――結果的に、私の憂慮は全て杞憂に終わったのですが。
須藤刑事は、私が到着するより早く、明光院君とツクヨミさんの聴取を終わらせていました。
私が彼らのいた病院の廊下に時には、須藤刑事とは挨拶程度。
ただし、ギリギリセーフでしたので、明光院君かツクヨミさんに用がある時は私を通してほしいとお願いして、須藤刑事に名刺をお渡しすることには成功しました。
保護者気取り? いいえ担任教師気取りです!
「先生……」
「遅れてすみませんでした、ツクヨミさん。よく知らせてくれましたね」
頼ってくれて嬉しかった。そんな気持ちで声をかけると、ツクヨミさんは首を横に振りました。黒々とした髪が玉簾のように揺れました。
「それから、私のほうでも掴んだ情報があります。今回のアナザーライダーは、2002年の仮面ライダー、龍騎の世代のライダーたちの誰かという可能性が浮上しました」
――病院の屋上に場所を移した私たちは、持ち合わせる情報を統合しました。
「あの城戸真司が、オリジナルの仮面ライダー龍騎……でも、アナザーライダーがアナザー龍騎とは限らない? あー、頭うだりそーだよぉ」
常磐君。君、成績に出ないだけで、頭の回転はいいんですから、がんばって処理してください。
「ねえ先生、そんなに詳しく話してよかったの? 先生もだけど、織部教授も」
ツクヨミさん、心配してくれるんですね。優しい女の子です。
「口止めはされませんでしたから。それに、父でしたら、本当に言い触らされて困ることは、まず私に気取らせません。隠さなかったのでしたら、私がその情報をどう扱ってもいいということです」
そのくらいは分かるんです。
今まで仮面ライダーの闘争から徹底して遠ざけたように。
もしそうでないんだとしても、それはそれで、お父さんが私をやっと一人前の大人として認めてくれたって意味ですし。
「私からも確認させてください。アナザーライダーは鏡やガラスから出入りしてるんですよね? 戦いの有利不利に関わらず、一定時間で」
答えたのは明光院君です。
「少なくとも前回はそうだった。勢いに乗って俺やジオウを倒せてもおかしくなかったのに、奴はそうしなかった」
「言われてみればそうかも。俺たちがヤバイ! って時も、あいつ、追い打ちかけてこなかった」
正体は分からないにしても、アナザーライダーの活動時間に制限があるかもしれないというポイントは押さえ所です。叶うなら時間切れイコール弱体化であってほしいものですが……
「おい――あれ」
「どうしたの、ゲイツ? ――え、城戸真司!? いつの間に外に出て」
手摺から身を乗り出して地上を覗き込む明光院君とツクヨミさんに、常磐君が待ったをかけました。
「なんか、雰囲気違う気がする」
常磐君の洞察力が正しかったことを、私たち全員が次の瞬間に知りました。
城戸さんに似た“誰か”は、まるで私たちが見ていることを分かっていたかのようにこちらを見上げて、にやぁ、と吊り上げた口で言いました。
――“変身”――
それは本来、アナザーライダーには要らないはずのスペル。
けれど直後、彼はアナザーライダーに変貌した。
真っ先かつ同時に常磐君と明光院君が手摺から下がって、おのおのジクウドライバーを装着しました。右手にはジオウの、ゲイツのライドウォッチ。
「「変身!!」」
《 ライダー・タイム カメンライダー ZI-O 》
《 ライダー・タイム カメンライダー GaIZ 》
変身した仮面ライダーたちは、手摺を跳び越えて一気に地上へ降下していきました。
「先生、私たちも!」
「わわっ、はい!」
私はツクヨミさんと一緒に屋上から病棟の中に駆け戻りました。
とっさに俺とジオウとでアナザーライダーと交戦に入ったものの、やはりこのアナザーライダーの特性は厄介だ。どのウォッチに換装しても、鏡のように攻撃を反射する。
『お前たちに俺は斃せない。俺は、仮面ライダーリュウガだからな』
リュウガ、だと? そんな仮面ライダーがレジェンド3・龍騎の代にいたなんて聞いたことも習ったこともない。
