70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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Syndrome37 最後の“指導”

 灰色のオーロラを潜って出た場所は、湾を跨ぐ鉄橋下の港でした。

 

 常磐君を探して辺りを見回すより先に、ガッ! と、耳に痛い殴打の音がした。私はそちらをふり返りました。

 

 いた! 常磐君! 道幅の細い船着き場で、金きらした機械人形らしきモノに暴行されている。

 

 一目見てしまえば居ても立っても居られない。

 私は船着き場に降りる階段を探し当てて、そこまで走って行って常磐君のもとへ駆け下りた。

 

「常磐君!!」

「美都せん、せー……」

「はい、はいっ。常磐君、先生はここです」

「だ、めだよ、来ちゃ……危ない、のに」

「先に自分の心配をしなさい!」

 

 私は常磐君の手を握ったまま、痛めつけた機械人形を睨みつけた。

 確か小夜さんがカッシーンと呼んでいたっけ。そのカッシーンは甲冑を鳴らしてこっちに歩いてくる。常磐君を――殺す、ために。

 

 ふいに常磐君が繋いでいた手を握り返しました。

 

「ねえ、せんせー。前にさ、ケガ治した時の、あの不思議な力、今でも使える?」

「え、ええっと、はい。た、たぶん?」

「……よかった。じゃあさ、美都せんせー。あの力で、()()()()()()()()()

 

 ――――彼は、今、何て言った?

 

「俺はオーマジオウになりたくない。でも、思い知った。このベルトがある限り、いつか俺はオーマジオウになるって。あの機械はオーマジオウの手下だ。俺が()()()オーマジオウにならなくなったら、停められるよね?」

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「常磐君。恐れ入りますが歯を食い縛ってください」

 

 不思議そうな常磐君の、顔を、全力で引っ叩いた。

 

 ぱちくりと、私を見上げる常磐君の、まなざしが、痛くて痛くて。なのに視線を外せない。

 

「先生を頼ってくれたことは嬉しく思います。でも、そんな後ろ向きな常磐君は……見たく、ありませんでした……っ」

 

 生徒への理想の押し付け。それは教師になってから一番やりたくないことだった。なのに私、今まさに常磐君にそれをしてる。彼にはこう在ってほしかったって、私だけの勝手な理想像を彼に投影して、夢を諦めた彼に体罰まで与えた。

 

 ひどい。ひどい。こんなの“教師”じゃない。

 こんな私が教師であっていいはずがない。

 ……辞職を決めて、正解だった。

 

「――泣かないで。美都せんせー」

 

 首を横に振った。視界は涙のせいでぼやけて、常磐君が今どんな顔をしているかも分からない。

 

「俺は、俺の民を傷つける奴は許さない。みんなの幸せを護れるなら、命を懸けたって惜しくない。本気で、一点の迷いなしに、断言できた。美都せんせーに、会うまでは」

 

 私――?

 

「美都せんせーは俺にとって“民”じゃないし、“みんな”の中に入ってなかった。だって美都せんせーは、ずっと、俺の人生で一番尊敬できる“先生”だ。(おれ)より偉い人を民って呼んで、護るなんて言えないよ。だから――ごめんなさい。せんせーを守らなきゃいけないのに、俺、変身できない。戦えない。オーマジオウになる自分への怖さを、押し殺せない……!」

 

 ――私は何て幸せ者なんでしょう。

 彼にとっての私は、民とは違う特別枠だと打ち明けられて、怖くて戦えないほどだと甘えてもらえた。

 

 これがねじれた解釈だとしても、もう構いません。どんな形でも自分の生徒にこんなにも慕われたら、教師冥利に尽きるってものです。

 

「先生こそ、ごめんなさい。叩いたりして。痛かったですよね?」

 

 今度は常磐君が涙目で首を横に振りました。

 優しい生徒です。こんな時まで、私みたいなダメ教師を気遣ってくれて。

 

 

 ――私はこの時、半ば以上に、常磐君と一緒にカッシーンに殺されるつもりでした。魔王になるのがこわいと泣く生徒に、それでも戦えと無理強いするなんて、真っ当な教師のすることじゃないです。

 だからって常磐君を連れてカッシーンから逃げきる算段はつきません。

 つまり――投了。デッドエンドしかないでしょう?

