70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 EP15からオリジナル展開です。ご理解の上、拝読ください。
 そして、この話を以て“オリジナルの最終回”に向かいます。
 要するに――打ち切りです。
 
 2/8追記 打ち切りやめました!


Syndrome34 そんな“先生”に、私はなりたい

 職員室は上を下にの大騒ぎでした。

 

 受け持ちのクラスがある主任・副主任の先生方は、手分けして学校連絡網サービスで担当クラスの生徒たちに連絡。休校と、自治体が発令する避難指示に従うよう伝えています。

 

 そうでない先生方も。役所の災害対策本部の職員に協力して避難所設営をしています。今でも体育館ホールには、備蓄倉庫から非常食や寝具を持ち込まれているでしょう。

 私は前者のグループです。副主任の大谷先生と二人で、3年G組の生徒たちに連絡真っ最中です。

 片っ端から……ではないですね。一人の生徒だけは一番あとに、私から掛けさせてほしいって大谷先生にお願いしました。

 

 ――常磐ソウゴ君にだけは、最後の番に、私から。

 

 この世界規模の破壊行為はおそらくオーマジオウ絡みです。常磐君は事情を知っているでしょう。その事情を聞いたら私は他の生徒たちへの連絡をおろそかにする、下手をすると職務を放棄して彼と、明光院君とツクヨミさんのもとへ駆けつけてしまう。そのくらいの自己分析はできる。

 

 私はあの三名だけじゃなく、3年G組の生徒30名の“先生”です。

 

 ――29名の生徒への連絡が終了。最後は常磐君に……

 

 生唾を呑んだ私の前で、デスクに出しておいたスマホがLINEのメッセージ着信音を鳴らした。

 

 び、びっくりさせないでください~! 誰ですか!? この非常時に……って、え?

 

 これ、LINEの招待メッセージ……グループ名は『光ヶ森3G』?

 ――まさか。

 私がそのグループトークのアイコンをタッチすると、参加者全ての名前が私のクラスの生徒たちのものだった。

 しかも今なお参加者が増え続けてて、やっぱりそれはうちのクラスの生徒でした。

 

 

 

 

 

   小和田隆<クジゴジトリオ発見

        市内スクランブル交差点、立体歩道橋

   本間弘也<明光院とツクヨミが怪人に襲われた。何だあいつ。

        前に俺、赤くて青い怪人に会ったことあるけど、あれともなんか違う

   篠崎()(シロ)<XX工場前。怪人にやられてたヨミ保護。

   小和田隆<ヨミ? ツクヨミちゃん?

   篠崎磨白<名前長いから略す 打つ時間もったいない

    井坂(ヒカル)<檀ファウンデーション支社ビル前 

        瓦礫落ちてきたとこ助けてもらった

        右目に眼帯した女子に

        「織部先生によろしく」って言われた

        ねえ、美都せんせー呼ばない?

    青山(アラタ)<招待した

   小和田隆<早ぇよホセ

   篠崎磨白<あ。

        ごめん。ヨミ逃がした。

        常磐と明光院のこと追いかけたっぽい

    青山新<常磐たちは?

   篠崎磨白<見失った

        怪人が常磐のこと「我が魔王」とか言ってたんだけど

   小和田隆<これ常磐絡み?

    青山新<実行犯じゃない。でも間接的に関係してるに一票

   本間弘也<二票目

    辻(ナガ)(ハル)<3

   延岡(マサ)(ヨシ)<し

  白石五十鈴(イスズ)<五十

   本間弘也<桁Σ(゚Д゚)

  白石五十鈴<名前の履歴から打った 十消しそびれたの!

    青山新<意外と多かった常磐シンパ

    辻永春<シンパちゃうわ

   仁科七海<今北産業

   小和田隆<美都せんせーに読まれたら趣味バレするぞ →仁科

   篠崎磨白<だって常磐、美都せんせー大好きじゃん

        常磐本人の性格は正直よく知らないんだけど

        美都せんせーが嫌がることはできないってだけ

   小和田隆<おまえそれ特大のブーメラン発言

    青山新<だが3G全員に言えたことである

   仁科七海<現状教えろーーーー!!!!

   本間弘也<脱線してたな。

    井坂光<現着! 例の眼帯女子連れてきた! せんせー見てる!?

