「先生っ」

「はい。私たちは避難誘導ですね。天空寺さん、手伝ってもらえますか?」

「わかった」

 

 私たちは手分けして、自力ですぐに逃げられなかったお客さんたちに駆け寄っては、彼らを立たせたり背を押したり。

 アナザーゴーストが一般客を襲おうとした時は、ジオウかゲイツが上手く間に入ってアナザーゴーストを遠ざけてくれました。

 

『あんた、力でおかしくなってんだよ! 目ぇ覚ませよ! ミカちゃんが泣いてるぞ!』

「騙されるな!」

 

 だ、誰? どこ? ――いた! 石垣の上に男の子が一人。私は初めて見る顔です。

 

「ソイツは最凶最悪の魔王になる男だ。たくさんの命を奪う、キミの敵だ!」

 

 その台詞を聞いて、私の中に疑問が生じた。

 タイムジャッカーの少年が今叫んだこと。アナザーゴーストをけしかけるより、本当にジオウに憎しみをぶつけてるみたい。

 

《 OMEGA  タイム・ブレイク 》

《 STRIKE  タイム・バースト 》

 

 っ、いけない。思考に没頭し過ぎました。

 もうジオウとゲイツはアナザーゴースト撃破の態勢に入ってます。私は私で、戻って来たツクヨミさんとタケルさんに合流しなくちゃ。

 

「いいのかな~。倒したらそいつ、死んじゃうんだけど」

 

 ハッとしたようにジオウもゲイツも目に見えて戦意を損なった。

 

 卑怯者。私はそう言う代わりにタイムジャッカーをきつく見上げた。感情のメーターが振り切れてたから、涙目だったかもしれない。

 

 アナザーゴーストを倒したら牧村さんが死んでしまう。でも倒さないわけにはいかない。

 こんな残酷な状況をどうすれば打破できますか? 神様でも仏様でもいいから教えてくださいよ……!

 

「危ないッ!!」

 

 ――え?

 

 風が薙いだ。

 そう感じた直後に、地面にバッグの中身がバラバラと落ちていた。

 

 気づけば私は支えの軸を失ったみたいに尻餅を突いていた。

 

 な、に? 何が、起きたの? 何で私のバッグ、さ、裂け、て――

 

『海東の真似みたいで気分悪いな』

 

 仮面、ライダー……

 

 ジオウでもゲイツでも、今までに何度か見た歴代ライダーの誰でもない。こんな戦士を私は知らない。分かるのは、彼が“仮面ライダー”だということだけ。

 このライダーが、明光院君が言っていたアギト?

 

『その人に――触るなッ!!』

 

 ゲイツがジカンザックスからソニックアローを放った。

 私のすぐ傍らに立つ“アギト”は、手にした剣を振り抜いてソニックアローを打ち消してしまった。

 

『そこのガキが魔王ってヤツか。――ちょっと遊ぼうか』

 

 “アギト”は剣をぞんざいに捨てると、ゲイツに、ジオウに、無手で肉迫した。

 

「先生っ!」

「美都さん!」

 

 ツクヨミさんとタケルさんが、腰を抜かした私のそばに駆けつけた。

 

 知った顔ぶれに囲まれて安心したおかげで、ちょっと気持ちに余裕が戻った。

 だから、気づいたんだと思う。

 私は息を呑んで、散らばった手荷物をまさぐった。

 

「先生、どうしたの?」

「ない……っ、無い! お母さんの形見の時計!」

 

 いつでも持ち歩いて大事にしなさいって、お父さんから言われてるのに。顔も知らないお母さんが、たった一つ、私に遺した品なのに。

 

 ――まさか。

 あの仮面ライダーが私に斬りつけたのは、お母さんの懐中時計を盗むため――?