 

 だというのに。

 私たちの眼前で、まさにカッシーンが、エネルギーをビリビリに撓めた穂先を振り下ろした、その瞬間。

 

『揃いも揃って、戦う力もないのに何してるッ!!』

 

 横から飛来した緋色のエネルギーアローが炸裂して、カッシーンをふっ飛ばした。

 

「明光院君っ」

「ゲイツ! 未来に帰ったんじゃ!?」

『それはソイツをぶっ潰してからだ!!』

 

 仮面ライダーゲイツは私たちの前に駆けつけると、カッシーンを殴って蹴って私たちから遠ざけていく。あの、もしかして怒ってます? 怒ってるとしたら何に対して?

 

「ソウゴ! 先生!」

 

 次に駆けつけたのはツクヨミさんでした。後ろから付いてきたのは小夜さんです。

 

「小夜さんが明光院君とツクヨミさんを呼んできてくれたんですか?」

「うん。ソウゴ君と美都さんが大ピンチって伝えたら、ツクヨミちゃんもゲイツ君も即決で素直に付いて来てくれたわ。私、一応はディケイドの妹なんだけどね」

 

 ツクヨミさんがプレートの機能で常磐君が負った傷を消していきます。み、未来の医療技術の進歩はすごいんですねえ。

 

「俺の妹の自覚があるなら、ちょこまか暗躍するのはやめにしたらどうだ?」

 

 ツクヨミさんがファイズガンを抜いて、声のしたほうに銃口を向けました。

 

「ああ、やっぱり来たのね。士お兄ちゃん」

「レジェンド10・ディケイド……!」

 

 タイムジャッカーの女の子と二人連れで現れたのは、他でもない門矢士さんでした。

 

「まだ終わりきってないとは思ったが。――おい。俺はどっちの味方をすればいい?」

「……好きなほうに付けば?」

 

 士さんは愉しげに口の端を吊り上げて、腰のカードホルダーから抜いたカードをドライバーに装填しました。

 

「変身」

《 Kamen Ride  ディケイド 》

 

 変身したディケイドの真正面に、とても自然な所作で小夜さんが立ちはだかりました。

 

 小夜さんが右目の眼帯を外しました。すると、彼女は最初に会った時の白いゴシックドレスに装いを変えていました。

 

 その小夜さんと睨み合って、ディケイドは動きを見せません。

 

「どうしたの? 今さら兄妹の情が疼いた? 自分のヒロイン(ラ=ピュセル)と、一度は殺し合ったくせに」

『夏海とお前じゃ何もかも違う』

「同じよ。私は破壊者ディケイドを邪魔する女。排除するにはそれだけで充分じゃない?」

 

 睨み合い。膠着。重圧で心臓が絞られるような沈黙。

 

『――、ならあっちに戦いに行くしかないな』

 

 ディケイドは踵を返して、カッシーンと闘うゲイツのもとへ歩いていくと、カッシーンと共にゲイツを蹴飛ばしたのです!

 

「明光院君ッ!」

 

 ゲイツは負けじと、ドライブのライドウォッチをジクウドライバーに装填して換装しました。

 ですがこれに対してディケイドもドライブのカードでドライブ態にチェンジして応戦しました。

 カッシーンも含めて、2対1の戦況。ゲイツにはどうしたって不利です。

 

 ゲイツ・ドライブアーマーは、ディケイド・ドライブ態に大きく轢き飛ばされて、水のない貯水槽の中に落ちた。

 

「ゲイツっ!」

 

 常磐君は縁を跨いで貯水槽の中に飛び降りました。




 『中学聖日記』ダイジェストを観て曲を聴いて、
 「これがやりたかったー!!!!orz」
 と頽れた今日この頃。
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