 

 

 

 

 

 私はデスクを立ち上がりました。

 こみ上げた涙には根性でお引き取り願いました。

 

「お、織部先生?」

「すいません、伊賀先生。うちのクラスの生徒が登校してきてしまったので、ちょっと外させてください」

「はあ……」

 

 デスクの抽斗からバッグを引っ張り出す。スマホ入れた、財布よし、免許証よし、お母さんの時計……は、まだ返してもらってないんでした。

 でも、井坂さんが連れて来た“眼帯女子”が私の思う通りの人物なら、取り返す目途が立たないでもないです。

 

 生徒用の玄関昇降口へ向かうべく、職員室を出て、渡り廊下に差しかかった。

 

「美都せんせー! やった、ニアミス回避!」

「お手柄でした、井坂さん! ――意外と早い再会でしたね。小夜さん」

 

 門矢小夜さん。ディケイドの変身者、門矢士さんの実の妹。今日は前みたいなドレスじゃなくてカジュアルな服装なんですね。

 

 私はまず小夜さんに頭を下げました。

 

「うちの生徒が危ない所を助けてくださったそうですね。本当にありがとうございます」

「たまたま目に付いたから。それにたぶん、わたしが助けなくても彼女は死ななかった。彼女も“ミレニアム2(ニー)9(キュウ)”の一員だから」

 

 井坂さんは小首を傾げた。私も同じことをしたいです。

 

「美都せんせー。あたし居ないほうが、話しやすい?」

「え、っと」

「オーケー。体育館行ってる。ウチの避難先がちょうど学校でよかった」

「井坂さん」

「ん?」

「こういうことは二度としちゃいけませんよ。他人の意思を無視して強引に連行することは、立派に誘拐罪ですからね。若い内に犯罪者になっちゃうのは、損です」

「いけないこと、じゃないんだ」

「ないのです。小さい頃に道徳の授業で、ウソや万引きはいけませんって教わりませんでした? 自転車登校に当たってショッキングな交通事故のビデオ授業を受けませんでした? ああいうのはね、“悪い”からいけないと教えたいわけでなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って老婆心からの警告なんですよ。大人が犯罪に手を出さないのは正義感じゃなくて、損をするのが嫌だから。だって先生は、君たちが補導されても恥ずかしいとは思わないと断言できます。頭ごなしに怒鳴りつけることは決してありません。ただ、君たちが犯した行為が、巡り巡って君たち自身の将来の可能性を損なうことに、胸を痛めます」

「むつかしいよぅ――でも、うん。美都せんせーが真剣にあたしたちを心配してるのは、分かった」

 

 分かってくれたのでしたらいいのです。

 

 井坂さんが去っていった。

 私はすぐさま小夜さんに詰め寄りました。

 

 本当なら尋ねたいことも言いたいこともたくさんあります。

 士さんに盗られたお母さんの時計、終末系映画みたいな外の惨事、全てを詳らかに語ってほしいです。

 

 けれど、そうしない。それ以上に大切な行動を起こさなければいけないから。

 

「小夜さん。常磐君と明光院君は今どこにいますか? 私、彼らのとこへ行かないと」

 

 外がこんな有様なんです。明光院君は絶対に決起しています。常磐君を、未来のオーマジオウを、斃すために。

 内心ではやりたくないという想いが大半だとしても、彼は自分の心を殺して決断するでしょう。

 

「――駆けつけて()()()()()()()()()()()()()、そう言うのね?」

 

 無言で首肯を一つ。

 小夜さんは右目の眼帯を外しました。

 

「織部美都。貴女には大きく分けて二つの未来があった。今日はその分水嶺。ジオウとゲイツの諍いに介入するか。もっと先の闘争の巷で(シンドローム)を解き放って大局を変えるか。わたしは後者だと思った。だから貴女に先んじてコンタクトして、士お兄ちゃんに宣戦布告もした」

 

 それはまた、小夜さんの年単位のスケジュールを大きく躓かせてしまって、ごめんなさいね。

 

 だとしても、未来に訪れる世界の大いなる艱難辛苦より、目と鼻の先で起きてる教え子同士のケンカを止めたい気持ちのほうが、私の中で上回ってしまったんです。ある意味“引き際”にはちょうどいいのかもしれませんしね。