レジスタンスの中では、隠れて
『リュウガ、って……』
「彼はかつてミラーワールドに存在したもう一人の城戸真司。無双龍ドラグレッダーを従えた龍騎とは対照的に、暗黒龍ドラグブラッカーを従えた黒い龍騎」
俺はとっさに身構えた。
白いガーデンチェアの一つに、タイムジャッカーのウールが悠然と座っていた。
「リュウガは歴史からすでに切除された時間軸の仮面ライダーだ。どんなに時空を遡ろうとも、世界から破棄された時間軸の、ミラーワールドなんて異次元には行けないだろ? だからキミたちには、リュウガのウォッチは作れない。彼を斃すことはできないんだよ」
『まさか、真司が自殺しようとしたのって、自分が死ねば、自分の鏡像のリュウガも一緒に消せると思ったから……!?』
ジオウの推理が真実だとしたら。
――仮面ライダーとして歴史に伝説を刻んだ先人たちは、やはり、ライダーになるべくしてなった人々なんだ。
どさっ。
乱暴に人ひとり分の重さを投げ捨てた音と、呻き声。
『それが本当ならば、今からでも彼の本懐を遂げさせてあげようじゃないか』
白ウォズ! それにあそこで倒れているのは、城戸真司!? 白ウォズが無理やり連れ出したのか!
『彼が死ねばアナザーリュウガの存在も消える。それでいいじゃないか』
足を。前に踏み出すことが。できなかった。
アナザーリュウガは正攻法では斃せない。斃そうと本気で思うなら、俺のタイム・バーストのタイムラグを利用した自滅戦法くらいしか思いつかない。
だが今、自分の命と引き換えにしなくてもいいやり方を目の前に提示された。
――俺はいつから、こんな浅ましい人間になり下がった?
『その人から離れろ! 白ウォズ!』
ジオウの声で俺は我に返った。
ジオウはジカンギレードを手に白ウォズに向かっていた。
ジカンギレードの一閃で白ウォズは城戸真司から離れたものの、ジオウの剣筋を余裕で躱し、時にはジカンデスピアであしらった。
邪魔者は、いない。俺がジカンザックスを、あそこで倒れる城戸真司に振り下ろせば、アナザーライダーを討つことができる。
完全に城戸に意識を奪われていた俺は、上から襲ってきた黒炎をノーガードでまともに浴びることとなる。
『ぐあああ!!』
『ゲイツ!? く――!』
アナザーリュウガ。まるで城戸を守るかのようなタイミングでの介入。その行動こそ、本体が死ねば鏡像も存在できないことの裏付け。
――か。バカか、バカか俺は!!
そんなものはミトさんが俺に叩き込んだ“仮面ライダー”の所業じゃ、ない!!
俺は態勢を立て直して、ドライバーのリューズを叩いて、バックルを逆時計回りに回した。
《 フィニッシュ・タイム タイム・バースト 》
アナザーリュウガを射程に捉えて、高くジャンプした。
爆散しろ。俺自身の罪深さごと――!
「ライダー・シンドローム!!」
――ガキン、と。
どこかで、固く閉ざされた錠が、外れた。
ライダーたちの
俺だけでなく、常磐も白ウォズも、アナザーリュウガさえも。
こんな芸当ができる、いやこの土壇場で実行してしまう人間に、俺は先生しか心当たりがない。
顔を上げれば案の定、地面にしゃがみ込んで息を切らす先生がいた。ツクヨミが先生の肩を支えている。
「アンタ……!」
「い、命を、抵当に出すのは! ほんっとーに! どうしようもないくらい行き詰まった最後の最後であるべきで! 少なくとも今この時は違うと思います! ……はっ…はあ、はぁ……っ」
ライダー・シンドロームは昭和の10人ライダーから授かった貴重な力だ。それを彼女は、俺を止めるためだけに使った。情に流されてのことじゃない。単に
一つ分かった。というか思い出した。
織部美都は骨の髄まで“教育者”だ。
珍妙な空気が流れる場で、真っ先に動いたのはアナザーリュウガ。鏡像の城戸真司だった。
奴は忌々しさを隠しもせず踵を返してガラスに向かった。そして、ガラス面が水面であるかのように、その中の世界に入り込んだ!
