「さて、と。これで、皆さんの疑問にはあらかたお答えできたでしょうか?」
少年少女三名はぽへーっとしている。本当はもっと色々聞きたいけど、何から尋ねればいいか分からない。そんなとこでしょうね。当事者の私にとっても、ここまでの話はボリュームがあり過ぎましたし。
「はい、教授! 質問です!」
「どうぞ、常磐くん」
「どうして昭和ライダーの大先輩たちは、教授と美都せんせー……と、せんせーのお母さんのミトさんに、色々良くしてくれたんですか?」
常磐君の質問に答えたのは、お父さんじゃなくて南のおじさまでした。
「ミトとは共に戦った仮面ライダー同士だからな。最初は俺たちも思ったさ。16歳の小娘を仮面ライダーにするなんて、80年後の人間たちの頭はどうかしてる! ってな。だが、俺も先輩たちも、変身したミトと共に闘えば、全員がミトを女子どもと侮ったことを反省するしかなかった。戦いの渦中でも情緒を育んでいくミトと、危険を承知でミトの傍らを離れず支え続けた織部助教授の献身ぶり――そんなものを見ていたら、自然と応援したい気持ちになるじゃないか」
分かります、おじさま。
恋仲に進展しろ、と明確に思っているわけじゃない。でも、このふたりが仲良くなったら、とても素敵な光景だろうな、その後押しをしたいな、という親愛のキモチ。
私も何度も思ったことがあります。おもには、常磐君とツクヨミさんに。
南のおじさまがお父さんに笑いかけた。お父さんは苦笑を返しました。
「あれ、助教授? 准教授って呼び方になる前に知り合ったんですか? ってことは、織部教授ってかなり若い内に大学助教授になってた?」
「助教授の職を頂いたのはちょうど30歳になった年です。その1988年、昭和最後の年に、僕は妻と出会いました」
あ。ゲイツ君、今、むっとしたでしょう。顔に出ましたよ。尊敬する師匠であるお母さんを私のお父さんに取られたみたいで悔しいんですか? 意外とカワイイとこもあるんですねえ。って、いけない。これじゃ私、危ないおねえさんです。
「同じ年に南くんとも知り合いましたね。僕が人生で初めて会った仮面ライダーでした」
「ツクヨミさんは南さんをBLACKって呼んでましたけど、それが南さんの仮面ライダーの時のお名前?」
「そうだよ。BLACK、そしてRX。俺は二世代に渡って、二つの姿に変身して戦った仮面ライダーだ」
南のおじさまは苦みを含んだ懐かしさを浮かべました。
「仮面ライダーになって31年……19歳で戦いに身を投じた俺も、気づけば50歳だ。改造人間だというのに、体内のキングストーンの影響か、俺の肉体は人並みに齢を重ねている。いつか一線を退く日が来るかもしれない。それを思った時に考えた。これからも生まれ続ける現代の仮面ライダーたちに、そして未来の子どもたちに、俺は何を残してやれるだろうか、と。その未来の中には、お前たちだっているんだ」
「でも俺、オーマジオウに……魔王に、なるのに?」
――それでもあなたは、常磐ソウゴを「未来の子どもたち」の中に数えてくれるの?
常磐君の声にならない切なる問いが、確かに聴こえた。
「それは未来のソウゴであって、いま俺の目の前にいるソウゴじゃない。そして、美都が指導に当たっているなら、お前が魔王になるなんて未来は、俺には杞憂でしかない」
私が教えている生徒だからって、
去年度の3月に誓いました。私のクラスからは一人も脱落者を出さないって。
常磐君は私の生徒です。“最低最悪の魔王”になりそうになったら、今度は拳骨で引きずり戻してあげるんです。
「仮面ライダーは人間の自由のために戦っている。その中でも俺は、『子どもたちの夢を守る』ことを、いつしか信念に掲げて戦うようになっていた」
子どもたちの、夢。
将来。志望。希望。展望。未来の自分に託すもの。
「教授からの便りで知ってはいたんだ。君が教える生徒の一人が、『俺、王様になる!』なんて途方もない夢をのたまったこと」
お前のことだぞ、と明光院君が常磐君の脇腹を肘で小突いた。
「そして君が、その生徒を叱りも否定もせず、逆に身を粉にしてサポートしていることも」
あ、と零した声が、常磐君と重なった。
「親は無くとも子は育つと言うが、なんというか、拍子抜けした。俺や先輩たちがあれこれ教えるまでもなく、君はとっくに最適解を出して、しかも実行していたんだ。仮面ライダー顔負けの“志”だ」
「――もったいないお言葉です。
小さな頃の呼び方をあえて口にすると、南のおじさまは眩しそうに笑って、小さな子どもだった私にしたみたいに、私の頭を撫でてくれた。ちょっとだけ、涙ぐんでしまった。
昭和最後の仮面ライダーがここまで言ってくださってるんです。迷ってる暇なんてありませんでしたね。
「お父さん」
「はい」
「お母さんと一緒に授かったという、昭和の仮面ライダーたちの力。それを制御する方法を、私に教えてください」
お父さんは一拍の瞑目を置いてから、ゲイツ君を見やりました。
「現状では、ライダー・シンドロームの発動には制限が付きます。エネルギー開放に慣れれば単独で扱えるでしょうが。それまでは、まず、明光院くんが近くにいることが前提条件となります」
「――俺?」
「あなたのベルトとライドウォッチは、僕の妻の形見でしょう?」
ひゅっ、と。ゲイツ君もツクヨミさんも青ざめました。
「な、んで、ミトさんが死んだって、知って」
「あなたたちが『ミトさん』の話題を口にする時は、常に過去形でしたので」
この子たちは、もういない人のことを話しているんだろうなと、分かったんです――と、お父さんは寂しげな微笑みのまま言いました。
「妻が文字通り“ライダーの魂”を籠めて使い続けたそれらのアイテムは、娘の中の“ライダーの力”を外へ誘引する作用を備えたものと思われます。小夜さんに確認しましたが、過去二回のライダー・シンドロームの緊急発動は、どちらも明光院くんが娘の至近距離にいた状況だったそうですね」
私自身に自覚はないのですが、ゲイツ君ははっとした様子です。心当たりがあるみたいです。私、いつの間にそんなトンデモやらかしちゃったんでしょう。不安になってきました。
「明光院くんのそばに行く。あとは美都、あなたが『ライダー・シンドローム』と唱えるだけでいい。ただし、気をつけてください。全ての条件を満たしてライダー・シンドロームを開放しても、狙った通りの“奇跡”が起きるわけじゃありません。ただの力の塊には指向性がないからです。効果はあくまでランダム。エグゼイド世代の言い方を借りると、バッドステータスの付与や敵のステータスアップも十二分にありえますし、後遺症が何かしら残る可能性もあります。これらのことを決して忘れないでください。美都」
「分かりました。教えてくれてありがとう、お父さん」
EP23=仮面ライダーキカイダー編=鎧武×キカイダーコラボ回
鎧武編2にワンチャン!?Σ(゚Д゚)
(↑未だ鎧武編に未練アリ)