 

「少し……残念だわ。惜しいとも思う。織部さん、今日び珍しい“出来た先生”だったから」

「もったいないお言葉です。じゃあ小夜さん、サクッと連れてってください。私を、常磐君と明光院君のところへ」

 

 

 

 

 

 未曾有の破壊が始まった中、未来から襲来したオーマジオウの手下から、ツクヨミともども逃げ延びて。

 古びた倉庫に駆け込んでから絶えず窓の外を哨戒するツクヨミとは裏腹に、俺は、自分自身の内面のみを見つめていた。

 

 

 ――ミトさんが死んだ日を、あえて生々しくリピートする。

 

 ミトさんとオーマジオウの、何度目かも分からない一騎打ち。ついに致命傷を負わされて倒れた、ミトさんの死に顔。

 

 俺のジクウドライバーは元々ミトさんが使っていたものだった。

 “ミレニアム2(ニー)9(キュー)”の再来と呼びなわされたミトさんは、その風評に違わず、向かう所敵なしの仮面ライダーだった。

 

 その名を、仮面ライダーゲート。

 苛烈で、熾烈で、鮮烈な、仮面の女戦士。

 

 そんな戦士だったミトさんでさえ、オーマジオウには敵わなかった。ミトさんは命も魂も削り切って戦ったというのに、勝てなかったんだ。

 

 満身創痍で倒れ伏したミトさんに駆け寄った俺に、ミトさんは、自分のジクウドライバーとゲートのウォッチを、有無を言わさず握らせた。

 

 

 “これは私の魂だ。だからアンタが継ぎなさい。アンタは私の息子なんだから”

 

 

 育ての親でもあったミトさんを、俺は一度も母と呼んだことはなかった。ミトさん。師匠。そんな呼び方しかしてこなかった。

 

 俺が託されたジクウドライバーとウォッチを握り締めて、「母さん」と呼びかけようとした時には、ミトさんはもう息を引き取っていた。

 

 俺はミトさんの亡骸に縋って、泣いた。母さん、母さん、と後悔をくり返すオルゴールみたいに。

 

 その後――

 俺はゲートのライドウォッチを改良して“ゲイツ”にした。

 “ゲート”の複数形で“ゲイツ”。――俺は独りで戦ってるんじゃない。魂はいつもアンタと共に。そういう意味と祈りを込めて、俺は仮面ライダーゲイツに変身した。

 

 右手にゲイツウォッチを、左手にジクウドライバーを握り締めた。

 

 ミトさん。そして、昭和(グレートダッド)ライダーたち。今一度だけ、俺に戦いへ臨む勇気を。

 

「見つけた! ゲイツ。ツクヨミ。よかった、二人とも無事で……」

「来るなッ!」

「――、え」

 

 俺たちの無事を本心から喜ぶお前の笑顔とも、この瞬間から訣別する。

 ()()()()()()()()()()。常磐ソウゴ。

 

 ツクヨミが顔をふい、と俺たちから逸らした。――それでいい、ツクヨミ。同じレジスタンスの兵士であっても、お前が痛ましい光景を直視する必要はない。

 

《 GaIZ 》

「変身!!」

《 ライダー・タイム  カメンライダー  GaIZ 》

 

 四肢を装甲するアーマードジャケット。手には、おのモードのジカンザックス。

 複眼越しに常磐を見据えて、足を踏み出す。

 

『俺はお前を斃すためにこの時代に来た』

 

 他でもない俺自身に言い聞かせるために、あえて声にした。

 

『俺はもう迷わない!!』

 

 ジカンザックスを振り抜いた。

 

 常磐は一撃を躱し、二撃目を受ける前に自ら俺の懐に飛び込んで、俺の姿勢を崩しに来た。

 

「やめろ! 俺はゲイツと戦いたくない!」

 

 お前が未来のオーマジオウでなければ、あるいは、答える言葉もあったかもしれないな。

 思考がそんなIFに逃げるくらいには、俺だって感じ入ったことがあったんだ。

 

 組み合った常磐の腹に蹴りを入れて、間合いを仕切り直す。

 

「~~っこの分からず屋!!」

 

