70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome32 レジェンド10とビシュムの右眼 ②

 

 明光院君が2015年に発ったあと、私のほうで何があったか。

 それを明光院君に知ってもらうには、少し長めの説明が必要でした。

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 問題を根本から解決するには、アナザーゴーストの牧村さんが亡くなった2015年へ遡って、牧村さんを死ななかったことにしなければいけない。

 タケルさんの翻訳によると、常磐君はそう主張したそうです。

 

 常磐君の案を聞いて、私が真っ先に思い出したのは山吹カリンさんのことでした。

 今回の事件は山吹さんのケースとほぼ同じでした。過去に死亡した人間を死ななかったことにしてもいいのか? 命題はこの一点に尽きました。

 

 私は常磐君に、ある裏付けを取りたいので待ってほしいとお願いしました。

 それから私は市立図書館へ駆け込んで、2015年の新聞のバックナンバーを洗いました。

 

 裏付け。歴史的な影響の有無。私はその根拠を新聞に求めました。

 山吹さんと牧村さん。どちらも過去の死者。でも異なる点を一つだけ、私は見出しました。山吹さんの死は新聞に載っていた。けれど牧村さんの死亡は載っていなかった。

 

 歴史は記憶。どこかで聞いたようなフレーズですが、私にとっては死中に活でした。

 牧村さんの死が正式な記録として報じられていない、つまり人々の記憶にほとんど無い今ならまだ、牧村さんの生き死にに干渉して許されるのでは?

 

 ……我ながら浅はかだと、今となっては思います。ですが数十分前の私は、本気でそう信じていたんです。

 

 市立図書館を後にした私は、あらかじめ番号交換しておいたタケルさんのスマホに連絡を入れました。そして、歴史の認知度補正論を明かしました。

 

「――、はい……はい。ですので、常磐君の考えを実行に移しても、まだなんとかなる段階だと思います。あくまで私見ですが」

《――。ソウゴが『駆けずり回らせてごめん』って伝えてほしいって。ん? ……分かった。それから『行ってきます、美都せんせー』だそうです》

「ありがとうございます、天空寺さん。いってらっしゃい、常磐君。くれぐれも天空寺さんに迷惑をかけないように。君、今は幽霊なんですから」

 

 通話を切ってから、私は自分の車にもたれて溜息。

 

 裏付けなんて仰々しい。私は単に納得したかっただけかもしれない。

 生徒の後押しのためじゃない。牧村さんの命を救うなら山吹さんは? なんて、言ってしまいそうな自分を宥めすかしたくて奔走したのかもしれない。――そんな自己嫌悪の溜息です。

 

 私はひとしきりセンチメンタルに浸ってから、光ヶ森高校へ戻ろうとしました。

 

 ――その私の前に、門矢小夜さんは現れたのです。

 

 驚かなかったのは、ライダー絡みの事件のせいで奇抜なモノに変に慣れてしまったからですね、きっと。

 小夜さんを見て思ったことなんて、若い女の子が暗い時間帯を出歩いて危なくないかな、保護者の方はいないのかな、って。

 

「見つけた――ライダー・シンドロームの真の継承者」

 

 ライダーの単語が出なければ、私は小夜さんを本当に普通の女の子だと思ったでしょう。

 

「あなた……仮面ライダーの関係者さん、なんですか?」

「ええ、わたしの兄の門矢士は、平成ライダーのひとり。わたし、兄を追ってこの世界に来たの」

「お兄さんが仮面ライダー……」

「あなたに一緒に来てほしいの。あなたにも無関係じゃない。現在(いま)じゃないけれど、今この時も、お兄ちゃんは仮面ライダーゲイツと闘ってる」

 

 明光院君の名前を耳にして、私は居ても立っても居られなくて。

 

「お願い。わたしと一緒にお兄ちゃんを、仮面ライダーディケイドを止めて」

 

 2015年へ行くと言う小夜さんに付いて行くことにしたんです。

 

 …

 

 ……

 

 ………

 

「ここに来るまでにあったことは、これで全部です。分かりにくい所はありませんでした?」

 

 いや、と俺は言葉を濁すしかなかった。

 

 まずもって常磐ソウゴが幽体離脱なんてしていたことに面食らって、さらに先生には幽霊の常磐が視えていたことに度肝を抜かれた。

 あと、奴は奴で別に2015年に来てそんな大馬鹿を実行中であることについては、頭を抱えるしかない。

 

 ――だが今は、それら全部を横へ置く必要がある。

 

 俺は立ち上がって、先生を背に、門矢小夜と対峙した。

 

「明光院君? 小夜さんは君を助けようとしてくれたんですよ!?」

「だとしても、この女はゴーストのライドウォッチを奪った」

「それ、は……」

 

 加えて、小夜の右目の眼帯。

 あの眼帯の飾りに使われている闇色の石は、絶対にろくでもない品だ。そして、そんな代物で隠す右目はもっと始末に負えないモノだ。戦士の勘が絶えずそう告げる。

 

 小夜が無造作に右腕を横へ向けた。その手の平の先に、灰色のオーロラが生じた。

 

 次に小夜がしたことは、俺に新しいライドウォッチを投げ渡すことだった。

 

「話なら現代に戻ってからにしない? あなたはともかく、後ろの先生はあまり長く2018年を留守にしないほうがいい。付いて来て。害のあるものじゃないから」

「――貴様の目的は何だ」

「わたしはディケイドの真意を知りたい」

「知ってどうする」

「悪い目論見なら、止めるのは家族の役目でしょ?」

 

