爆発。炎上。
皮膚が焼け焦げていく痛み。酸素を求めても喉を通るのは熱気だけ。
熱いの、痛いの! 出して! この地獄みたいな炎から私を解放してッ!
“ええ、ええ、助け出してあげますとも。というか、そもそもそんな目に遭わせたりするもんか。可愛いツクヨミ”
小さな私を抱き上げたのは、ゲイツ? ううん、この腕はちがう。女の人の両腕。ゲートに変身したミトさんだわ。
よかった。もう熱くない、痛くない。ミトさんが両腕の中に抱いて守ってくれてるから。
仮面ライダーとしての両腕でも、私を抱くミトさんの手はお母さんみたい。
変ね。お母さんの思い出なんて一つもないのに、自然とそう思えるの。
聞いてよ、ミトさん。ゲイツがいじわるするの。ゲイツね、こんなに怖がってるのに、私の言うこと、まるで聞いてくれないの。
それどころか、ジオウになるソウゴの肩ばっかり持つのよ。レジェンド7・カブトは言ったんでしょう? 「男がしてはいけないことは二つ。食べ物を粗末にすることと、女の子を泣かせることだ」って。
“まあ、言ったらしいけど、史料を読む限りでは。でもさツクヨミ、今泣いてないじゃん。一人で怖いの我慢してるのね。えらい、えらい”
それは……泣いた私を抱き留めてくれるミトさんが死んじゃったからよ。私はズルイから、受け止めてくれる人がいないとこじゃ泣けないの。
ミトさん――私、アナタの娘さんに泣きつきに行ってもいいかな? 先生だったら、きっと、ミトさんと同じように私をあやして甘えさせてくれると思うの。
“うーん。私は反対だなあ。身贔屓じゃないよ? 私の娘に頼らなくても、ツクヨミにはもう泣かせてくれるトモダチがいるじゃない”
トモダチ? 誰が?
“目を覚ましてごらん。すぐに会えるよ”
え? や、やだミトさんっ、置いてかないで! 行かないで――!
………
……
…
ツクヨミが伸ばした手を掴み返したのは、門矢小夜だった。
「おはよ、ツクヨミちゃん。といってもまだ真夜中だけど」
「小、夜――? わたし、何で……」
確か、アナザーキカイへの対処でゲイツと軽く口論になり、ゲイツは外へ出て行った。白ウォズはディナー前に席を外したから、ここにはツクヨミ一人が残ったはずだ。
ツクヨミは一人で、出されたイタリアン料理を食べて、部屋の壁付きのソファーへ席を移して――居眠りをしてしまったらしい。
そこで違和感に気づいた。自分の枕になっているものの感触がおかしい。
素直に枕ではない。弾力があって、人肌の温度がある。
そして、小夜は仰角90度でツクヨミを見下ろしている。
結論。ツクヨミは小夜の膝枕で寝ていた。
「っ――!!」
「はいはい、落ち着こうねー。大声出したらゲイツ君と白ウォズが戻ってきて現場目撃されちゃうよー」
それは駄目だ。最高に恥ずかしい。恥辱で憤死できるレベルだ。
だからといって――膝枕を続行する必要はあるのだろうか?
「何の用なの」
「ツクヨミちゃん今、何してるかなーって。気になって見に来てみた。そしたら、布団もかけずにうたた寝してるじゃない? そこで小夜が人間湯たんぽになってあげたのです。暖かくなかった?」
「一応……まあまあマシ、だったかも」
「ならば良し」
小夜はご機嫌だ。ツクヨミはそんな小夜を見上げて、つい、言ってしまった。
「アナタは何で私に構うの?」
小夜は、んー、とわざとらしく考える素振り。
「女子の友情って結局ビジネスライクでギブアンドテイクなものだから? 女子同士の関係はその場その時にちょっかい出してナンボ。喪ってから気づいた親愛なんて、救いにはなっても役には立たない。少なくともわたしは真剣に、貴女にアプローチしてる。アナタとお友達になりたいです、ってね」
「全っ然、そんなふうに見えない……」
「色々助けてあげたでしょー? カッシーンと戦った時とか。ソウゴ君と美都さんがピンチだって知らせてあげたし」
「そういえばそうだったっけ……」
「え。まさか今まで本気で忘れてた流れ?」
ツクヨミは無言で小夜から目を逸らした。
「ひっどーい! せっかく慰めに来てあげたのに~!」
「落ち込む原因作ったのはそもそもそっちじゃないの」
それ以降の小夜の喚き声は無視した。真面目に聞くと、せっかく忘れている恐怖や焦燥といったマイナスの感情を思い出しそうだったからだ。
ふいに小夜が喚くのをやめて、外へ通じるドアを見やった。隻眼の視線は鋭い。
「時間切れか。ゲイツ君と白ウォズが帰って来ちゃう。招かざる客と一緒に」
ツクヨミはそれを聞いて体を起こした。
小夜はソファーから立ち上がると、灰色のオーロラを展開し、それを潜って消えた。
5秒と置かず、雪を付着させたゲイツと白ウォズが部屋に入ってきた。その最後尾に、同じく雪まみれのタイムジャッカー・オーラを引き連れて。
ツクヨミはとっさにファイズガンを抜いたが、白ウォズがそれを止めた。
「彼女から折り入って我々に相談があるらしい」
「相談?」
見やったオーラの表情は未だかつてなく弱々しい。
「ウールを……助けて」
発言の意外さにツクヨミは呆気に取られてしまった。ツクヨミだけでなく、ゲイツも同じらしい。顔を見れば分かった。
「スウォルツはウールを、ウォッチを抽出するための触媒じゃ済まさない。きっと、ウールを自分の傀儡に仕立て上げようとする。だから――」
敵であるツクヨミたちに助けを求めるほどに、オーラは追い込まれている。――孤立したオーラの姿が、今のツクヨミ自身と重なった。
「どうすればアナザーキカイを斃せるか、私たちじゃ思いつかない」
「……っ」
「でも、ソウゴなら何か手立てを見つけられるかもしれない」
オーラはまじまじとツクヨミを凝視した。
「……助けてくれるの? 敵なのに?」
「こ、今回、だけだからね。私にも思う所があるの。助けてあげるんだから、協力はしてもらうわよ」
オーラがきつく結んでいた唇を緩めた。
ツクヨミはそれを直視できず、適当にそっぽを向いた。
そっぽを向かなかったらオーラが「引っ掛かった」と邪悪に笑ってるとこまで見れたんですよツクヨミさん。
そしてこの流れで翌朝速攻でクジゴジ堂へ。かりそめの共闘戦線に至る、と。