 常磐は左手でジクウドライバーを装着し、同時に右手でジオウウォッチのガワを回してリューズを押した。

 

《 ZI-O 》

「変身ッ!」

《 ライダー・タイム  カメンライダー  ZI-O 》

 

 ジオウはケンモードのジカンギレードを手にして、俺が振り下ろしたジカンザックスを受け止め、力任せに弾き返した。

 

 こうなったジオウは掛け値なしに強い。認めよう。長引かせれば俺に分が悪い。

 ならば、次で決める。

 

 どのレジェンドライダーのライドウォッチにも換装はしない。下手な小細工はつけ入らせる隙になる。

 ジカンザックスのスロットに、外したライドウォッチを装填した。

 

《 フィニッシュ・タイム 》

 

 カウント。5・4・3・2・1――

 

《 ザックリカッテイング 》

 

 本来、発動者は動かないまま波形に放つ必殺技。威力を上乗せするために、あえて走り出してジオウに肉薄した。

 エネルギーをチャージしたエッジでジオウの胸部を穿つ。それで終わり――のはずだった。

 

 赤い血が、噴き上がった。

 俺ではなく、ジオウでもなく、俺たちの間に割り込んだ人物からだ。

 

 踊るように倒れゆくそのひとを、ジオウが受け止めて、膝から崩れながら抱き支えた。

 

 

『―――美都せんせー?』

 

 

 

 

 間に合ってよかったけど、これは失敗したな、なんて。

 ジオウの腕の中で、私は他人事みたいに苦笑した。

 

 せっかく小夜さんが現場まで灰色のオーロラで直行させてくれたのに……うん、本当に大失敗。

 “先生”なら“生徒”にこういうみっともない姿を、そもそも見せてはいけなかった。頼れない親と学校の教師ほどコドモを不安がらせるものはないのですから。

 

 その大鉄則を弁えておきながら、ジオウを討たんとしたゲイツの攻撃からジオウを庇ってしまったのは、ごくごく個人的でささやかな私情によるものです。

 

 一度だけ――そう、ただの一度だけは。

 もし、常磐君が“サイテーサイアクの魔王”になると確定する時が来たら、明光院君やツクヨミさんが何と言おうと何をしようと、私だけは常磐君を庇おうと決めていた。

 

 理非善悪はどうでもいい。罪の所在を問いはしない。

 痛くても怖くても大丈夫。命と引き換えにしたって構わない。

 

 だって私は、常磐ソウゴ君の“先生”なんですから。

 

 それ以上でもそれ以外でも、ない。理由は本当に、それだけ。それだけしか、思い浮かびませんでした。

 

 いつもより途方もなく重い手を持ち上げて、ジオウのフェイスマスクに添えた。

 ああ、血で汚しちゃった。せっかくの磨き抜かれたセラミックボディなのに。

 

「ときわ、君」

 

 ちゃんと進路指導してあげられない、ダメな先生で、ごめんね。

 

 

 

 

 

 ――何が、起きてるんだ。

 

 どうしてジオウは先生を抱えて膝を突いている?

 どうしてジオウがあんなに悲痛な声で呼んでいるのに先生は応えない?

 どうして先生の服が血で汚れていっている?

 どうして先生は苦痛に顔を歪めている?

 

 手からジカンザックスが滑って地面に落ちた。拾って構え直すために動くことが、今の俺にはできなかった。

 

 俺が壊した。俺が傷つけた。俺の、この手で。他の誰でもない、俺、が。

 

『ゲイツ……』

『……ジオウ』

 

 泣いている。

 フェイスマスクの中で、常磐ソウゴが涙に暮れている。

 今の俺と、同じに。

 

 そうだ。だって俺たちはどちらも彼女が大好きだった。俺にとっても奴にとっても、彼女は敬愛する人だった。

 

 俺のせいで/お前が

 俺が/お前のせいで

 

 彼 女 を 殺 し た 。

 

『『――ゥォォオオオォォォッッ!!!!』』

 

 互いに武器を掴んで飛び出した。

 ただただ互いを殺すためだけに、その刃を振り抜いた。




 なぜ「GEIZ」を今まで「GAIZ」と表記してきたかって?
 わ ざ と だ よ !
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