 

 私は呆然と、“アギト”とジオウやゲイツとの戦闘を見やりました。

 

 ゲイツがドライブアーマーに換装してスピード攪乱を狙っても、“アギト”は、ゲイツが攻撃を仕掛ける瞬間を見切って、拳をゲイツの胸板に叩き込んだ。インパクトハイクが目視できるレベルの威力でした。

 

 明光院君の変身が強制解除された。

 

「ゲイツ!」

「明光院君ッ!」

『ゲイツ!? っ、このぉ!』

 

 ジオウがビルドアーマーに換装して、グラフ線で“アギト”を捕捉しようとしたけれど。

 

『短気は損気。学校で習わなかったか?』

《 Kamen Ride  555 》

 

 “アギト”の姿が激変した。ううん、それより。今、「ファイズ」って。山吹さんと佐久間さんの、ひいては乾巧さんの――仮面ライダー555(ファイズ)だと、いうのですか?

 

 当の“555”は、もしかしたらドライブアーマーのゲイツさえ上回るスピードで、ジオウ・ビルドアーマーのグラフ線捕獲を掻い潜ってしまいました。

 その上、アナザーゴーストと共にジオウへの攻勢に転じたのです。

 

「やめ、て……やめて、ください! いやぁぁ!」

 

 “555”とアナザーゴーストに一方的に暴力を揮われるだけのジオウ――常磐君。

 

 私の生徒なのに。私、“先生”なのに。

 どうして私、見てることしかできないの?

 

 “555”が右足から放ったポインターがジオウの動きを縫い留めた。ポインターが展開した円錐状のエネルギー内に飛び込むようにして、“555”はジオウにライダーキックを決めた。

 

 あ……ああ……そん、な。

 

 変身が解けた常磐君に迫る、アナザーゴースト。

 

 今度こそ。私はそう思って立ち上がりました。

 みすみす目の前で私の生徒への狼藉は許しません。私が常磐君の盾になってでも。

 

 ですが、私の肩をタケルさんが掴んで引き留めました。

 タケルさんはご自分が飛び出して、指で何らかの(いん)を結んで、常磐君とアナザーゴーストの間にかざしました。

 

「何だ、オマエ? ゴースト、ソイツもやっちゃえ」

『やめとけ。――帰るぞ。タイムジャッカー』

「ウールってゆーんだけど」

 

 タイムジャッカーと謎の仮面ライダーが立ち去って、アナザーゴーストは姿を消した。

 

「ソウゴ!」

 

 ツクヨミさんが、地面に転がりっぱなしの常磐君に、駆け寄った。

 

「ソウゴ! ソウゴ!? ――ゲイツ、ソウゴが息してないッ!」

 

 明光院君が血相を変えて駆け出して、ツクヨミさんと一緒に常磐君の体を揺さぶりました。

 ツクヨミさんの悲鳴じみた呼びかけにも、常磐君が目を覚ます素振りは欠片もありません。

 

 私が立ったまま石化していたところで、タケルさんが走って行った。その先には――え、常磐君? じゃああそこに倒れている常磐君は? それに、そっちの常磐君、どうして体が半分透けてるんですか!?

 

 私も、透けてるほうの常磐君に駆け寄りました。

 

 呆然と自分の透けた体を見下ろす常磐君に、タケルさんはさらりと言いました。

 

「怪人のせいで魂が抜けちゃったみたい。幽霊みたいなもんだね。周りには視えない――はずなんだけど」

 

 はい。私は常磐君のこと、バッチリ見えてます。

 

「あー……美都さんは、霊感あったりする人です?」

「いいえ、まさか! 私もこんな体験、初めてです!」

 

 常磐君は私を向いてパクパクと口を動かしていますが、肝心の声が聞き取れません。私に認識できるのは常磐君の姿だけみたいです。

 

 でも、表情の移ろいから分かります。

 常磐君はいつもの笑みを取り繕うとしたけれど、失敗して、蒼白な顔色をしました。

 

 こんなにも怯えている常磐君を前に、ふがいない私は、何と慰めればいいかを思いつくことができませんでした。




 仮に美都せんせーがソウゴの「先生」でなかったら霊体ソウゴは視えなかったと断言します。
 これ特殊能力なしです。タイトル通りです。
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