我が家の場合はヒロインではなくオリ主ですが。
慣れない近道はするものじゃないと知った30の夜。こんばんは、織部美都がお送りします。
……とか、現実逃避しても仕方ないですね。
ただ今わたくし、学校はおろか自宅にもおりません。初めて見る大きな芝生のグラウンド近くの道路で車ごと立ち往生しております。
雪でいつもの帰宅ルートが一時通行止めになっていたから、別ルートで帰ろうとしてこのザマですよ。寒いし、近くに自販機はありませんし、スマホの電波立たないですし。諦めて元の通行止め地点に車を戻すしかありません。怠けるなって神様のお告げでしょうか?
車をUターンさせられそうな場所を探していたところで、私は奇妙なものを目撃しました。
あの男の子……もしかして、タイムジャッカーのウール、くん? どうして公園に倒れて? 同じタイムジャッカーの仲間が二人いたはずだけど、助けに来ていないのはなぜ?
私は車を降りてウール君に駆け寄って、傍らにしゃがんで彼を観察しました。
目立った外傷はありません。悪いのは顔色です。目の下のクマが痛々しいくらい濃い。失礼して彼の頬に指で触れると、氷のように冷えきっていました。
救急車を……呼んでもいいんでしょうか、これ。
保険証なんて未来人が持ってるとは思えませんし、そうなると治療費が私に10割請求された場合の出費が……な、悩ましいです。
「ぅ……」
あ、気がついたみたいです。よかった――って安心しちゃいけませんよねすみません!! コドモでも、生徒たちと敵対してる相手でしょうが私!
で、でも一度目にしてしまった行き倒れを放置していくのも人道的にどうなのかって話で……
「…ど…して……ボク、を…アナザー、ライダー…に……」
――アナザーライダーに、って今言いました?
タイムジャッカーは三人。そのいずれもが、契約者を見繕ってアナザーライダーを生み出しこそすれ、自分がアナザーライダーになるなんて、そんなの見たことありません。
仲間割れ? アクシデント? 契約の手違い?
み、見た目に騙されちゃだめですっ。彼は牧村さんや城戸さんの時みたいに、人の弱みに付け込んでアナザーライダーに仕立て上げた残虐な子ですっ。私がすべきは当事者の常磐君たちに連絡して、彼の所在を知らせることであって、決して介抱なんかじゃ……、…………
あー、もー! 私のばかばかばかーっ!
私は車へダッシュ&リターン。文化祭の巡回で使った青いスモックを引っ張り出して、ウール君のもとへ駆け戻りました。毛布か寝袋があれば理想的だったんですが、車中泊の嗜みはないので持ち合わせていません! 以上!
スモックを丸めて枕代わりにして、体の上には私のコートを被せて……はあ。これで寒さはまだ凌げるでしょう。
ウール君を介抱するといっても、屋内に連れて行くことはしません。さっきの寝言が本当だとしたら、屋内で彼がアナザーライダーに変貌した時の被害はとんでもないと予想されるからです。聖都大学附属病院、学校の第一保健室、自宅、どれも却下です。せめてもの妥協です。おもに私の理性のために。
そうだ。バッグの中に折りたたみ傘があるから、開いて立てかければ、顔に雪が降るのを防げます。えーっと、どこでしたっけ。
「だれ……?」
おや。本格的にお目覚めですか。
「と、通りすがりの者です。名乗るほどの者ではございません」
ウール君が私の顔を覚えていませんように。そう思って言ってみたのですが。
「アンタ、いつもジオウといる……? っ! 王母織部!?」
微かな希望は一分と保たず絶たれました。くすん。
ウール君は飛び起きたのですが、呻いて両手で頭を抱えました。
まさか頭にケガしたんですか? 脳のダメージだとしたら事は深刻です。
「なんで…っ、何でボクが…!?」
「ちょ、無理に立とうとしないでください! 転ぶ元です!」
「うるさい! 離せよ、オバサン!」
……かっちーん。
「病人は素直に横になってなさい!!」
「うわあ!? ハイ!」
ウール君は毛布代わりの私のコートを頭から被って寝転びました。
よろしい。私も30歳になりましたがそれはたった1ヶ月前なんです。面と向かってオバサン呼ばわりされれば、切れる堪忍袋の緒は一つ二つじゃないんです。
とはいえ、です。ウール君? コートを頭まで被りっぱなしにしたら息苦しくなりますよ。
私は、えいや、とコートを引っぺがして、面食らうウール君のほっぺにホッカイロをぺしゃりと当てがいました。
「……あったかい」
「そういうグッズですから。未来にはないんですか? ホッカイロ」
「……初めて見た」
