70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 ソウゴのベルトを壊す時にゲイツがソウゴを下の名前で呼び捨てしたのか、耳が遠くなってきた作者には分かりませんでした。
 もしはっきり聴き取れた方がいらしたらあの瞬間のゲイツの台詞の詳細プリーズなのです。


Syndrome35 レスキュー;クロス・オブ・ファイア

 ――門矢士は、愛用のトイカメラを展望室の外へ向けて、都市を闊歩するダイマジーンとかいう殲滅型巨大メカを撮った。

 切り抜いたシーンは、ブレや乱反射のない“キレイな写真”に焼き上がるだろう。

 

「お兄ちゃん」

 

 ――来たか。

 門矢士はトイカメラをテーブルに置いて、階段を顧みた。

 

「小夜」

 

 階段を登りきった彼の妹は、彼女の兄と適切な間を空けて立ち止まった。

 

「織部美都がジオウとゲイツの衝突を止めに向かったわ」

「……やっぱりそうなったか」

「お兄ちゃんがあの人から封印具(とけい)を奪っておいたのは、こうなることを予期してだったの?」

「今日この日、とピンポイントで考えてはいなかったが、いずれ」

 

 門矢士はソファーチェアに腰かけて、スケルトンの懐中時計を取った。

 上下で異なる文字盤の配色は、それこそ変身したジオウやゲイツのカラーをそれぞれに採用している。

 

「この道具はあの女がガキどもの“教師”を続ける上で枷になった」

 

 確かに、この懐中時計()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のおかげで、織部美都はどの平成ライダーの“闘争”にも関わらずに済んだのかもしれない。

 しかし、こんなシロモノを持っていてさえ、仮面ライダージオウの歴史に深く組み込まれることは避けられなかった。

 

「……まあね。今日だけは、お兄ちゃんの“ありがた迷惑”のおかげ」

「お膳立ては整えておいた。あとは任せたぞ、小夜」

「自分でやるのがめんどくさいだけでしょ?」

「……、……あの手の青臭いシーンに居合わせるのは、20代の頃でもう満腹なんだよ」

「しょうがないお兄ちゃん。次に世界がピンチになったら立ち上がるくせに。仮面ライダーディケイド?」

 

 未来を視る右目を持つ門矢小夜が断言するのならば、それこそが門矢士という戦士に近く訪れる次の戦場なのだろう。彼はそんなふうに思った。

 

 

 

 

 

 

 理性はとうにショートした。

 自制心はとうにダウンした。

 俺とジオウをヒートアップさせるものは、憎い相手への殺意のみに尽きた。

 

 300度の視界(インジケーションバタフライ)に、血まみれで横たわる彼女を掠め見るたびに、ジオウへの攻撃が加速する。自分でももう止められないし、止めようという気にもならなかった。

 

 お前だって思う所は同じだろう? ジオウ。

 

 

 “お前さえいなければ、あの大切なひとはあんな目に遭わなかったのに”

 

 

 ゴースト。ドライブ。ファイズ。ゲンム。今の俺のアーマーはウィザード。

 ビルド。エグゼイド。フォーゼ。オーズ。対するジオウのアーマーは鎧武。

 

 ジカンザックス・ゆみモードから射た氷の矢がジオウの足下に着弾した。ジオウの動きを封じた。

 

 だが、俺が火の矢を放つより先に、ジオウは別のライドウォッチでの換装をやり遂せた。

 

《 アーマー・タイム  KUUGA 》

 

 ――レジェンド1・仮面ライダークウガ。2000年(ミレニアム)に誕生した、レジェンドライダー全ての祖たる戦士。

 

 ジオウはアーマーチェンジの勢いを相乗して足を戒める氷を砕き、直後には、俺の懐に入っていた。

 とっさに防ごうと身構えることすら間に合わなかった。

 ジオウ・クウガアーマーはジカンギレードを捨てて、途轍もなく重い掌底を、俺の鳩尾に打ち込んだ。

 

『カッ、ハ――ゲホ、ゴホ!』

 

 後退を余儀なくされて片膝を突いた俺へと、ジオウがゆっくり歩いてくる。

 

『――くも、よくも、よくも。よくも、せんせーを。おれのユメを笑わなかった、はじめての“先生”をッ!!』

 

 よくも、だと? それは俺の台詞だ。

 お前を庇いさえしなければ、彼女は惨たらしく血を流すこともなかったんだろうが。

 

 次の瞬間に、きっと俺はジオウに複雑骨折並みの威力で殴られると予感できたから、最後まで心中で毒づくことはやめなかった。

 

 まさにジオウが握り固めた拳を俺に振り下ろす、その、タイミングで。

 

「もうやめてッ!!」

 

 ジオウの背中に着弾した、ファイズフォンⅩの連続銃撃。

 

『ツクヨミ――』

 

 ツクヨミは今にも泣き出しそうな激怒顔で、俺たちに両手でファイズフォンⅩを照準したままでいる。

 