「待てッ!!」
常磐が鏡像の城戸を、寸での所で捕まえた。
両者がもみ合って、つんのめった常磐までもがガラスの中に入った!
「ジオウ!?」
俺は駆け寄ってガラス面を叩いたが、常磐たちみたいにその中に入ることはできなかった。
やがてガラス越しの虚像からも常磐と鏡像の城戸は消えた。
――こんな、ことになる、なんて。
「先生ッ!!」
ツクヨミの悲鳴にふり返ると、まさに、白ウォズが先生の胸倉を掴み上げているところだった。
人生最速で、血が沸騰した。
俺は脚力をありったけ動員してスタートダッシュを切り、横から白ウォズに体当たりした。
白ウォズの手が離れて傾いた先生の体を、ツクヨミがしかと受け止めた。
今度は俺が白ウォズの胸倉を掴み上げた。
「何の真似だ!!」
「この毒婦はキミのレッスンに最悪な横槍を入れたんだ。私だって頭に血が昇りもする」
「っ……! 貴様ぁッ!」
「よく思い出すんだ、我が救世主。この女は、若き日の魔王に世と民と
確かに、常磐ソウゴがオーマジオウへ至る
それに、俺を篭絡だの手玉に取るだの、言い方がいちいち気に食わない。見縊るな。女の色香で戦いを躊躇うほど、俺の誓いと覚悟は安くない。安く、ない、はずなんだ……
「キミのその甘さは未来を苦しめると言っているのに」
白ウォズは酷薄な笑みと不釣り合いな握力で、俺の手を外させて、悠々と去った。
俺もまた奴に背中を向けて、ツクヨミに支えられて地べたに座り込む先生をふり返り、しゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
「なんとか。ちょっとお星様がチカチカしたくらいです」
「それ大丈夫じゃないわよっ」
「でも生きてます。生きてれば勝ちです」
明るくガッツポーズまでして見せるんだから、彼女は確かにミトさんの血を引いてるんだと思い知らされた。
このタフネスっぷり。間違いなくアンタの娘だよ、ミトさん。
「じゃあ二人とも。倒れてらっしゃる城戸さんを病院の中に連れてってあげないとですので、手伝ってもらっていいですか?」
わかった、と頷くツクヨミと逆に、俺は黙って立ち上がって、二人に背を向けて歩き出した。ツクヨミに訝しげに呼び止められたが、立ち止まれなかった。
あんな浅ましいことを考えた俺に、誰かを助ける資格なんてない。
一度でも殺してやろうかと血迷った相手を介助するなんて、できない。
病院を出てしばらく。川にかかった大橋の歩道で、俺は橋の手摺を殴った。
真司の自殺未遂の動機を、原作といささか変えてみました。
真司ならやりかねないと思って。17年経とうが真司ならやるんじゃないかと信じて。
ほら。彼は龍騎原作でも、ゴロちゃんを殺してしまったと勘違いした時、「俺なんかドラグレッダーに食われるべきなんだ!」的な?(うろ覚え)ことを言ったじゃないですか。
記憶があろうがなかろうが、城戸真司って人間ならそういう動機付けでもいいかなーと。
ハイ、血迷いました。
あくまで文中ではソウゴの「もしかしたら」として語っていますので。断定ではありませんので。
でないとこのあとの、鏡の中に映らない自分の話をソウゴにする時との整合性が取れないんで。ね?(^^;)