 そこで、後ろから先生が俺の肩に手を添えた。

 

「明光院君。ここは一旦戻りましょう。君の傷の手当てもしないといけませんし、常磐君が元に戻れたかも確かめないと」

「……、わかった」

 

 ゴーストのライドウォッチが失われた今、アナザーゴーストを倒すには現代に戻って方針を再検討する必要がある。

 

 門矢小夜を全面的に信用したわけじゃない。あくまで警戒は維持だ。

 

「明光院君、掴まってください。肩を貸します」

「ああ……」

 

 先生の肩に片腕を預けたその直後。俺は思い出した。

 アナザー鎧武事件で通信越しに先生が俺に言ったこと。

 

 

 “告白すると、私は君が怖かった”

 

 

 俺が、怖い。そう言ったはずなのに、あれ以来、彼女は俺を避けたり過剰な反応をしたりはしなかった。今まで通りお節介焼きの高校教師のポジションをキープしている。

 

「アンタ、俺が怖いんじゃなかったのか?」

「――ええ、怖いですよ。君の目に私はどう映っているか、ちゃんと“先生”らしく振る舞えているか、いつボロを出して君に愛想を尽かされるか。いつも怖くて堪らないです」

 

 俺が返す言葉を失っている間に、オーロラのほうが俺たちに迫ってきた。

 灰色のオーロラを通り抜けたと思ったら、とっぷり暮れた光ヶ森高校のグラウンドに立っていた。

 

「小夜さん。お手間を取らせますが、明光院君をクジゴジ堂さんまで送ってもらっていいですか? ツクヨミさんと常磐君のおじさんが、明光院君を待ってるでしょうから」

「いいわよ、それくらいなら。わたしも、この世界に来て間もないから、ぶらっと歩きたかったし」

「ありがとうございます。それじゃあおやすみなさい、明光院君。また明日」

 

 先生は踵を返して、ほとんど照明の落ちた校舎へ向かって去った。

 きっと行く先は保健室。彼女は、魂が抜けた常磐ソウゴの肉体に付き添って、校舎で夜を明かすんだろう。ありありと想像できた。

 

 目線だけで門矢小夜を窺うと、小夜のほうは俺をまっすぐ見ていたものだから、目が合ってしまった。

 

「帰らないの?」

 

 どこまでも無邪気なまなざし――左目だけの。

 

 俺はクジゴジ堂への帰途へ就くしかなかった。

 

 

 

 

 暗い通学路を行く俺と、その間に人ひとり分ほどのスペースを空けて歩く小夜。

 傍目にはさぞおかしな二人組に見えるだろう。今が夜で助かった。

 

「お前は本当に、あのディケイドとかいう仮面ライダーと兄妹なのか」

「そうよ? そういえば2068年にはディケイドの記録が残らないんだっけ」

「奴が本当にレジェンド10の仮面ライダーだとして、俺たちの時代では確かに奴の正体を知る人間はいない。俺自身、レジェンド10がディケイドという()だと初めて知った」

「士お兄ちゃんは特定の時期や場所で活躍した仮面ライダーじゃないから。“語り部”さんも、常に異世界旅行してるお兄ちゃんを“観測”し続けるのは無理だったか。わたしもようやくの思いで探し当てたんだし。やっと追いついたと思ったらまた悪役(ヒール)に回ってるし」

「妹のお前に会ったのに、ディケイドはかなり不満そうだったな。兄妹ゲンカか?」

「まさか。ケンカにもならないよ。お兄ちゃんは本心を簡単に口にしないもん。知った時には怒りようがないくらい事態が切迫してることがほとんど。それに、わたしとお兄ちゃんが本気で『兄妹ゲンカ』したら、世界規模に発展しちゃうけど、いいの?」

 

 タチの悪い冗談を言うな。ディケイドと実際に交戦したあとだと、実妹のコイツのスペックはどれほど反則級か、シャレに聞こえないだろうが。

 

「わたしからも質問させてよ。仮面ライダーゲイツ。あなたは織部美都さんのことをどう思ってるの?」

 

 登っていた階段を一段踏み外して脛をぶつけた。声にならない悶絶……!

 

「な、んでそこで、先生の名前が、出るっ!」

「何でって、織部先生はあなたの乙女(ラ=ピュセル)でしょう?」

「ラ=ピュセル?」

「知らないの? 歴代平成ライダーにとっての防衛機構であり守護乙女。明光院ミトさんは知ってたから、弟子のあなたも教わったと思ってたんだけど、ちがうんだ。ふーん。じゃあ帰ってからツクヨミさんに詳しく聞くといいよ。彼女はミトさんから教わってるから」

 

 ちょっと待て。

 門矢小夜はどうして俺たちの時代の俺たちの個人的事情を、まるで見てきたように知ってるんだ?

 オーロラの旅とやらで2068年に行ったことがある――にしては、俺たちの事情に踏み込み過ぎた語り口だ。

 

 すると、小夜は俺の疑問を読んだように、右目の眼帯を外した。

 

「わたしはある時、(グレート)(ダッド)ライダー10・BLACKの敵であるゴルゴムの“役”を継いだの。ビシュムは右目で未来を、左目で過去を視る権能を持つ。小夜が地の石の極砕片で右目を普段封印してるのは、未来を視ないようにするためなの」

 

 小夜は再び眼帯を右目に着け直した。

 

「ね? お兄ちゃんと敵対する上で、小夜は結構役に立つ人間だと思わない?」

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