70年目のサクラサク   作:あんだるしあ(活動終了)

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 ――――着いて来れるか?


Syndrome40 “観測者” ①

 私のお母さんが、未来人で、仮面ライダーだったひと――

 

 ショックなのに、どこかで冷静な自分がいて、いくつもの心当たりを引っ張り出してくる。

 

 私が小さい頃、今ほどシングルファーザーへの世間的理解は進んでなかった。ご近所のおばさんたちのヒソヒソ話が聞こえたこともあるし、小学校では面と向かって揶揄する同級生や、先生だって、いた。それはいいの。そういう時代に私が産まれただけの話だから。

 

 でも、お父さんは?

 お母さんへの誹謗中傷に、お父さんが反論したことは一度もない。

 お母さんは私を産んだあと、体調が芳しくないまま亡くなった。いつだってそれしか言ってくれなかったお父さん。

 

 まだ思いつく。お母さんの写真や、お母さんにまつわる品が、我が家には一つもない。今は士さんに取ってかれちゃった、あのスケルトンの懐中時計だけが形見だって言われて育った。

 

 お母さんが本当に、明光院君たちの師匠の「ミトさん」と同一人物だとしたら。

 

 死んだことにするしかない。写真はおろか身近な品だって残せるわけがない。

 お母さんの痕跡を抹消しないと、どんなタイムパラドックスが起きるか分かったものじゃないんだから。

 

 お母さんは私を産んで死んだんじゃなかった。未来から来て、元いた時代へ帰って行ったんだわ。

 

 ――お父さん。

 お父さんは本当のことを知っていたの? どこから、どこまで? 知っててずっと、娘の私に隠してきたの? どうして?

 

「美都せんせー……」

 

 はっとした。

 私を呼んだ常磐君は、私を心配そうに見つめていました。彼自身が大きな将来的決断をした直後だというのに。

 

 ――これ以上、生徒の前で、頼りない先生のままいたくないです。

 

「心配してくれてありがとうございます、常磐君。――明光院君。ツクヨミさん」

 

 私が呼べば、二人はびくりと肩を跳ね上げました。

 

「君たちは2068年に帰る前だったんですよね? 時間は大丈夫ですか?」

「え? あ、そ、そうだったけど、でも、今のソウゴを置いて帰るのも、ちょっと、なんていうか」

「ツクヨミ、俺のこと気にしてくれるんだ」

「断じて変な意味じゃないからね!!」

「う、うん、分かってるってば。なんか顔赤いよ? 大丈夫?」

「ちがうったら、ちがうんだからー!」

 

 妙に常磐君から距離を取ろうとするツクヨミさん。その彼女を微笑ましげに宥める小夜さん。

 

「明光院君はどうします?」

「どう、って」

「私は家に帰ったら、父に母のことを尋ねようと思ってます。父だけでなく、南さんにも小夜さんにも。私の母と明光院君は無関係じゃないかもしれないですから、明光院君が気になるようでしたら、話の場に同席してくれても、私は全然構いません。聞きたくないんでしたら、もちろん、無理にとは言いませんが」

 

 瞑目すること、一拍。

 明光院君は私を毅然と見据えました。

 

「俺にも、聞かせてくれ」

「……分かりました。私は一度学校に戻ります。車を取ったら迎えに行きますから、君たちは濡れた服を着替えておいてください。そのままだと冷えて風邪ひいちゃいます」

「分かった」

「はい。それじゃあ、またあとで」

 

 上手く笑ってあげられてたら、いいんだけどな。

 

 

 

 

 

 学校への帰路は、南のおじさまがバイクの後ろに乗っけてくれたので、早く戻ることができました。

 南のおじさまは私のお礼を聞いてから、先にバイクで我が家に向かいました。

 

 私は急いで職員室に行きました。

 職員室の先生方に「お疲れ様です」と挨拶を返しながら、校長室へ一直線。信楽校長に深く頭を下げて、退職願を取り下げたい旨を申告しました。

 応えて信楽校長は、寿老人のような顔をして、私が提出した退職願を無言で返してくださいました。私は涙を押し留めて、再び頭を深く下げました。

 

 それから私は、自分のデスクから手荷物を回収して、足早に退勤しました。

 

 

 車で向かったクジゴジ堂。

 エンジン音が聞こえたのか、お店の近くにアイドリングすると同時に三人とも外へ出てきました。常磐君、明光院君、ツクヨミさん。

 乗ってくださいと言うと、常磐君が助手席に、明光院君とツクヨミさんは後部座席に乗り込みました。

 常磐君が「おじさんには、帰り遅くなるって言ってあるから」と言ったので、失礼ながら保護者さんへの挨拶は省略させていただきました。

 