「アンタたちがムキになってどうするのよ! 今にも先生がっ……死んでもおかしくない重傷って時に、アンタたちは何で馬鹿みたいに八つ当たりし合ってるのよ!!」

 

 ツクヨミの叫ぶことは全き正論だ。俺にせよジオウにせよ急速に頭を冷やしたくらいに。戦意が萎えて立ち上がることもできないくらいに。

 

 パチ、パチ、パチ――

 

 膠着した空気にそぐわない、呑気な拍手が割り込んだ。

 

「よく言ったわ、ツクヨミさん。さすが平成最後の乙女(ラ=ピュセル)。正直言うと、見てて感動しちゃった」

 

 服装こそ初対面でのゴシックドレスではないが、見間違えられない。

 悠然と場に現れたラフな私服姿の女は、門矢小夜だ。“世界の破壊者”ディケイドの変身者、門矢士の妹だ。

 そんな女がなぜこのタイミングで俺たちの前に現れたのか。

 

「――織部美都さんが()()()()のは視えてたから、本当は行かせたくなかったんだけどね」

 

 小夜は軽い調子で――まるで天気予報が外れて雨の中で立ち往生でもしているような軽さで、そんなことを言いながら、地面に横たわったままの先生の傍らへしゃがんだ。

 

「ゲイツ君がウィザードアーマーならちょうどいい。……出来過ぎなくらい、都合がいい。ゲイツ君。貴方が2012年に時空転移した時、サンタから貰った魔宝石の指輪があったでしょう? アレを織部さんに使って。それで彼女の傷を治すことができるわ。早く!」

 

 俺は言われるがまま、コネクトの魔法で例のプレゼント箱を引っ張り出して、包装を破って中身を取り出した。操真晴人が“エンゲージ”として使っていた指輪と同じデザインだが、効果を試す機会はずっとなかったマジックアイテム。

 

 操真は確か、エンゲージの指輪を達郎の左の人差し指に通していたんだったか。

 俺は先生と小夜のもとまで戻って、操真のやり方を思い出しながら、先生の左手を持ち上げて、魔宝石の指輪を嵌めた。

 

「さあ、美都さん、思い出して。織部計都さん――貴女のお父さんから教わった、秘密のスペル。今こそそれを唱えるの」

 

 先生は瞼を閉じたまま、微かに唇を震わせた。

 

 

「 ライダー・シンドローム 」

 

 

 先生の人差し指の指輪が発動した。

 

《 “リンケージ” 》

 

 指輪に宿った魔動力が先生の全身に染みて、光を放った。

 光が収まった時には、先生の傷は全快し、血濡れて裂けた服まで修繕されていた。

 

「何が……どうなってるの」

 

 唖然と呟いたツクヨミ。声もない俺。

 

 当の先生は、睫毛を震わせてから瞼を開くと、ぼんやりした顔で起き上がった。

 

「おはよう、美都さん。体はどこも痛くない?」

「小夜、さん。はい、だいじょうぶ……あ、あれ? 私、さっき、」

 

 先生がそれ以上を言うより速く、常磐が変身を解いて駆けつけて、先生を抱き締めた。

 

「と、常磐君?」

「よか、ったぁ…美都せんせー、助かって…生きて、て…!」

「――、思えば私を『美都せんせー』と呼んだのは、君が最初でしたね」

 

 俺は、常磐をあやす先生の面差しに、文字でしか知らない聖母か菩薩を連想した。

 

「みっともないとこを見せてしまってすみませんでした。もう大丈夫です。だから、泣かないでください。常磐君」

「…っ、…っ!」

 

 やだ、と駄々っ子みたいに頭を横にぶんぶん振る、常磐ソウゴの体たらく。

 

 俺は――ジクウドライバーからウォッチを抜いて、変身を解いた。

 

「ゲイツ?」

「ツクヨミ。帰ろう」

 

 俺たちが――俺が2018年に留まる意義は、たった今、無くなった。

 

 前言撤回だ。常磐ソウゴ、お前に“オーマジオウ”はできない。「ならない」でも「なれない」でもない、「できない」だ。

 

 だって、そうだろう? そんなふうに、特定の一人が傷ついたことで怒り、泣く、どこまでも“ただの人間”であるお前に、世界を壊すことはおろか、救うことなんてできやしない。

 

 少なくとも俺はもう、()()()から何の脅威も感じ取れなくなった。

 

 失望した? 俺が? 魔王オーマジオウの誕生を望んでいたとでも? まさか。ありえない――が。

 見たい、と。ああ、どこかで思い始めてはいたかもしれない。オーマジオウではなく、正しい“最高最善の王”になるソウゴを。




 時計を直すの大好きなクジゴジ堂のおじさんが、何で美都せんせーの時計修理の依頼ではしゃがなかったか?
 門矢兄妹の会話からお察し。
 だってそれ、正確には「時計」じゃなかったんだもん。っていう話し。
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