70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 短いけどこれで許してつかぁさい……orz


Syndrome33 せんせー特権:EX

 私が校舎の中に戻った時、第一保健室には照明が点いていました。

 もしかして、常磐君とタケルさんが上手く行って、常磐君の魂が肉体に戻った?

 そこに思い至った私は、浮かぶ笑顔を抑えきれないまま第一保健室のドアを開けた。

 

「常磐く……!」

 

 ですがそこにあった光景は想像よりズレていました。

 

 ベッドに横たわった常磐君は意識を失ったままで、でも一度は体を起こした形跡がありました。

 そして、そんな常磐君をほくそ笑んで見下ろしているのは、ウォズさんです。

 

「こんばんは、王母。一足遅かったね。我が魔王はこの通り。過去でもう一度タイムジャッカーがアナザーゴーストを生み出したことで、再び幽冥の眠りに就かれた」

「ウォズさん……? どうしてそんなこと、知って」

「私がタイムジャッカー側に付いたからさ」

 

 ウォズさんが第一保健室を出て行こうとするのを、私は、ドアの境界線上でとおせんぼして止めた。

 

「あなたは常磐君の味方じゃなかったんですか!?」

「私は、魔王の臣下。王が(みち)を外れるならば諫めるのもまた臣下の役目。前にも言ったはずだが。王母ほどの人であれば早々に割り切っておいでかと思ったが、いやはや。()()()()にも色眼鏡というものが存在したとは驚きだ」

 

 ウォズさんの口ぶり。50年後の常磐君――オーマジオウは、“私”をそういう教師だと語ったことがある?

 

 今さら過ぎる、遅きに失した疑念が、やっと(きざ)した。

 

 50年後であれば私は80歳。人生100年時代の日本で、天寿を全うする年齢とは考えにくい。

 だとしたら、2068年の王母織部(わたし)は、なぜオーマジオウ(常磐君)を放置しているの?

 

 織部美都というパーソナリティーによほどのショックがない限り、50年後であろうが魔王であろうが、“私”は常磐君を叱るし、正しく指導し直そうとするでしょう。

 

 でも、現実にそうしていないのなら――それは「していない」のではなく「できない」から。

 ()()2()0()6()8()()()()()()()()()()()()

 

「……ウォズさん。一つだけ聞かせてください。ウォズさんは“王母織部”に直接会ったことがありますか?」

「無いね。一度たりとも」

 

 ことばが、クリスタルのナイフみたいに、ぐぞり、と胸を抉った。

 

「私が知る王母は、我が魔王が時折り口ずさむ思い出話の中にのみ生きる人物でしかなかった。改めて、本物に出会えて光栄だよ。我が魔王が『母にも等しき我が師』と語った(ヒト)

 

 今度こそウォズさんは第一保健室を出て行った。

 

 私は――いつの間にか凝固していた両足の筋に喝を入れて、歩いて、常磐君の体が横たわるベッドへ行った。

 

 ベッドの横に、背もたれのないローラーチェアを持ってきて、それに腰かけてから、深呼吸を二回。

 

 涙は、出なかった。

 そんな自分に、ひどい安堵と、空しさを覚えた。

 

 

 

 

 

 ――PM6:47。レジェンド10・仮面ライダーディケイドの変身者、門矢士がクジゴジ堂に現れた。

 

 門矢は常磐ソウゴの帰りを待つ間に、ここがカフェか軽食店であるかのように、常磐の分の夕食(チーズ乗せハンバーグだった)に箸を付けた。

 

 別にあいつが一食抜かそうが知ったことじゃないが、俺には手を踏みつけられた個人的怨恨がある。

 よって俺はリビングのテーブルに着席しても、夕食には手を付けず、門矢の一挙一動に目を光らせた。

 

「そういや、妹が世話になったみたいだな」

「門矢小夜か」

「ああ。これでも、ジオウへの用事がてら、あいつも連れて帰ろうと思って、はるばる足を運んだんだぞ。てっきりこの店に居座ってると思ったんだが――ん。美味いな、コレ。ソースが肉と合ってる」

「残念だったな。あの女なら、昨日の夜に店先で別れてそれっきりだ。行き先は俺も知らない」

 

 ディケイドと敵対する上で役に立つとか言っておきながら、俺たちに加勢する流れじゃないのか、と内心憤慨したことは言わない。

 

「――、そうか。積極的にビシュムの眼を使う気が無いなら、小夜は大した障害にならないな」

 

 そういえば小夜は言っていた。右眼で未来を、左眼で過去を視ることができるが、普段は封印している、と。

 あいつが俺たちとミトさんの関係を知っていたのも、おそらくはその眼の権能によるものだろう。

 

「まあいいさ。ここにいないなら、行き先の心当たりはあと一つきりだ。妹の迎えはまたの機会とするか」

 

 クジゴジ堂の店先のドアが開く音を挟んで、「ただいまー!」という常磐ソウゴの朗らかな声が聞こえてきた。

 

「おじさん、お腹減ったーっ」

 

 店主が慌ててリビングの戸口に向かって、困り果てた様子で常磐をその場に留めた。

 

「今ね、ソウゴ君にお客さんが来てて……そのお客さんがね、ソウゴ君のごはん……食べちゃった」

「……ふぁぇ?」

「す、すぐ作るから!」

「え、ちょっ、ええ!?」

 

 リビングに踏み込んだ常磐ソウゴが、ついに、門矢士と対面した。

 

「……どちら様ですか?」

 

 門矢は平然とハンバーグの最後の一切れを食べ終えてランチプレートを更地にしてから、イスを立った。

 

「門矢士。通りすがりの仮面ライダーだ」

 

 門矢は懐から取り出した品を、俺たち全員に見せつけるようにぶら下げた。

 

「美都せんせーの時計!」

「最初のアナザーゴーストとの戦いで、先生、失くしたって……アンタが盗んでたの!?」

 

 門矢はニヒルな笑みのみで応じ、リビングを出て行った。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 常磐とツクヨミが門矢を追って踵を返した。俺も席を立って二人に続く形で店内へ出た。

 

「俺に用があったんじゃないの?」

「――お前、“王様”になりたいんだってな。だが無理だ。この世界は俺に破壊されてしまうからな」

「訳わかんないこと言うな! 世界は誰にも破壊なんかされない。俺がさせない。そのために俺は、“最高最善の魔王”になるって決めたんだから!」

 

 常磐が門矢に詰め寄った。

 

 思えば俺は、常磐ソウゴが本気で激昂した顔を、今この時まで見たことがなかった。

 奴はヘラヘラ笑っているのがデフォルト。アナザーオーズの一件で怒鳴ったことは確かにあったが、変身していて表情は窺い知れなかった。

 

「そういうことならなおさら、この時計を返してやるわけにはいかない」

「だからさあ! 訳わかんないって言って……!」

 

 ビシッ!

 常磐の言を遮って門矢が突きつけたのは、マゼンタのトイカメラ。

 

「その“進路希望”は、お前の『美都せんせー』と無関係じゃないってことだ」

 

 門矢はトイカメラのシャッターを一度だけ切って、クジゴジ堂を出て行った。

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