 

 織部家のマイホームに帰り着いた頃には、日は暮れなずんでいました。

 

 ――家に帰るのがこわい、って思うなんて、人生初かもしれない。

 

 玄関ドアの前でそう思ったけれど、そんな私の背中を生徒たちは見ているんだと自分を叱咤して、ドアを開けた。

 

「おかえりなさい。美都」

「お父さん……」

 

 ――こうして迎えに出てきてくれたってことは、先に来た南のおじさまと小夜さんに事情を聞いてるんですよね? 私自身だけじゃなくて、連れてきた生徒全員の事情も知ってるんですよね?

 

「……ただいま。大事な話があるんです。聞かせてくれますか?」

「はい。話します。来週の、30歳の誕生日に明かす予定でしたから、準備は出来てます」

 

 お父さんはもうすぐ還暦です。南のおじさまに比べれば、寄る年波を感じさせる顔立ちになったなって、娘心に思います。今となっては、顔のシワの何本かは、30年もお母さんのことを隠し続けた気苦労のせいかな、と悲しく想像したりもするのです――

 

 お父さんは笑みを刷いたまま、私の後ろを見やりました。

 

「あなたたちもどうか上がってください。話は娘からよく聞いています。――美都の父の、織部(かず)()です。よろしくお願いします」

 

 一番に返事をしたのは常磐君。明光院君はむっつり黙ったまま。ツクヨミさんはじーっとお父さんを見上げています。

 

 私が「上がっていいですよ」と言うと、三者三様に靴を脱いでスリッパに履き替えましたので、私は彼らをリビングまで先導しました。

 

 

 リビングのソファーの一つには南のおじさまが座っていました。小夜さんは床に直接腰を下ろして、ローテーブルにもたれています。

 ローテーブルの上に並んだ湯飲みは、すでに5人分。

 

「適当に座っちゃっていいですから」

「失礼しまーす」

「し、失礼します」

「…………」

 

 さて、これでみんな着席しましたね。何から質問しましょうか。

 

 話題を切り出しあぐねた私に先んじて、常磐君がお父さんに恐々と尋ねました。

 

「もしかしてせんせーのお父さん、『信長公記超訳』の著者の、織部教授ですか?」

「ああ、はい。ご存じなんですね」

「本人だった!!」

 

 常磐君がソファーを立って、お父さんの両手と熱烈に握手しました。

 

「俺、本買いました! 2010年出版初刷の!」

「それはありがとうございます。つまらない書き物で恐縮ですが」

「とんでもないです! めちゃくちゃ斬新で面白かったです! 濃姫バレリーナ起源説とか、マジですげえ! って思いましたし!」

 

 ……なんというか。

 リビングに充満していたシリアスが、爆発四散しました。

 

 小夜さんも南のおじさまも笑いたいのを我慢している模様です。そこは、笑えばいいと思いますよ? 二人とも。

 

「ありがとうございます。でも本当に、僕は“観測”したままを文に起こしただけなんです。そのお礼は、出版を許可してくださったOOO(オーズ)の火野議員に伝えてあげてください」

「――――何で映司?」

 

 お、お父さん? 今サラッととんでもないカミングアウトしませんでした?

 

 お父さんは私の、明光院君とツクヨミさんの視線を受けて、苦笑しました。

 

「火野映司さんだけじゃありません。1971年に誕生した仮面ライダー1号から、2017年のビルドまで、誰が変身者なのかを把握しています。南くんの代は特に。妻が妊娠中に護衛をしてもらったこともありましたから」

 

 妊娠中。ってことは、お母さんのお腹に私がいた時? え、私とお母さん、仮面ライダーに守ってもらったんですか!?

 

「明光院ゲイツ君にツクヨミさん、でしたね。あなたたちの師匠で養い親だというミトさん。彼女は16歳でオーマジオウとの決戦ライダーに選ばれ、2050年から1988年へタイムトラベルしてきました。南くんたち昭和ライダー全員分の力を継承する任を帯びて。過去に来たばかりのミトさんに、当時30歳だった僕が声をかけた。それが、僕とミトさんのなれそめです」




 自分がショックでも教え子を優先する「大人」な美都せんせーを書きたいだけの回だった。

 そしてもうお察しですよね? 計都さんが2010年に著した『信長公記超訳』のモデルとなった人物が「誰」だったか。
 ※参照:映画「仮面ライダーW&OOO ノブナガの野望」
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