50年後の地球温暖化が非常に心配になる証言でした。
――さて。そろそろ私自身の体が冷えてきたので、本題に入りましょう。
「君の身に何があったのか、話すことはできますか?」
「――――――」
やがて、ウール君は上体を起こしました。私は敷いていたスモックを拾って広げて、彼の肩に羽織らせました。
ぽつり、ぽつり。ウール君は語りました。
ウール君たちタイムジャッカーが擁立したんじゃない、2121年の未来ライダーのアナザーライダーが現れたこと。
そのアナザーライダー、アナザーキカイはウォッチを核としていないこと。
アナザーキカイウォッチを生成するために、スウォルツという人物はアナザーキカイをウール君にわざと寄生させたこと。
ウール君はアナザーキカイになった負荷で倒れてしまったこと――
「仲間、ですよね?」
ウール君、黙秘権を行使。
今の質問は私が無神経でした。彼はウォッチを生み出す触媒にされて苦しい思いをしたんです。口が裂けても残る二人を「仲間」と言うわけがありませんでした。反省です。
「ボクからも、アンタに訊きたいんだけど」
「あ、はい。どうぞ。私で答えられることでしたら」
先に根掘り葉掘り聞いたのは私ですから、ウール君の質問に答えるのは私の番。私はそのことに何ら疑問を覚えませんでした。
「アンタは何で若いジオウを魔王なんかにしたの?」
私は即座に質問が理解できませんでした。
理解が追いついた時、私はぽんと手を打ちました。そういえば私、未来ではオーマジオウの師として伝わってるんでした。
私としては、常磐君を、人様世間様に迷惑をかける大人にならないよう指導しているつもりです。
同時に、「王様になりたい」という常磐君の進路希望を無碍にもしません。生徒たちがのびのびと夢を育めるようサポートするのが、進路指導教諭である私の職分ですので。
それでもオーマジオウが君臨する50年後の未来があるなら――
「私が仕向けたのではなく、むしろ私の指導が及ばなかったから、でしょうか?」
「疑問形かよ」
すみません。だって、常磐君の夢がどんな形で叶うのか、私自身が見届けることはできないでしょうから。
「多分、かなり高い確率で、私、今年中に死にますから」
声が震えていなかったら、いいんだけどな。
ウール君は私を凝視しています。私はとりあえず、へら、と苦笑しました。
「何で? 何でそれが分かってるくせに、笑えるんだよ。アンタおかしいよ! 自分が死んだら意味ないじゃないか! う…!? グゥ…ああアッ!」
「お、落ち着いてください! あまり興奮すると、また負荷が出てしまいます」
私はウール君の背中を撫でながら、呼吸をゆっくりにするよう言い聞かせました。吸ってー、吐いてー、ってよく言われてるあれです。
「…ワケ、分かんないよ……アンタのこと…あのオーマジオウを教育したっていうくらいだから、もっとあくどい奴だと、思ってたのに……」
ウール君は涙目です。
「……逃げろって、言ったんだ。若いジオウが、ボクに」
常磐君が?
「ボクがスウォルツにアナザーキカイにされる直前、『ウール、逃げろ!!』って。何の迷いも躊躇もない声だった。今まで散々敵対してきたってのに。アイツはあの瞬間、本気でボクの身を案じてた。今のアンタと同じでさ。……何で」
ウール君が零した声は、降る雪と同じだけの儚さで、大気に解けていきました。
「アイツやアンタみたいな人間が、魔王や王母なんかになっちゃうんだよ――」
ウールがちょっとだけ心ぐらついちゃった回をお送りいたしました。
時間帯としては、オーラが白ウォズに助け(嘘)を求めたのと同時刻です。
あそこでソウゴ、シークタイムゼロでウールに「逃げろ!」って言ったんですよね。あれは本当にすごいと思いました。
だって一応は敵ですよ? 反射的にとはいえ、もうちょい躊躇があってもいいはず。
ですので、それができるだけの性格のソウゴすごいなって思ったんです。
~*~リアタイの話~*~
地味にクジゴジ堂を出てからのゲイツ&ツクヨミの下宿先が気になります。
お寺? キャンプや野宿でないのはまだ救いがありますが。まさかタイムマジーンで寝てないよね? とか思ったりもしたんで。
やっぱソウゴの両親は死別だったかー(-_-;) お悔やみ申し上げます。
バス事故によるサバイバーズギルドで王様志願だったりしたら、映司と駄々被りで作者号泣します。
そして次回あらすじの「白い服の女」というキーワード。
我が家の場合、白いドレスはもう一人いるんですよねえ――ビシュム版の小夜とか。
2009年はディケイドの年でもあるんで、とても気になります!(>_<)